主人公は超かぐや姫!原作のハッピーエンドという『正解』を知りません。分からないまま一つ一つトライアンドエラーでリセットしてます。
言ってしまえば金庫の暗証番号を知らないから総当たりで解こうとしてるようなものですね。当然試行回数も跳ね上がります。
「あー、はい。ごめん、しばらく休暇貰うね」
朝起きて、着替えてご飯食べてって仕事の準備しようと思ったけど、無理だった。何しても涙が止まらなくて。
──むしろ休んでくださいよ!所長の貴女が休まないせいで職員が休めないんですからね!
なんて、小言なのか文句なのか。ぷんすこしながら電話先の相手は言っていた。
「……はぁ」
どかり、とソファに腰を下ろし身を沈ませる。フカフカのソファはいつだって優しい。しかし一向に涙が止まる様子はない。
「彩葉……大丈夫ー……?」
かぐやはそんな彩葉を心配して側を離れようとしない。
「大丈夫だってば。なんでか涙が止まらないだけなんだから」
どんだけ私の涙腺溜まってたんだ、ってくらい涙が止まらない。どうしたって言うんだ、ほんとに。もしや何か病気なのかこれは。
「あの夢のせい、なのかなぁ」
よく分からない夢だった。ぽっかりと穴が空いたような、悲しい気持ちになった夢。
「夢……?」
「あ、うん。ちょっと夢を見て。」
その言葉にかぐやは何処か引っ掛かるようで、掘り下げてきた。
「どんな夢?」
「うーん、かぐやが誰かと配信して遊んでいたとこ」
その言葉に、かぐやの肩が跳ねた。
「それかぐやも見た!」
「え?かぐやも?」
うーん、と捻り出すように思い出そうとするかぐやの話はこうだ。
──気持ちいいね!
ヘルメットを被りながらかぐやは楽しそうに揺られていた。原付を運転する誰かの後ろに乗って風を感じていた。
──そうだなぁ、バイク日和だ。
ジメジメとした暑さと、温い風。これでもかと夏を主張するものだったが、かぐやにとって全身で風を浴びるこの感覚がとても好きだった。二人の間を沈黙が流れる。しかし、悪くない間があった。
──彩葉は色々やる事があるからさ、あんまり振り回すのはやめてやんな。
そんな時、誰かはかぐやにそう言った。その言葉に不思議そうに首を傾げる彼女。
──じゃあ、なんで⬛︎⬛︎は私の我儘に付き合ってくれるの?
その彼は、かぐやの我儘を断った事がなかった。彩葉に言わせれば、あんたが二人いるみたいに相性がいい、らしかった。
うん、私もそう思う。家族というものがあったとしたら、彼は兄だっただろうな、と何度も思ったから。
──かぐやが、俺を兄と呼んでくれるから。
⬛︎⬛︎は語った。小さい頃、両親を事故で亡くしてから、祖父母に育てられた自分にとって家族というのは縁が薄いものだった。別に誰が悪い訳じゃない。自分はたまたまそうだっただけ。
そんな自分を兄と呼んでくれたかぐや。なら俺もかぐやが兄と呼んでくれる限り、兄として応えない訳にはいかないだろう?
どんな我儘だろうと、叶えてやりたいじゃないか。可愛い妹の頼みなんだから。と。
だから、何があってもお前に返す。待っていてくれ
……えへへ。
でも、その中にお兄が居なきゃハッピーエンドなんてないよ。なんで分からないの
照れ臭くて、その大きな背中に顔を埋める。心があったかくて、どうにもムズムズする感覚だ。だけど、かぐやは嫌いじゃなかった。
ね?変な夢でしょ?とかぐやは言うのだ。でもその割には嬉しそうで。
「悲しくはならなかったの?」
「最初はそうだったよ」
でも、その暖かさが好きで、夢でも嬉しかったのが勝った。
「……」
彩葉は考える。どう見ても偶然じゃない。同じように誰かが居た。名前も姿も分からない誰か。あり得ない日常だというのに、生々しい現実感を伴った夢。
「誰なの」
頭の奥で、疼くものを感じる。まるで思い出せと言わんばかりに主張するそれの気持ち悪さを抱えながら、考え続けた。
?????回目
花火があがった。空気を揺らす音。パチパチと強烈な光が彼の横顔を映す。
──何回目なの
──どうだろう……もう数え切れないや。
花火を見つめる彼の顔に凡そ感情のようなものは感じられなかった。まるで抜け落ちたみたいで。
──でも、よくわかったね。俺が巻き戻してるって。多分気が付いたのは今回が初めてだよ。
……細かい違和感はあった。まるで未来でも見たみたいな動き方。人を先読みする勘の鋭さ。かぐやのやる事全部分かってたし。
──いつもみたいに、誤魔化して笑わないんだね。
彼の表情が動かない。まるでマネキンみたい。取り繕うのが得意で、こんな顔してこなかった彼の素顔。いや違う。きっと、もっと前は当たり前に笑って、泣いていたんだ。巻き戻しに気がついた私に取り繕おうとするのは無駄だと思ったんだろう。
──そう、だね。
いつになく、口数が少ない。何を言うべきか。考えているのか。
沸々と、怒りが湧いてくる。バカじゃないのって言いたかった。彼の事情なんて知らない。だけど、だけれど。表情すら分からなくなるくらいなら、言って欲しかった。助けて欲しいって。苦しいって。何でもないって顔でいないで欲しかった。
自分でも分からないくらい、なんだかムカついた。どうしようもなく腹が立った。でも、それを今言ってもきっと彼には届かない。
「私、探すよ」
──え
本当に驚いたように、彼はこちらを初めて見た。
「何度巻き戻ったって、アンタを探す。見つけ出す。その時は覚悟しといてよね」
絶対ぶん殴ってやるから。そう宣言する私を、彼は表情を変えないまま、その瞳の奥に、諦めの色を見せた。
「……きっと、もう会えないよ」
「私、頑固だから。やると言ったらやる」
その会話を最後に、彼は消えた。もう間も無くリセットされる。それでも。
──忘れるな。
意識が途切れる寸前まで、心に刻みつけるように空を睨み続けた。