この幸福には名前がない   作:上条@そぉい!

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超かぐや姫!の超担当さんならこれくらいはやる、という熱い信頼。


念願の強くてニューゲーム

 ヤチヨから話を聞き終わる頃には外はすっかり暗くなって、何もない部屋の窓から星空が覗いていた。しかし、それとは裏腹に彩葉の頭脳はけたたましく唸りをあげていた。

 

「彩葉?」

「かぐや、邪魔しちゃダメだよ」

 

 周りが見えなくなるほど考え込む彩葉を心配し体を揺すろうとしたかぐやを制止するヤチヨ。こうなった時の彩葉は止まらないのだから。

 

「……やっぱり、おかしい。おかしいよこれ」

 

 暫くして、彩葉は顔をあげてそう言った。そう、全ての始まりにはおかしな点が存在している。

 

「なんで、ヤチヨがいたの?」

「ど、どゆこと!?」

「だから、ヤチヨが居るのはおかしいんだって」

 

 突然の言葉に理解出来ず返事を返すかぐやと、目を見開き彩葉の言いたいことが理解出来たヤチヨ。

 最初の始まり。巻き戻しの旅の始まり。私が歌を月にいるかぐやに伝えられなかった事で壊れた輪廻。かぐや=ヤチヨという図式が壊れた瞬間。なら、なんでヤチヨは彼の前に存在できた?壊れたのなら、ヤチヨは存在ごと消えていなくてはならない。

 ハッピーエンドと言う正解を知っているから分かる違和感。彩葉はそれに気がついた。

 

 つまり、壊れた輪廻の先にはまだ続きがあって、例え輪廻が壊れたとしてもヤチヨは存在できるという証拠だ。

 

「……だとしたら、まだ道はあるかもしれない──ヤチヨ!」

「は、はい!」

 

 涙の跡をクシクシと拭い、姿勢を正して返事するヤチヨに、彩葉は肩を掴み、言った。

 

「ヤチヨが乗ってきた宇宙船、タイムスリップ機能は壊れてるんだよね?」

「う、うん。機能が壊れちゃって」

「観測機能は生きてたんだよね?」

「うん」

 

 彩葉の頭の中で道筋が立てられていく。だったら……

 

「ハッピーエンドはまだ先だったんだ……ヤチヨ!かぐや!まだまだ付き合ってよね!」

「じゃあ、これから目指すのはハッピーエンドの中のハッピーエンド。超ハッピーエンドだね!」

「……無理はしないでね、彩葉」

 

 生き生きとした目で二人を見る彩葉に、うおーっ!とはしゃぐかぐやと、絶対無理するだろうと確信して釘を刺すヤチヨ。

 このお話には、まだ続きがあるんだ。

 


 

 そう三人で誓い合ってから数年。ようやく目的のものが出来、それを稼働する日が来た。

 

「よし……準備完了!」

 

 向こうでやる事、その全てを整理して計画した。その実行の日。彩葉はそれを見送ろうと集まった友人たちの前に立つ。

 

「……うちの妹は何処までいくのかねぇ……」

 

 呆れたような、でも嬉しそうに帝アキラ、もとい酒寄朝日がしみじみと言った。

 

「けど、やると言ったらやるのが彩葉だもんね」

 

 十年来の友人たる芦花は何処か誇らしげに腕を組みそう言った。真実は家族との兼ね合いで来る事は出来なかったが、前もって山ほどのエールを貰った。

 これを稼働した時、この時間は消えてしまうからこうして目の前の人達に会えるのはこれが最後。友人達がそこに何も思わない、なんてあるはずが無い。

 そこに申し訳ない気持ちがないと言ったら嘘になる。だってこれは、蛇足だ。私の我儘だ。

 

「俺たちは彩葉の味方だよ、お前がやりたいって言うなら何処までも、な」

 

 そんな私の気持ちを見抜いた朝日お兄ちゃんは真っ直ぐと、この場にいる者、いない者を代表して言った。

 

「そーだよ!それに、別れるわけじゃ無いしね!」

「かぐやちゃんの言う通りだね、確かに」

「そうだな、また会える」

 

 かぐやの希望溢れる言葉に、皆頷いて笑った。

 

「だから、行ってこいよ。お前が目指すハッピーエンドってやつまで」

「……お兄ちゃん……うん」

 

 泣きそうになる目に力を入れて、頷く。そうして、部屋に所狭しと鎮座する機械に向き直る。

 

「……彩葉」

 

 さぁ、踏み出そう、とその時。後ろから抱きしめるヤチヨ。

 

「あ、ずるーい!私も!」

 

 勢いよく二人まとめて抱きつくかぐや。

 

「ちょ、重いって……」

「彩葉」

 

 目の端に涙を溜め、ヤチヨはこちらを見つめた。

 

「私ヤチヨはさ、怖がりで、臆病で、きっと震えてるんだ」

 

 一挙一動が未来に何を齎すのか、その恐怖の中で必死に進んできたヤチヨ。

 

「だから、迎えてあげて。もう大丈夫だって、あの日の私を見つけてあげて」

 

「うん……また、会いにいくよ」

「かぐやもね!」

「また、あんたを育てるのは大変だなぁ」

「えー!?」

 

 嘘嘘、と不満げなかぐやを宥め、改めてその場にいる者達の顔を一つ一つ見ていく。

 

「それじゃ──行ってくる!」

 

 皆に見送られて、機械の中に入る彩葉は、装置を作動させる。遠くなっていく意識。白んでいく視界。そうして──

 


 

「……んん」

 

 目覚めて体を起こす。聞き慣れた自分の声がやけに幼く聞こえる。ジリジリと夏の暑さが夜の暗さに混じって体に伝わる。

 

「……成功、した?」

 

 徐に自分の体を弄る。確かに、十年前の自分がそこに居た。枕元に置かれた、今は懐かしいデザインの携帯を見れば、確かに日付と時間は過去を示していた。

 

「やった……成功したんだ!」

 

 巻き戻し。その現象を再現した。一方通行の片道切符は彩葉を目的の時間軸へと到達させたのだ。

 

──さぁ、未来を変えるんだ

 

 彩葉は決意の籠った目で拳を握った。

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