それに倣って、主人公にも同じように曲を当て嵌めてみたんです。とてもピッタリな曲がありました。
あれから数日。毎日のルーティーンになっていたサイクルは崩れていた。研究に没頭する彩葉。いつも通りの配信に勤しむかぐや。そしてヤチヨ。
その中でかぐやは薄々気がついていた。ヤチヨの様子が変である、と。具体的に言えば彩葉含めた私達の事を避けているように感じるのだ。会話しようと思えば。
「あ、ヤチヨー。ちょっと聞きたいことが──」
「ヤチヨは配信にツクヨミの運営と立て込んでる故、さらばーい!」
と、のらりくらりと逃げられるのだ。ニコニコと笑って逃げていくものだからかぐやも少し腹が立った。相手に逃げられては話もできない。
「どうしよう、彩葉……」
「うーん……」
そんな訳で、家にて2人顔を突き合わせて会議中である。間違いなくヤチヨは何か隠してる。その確信が彩葉にはあった。無理をしてる時のヤチヨは笑顔を絶やさない。誰に似たんだか分からないが無理を素直に無理と言えないのだ。
ヤチヨ一級鑑定士の私が言うのだから間違いない。伊達に青春時代を費やして追い続けていた本気と書いてマジと読むタイプのファンではないのだ。
「とは言え、無理に迫るのも……ねぇ」
いつになく慎重な彩葉だが、それに不満げなのはかぐやだ。
「えー!?ハッキリ言った方がいいってー!」
かぐやらしい意見だが、ヤチヨにも何か訳がある筈。それを知らぬままに迫って傷つけてしまうのは嫌だった。八千年と言う長い時を経てきた彼女を傷つける事は本意ではないのだから。
「あっちから話してくれるのを待つ、じゃダメなの?」
「ダァメ!絶対!」
いつになく頑ななかぐや。どうしたものか、と悩む彩葉。要するにいつも通りのやり取りだった。
結局、その日は結論が出る事はなくお流れとなった。どうせ、そのうち我慢できず突撃していくだろうかぐやのフォローどうしよ……とベットに横になりながら彩葉は頭を悩ませる事となった。しかし、一度目を瞑れば思いの外すぐに眠気は来たようで。
夢を見た。ふわふわとした意識の中で見ているものが夢だと、何となく理解できた夢。
10年前の夢だ。かぐやが月からやって来てからの日々。若き日の自分がかぐやに振り回されてる夢。
「ねぇ彩葉〜、これやろ〜!」
そう言ってかぐやが取り出すのは沢山のペットボトル。なにやらスーパーの廃棄ペットボトルをもらって来たらしい。
「はぁ、これ見せられて何しろって言うのさ……私は勉強したいんだけど」
今よりも余裕がない自分は冷たい返事だ。いや、当時の私こんな感じだったか?あぁ、ほらかぐやが気落ちしてるぞ私。
母によく小言……小言か?とにかく、言われてたが言いたくなる気持ちも分かった。古い鏡を見せられてるような気分だ。
「だったら良いもん、⬛︎⬛︎に手伝ってもらう!!」
「は?いやちょっと!」
いい加減思い出しなさい!あの言葉を嘘にするつもり!?
止める暇もなく、両手で目一杯抱え込んだペットボトルの山と一緒に何処か行ってしまうかぐやに昔の私は大焦りだ。
──はて、誰だ?
外から見えない今の私がそれを見ている。今かぐやが言ったのは誰のことだ?こんな事、あっただろうか。文字化けしたように誰かの名前だけが抜け落ちて聞こえた。
テレビのチャンネルを変えるみたいに、場面は変わる。ここは河川敷だろうか。配信しながら外で何かしているようだ。
「かぐやっほ〜!皆見てる!今日は空を飛ぶよ!」
そんな事を言うかぐやは配信の背景に映るペットボトルの山を指差す。その横には、腕を組み仁王立ちする誰かいた。砂嵐みたいなノイズが覆っていて、今の私には誰なのか分からなかった。
思い出せ!なんで分からないの!?
「じゃあお願い!」
「任せろ!我が妹よ!」
グッとサムズアップすると、ペットボトルの一つ一つに手動の空気入れで空気を入れていく。
「うおおおおおお!!!」
「おー!がんばれーっ!」
する事数分。息も絶え絶えで肩を揺らす誰かは、それが終わると、ペットボトルの一つ一つをかぐやの背中にビニールテープで巻いていく。
「準備完了ッッ!!!」
「うおー!行くぞー!」
配信画面に出ては浮かんでいくコメントは皆笑っていた。
「発射ーッ!!」
ペットボトルに取り付けられた紐を一気に引き抜けば、ペットボトルに充填された水と空気が一気に噴出。かぐやの体は数メートルは飛んで、そのまま川へとバッシャーン!と着水した。いや、飛んだと言うか吹き飛んでるだけじゃないのかこれ。
そんな今の私のツッコミも聞こえない。だけど、水に濡れながら楽しそうに笑うかぐやと腹抱えて笑っている誰か。
「誰なの……」
こんな事、なかった筈だ。少なくともツクヨミではなく現実でこんな風に接する誰かなんて記憶にない。それはヤチヨの八千年の記憶にもだ。変な夢だ、そんな風に言うのは簡単だ。だと言うのに、なんで。
そこで目が覚めた。ガバッと起き上がる。
「あ、あれ……」
ポタポタと、訳もなく涙が掛け布団を濡らした。
「なんで」
拭っても拭っても、何故か涙が止まらなかった。どうして、こんなにも悲しくなるんだろう。
蜊∫五荳荳荳七蝗樒岼
一言に存在を消す、と言っても簡単なことではない。何故なら何が正しい形なのかわからないまま自分だけを消したとして、それが何らかの齟齬を生む可能性がある。だから、一つ一つ試す。一つ消して確かめて、ダメならまた別の一つを試しては確かめる。大丈夫。名前も思い出せなくなったけど、好きな歌は覚えてる。繝、繝√ヨの歌が、まだ。
蜊∫八荳荳蜈ュ蜊八蜊∫蝗樒岼
えっと、今は何回目だったかな……もう、覚えてられないや。何がしたかったんだっけ……でも、誰かが歌ってるんだ。行かなきゃ。
莠悟香荳荳九蜊九蜊∫荳蝗樒岼
何も分からない。立つのって、どうやるんだっけ。どうやって口を動かせばいい?
でも、行かなきゃ。何か聞こえるんだ。
ヤチヨは一人、あのアパートにいた。皆にどんな顔をしていいか分からなくて、ずっとここに居た。当たってほしくない予想が当たった。当たってしまった。
ヤチヨの本体、データが保存されている仮想空間ツクヨミの元。もと光る竹には時間旅行できる機能があった。
既に失われて久しいが、その全てを失ったわけではない。時間旅行をするには、移動前後の世界情報を正確に観測する必要がある。でなければ安定など皆無だからだ。
観測機能は、生きていた。だからヤチヨはそれを使って、見た。当たって欲しくないと願いながら。
累計時間遡行量──六兆五千三百十二万四千七百十年。
数分、数十分にも感じられた沈黙は、力無くその場に座り込む事で破られた。途方もない数字はそのまま、彼の──