魔法少女まどマ☆キング   作:近藤大地

7 / 8
いつもお読みいただきありがとうございます、第7話です。

心に深い傷を負い、落ち込むさやか。そんな彼女の姿を前に、キングは独自の考えを以て、その心を動かしていきます。

少しシリアスな展開となりますが、ぜひ最後まで見届けていただけますと幸いです。



魔法少女まどマ☆キング 第7話

 

 

【本当の気持ちと向き合えますか?】 

 

 

 

 見滝原の暗闇を切り裂き、ティロ・フィナーレが正確無比に魔女の弱点を撃ち抜いてゆく。迫り来る魔女の猛攻を、巴マミと美樹さやかは淡々と、そして優雅にいなし続けていた。

 

 

 それは命懸けの死闘などではなく、徹底的に最適化された効率的な作業風景だった。

 

 

 

 

(……魔女は消滅したみたいね。キング先生の教え通り、急襲型第二形態対策の保険があるだけでも違うわ…。)

 

 

 

(すごい…こんなに魔女を楽に倒せるんだ……)

 

 

 

 見滝原の夜を支配していた魔女たちは、いまや作業的に排除されていた。自宅に溜まったダンボールを処分するかのように次々と消滅されてゆく。

 

 

 

 かつて命を懸けて奪い合ったグリーフシードが、キングの部屋の片隅に積み上がっていき、こっそり勝手に捨てても気づかれないくらいの量が保管されていた。

 

 

 

 

(……キングのステップに比べりゃあ…こんなのスローモーションにしか見えねぇんだよ……!)

 

 

 

 見滝原とは別の場所で魔女を退治していた杏子も、キングの神足ステップに少しでも近づこうと絶え間なき修練に邁進した結果、もはや魔女すらも相手にならないほど急速に実力を身につけていた。保有しているグリーフシードも、自ら出向く必要すらないほど溜まっていた。

 

 

 

 それは、以前さやかが言っていた『使い魔すらもなりふり構わず戦う』姿勢に対して、それも悪くはないと感じてしまうほどだった。

 

 

 

『魔女との戦いを見て何かアドバイスが欲しい』ということで泣く泣くついてきてしまったキングは、マミとさやかのあまりに鮮やか且つ洗練された戦闘を見て、困惑と驚愕の入れ混じる表情をしていた。

 

 

 

(ええ…?あの子たちなんで俺のゲーム蘊蓄(うんちく)でめちゃくちゃ強くなってんの!?俺自分の能力を知れとかあらゆるリスクを想定しろくらいしか言ってないんだけど!?)

 

 

 

 それもそのはずだった。

 

 

 

 彼女たち魔法少女の戦いは、常に死の恐怖と隣り合わせの我流であり、精神的に成長途中の彼女たちは、パニックに陥って無駄な被弾をすることが多かった。

 

 

 そこへもたらされた、地上最強の男による徹底したリスク管理と立ち回りの最適化というゲーム論。恐怖心が安心感へと変わり、メンタルを安定させた彼女たちは、自らの魔力を100%引き出す精密な戦闘マシーンへと変貌を遂げていた。

 

 

 

 更にキングのゲーム論や卓越した反射速度、それらのノウハウが相乗効果を引き起こす。実践により得られた経験と、キングのゲーム論による知識、そして、ゲームという膨大な戦闘シュミレーションの宝庫が合わさることにより、自分の行動に対する確証レベルの裏付けが行われる。

 

 

 

 彼女たちが強くならないわけがなかった。

 

 

 

 

 ──だが、魔女を倒し続けた杏子は、変身を解除し、グリーフシードを見つめながら、見滝原に妙な違和感を感じていた。

 

 

 

 

(一体どうなってんだ……見滝原だけ魔女が多すぎる…。風見野とは比になんねぇ……)

 

 

 

 

 それに続き、マミも先日のほむらからの『警告』に対して違和感が残っていた。

 

 

 

「美樹さやかには注意して。」

 

 

 

「…?どういうこと?美樹さんがどうかしたの…?」

 

 

 

「詳しく話すことはできないわ。」

 

 

 

「…それで信用すると思って?」

 

 

 

「…………」

 

 

 

 ほむらからは直接言うことができなかった。

 

 

 幾度となく続いたループ。さやかがどのような過程でソウルジェムが濁り、どのような結末を迎えたか。そして、マミ自身も精神を崩壊しかねないあの悪夢。

 

 

 

 だが、今回の時間軸は久しく全員が生存し、且つまどかも魔法少女になっていない。その中心に位置するのは、謎のイレギュラー『キング』。

 

 

 

 彼の言動や行動を日々観察しているうちに、ほむらは無意識にキング特有の曖昧な言動を真似ていた。マミの疑念を解し、納得してもらうには、この背景しか思いつかなかった。

 

 

 

「…私からは言いづらいのだけれど…美樹さやかは日常生活がうまくいっていないわ。その…こういうお年頃だと、気持ちの面で思い悩んでいたりとかね…。

 

…命がけで戦う魔法少女ともなれば、戦闘にも影響が起きかねない。……美樹さやかに注意してというのは、『そういう意味』よ。」

 

 

 

 

 

 マミはほむらの言動から、『さやかの個人的な事情』についてある程度察した。しばらく考え込んだ後、ほむらに対して謝辞を述べた。

 

 

 

「……そうだったのね。えぇ、わかったわ。忠告ありがとう。暁美さん。」

 

 

 

 マミはそう言うと、その場を去っていった。

 

 

 

(……言えない…まだ…言うわけにはいかないわ…あとは美樹さやかと佐倉杏子の衝突阻止ね...!)

 

 

 運命の歯車を狂わせるタイムリミットは、刻一刻と迫っている。ほむらは二人の衝突を止めるべく、すぐさま歩道橋へと向かっていった。

 

 

 

──あの効率的な魔女掃討戦から、数日後の放課後。

 

 

 

 夕暮れに染まるカフェの一席。

 

 マミはほむらの忠告を胸に抱いたまま、さやかの様子を伺う機会を待っていた。戦場での無敵の強さとは裏腹に、制服姿のさやかの背中は、どこかひどく小さく見えたからだ。

 

 

 

「その…美樹さん…?何もなかったら良いのだけれど…、何が悩んでいることとかないかしら…?」

 

 

 

「…え?いや、別に何もないですよ!ほら…この通り魔女も倒せますし、まぁ強いて言うなら、マスターに少しでも近づいてているかが心配ですね!あははは…」

 

 

 

 さやかは気概よくマミに答えていたが、目の焦点はぼやけ、明るい表情は固まったままだった。

 

 確かに魔女を無傷で倒す機会が多くなっていった。特にマミのペアを組めば、ほとんど何もさせずに魔女を倒すことも容易い。

 

 

 しかし、体は無傷であっても、心は日を追うごとに蝕んでいった。

 

 

 

(確かに…マスターの教えに従えば無傷で魔女を倒せる…。でも…、わたしは…。)

 

 

 

 さやかの友人である志筑仁美から、恭介に告白すると伝えられ、一日の猶予を与えられたが、さやかは気持ちを伝えることができなかった。

 

 

 

 仁美と恭介が仲良く会話する姿を見ると、自分の願いの奥にある、人の為という衣が剥がれそうになる。さやかは、その正体を察知しながらも、無理に抑え込みながら、見滝原の平和や正義を目的に魔女を倒し続けていた。

 

 

 

 だが、さやかが身をもって知ったソウルジェムの真実。自分の体がただの器でしかないことは、少女達にとっては、耐え難く、また無残な成れの果てであった。

 

 

 

 

──叩きつけるような雨が、見滝原市の路地裏を黒く濡らしていた。

 

 

 

 家賃6万4000円のマンションの一室に、その少女はいた。美樹さやかは、虚ろな目で自分の胸元を睨みつけ、床に小さくうずくまっていた。

 

 

 

「……マスター。わたし…もう人間じゃないんです…。」

 

 

 

 絞り出すような、ひび割れた声。

 

 

 さやかの胸の奥で、ソウルジェムが彼女自身の絶望に呼応するように、ドス黒い澱みを急速に広げていく。

 

 

 

 まどかがソウルジェムを歩道橋から投げ捨て、自分の肉体が一時的に仮死状態となったあの悪夢。

 

 

 

 キュゥべえの言う通り、魔法少女の肉体はただの器──中身の抜けたゾンビと同じだ。そんな呪われた肉体で、恭介や人々のために戦う正義の味方だなんて、笑えない喜劇だった。

 

 

 

 キングの教えにより、戦術的・肉体的には無傷で勝てるほど強くなっているのに、さやかの心だけは救われていない。戦闘効率の向上と心の摩耗のズレこそが、さやかの心にヒビを加えていた。

 

 

 

 

「こんな肉体で、誰かを救うだなんて……わたし、ほんとバカです……」

 

 

 

(…さやか氏……前回のラジコン圏外事件を引きずって完全に闇落ちしかけてるよ…。人間じゃない、ゾンビだなんて自分を責めてるけど……。)

 

 

 

 キングの頭に浮かんだのは、あのサイボーグの青年の姿だった。

 

 

 

(……待てよ。身体が機械だの器だのって話なら、ジェノス氏だって全身サイボーグじゃん。彼なんて脳みそ以外全部機械(パーツ)だし、いつも怪人に破壊されて、現代アートみたいな壊れ方して帰ってくるぞ?

 

 でも、彼が『自分は人間じゃない』なんてウジウジ悩んでる姿、一度も見ただろうか? 彼はいつだって『強くなりたい』って、うるさいくらい熱い魂(心)で突っ走ってた。

 

……そうだよ。大事なのはハードウェア(肉体)の素材なんかじゃない。中身(コア)の意志だろ。よし、彼のガチガチな生き方をベースに、ちょっと大人っぽく諭してやるか……!)

 

 

 

 

 張り詰めた沈黙。キングは静かにソファーから立ち上がり、さやかの隣に腰を下ろした。地鳴りのような『キングエンジン』の重低音を小さく響かせる。

 

 

 

《──ドッ、ドッ、ドッ、ドッ……。》

 

 

 

 その圧倒的な存在感に、さやかはびくりと肩を揺らし、縋るように師を見上げる。 

 

 

 

「……美樹さん。君は大きな勘違いをしているな」

 

 

「え……?」

 

 

 

「肉体がただの器だから何だというんだ。そんなスペックの差で、人間の価値が変わるわけがないだろう。

 

……俺のいた世界には、脳以外がすべて機械で作られた、全身サイボーグのツレの弟子がいるんだがな。」

 

 

 

「サイボーグ、ですか……?」 

 

 

 

「ああ。彼の身体は生身の人間とは程遠い、ただの鉄の塊だ。ネジの一本、オイルの一滴まで他人が作ったパーツに過ぎない。君の言う『ゾンビ』よりも、よっぽど人間離れした無機質なハードウェアだ。

 

……だが、彼は自分の肉体が偽物だなんて、一度だって卑下したことはない。いつだって、誰かを救うためにその鉄の腕を振るい、命を懸けて戦っている。なぜなら彼は知っているからだ。」

 

 

 

 キングは腕を組むポーズを崩さず、彫刻のように險しい貌のまま、しかし驚くほど温かい声で言葉を紡いだ。

 

 

 

「人を人たらしめるのは、器(肉体)の構造ではない。他者を想い、戦い抜こうとする『心(意志)』こそが本物であると。

 

……君が誰かを救いたいと願い、そのために命を懸けたその想いは、この宝石(ソウルジェム)が何で作られていようが、絶対に偽物なんかにならない。君が歩んできたその気高いプレイ履歴(軌跡)を、自分でクソゲー扱いするな…。」

 

 

 

「わたしの……心……。わたしの想いは、偽物なんかじゃない……」

 

 

 

 さやかの瞳から、大粒の涙が溢れ出した。

 

 

 世界が自分を化け物と呼ぼうとも、地上最強の男が、自分の『心』を本物だと、立派なヒーローだと、完璧に保証してくれた。

 

 

 

 パキィィィン! とガラスが割れるような美しい音が部屋に響く。

 

 

 

 さやかの様子を、窓の外で身を丸めながら眺めていたキュゥべえだったが、ソウルジェムが純白に見えた瞬間、体勢を直し、まじまじとさやか達を見つめていた。

 

 

 さやかのソウルジェムを覆っていた黒い澱みが一瞬で弾け飛び、純白の輝きを取り戻した──

 

 

 

(……バカな…! 感情の相転移(魔女化)の法則が、彼の言葉の介入だけで逆流した!? )

 

 

 

──かに見えた。

 

 

 

(……いや、罪悪感で相殺されたか。あの男はやはり、ぼくたちのシステムを根底からバグらせる特異点だ。)

 

 

 

 そのサイボーグは、心も身体も最初から最後まで、誰かのための“本物のヒーロー”なのだろう。

 

 

 しかし、自分は恭介の右手が治ったら、自分を特別な存在として見てほしいと『見返り』を期待して戦ってた。自分の心は最初から最後まで、偽物の正義の味方だった。

 

 

 

 キングに対するあまりに神聖化された誤解と、師の期待に対して『醜い嫉妬』を抱いてしまった自分自身への罪悪感により、ソウルジェムは一層の濁りを醸し出した。

 

 

 

「……ごめんなさい、マスター……!」

 

 

 

 さやかは泣きながら、再び雨の街へと走り去ってしまった。キングは、さやかが走り去った玄関の方向を、ただ茫然と眺めていた。

 

 

 

(えっ……?や、ヤバいヤバいヤバい…!!サイボーグの例え話がニッチすぎた!?俺なりに精一杯励ましたつもりなんだが、俺さやか氏に対してとんでもない地雷発言しちゃった…??)

 

 

 

 ただキングは、そんなに自分を責めなくていい。そんな醜い感情を持つ自分でも受け入れていいと伝えたかっただけだった。

 

 

 しかし、その言葉がさやかにとってはあまりに清く、あまりに高潔であり、むしろ醜い自分の一面をより強調させることとなった。

 

 

 

 ヒーローの王としての装飾。大部分では、それが自らや周囲の身を助ける御守りの役目を果たしているが、今のさやかにとっては、より自らの醜さを表面化させる逆効果へと転じてしまった。

 

 

 

 

 

 雨の中。キングの部屋を飛び出たさやかは、ずぶ濡れになりながら見滝原の街中を彷徨っていた。キングの精一杯の励ましすら拒絶してしまい、もう彼の所には顔向けできない。

 

 

 だが、キングに対する敬意はさやかの中で持ち続けていた。せめてキングの教えだけは全うしたい。

 

 

 

(あぁ………そういえば、マスターが『自分の能力を知れ』って言ってたな…。)

 

 

 

 自分の能力の活用法について、ふと脳裏に浮かんださやかは、能力の実証のため、突然方向を切り替え、自宅の方へと走っていった。

 

 

 

 

 マミは自宅に戻り、ドアを閉めた後、玄関でそのままへたり込んでしまった。

 

 

(私自身も…ただの動く死体だったの……?)

 

 

 

──さやか達と別れた後。個別に杏子から呼び出されて告げられた信じがたい真実。アタシたちの本体はこの宝石で、身体はただの動く死体だと、重苦しく語る杏子の表情がフラッシュバックする。

 

 

 

 マミは現場に居合わせていなかったが、さやかの身に起きたことを杏子から知らされた。

 

 

 キングの激励により普段の気分は幾分か軽くなっていたが、頼れるお姉さんとしてのプライドはあるため、せめてまどかたちの前では必死に冷静さを保とうと努めていた。

 

 

 マミは玄関のドアに背をもたれかけながら、あのことをついて思い出す。ソウルジェムが本体で、体はただの器であること。なにより、過去の魔法少女や、さやかをゾンビにさせる手助けをしまったことへの罪悪感が、マミの正義感を蝕んでいった。

 

 

 

(キング先生……、私は…なんてことを……)

 

 

 

 彼女の記憶から甦るのは、まどか達を熱心に魔法少女へ勧誘していた時の自分の笑顔。自分は彼女たちを、無意識に命の通わないただの器に誘おうとしていた。

 

 

 

(…先生は、だから『自分の能力(本質)を知れ』と仰っていたのね……。先生の教えを、ただの戦闘技術だと勘違いしていた。私自身が器にすぎないことも知らずに、鹿目さん達を勧誘していたなんて……。なんて浅はかで、愚かな先輩だったのかしら…)

 

 

 

 ほむらはあの時、マミを引き留めてまでキングの警告を伝えてくれていた。もっと早く意図に気づいていれば、彼女を一人にさせることもなかった。そう考えれば考えるほど、自らの失態と後悔ばかりが浮かび上がる。

 

 

 

「…ハハ、あははは……」

 

 

 

 あの時、魔女に無防備に首を差し出すような戦い方をしていたのも、過去に多くの魔法少女と手を組み、共闘していたのも、魔法少女の本質がゾンビであることを知らなかったから……。何もかも、マミの無知が招いた結果だった。

 

 

 

「……っ……うぅ……美樹さん……ごめんなさい………!……ごめんなさい…!!」

 

 

 

 先輩としてのプライドも、正義の味方としての自信も完全に砕け散り、涙がソウルジェムに落ち続けていた。

 

 

 

魔法少女まどマ⭐︎キング 第7話・完




ここまでご覧いただきありがとうございました!


キングの言葉は完全に高潔なヒーロー視点で映ってしまい、さやかを余計に追い詰めることとなってしまいました…。

第8話からはさらに憂鬱展開が続きます。まどマギの運命観にキングがどう立ち向かうのか。次回も見ていただけると嬉しいです!
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