魔法少女まどマ☆キング   作:近藤大地

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第3話です。3話同時公開のラストになります。

原作では最初の大きな悲劇が訪れるタイミングですが、本作のキングさんはそれどころではない「別の死活問題」に直面しています。


魔法少女まどマ☆キング 第3話

 

 

 

第3話【もう何も恐くない】

 

 

 美樹さやかは、上条恭介のお見舞いのため、見滝原総合病院へ訪れていた。恭介は左腕に怪我を負ってしまい、医者からは『もうバイオリンを弾くことはできない』と宣言されていた。

 

 今日は恭介に会う予定だったが、都合が悪く会うことができなかった。

 

 さやかがトボトボと病院の廊下を歩いていると、向こうから尋常ではない殺気と強面を放ちながら、胃のあたりを押さえて受付に懇願している大男が一瞬だけ視界に入る。

 

 

 さやかは大男に一瞬身をすくめるが、すぐに恭介のことで頭がいっぱいになり、そのまま病院を後にする──。

 

 

 さやかと付き添いで来ていたまどかは、帰り道の途中、突き刺さったグリーフシードを発見した。すぐさまマミの元へ報告に向かい、さやかはキュゥべえとその場で待機していた。

 

 

 

その病院内にて──

 

 

 

「……え、S級ヒーローライセンス…??ですか……?」

 

 

 

「……ダメ(なんです)か?」

 

 

「…た、大変申し訳ありません…!正式な身分証か保険証、あるいは診察を受けていただかないと……」

 

 

 病院の受付では、キングが提示した『S級ヒーローライセンス』が公的身分証として認められず、健康保険証がないため全額自己負担の『10割負担』になると受付が怯えながら説明していた。キングは他院で受診を断られ、見滝原総合病院でようやく自費を条件に診察を受けられたものの、無慈悲な出費に直面していた。

 

 

 

(やばい……この世界だと身分証も使えないし口座も下ろせない……このままだとマイコレクションまで無くなってしまう……。どうにかしてお金を作らないと…)

 

 

 

 医療費10割負担の地上最強の男・キングは度重なるこの世界特有の怪奇な空間に巻き込まれ、もはや胃腸薬は唯一の親友に近い状態とも言えた。

 

 

 元いた世界のお金は有り余るほどあるのに、この世界では一銭の価値もない。キングは、アパートの押入れに溜まっていたヒーロー協会からの記念品や、ファンから戴いた貴金属等の贈り物を、散歩中に見つけた質屋へ持ち出すことで生計を立てていた。

 

 

 

 基本的に質屋の買取額20%UPの日を狙っているが、どうしてもお金が足りない時は、涙を呑んでマイコレクションを売却していた。その日の胃痛は3倍に跳ね上がったという。

 

 

 

 そんな中、医療費10割負担は、この世界では死活問題である。保険証が適用されれば1586円にも関わらず、胃腸薬10日分だけで5289円もかかってしまった。

 

 

 

 途方に暮れながら帰路に着こうとしていたキング。しかし、奇しくも再び魔女の結界に吸い寄せられる羽目になってしまった。

 

 

 

(……へ?またこの前のあれかよ…!!よりによってなんで俺ばっかり…)

 

 

 

 またもやフラッシュモブに巻き込まれたキング。医療費に不満を漏らしながらも、とにかく出口を目指して歩くしかなかった。

 

 

 

(自ら結界に入った…?なんのつもり…?)

 

 

 キングエンジンで魔女を退散させたあの日以降、ほむらはキングの後を尾行していた。

 

 

 心音だけで結界を消失させ、自分の能力すら見抜かれている(ほむらフィルター)。

 

 

 その上、まどかが『キングさん』と呼び、彼の自宅へ何度も足を運んでいるのを目撃していた。部屋では一緒にゲームをしている光景しか見えなかったが、最初に信頼関係を築かせてから目的に移行する魂胆も考えられる。

 

 

 

 ほむらは後を追うことで、キングの能力や手の内を掴む必要があった。しかし、キングに手の内や能力などあるはずもない。ほむらの行為は、事実上の保護者──近所の小学生の登下校を陰から支える『地域見守り隊』そのものであった。

 

 

 

 

 

 結界に侵入したマミとまどかは、さやかとキュゥべえを探しながら、魔女の元に向かっていた。その間、まどかはマミに対して、魔法少女になりたい旨を伝えていた。

 

 

 まどかはキュゥべえに急かされた理由での契約ではなく、キングから『今のままで誰かの救いになっている』と肯定してもらったからこそ、今度は自分のためだけではなく、現状の自分を受け入れながらも、より多くの人の役に立ちたいという、まどかの本心からの告白だった。

 

 

 

「わたし…マミさんと会って…誰かを助けるために戦っているの見せてもらって…もしかしたら同じことが、私にもできるんじゃないかって言ってもらえて……

 

だから、魔法少女になれたら、もっと多くの人達を助けることができるんじゃないかって…」

 

 

 

「…私なんていつも一人で泣いてばかり…いいものじゃないわよ…魔法少女なんて…。」

 

 

 マミは少し俯せ気味になりながら答えたが、まどかの思いは変わらなかった。

 

 

「それでも…いいんです。それで助かる人がいれば…わたしは魔法少女になったよかったって…心から思えます…!」

 

 

 

 

 ──お菓子の家を思わせる、グロテスクで甘ったるい色彩。

 

 『お菓子の魔女』が作り出した結界の最奥で、巴マミはかつてないほどの高揚感と、確固たる決意を胸に、自身のソウルジェムの魔力を限界まで高めていた。 

 

 

 遠くにまどか達が見えたため、よく分からないまま付いてきてしまったキングは、その凄まじい強面のまま、仁王立ちで戦場の後方に佇んでいる。

 

 

「一気に決めさせて…もらうわよ!」

 

 

 魔法少女の仲間が増える。その安心感と高揚により、マミは魔力を最大限に高め、必殺技をシャルロッテに放った──

 

 

「ティロ・フィナーレ!!」

 

 

 マミはシャルロッテを空中へ押し上げ、虚空から召喚した巨大なマスケット銃の引き金を引いた。

 

 直後、鼓膜を破らんばかりの轟音が結界内に炸裂し、お菓子の家の壁ごと、魔女の周囲が凄まじい大爆発に包まれた。

 

 

──ズドォォォォォォ!!!

 

 

 その瞬間、凄まじい爆発の衝撃波、巻き起こる突風、そして生々しい火薬の匂いと、肌を焼くような熱風が、後ろに立っていたキングの顔面を真っ正面から直撃した。

 

 先ほどキングが手にした胃腸薬は、離さまいとの決意とは裏腹に、袋や領収書、中に入っていたお釣りごと、キングの顔に『ペチッ』と音を立てながらはるか後方へと吹き飛ばされてしまった。ティロ・フィナーレの威力は、握りしめていた胃腸薬が吹き飛ぶほどの爆風である。

 

 

 

(ぶっ、物理ィィィィィィィ!!!?本物!? あれ本物の重火器じゃねえか!! 火薬の匂いがする! 爆風で皮膚がピリピリしてる!! 熱っ! 今の熱風マジで熱かったんだけど!!

 

…この前のあれAR(拡張現実)のプロジェクションマッピングじゃなかったのかよ!! 狂人だと思ってたら本物のヤバい兵器人間だったのかァァァ!!)

 

 

 AR技術だという大いなる誤認が、生々しい熱風と火薬の臭いによって完全に崩壊した瞬間。「本物の怪物」と「本物の兵器」の狭間に立たされたキングの、極限の恐怖と生存本能の暴走が、彼の身体の奥底にある心臓の咆哮を点火させた。

 

 

《──ドッ。》

 

 

 世界が一瞬、静止したかのように錯覚する。

 

 

《──ドッ、ドッ、ドッ、ドッ、ドッ……!!!》

 

 

 結界の空間そのものをビリビリと激しく震わせる、重低音の地鳴り。

 

 第二形態が出現し、マミを喰らおうと巨大な口を開いた瞬間──

 

 

 

 

──シャルロッテとキングは目が合った──

 

 

 

 

(ギャァァァァァァ!!無理無理無理!! 殺される!! 誰か助けてえええええ!!!)

 

 

 

(ッ……!?──キチ、キチ、キチ……!?)

 

 

 シャルロッテは、突如として戦場を支配した、圧倒的な質量の「地上最強の殺気」を真っ正面から浴びることになった。

 

 キングの放つあまりにも禍々しく、底知れないプレッシャー。生物としての格の違いを本能で察知し、捕食者が目の前に現れたと錯覚したあまり、マミの頭上わずか数十センチの距離で、キングの方を見つめたまま、完全に動きを停止してしまった。さやかの声が響き渡る。

 

 

「マミさん!!」

 

 

「……っ!…ティロ・フィナーレ!!」

 

 さやかの叫び声により硬直が解けたマミは、動きの止まった魔女に向かって、至近距離から二連撃の巨大砲撃を叩き込んだ。

 

 避けることも防ぐこともできない魔女は、その一撃を真正面から喰らい、結界の空間ごと、塵一つ残さず完全消滅した。

 

 

(……あの鼓動がなければ死んでいた……また…キングさんに命を…)

 

 

 結界がパッと解け、元の薄暗いビルの廃墟に戻る。

 

 

(また死にかけた……もう絶対あの子たちに関わるのやめよう……)

 

 

 キングは、腕を組んだ直立不動のポーズのまま、完全に立ったまま白目を剥いてフリーズしていた。

 

 

 

(……迫っていた魔女の奇襲を、心臓の鼓動だけで止めてくださったのね……。)

 

 

 

 不覚。まどかとさやかを引っ張っていかなければいけない立場でありながら、魔法少女の仲間が増えることへの喜びや安堵により、マミは目の前の魔女に対する危機意識が薄れていた。

 

 

──このままでは今回は生き延びても次は無い──

 

 

 その現状を脱するためには、たとえ魔法少女としてのプライドを捨てたとしても、ある一つの方法しか考えられなかった。

 

 

 マミはキングの元へ行くと、まるで至高の主に忠誠を誓う騎士のように、スカートの裾を翻して美しく片膝を突いた。彼女の美しい瞳には、今までにないほどの激しい情熱と、確信を満ちた眼差しを抱いていた。

 

 

「キングさん……。また、あなたに命を救われてしまいましたわ。……わたしは今まで、一人で孤独に戦い続けなくちゃいけないって、自分を追い詰めていました。」

 

 

 

(…へ? 命を救った?? 俺後ろでガタガタ震えてただけだけど…?)

 

 

 

「でも、あなたの圧倒的な姿を見た時、初めて気付いたのです。……わたしには、導いてくれる『師』が必要だったのだと。

 

キングさん! どうか、どうかわたしを、あなたの『弟子』にしてください…! あなたのその、世界のシステムすら支配する戦い方を、わたしに教えてください……!!」

 

 

(で、 弟子入り志願!? 弟子って何!?…でもここで『いや俺、ただビビって心臓バクバクしてただけだから』なんて本当のことを言ったら、マミ氏に『騙したのね!』ってハチの巣にされる……!

 

ここは格ゲーのプロっぽく『好きにしろ(早く帰れ)』のポーズで煙に巻くしかない……!)

 

 

 

 キングは腕を組んで見下ろしたまま、ドスの利いた低い声で告げた。

 

「……ふん。好きにするがいい。……ただし、俺のレクチャーは厳しいぞ。」

 

 

「はい……! どんな厳しい試練にも耐えてみせますわ、キングさん!いえ、キング先生!」

 

 

(よろしくされたくないよおおお!! 先生って何だよ!? 俺は魔法なんて使えないただの凡人だよ!! あぁ、でもまどか氏は相変わらず癒されるなぁ……

 

…じゃなくて、マミ氏まで俺の家をアジトにし始めたら俺の胃が持たないよ!! 助けてサイタマ氏ィィィ!!)

 

 

 

 マミは再び起立し、気後れに感じながらもまどかの方を向いて語る。

 

 

「……鹿目さん。先ほどはごめんなさい。魔法少女の仲間ができると思って…つい油断してたわ。」

 

 

「いえ…、こちらこそごめんなさい!…命を懸けた戦いの前なのに…余計なことを言っちゃって…。」

 

 

「いいのよ…。とりあえず、魔法少女になるということは、さっきみたいな命の危険も伴うということ。」

 

 

「それに…今の私には『キング先生』がいる……!鹿目さん。魔法少女になるといっても、今の自分を受け入れているなら、無理に契約しようとしなくていいのよ…。もう一度、じっくり考えてみるといいわ。」

 

 

 

 まどかは、先ほどまでの死闘の恐ろしさに怯えつつも、自分を気遣ってくれるマミの優しさに胸を打たれる。そして、そのマミを背後から守るように、仏頂面で腕を組んで佇むキングの姿を見上げていた。

 

 

 

「……はい。でも、わたし、マミさんが無事で本当に良かったです。マミさんが戦う姿、とっても格好よくて……。わたしもいつか、マミさんやキングさんみたいに、誰かを守れる人になれたらなって……」

 

 

 

 マミは、まどかの純粋な言葉に目を見開いた。いつもならそんなに簡単なものじゃないと、先輩らしく突き放していたかもしれない。しかし、今のマミの背中には、地上最強の男が控えている。

 

 

 

「ありがとう、鹿目さん。……ふふ、変ね。あんなに恐ろしい魔女を前にしたのに、今のわたし、とても心が軽いの。……身体が軽いなんて、いつ以来かしら。もう何も恐くない。──だってわたし、もう一人ぼっちじゃないもの…!」

 

 

 マミはそう言って、慈愛に満ちた笑みをまどかに向け、それから誇らしげに「我が師」であるキングへ振り返った。

 

 

「これもすべて、キング先生が道を示してくださったおかげね……!」

 

 

 

(何この最終回みたいな空気……。完全に俺置いてけぼりなんだけど…っていうか、頼むから『もう何も恐くない』とかいう、思いっきり死亡フラグみたいなセリフ吐くのやめてマミ氏!! 縁起が悪いから!! あと早く帰らせて!!)

 

 

 

 キングは脳内で突っ込みを入れながらも、外面はただ無言で、底知れない威圧感を放つことしかできなかった。

 

 

 

 こうして、マミはキングの一番弟子となり、6万4000円のキングの部屋を「絶対安全の聖域」として勝手にお茶会スペースへと改造していくのだった。

 

 

 

 キングの後方から監視していたほむらは、死ぬはずだったマミの運命が完全に書き換えられた現場を目の当たりにし、激しく動揺していた。

 

 

 マミ達が去った後、キングは吹き飛ばされた胃腸薬(領収証込)を探そうとしたとき、ほむらは再び現れ、銃口をキングに向けたまま冷徹に問い詰めた。

 

 

「……巴マミを救い、彼女を弟子にした。それがあなたの目的? 一体この時間の因果をどうするつもりなの……!」

 

 

(ひええええ!なにこの黒髪不審者少女!!っていうかその銃、マミ氏のやつより殺意高くない!?因果って何!?俺はただ、さっきの爆風で消し飛んだ胃薬を拾いたいだけだよ!!)

 

 

 

「……目的だと? そんなものは無い。俺はただ……『これ以上、余計なリスク(出費)を出したくない』だけだ……!!」

 

 

 

 これ以上医療費がかかったら本当に破産してコレクションを売る羽目になる。キングは少しでも薬の服用量を減らすため、魔法少女や魔女といった存在に関わりたくない旨を強調した。

 

 

 

(リスク……? この男、巴マミを救うことすら『最小限のコスト』で済ませたと言いたいの……? 私が何十回もループしているこの時間を……この男はただの『資産管理』のように冷徹に計算している……!?)

 

 

 

 キングは恐怖の凝視を行いながら、早く帰ってくれ、頼むから撃たないでくれと、強面でほむらを睨みつけた。ほむらはその圧倒的なプレッシャーと、底の知れない精神性に気圧され、銃を収める他なかった。

 

 

 

「……これ以上の邪魔はさせないわ。次は、容赦しない」

 

 

ほむらはそう言い残し、時間停止により消え去った。

 

 

 残されたキングは腰を抜かして泣きそうになるが、吹き飛んでしまった胃痛薬を探すべく、地べたを這いながら辺りを探していた。

 

 

 

(……は?この辺りに落としたはずなんだが……え?…何でないの??)

 

 

 

 途中で警察に声をかけられながらも、小一時間ほど現場を探し回ったが、薬はおろか領収書すらもなかった。

 

 

 

 胃腸薬は魔女の結界の消失と同時に消え去ってしまい、胃痛薬10日分5289円(保健適用外)は、巴マミの運命と引き換えに、結界の狭間へと永遠に閉じ込められてしまった。

 

 

 

 魔法少女まどマ☆キング第3話・完




第3話をご覧いただきありがとうございました!

原作のトラウマ回を「5,289円」というリアルな金額でクラッシュさせていただきました。

キングは信じられないほど世俗的な保身で動いています。それがマミ氏にとっては「命の恩人」、ほむら氏にとっては「すべてを見切っている上位存在」になるのですから、すれ違いは本当に面白いですね。

ひとまずマミ氏の退場フラグは折れましたが、キングさんの胃痛フラグはへし折れそうにありません。

第4話は明日の19:00に公開予定です。オタク部屋が少女達のテリトリーになってしまいそうな危機に、キングはどう立ち向かうのか…キングの結末をぜひ見届けていただけたらと思います。
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