太陽が沈んで、夜がやってきます。
そんな言葉から始まる世界。仮想世界ツクヨミ。利用者二億人を突破したと言われるもう一つの世界。そこには様々な人がいる。自分の得意な事を活かして人の心を動かす者。或いはそれに力をもらって明日を生きる者。
「それでそれでねー!?イロハってばさー」
「でもさぁ!かぐやもっと遊びたかったのにー!ねぇ!そう思うでしょ──」○○!
かぐやは感情のまま言おうとして、止まった。だらしなく手足をばたつかせていたのをピタッと。
私は今、何を言おうとしたのだろうか。出てこない。出てこないのに。
「……なんか、変」
モヤモヤしてる。頭ではそんなはず無いって理解してるのに。それが何なのか分からなくてかぐやは顔を不満です!と頬を膨らせた。
「やっほー、かぐやちゃん」
そんなかぐやに、声を掛ける者がいた。今いるのは月夜で水辺が見えるプライベートルームのような場所。知り合いでなくては入れない場所。
「あ!ヤチヨ!」
「ゴホン、ヤオヤロー!神々のみんな!」
ここはツクヨミ。ヤチヨもプライベートモードからすっかり配信者モードへ。それに釣られてコメント欄も更新速度が爆速だ。
「うんうん良きかな良きかな〜」
ニコニコと、楽しそうに笑うヤチヨは慣れた手つきで宙に指を振る。するとピョン、とあるディスプレイが表示される。
そこにはデカデカと『第二回ヤチヨカップ!』と、やけに丸いフォントで書かれていた。
「これは今配信しているライバー全員に伝わるよう告知してるよー、詳しい内容は追って発表するから、お楽しみにねー?」
かぐやは見た。ニコニコと笑うヤチヨだったが違う。いつものヤチヨじゃ無いと理屈でなく感覚で理解できた。
だからかぐやは配信を一度切り、改めて問う。
「何か変だよヤチヨ」
「ありゃりゃ、ヤッチョはいつも通りだよー?」
首を可愛く傾げ答えるその言葉に、かぐやは黙る。ヤチヨはかぐやだ。自分自身だ。だから分かる。きっと、問い詰めたとしても言う気はないと。視線だけが交わる。静かな沈黙。
「……」
「──これは、必要な事なのです」
理屈でなく感じる僅かな欠け。0と1に挟まる余地のない何か。それを確かな疑念とする。その為に必要な事だとヤチヨは思っていた。何の因果か、夏真っ盛りの今は丁度かぐやと彩葉が出会ったあの日々から10年が経つ。
そうして行われる既視感の中には何があるのか。
二千四百五十四回目
彼は辿り着いた。何度も何度も間違えてようやく、目的地に辿り着いたのである。きっと、これば彼が知る超人たる彼女ならこんなに回数を重ねなかっただろうと自嘲する。
ヤチヨの本体が眠るサーバールームに忍び込むのだけで数百回やり直したことかとその苦労を慰める。今、自分の目の前には『もと光る竹』がある。
彼女が地球に降り立った時、その機械は壊れていたと聞いた。もしかしてと、彼は思いついたのだ。凡人の自分でも、数を重ね続ければ直せるのではないか?と。
ふらり、と傾く体をなんとか押し留め、口を手のひらで覆う。不味い。音を出せば今までの苦労は無駄になる。万力で締め付けられるような頭痛と、ポタポタと鼻から垂れる血を必死で抑えて、立ち上がる。
でも、その時の彼は理解していなかったのです。
──壊れたのは機械などではなく、輪廻であった事を。