さやかとマミの穢れが加速する絶体絶命の状況となります。
【あたしって、ほんとバカ】
さやかが部屋を出た直後。キングはかつてないほど焦りを催していた。
(いや、どうしよう……。完全にゲームの仕様にキレてアカウント削除しそうなメンタルだったぞ。追いかけようにも俺の足じゃ追いつけないし……。あ、マミ氏に連絡した方が……)
冷や汗を流しながらスマホを取り出そうとした、その瞬間だった。
──カチャ
玄関のドアが開いた。
(……えっ……もしかしてさやか氏…?)
肩を震わせながら振り返ると、そこに立っていたのは、長い黒髪の少女──暁美ほむらだった。
その瞳は、いつになく真剣で、どこか悲壮な決意を孕んでキングを見つめている。
(ほ、ほむら氏……!? っていうか何で家知ってんの!?俺の住所公開されてるわけじゃないよね!?)
キングの顔面は恐怖で硬直した。腕を組んだまま、ドス黒いプレッシャーを放ち、ほむらを凝視する。
《ドッ、ドッ、ドッ、ドッ……!》
室内に響き渡る、圧倒的なキングエンジンの重低音。
ほむらはその圧力を浴び、冷や汗を流しながらも、一歩も退かずにキングの前に進み出た。
「……突然の不作法を許して、キング。……でも、私たちにはもう時間が無いの。」
(時間がない? …もしかしてイベントの締め切りが近くて焦ってんのか……!?)
「美樹さやかのソウルジェムの穢れが、もう限界を超えつつあるわ。このままでは彼女は……魔女になってしまう。……私一人の力では、もう彼女の絶望を止められない。」
ほむらは唇を噛み締め、頭を深く下げた。
「…キング。この世界の歪みを、インキュベーターの企みを、あなたなら……力ずくでねじ伏せられるはずよ。美樹さやかを、まどかを救うために、あなたの力を貸してほしいの…!!」
(は????)
キングの脳内はパニックに陥る。
(いや待て待て待て!! 魔女って何!? 絶望を止めるって何の話!? 力を貸せって言われても、俺はただの一般人だぞ!?)
しかし、極限の恐怖から声が一切出ない。
キングは冷徹な貌のまま、ただじっとほむらを見つめ続けた。そのあまりの眼光の鋭さに、ほむらの背中に冷や汗が伝わる。
(……いや、落ち着け。今ほむら氏なんて言った? 『インキュベーターの企み』……? さやか氏のソウルジェムが限界……?)
じっと考えを巡らせるうちに、キングの脳内でゲーマーとしての常識がカチリと音を立てて繋がった。
(あぁ、そういうことか……!!インキュベーターっていうのは、あの中学生たちに無茶なバトルをさせてる悪質なクソ運営の組織名だな!?
……で、さやか氏はその運営が用意した理不尽なイベントのせいで、精神的にもゲーム的にも限界を迎えて闇落ち(魔女化)しかけてると……。)
(つまりほむら氏は、ユーザー(魔法少女)をコキ使うクソ運営を、俺たちの圧力で一緒に糾弾させて、仕様変更(調整)を勝ち取ろうって言ってるんだな。そのために俺から一言文句を言えってことか……!)
日頃からクソ運営の理不尽なアップデートに煮え湯を飲まされてきた男の、ゲーマーとしての魂が熱く燃え上がる。
「…インキュベーターの好き勝手にはさせん……!!」
ドスの利いた声が、キングの口から漏れ出た。
「あの子たちの環境を壊してまで、自分たちの都合を押し通そうとするなど、プレイヤー(人間)を舐めている。……規約違反は、こっちから完全に見限ってやる……!!」
日頃のクソゲーに対する怒りで、キングの顔がかつてないほど凶悪に歪み、凄まじい殺気を放っていた。
(……そうだったのね…。キングは最初から、インキュベーターのシステムそのものを叩き潰すつもりなんだわ……!)
キングの『ただのクソ運営への文句』を、ほむらは『因果のシステムそのものを改変・破壊する』という最強の宣戦布告として超解釈した。
ほむらの瞳に、希望の光が宿る。
「……ありがとう、キング。あなたがそう言ってくれるなら、心強いわ。……美樹さやかの件は私が見張る。インキュベーターの端末は……あなたに任せてもいいかしら?」
「……あぁ。……そっちは、俺が片付ける。」
威厳たっぷりに頷くキング。
「……頼んだわ。」
ほむらは短くそう告げると、再び音もなく夜の闇へと消え去っていった。
──翌日になっても、雨は止むどころか、一層の激しさを増していた。
玄関でそのまま夜を明けた巴マミは、今までの魔法少女やさやかに対する後悔から、食事や風呂はおろか、ベッドまで移動して横になる気力すらなかった。
膝を抱え込む自分の腕が、まるで悔いと贖罪の鎖のように彼女をその場に縛り付けていた。
もはやこのまま座り込んだまま消えていきたい。だが、記憶にある後悔の貯蔵庫から、先日のほむらの言葉が、マミの頬を引っ叩くように遮った。
『美樹さやかには注意して』
ハッとしたマミは、みるみると表情を青ざめながら、体当たりするようにドアから飛び出していった。
──そのとき、さやかは『影の魔女』との戦闘中だった。
さやかが心配で付き添っていたまどかと、その場に居合わせた杏子は、さやかを諌めるも、戦闘の邪魔をするなと釘をさされていた。
影の魔女の鋭い一撃が、さやかの胸を容赦なく突き抜ける。
まどかの悲鳴が響き、杏子がすぐさま飛び出そうとした次の瞬間、さやかの体内で暴走寸前の魔力が大爆発を起こした。
肉体の損壊を厭わない自爆バースト。魔女の一部を巻き込みながら、さやかの右半身から上が凄惨に吹き飛んだ。
皮膚が破れ、中身や骨が剥き出しになったが、さやかの腰回りに取り付けられた複数のグリーフシードが、自爆によって一気にドス黒く濁ったソウルジェムの穢れを強制的に吸い取っていき、さやかの肉体は瞬く間に修復していった。
ソウルジェムさえ破壊されなければいい。もはや自分の体であっても消耗品の一つでしかなかった。
「……やっぱ慣れちゃえばこっちのもんだね。全然問題ない…。」
千切れたさやかの右腕が二人の目の前で、鈍い音を立てて落下した。杏子は飛び出そうとした足を止め、隣ではまどかが恐怖に身を震わせる。
「さやかちゃん…。どうして…」
「……あはははは…! 痛いわけないよ。だって私の体、ただの泥人形だもん…。本物のサイボーグの人とは違う、ただの出来損ないのゾンビだもん。
パーツがちぎれたって、穴が空いたって、中身が空っぽの器なんだから……中から武器を出したって全然痛くない…!」
「……おい……さやか…」
修復中の肉体のまま、中から剣を引き抜き、中身の一部がこびりついた剣で魔女に斬りかかろうとしたその時。
「──もうやめて!! 」
悲痛な叫びとともに、無数の黄色いリボンが空間を埋め尽くした。
マミの魔法が、魔女の動きを完全に封じ込めると同時に、さやかの残された左腕と身体を地面に優しく、しかし絶対に動かせない強固さでぐるぐる巻きに拘束する。
すかさずマミは巨大なマスケット銃を召喚し、涙を流しながら叫んだ。
「ティロ・フィナーレ!!」
轟音と共に放たれた大口径の砲撃が、影の魔女を完全に消滅させた。
静まり返る雨の路地裏。
崩れ落ちる魔女の残骸の向こうで、マミは息を切らし、狂気的な自爆特攻を止めた安堵と、変わり果てた後輩の姿への恐怖で身を震わせ、その背後ではまどかと杏子が異様な空気感に立ち尽くしている。
リボンで縛られ、泥水に顔を半分埋めたまま、さやかはゆっくりと首だけをマミの方へ向けた。その瞳には、光が一切宿っていない。
「美樹さん……大丈夫!? 今、治療を──」
「なんで邪魔したんですか?」
「………え…?」
「…せっかくマスターの教え通り、一番効率的なリソース管理で魔女を殺せそうだったのに。…完璧な先輩のあなたがしゃしゃり出てきたせいで、わたしのプレイ履歴が台無しじゃないですか。……本当に、お節介なんですよ…。」
「そんな……私は、貴女の身体が……!」
拘束を強引に魔力で弾き飛ばし、千切れた右腕をドス黒いオーラで再生させながら、さやかはフラフラと立ち上がる。
マミから差し出された救いの手を、冷たく睨みつけながら──。
「……マミさんはいいですよね。まともなプレイ履歴があって。ちゃんとマスターの教え通りに戦えて、完璧な先輩で、マスターにはお似合いの一番弟子ですよ…。わたしなんて別にいなくてもどうでもいいただの弟子です。マスターの弟子すら名乗る資格の無いゴミみたいな存在ですよ…」
そう吐き捨てると、さやかのソウルジェムは、グリーフシードに吸収されたはずが、再びドス黒く染まっていった。
「……!そんなこと──」
「もう……わたしのことはいいんです…ほっといてください…。」
「……待って!…待ってさやかちゃん!!」
さやかはマミの言葉を遮るかのように言葉を発し、その場から走り去っていった。マミと杏子はさやかを追うことができず、その場で立ち尽くしていた。
「美樹さん……どうして……。私は、ただ……貴女の力に……」
マミはマスケット銃を消去するが、その両手は激しく震えている。やがて、その場で膝をついてしまった。
「……おい…大丈夫かよ、マミ…」
「……キング先生は……『背負わなくてもいい』って言ってくれた。自分のために戦っていいって、私の重荷を全部、あの広い背中で引き受けてくれたの……」
マミは自分の胸元をぎゅっと掴み、地面を見つめて涙をボロボロとこぼす。
「だから私、嬉しかったの。救われたの。今度は私が、先生みたいになりたかった……。苦しんでいる美樹さんを、あの人のように温かく導いてあげたかったのに……!!」
「でも…私の言葉は、美樹さんを追い詰めるだけだった……。それどころか、私の存在そのものが、美樹さんを傷つけていたなんて……!私、ぜんぜん頼れる先輩なんかじゃない……! 先生の弟子を名乗る資格なんて、ないわ……!」
「…………」
そのとき、ほむらがマミ達の元へ駆けつけた。しかし、さやかとまどかはその場になく、ただ立ち尽くしている杏子と、泣き崩れていたマミだけが残っていた。
杏子は、さやかが去った方向を見据えながら、ほむらに対して一言だけ伝えた。
「……アタシはさやかを追う。……マミを頼む。」
杏子はそう告げると、さやか達の元へ走っていった。
ほむらが合流したことに気づいたマミは、彼女に対して、自嘲気味に独白する。
「……暁美さん……。あなたの言う通りだったわ……わたしがもっと美樹さんを見ておくべきだった……」
「……あなたのせいじゃ」
「でも…!…もう…わたしでは無理……!わたしではダメなの……!…わたしでは……美樹さんを…、助けられない……!!」
さやかだけではなく、マミのソウルジェムも限界に近づいていた。ほむらの想定では、マミや杏子と連携することで、さやかを引き止めることに着手する予定であったが、もはやそれも叶わなかった。
ほむらでは、マミやさやかに対して何も声をかけることができない。それはほむら自身もよくわかっていた。
何十回、何百回というループで地獄を見てきた彼女にとっては、希望を見出す発言や行動もループの度にすり減らされてきた。
そんな中、遂に見つけ出したイレギュラーを前にし、待ち望んでいた希望の兆しが見えてきたというのに、こういう時に限って何もできない自分がひどく醜く感じられた。ただ、この状況を噛み締めながら、拳を強く握りしめることしかできなかった。
『美樹さやかは私が見張る。』
そう発言しながらも、ほむらの中では、もはやキングに頼るしか選択肢がなかった。
「……さやかちゃん……あんな戦い方…ないよ……」
「お願い、さやかちゃん! もうこれ以上戦わないで! 私、さやかちゃんに傷ついてほしくないよ……!」
「……傷つく? 私の身体が壊れる心配をしてくれてるの?あはは…ほんと、まどかは優しいね。でもね、あんたのその優しさも行きすぎるとムカつくんだよね。」
さやかは虚ろな目でまどかを睨みつけた。
「痛いわけないじゃん…。だって私の体、ただの泥人形だもん。本物のサイボーグの人とは違う、ただの出来損ないのゾンビだもん……!」
「そんなことないよ! さやかちゃんはゾンビなんかじゃ」
「ゾンビだよ!! 心まで偽物の、薄汚いバグキャラなんだよ!!恭介に見返りを求めて、自分のために魔法少女になった……そんな醜い本心をさ、マスターは最初から全部見抜いてたんだ。私の『プレイ履歴』を全部知った上で、あの人は優しく諭してくれたんだよ……!」
「キングさん、そんなつもりで言ったんじゃ……!」
「まどかに何がわかるのよ!!!」
激しい雨の中、さやかの怒声が一面に響いた。
「…まどかはいいよね! そうやって何も失わない安全な場所から、ただ同情してればいいんだから!だってまどかは、最初からマスターに特別扱いされて、守られてるんだもんね……!!」
「え……? 私が、キングさんに……?」
「気付いてないフリしないでよ! マスターがまどかを見る目は、最初から違ってた!戦うスペックもない、魔法少女にもなってないまどかを、マスターはずっと気にかけて、自分のそばに置いて守り続けてる…!!マスターに最初から価値を認められて、守られてるまどかだから、そんな綺麗事で都合のいいことが言えるんだよ……っ!!」
「違う……違うよ、さやかちゃん! 私はただ……!」
「……私とまどかは『プレイヤーとしての格』が違ったんだ。……あんな本物のヒーローの隣にいていいのは、まどかやマミさんみたいに綺麗な心を持った人だけなんだよ。私みたいな、見返りを求める醜い偽物は……ただ使い捨てられるだけのモブキャラがお似合いなんだ……」
そう言うと、さやかは再び背を向けて歩き出した。
「……さやかちゃん!!」
「来ないで。これ以上あんたといると、私、本当にまどかを呪っちゃいそうだから……」
(………美樹さやかと巴マミの消耗が思った以上に早い。特にさやかは、彼女自身が呪いを生みはじめた。)
さやかが去った直後、まどかの前にキュゥべえが現れる。
「彼の言う通りだね。彼は全身機械の戦士を知っていると言った。その戦士はきっと、戦うことに何の損得勘定も持たない完璧な兵器なんだろう。だけどさやかは違う。彼女のソウルジェムがあそこまで濁っているのがその証拠だ。彼女のシステムは、彼の期待に応えられるほど高潔には作られていないのさ。」
キュゥべえはそう述べると、次の目的のためそそくさと消え去っていった。
「…違う…違うの……キングさんは、そんなこと……」
まどかはその場で座り込みながら、頬を伝った涙が地面へと落ちてゆく。
後を追っていた杏子はまどかを見つけたが、さやかの説得が失敗に終わったことを察した。
まどかに寄り添おうとする気持ちを抑えながら、さやかが手遅れにならないよう手短に伝えた。
「ほむらと合流してキングの元へ行け。多分…それしか方法がない…。」
杏子はさやかの元へ急ぎ、まどかは溢れる涙を抑えられないまま、後から来たほむらやマミと一緒にキングの部屋へと移動した。
(さやか氏……本当に大丈夫なのか…?でも俺に出来ることなんて……。)
キングは、夜食のポテトチップスとピザまんが入ったコンビニ袋を手に、一刻も早く我が家へ帰ろうと大股で歩いていた。
キュゥべえに対するクレーム内容を脳内で構築しつつも、その奧では、さやかの状況について案じていた。
そのとき、キングの前に音もなくその白い影が立ちはだかった。
「やあキング。こんな時間に散歩かい?」
白い猫のような、しかし決定的に無機質で不気味な生き物──キュゥべえが、長い耳を揺らしながらそこに座っていた。
(うわ出たァァァ!!キュゥべえ!!魔法少女スカウトマンの化け物!! なんで通り道にピンポイントで先回りしてんだよ!!怖い!話しかけないで!!)
キングは心臓を跳ね上がらせながらも、彫刻のように冷徹な強面のまま硬直した。
「少し君と話がしたくてね。最近、見滝原の魔法少女たちのエネルギー効率が、著しく計算と合わないんだ。彼女たちは魔女と戦ってもソウルジェムがほとんど澱まない。それどころか、君の部屋から帰ってくるたびに、まるで初期化されたように穢れが消滅している。……君は一体、彼女たちに何をしたんだい?」
キングは極限の恐怖で全く声が出なかったが、それが、無言でキュゥべえを睨みつけていたかのように見えた。
「……不思議なんだよね。君の放つ、あの不気味な心音。確かにあの大気の振動と、僕の端末が処理落ちを起こすほどの気配は、人類の個体としては異常だ。だが…なぜだか分かるかい?」
キュゥべえは首を傾げ、その無機質な赤い目を細めた。
「僕の観測システムが捉える君の純粋な魔力、および戦闘エネルギーの数値は……完全なゼロ(一般人)を示しているんだ。本当に世界のルールを書き換える高次の存在なら、因果のエネルギーが数値として観測できなければ論理が通らない。
……まさか君は、ただ周囲を恐怖させるためだけの、高度に発達した『ハッタリ』で生きている個体に過ぎないんじゃないかな?」
(は?????何言ってるんだこいつ……。魔力数値がゼロなのは当たり前だろ。俺はただのニートだぞ。発達とかハッタリとか、何をそんな高度な陰謀論みたいに言ってるんだ!?
……いや、待て。こいつ、何を怒ってるんだ? そうか! こいつ、自分が用意した危なっかしいデスゲーム(魔法少女の戦い)を、俺が身内を集めて安全圏で引きこもってプレイさせてるのが気に入らないんだな!?)
(ほむら氏が言ってた、運営が用意した理不尽な仕様を、ユーザーが安全地帯を見つけて完全攻略しちゃったから、仕様変更(ナーフ)しに直談判しにきたクソ運営の回し者か!?
…宇宙がどうだか知らんがな、中学生の女の子たちを騙して、泣かせるシステム、最初から破綻してんだよ!!プレイヤーを大切にしない運営なんて、こっちから完全に見限ってやる…!!)
日頃から理不尽なゲームの仕様変更に泣かされてきた男の、クソ運営に対する魂の叫び。
ゲーマーとしての純粋な憤怒がキングの恐怖を完全に上書きし、彼の強面の貌をこれ以上ないほど凶悪に歪ませた。
《──ドッ。》
夜の静寂を切り裂くように、その音が落ちる。
《──ドッ、ドッ、ドッ、ドッ、ドッドッドッドッ……!!!!》
常夜灯の明かりが、その凄まじい大気のプレッシャーでチカチカと激しく明滅し始める。
(……!?なんだこのエネルギー波形は……!僕の端末が、恐怖のノイズで処理落ちを起こしている……!?)
「……おい。運営気取り。」
キングは一歩、地響きを立てるように踏み込み、キュゥべえをギロリと見下ろした。その眼光は、暗闇の中で赤く光っているようにすら見えた。
「お前たちの都合で組まれたそのクソゲーの仕様を、俺のテリトリーに持ち込むなと言っているんだ。これ以上、あの子たちに不愉快なアップデート(干渉)をしてみろ。
その時は……お前たちのサーバーごと、この俺が強制ログアウト(BAN)させてやる。二度とこの画面(街)に湧き出るな…!!」
(バ、バカな……!? エネルギー数値はやはりゼロ(一般人)だ! なのに、この皮膚を刺すような絶対的な殺気と威圧感の正体は何なんだ!?数値化できない……!観測できない高次の因果が、僕の論理を直接破壊しにきているというのか……!? この男の存在自体が、僕たちの論理をへし折る宇宙規模のエラーだ……!)
「……ふむ。君というイレギュラーを刺激するのは、僕たちの計画において著しく非合理的だ。見滝原市からの撤退を含めて、再計算を試みるよ。」
キュゥべえはそう言い残すと、まるで影に溶けるように、夜の闇へと逃げ去っていった。確信しかけていたハッタリの疑惑は、キングの放つ圧倒的な顔芸とプレッシャーの前に、綺麗に上書きされてしまったのだ。
キュゥべえが去った後、キングはそのまま床に崩れ落ちた。
「ふぅぅぅぅぅぅ!!!心臓止まるかと思ったあああぁぁ!!噛みつかれたらどうしようかと…!」
額から滝のような冷や汗を流しながら、地上最強の男は腰が引けたおかしな走りで、一目散に自宅へとダッシュしていくのだった。
(……やはりキングが彼女らに影響を及ぼしているのは間違いない……かくなる上は…)
キングが自宅に戻ると、入り口の前にはずぶ濡れになり、憔悴しきって座り込んでいたマミやまどかの姿があった。ほむらも何やら深刻そうな表情をしている。
キングは彼女たちを部屋へ上がらせた後、さやかの状態について聞いていた。マミは夜分遅くの訪問で申し訳ないからと、食器棚にあったティーカップで人数分の紅茶を淹れていた。
──そのとき、キングが撃退したはずのキュゥべえが再び現れ、ある一言をつぶやいた。
その一言は、人々を助けるため、または一人の仲間を止めるために奔走していた少女たちを、奈落の底へ突き落とすかのような、冷徹な宣告だった。
「あの魔女といわれる存在。あれは未来の君たちのことなんだ」
魔法少女まどマ⭐︎キング第8話 完
ここまでご覧くださりありがとうございました!
なんでふらっと現れて爆弾発言かましてんですかこのクソ運営は…マミのメンタルはもう限界ですよ…。
次回は来週の金曜19:00に公開します。もはやキングを信じるしかありません…。