めでたしめでたし、かくしてお姫様は愛しの人と再会して幸せに暮らしましたとさ──
誰もが認めるハッピーエンド。しかしそれは終わりを意味するものではない。物語は続いていく。ほら、今日もまた。
朝の始まりは、いつも二つのパターンで構成される。今日は……
「彩葉〜!!」
「──うごぉ!?」
あぁ、やっぱり。ダメだって言ったのに
どうやらその二つに当てはまらない第3のパターンだったらしい。意識を目覚めかけさせていた酒寄彩葉は同居人の容赦ないボディプレスによって強制覚醒へ至ったのだった。
「うぅ、まだ腹が……」
「ごめん……早く起こしてあげなきゃって思って……」
朝食。用意された食事を前に席に座る彩葉は腹を摩る。その対面に座るのは、かぐや。現実世界に根を下ろした同居人。
「朝から元気だねぇ〜、ヨヨヨ。お婆ちゃんは付いていけないのですー」
そんな二人を茶化すように泣き真似をするのは、今をトキメク大人気ライバーのヤチヨ。説明すると長くなるから省略するが今は私の同居人。
「彩葉……」
明らかな不機嫌な顔を前に、ウルウルとイタズラが見つかった子供みたいに見つめてくるかぐやを前に、口の中を転がっていく文句達はため息と一緒に飛んで行った。
「……まぁ、今に始まった話じゃないしね。というかなんでそんなテンションが高いの」
「今日の朝食当番はかぐやでしょ!?今日は特別上手く出来た気がするんだ!だから早く食べてほしくて!」
キラキラと目を輝かせてそんな風に言うかぐや。仕方ないな、と嘆息する彩葉だったが二度目のそれに宿る色は明るいものだった。
「だったらほら、早く食べよ。私もこの後また研究室行かなきゃならないんだから」
「えぇ!?またぁ!?」
「仕事だからね」
うへぇ、と素直に嫌な顔をするかぐやだったが彩葉はどこ吹く風。こうなった時のかぐやに取り合うのは悪手だと経験則で彼女は知っていたのでした。
そんな二人のやりとりを、頬杖をついて微笑ましそうに見つめるヤチヨ。
ごちそうさまでした、と三人は食事を終え、それぞれのやる事。やりたい事へと進んでいく。
あぁ、誰が見ても、どうみたってハッピーエンドだ。万来の大拍手が降り注ぐ幸せな日々だ。
だと言うのに。
──どうして、満ち足りていないのだろう?
彩葉は何処かチクリとする感覚に頭の隅で妙だと思いながら研究室へと向かっていた。
それはかぐやもヤチヨも。まるで見えない何かを知っているような、知らないような。それを誤魔化すように笑うのだ。今自分は幸せなのだと。
むかーしむかし。いや、それほどむかしではないかもしれません。
ちょっと、未来で、或いは過去で。
何処にでもいる、男の子がいました。成績優秀、文武両道。そんな言葉が似合う男の子。そんな彼には、一つ、秘密がありました。
時間を巻き戻す。そんな不思議な力があったのです。
彼はそれをリセットボタンと呼び、理想の自分というものを作っていたのです。それが無ければきっと彼は誰かのオマケ。文末にも載らない誰かでした。
「彩葉を返してよ……」
そんな彼の日々は、力は。どうしようもなく誰かの幸せを壊していたのだと、足元で崩れて泣く電子のお姫様を前にして、やっと気がついたのでした。
これは、文末に載らないお話。幕は閉じ、陽は沈んだ彼のお話。