潜影、ちょっと強すぎるかもしれない。
中層への道を見つけてから数日、下層でのレベリングを続けていた私達。
発端は私が“潜影で蜘蛛子ちゃんの影に潜り続けたら移動が楽になるんじゃないか”と思い付いたこと。
これは私の足腰的な意味の話ではなく、速度ステータス的に置いていかれてた私が蜘蛛子ちゃんの全力移動に着いていけるようになるんじゃないかという話。
その予想が的中し、私は蜘蛛子ちゃんにペースを合わせてもらわずとも彼女の移動に着いていけるようになった。
ここまではただただ、移動が楽になったというだけの発見だ。
ここで一度、潜影の効果を再確認してみる。
《潜影:対象の影に潜ることが出来る。その間、自身と対象の状態を一部共有する》
私が使っているのは一つ目の効果、これを使って私は蜘蛛子ちゃんの影に潜り移動していた。
あと身体の一部分だけを影から出すことが出来るのを活かして、耐久の低い彼女の盾役になったりも出来た。
天鱗の効果で物理耐久も上昇してるらしく、今の私ってばそこらの魔物より余裕で身体が硬いので。
問題、いや、問題ではないんだけど注目するべきなのは後者だった。
私はこの“状態の共有”というのがよく分かっておらず、ステータスの一部がお互いに強化されるとか。
まあ、そんな感じの効果だと軽く考えていた。
実際私が潜ってる間、蜘蛛子ちゃん側のステータスも微妙に上昇してるっぼいし。
だが違う、そんな地味な効果ではない。
私が蜘蛛子ちゃんの影に潜っている間、明らかに“私のレベル上昇速度が早い”。
恐らく私は彼女の持つ〈傲慢〉のスキルの効果、その一部を影に潜っている間使わせてもらえている。
これに気付いてからはもう凄かった、結果的に蜘蛛子ちゃんの影が私の定位置になった。
実際変に立ち位置を考えるよりも咄嗟に手を出せるこの場所の方が連携が取れるので、私達は今後このスタイルで戦っていくことになるだろう。
そんなわけで私達のレベリングは、想像の何倍も楽な行程で終了した。
予想では、最低限のステータスを得るためにはもっと時間がかかると二人で話してたんだけど……
蜘蛛子ちゃんが取った傲慢の効果と私の潜影の効果が噛み合って、本当に予想の倍くらい早く終わった。
天鱗も目立ちづらいだけで本当に強いと感じた、嫉妬は格上と戦ってみないことには何とも言えない。
ただ問題なく発動出来ることは確認出来た、スキルを封印出来るまでにタイムラグがあるのは気になるけど。
そんなレベリング後の私のステータスが、こちら。
《レクターウンブレラ(茉莉花 影) LV5
HP:224/224(緑)
MP:70/70(青)
SP:99/99(黄)
:134/134(赤)
平均攻撃能力:114
平均防御能力:231
平均魔法能力:39
平均抵抗能力:131
平均速度能力:68
「HP自動回復LV3」「SP回復速度LV2」
「SP消費緩和LV2」「破壊強化LV2」
「斬撃強化LV9」「気闘法LV1」「気力付与LV1」
「体術の才能LV2」「集中LV6」「予測LV6」
「並列思考LV2」「演算処理LV3」「回避LV2」
「立体機動LV2」「鑑定LV7」「念話LV3」
「統率LV2」「隠密LV10」「隠蔽LV3」
「影魔法LV6」「外道魔法LV1」「過食LV4」
「暗視LV10」「視覚領域拡張LV3」
「打撃耐性LV4」「斬撃耐性LV5」
「火耐性LV3」「毒耐性LV8」「麻痺耐性LV5」
「酸耐性LV6」「腐触耐性LV7」「気絶耐性LV2」
「恐怖耐性LV4」「外道耐性LV3」
「苦痛耐性LV8」「睡眠無効」「天鱗LV10」
「生命LV9」「魔量LV2」「瞬発LV3」
「持久LV6」「剛力LV3」「堅牢LV4」
「護法LV5」「疾走LV4」「潜影」
「嫉妬」「禍根」「禁忌LV4」「n%I=W」
スキルポイント:57900》
今の私、タンクとしてだいぶやれる方なのでは?
いや上を見たらキリがないんだけど、それにしてもほんの数日前の自分と比べて明らかに強さの上がり幅が大きい。
あれもこれも全部傲慢と嫉妬のお陰って考えると、やっぱりあのスキルは取って良かったと感じる。
このまま何も無ければ本当に、うん、本当にそう思えるのでどうか何もないことを望む。
まあ、なんだろう。
これから中層に挑む、というかもう中層に突入しているのにあまり緊張感がない。
それは蜘蛛子ちゃんも同じ、これだけ地獄絵図のような中層を攻略することにあまり恐怖を感じない。
それは私達が己の強さに慢心しているから?
それも少しあるかもしれないけど、違う。
《地龍カグナ LV26
HP:4198/4198(緑)
MP:3339/3339(青)
SP:2798/2798(黄)
:2995/3112(赤)
ステータスの鑑定に失敗しました》
それは龍、アラバと同じ地龍の魔物。
地龍アラバと比べるとずんぐりした印象を受けるその魔物が、私達のマイホームを破壊した。
その余波を受けて何事かと驚いて、鑑定して。
一切の勝ち目がないことを悟り全速力で逃げた結果として、その逃げた先が中層だった。
いや準備出来てて良かったよ、ほんとに。
なんなのステータス四桁って、私は200超えた防御ステータスではしゃいでたのに。
一体何がどうなったらあんなステータスになるんだか、それとも最初から種族の限界値みたいなのが決まってるのか。
だとしたら私と蜘蛛子ちゃんにも成長限界があるってことに……
いや、これは考えない方がいい、やめておこう。
まあとにかく、私達は今エルロー大迷宮中層にいる。
何処を見てもマグマ、陸地とマグマの比率が同程度のその場所。
うっかりマグマに落ちたりでもしたら即死……は、私はしないのかもしれないけど。
蜘蛛子ちゃんの影に潜ってる私が落ちるってことはつまり、蜘蛛子ちゃんも同時に落ちてるってことなので。
そっちは間違いなく即死する、なので気を付けて移動しなければならない。
で、私達は早速中層初の狩りを試みる。
標的にしたのは中層を初めて見た時に喧嘩を吹っかけてきた、タツノオトシゴみたいな魔物。
冷静に考えればあの時と同個体の筈がないが、それはそれとして八つ当たり。
中層で最初に仕留める獲物はあのタツノオトシゴにしよう、とアイコンタクトを取る。
《エルローゲネラッシュ LV5
HP:159/159(緑)
MP:145/148(青)
SP:145/145(黄)
:116/145(赤)
ステータスの鑑定に失敗しました》
私達の問題点として、中層内での遠距離攻撃手段の乏しさが挙げられる。
が、地龍のブレスといいタツノオトシゴの火球といい、蜘蛛子ちゃんの毒合成といい。
ああいう系のスキルは使用にMPやSPを消費する、というのはシステム的に定まっている。
つまりわざわざこちらから仕掛けなくていいってこと、まずは相手のリソース切れを待つ。
前回と同じようにこちらへ飛ばされる火球。
今の蜘蛛子ちゃんの速度ステータスなら余裕を持って避けられるし、その影に悠々と潜っている私だって同じように避けられる。
というか避け切れなかったとしても、アレくらいなら多分私が一発か二発くらいギリギリ身体で受けれる。
ステータスだって負けてない、私はちゃんとアレと張り合えるんだ。
なんて風に考えてたらMPが尽きたようで、継続的に飛ばされていた火球が止まる。
問題は、ここからタツノオトシゴがどうするか……
……あ、いや、普通にマグマから這い出てきた。
そのまま無策に突進してくるタツノオトシゴ、速度はそこまで速いというわけでもない。
その突進を避けようとする蜘蛛子ちゃん、だけど。
『受け止めた方が、早い』
影から這い出た私の腕が、その突進を受け止めた。
この程度の威力の突進なら、私のステータスでも難なく受け止め……熱い!?
『ごめん蜘蛛子ちゃん結構熱い!!』
呆れたような瞳で影に視線を向けた彼女は、私が無理矢理開いたタツノオトシゴの口へと毒を投げ込んだ。
毒というのは偉大なもので、ステータス的には蜘蛛子ちゃんを上回るタツノオトシゴもすぐに生き絶えた。
そんなわけで初戦は難なく突破、私の指はちょっと痛いけど。
でもまあ、なんというか、ある程度触り続けられる熱さってことは割となんとかなってる証でもある。
いぇーい、と蜘蛛子ちゃんとハイタッチをしようとしたところで再び火球が飛んでくる。
当然先程の個体とは別の個体、それも二匹。
二匹のタツノオトシゴが私達を狙って攻撃を仕掛けてきている。
けどまあ、さっき分かった通り蜘蛛子ちゃんの速度だとこの火球を避けることは本当に容易い。
こちら側からの能動的な攻撃手段がないのは厳しいが、MP切れを待つことは簡単だ。
結果的にさっきと同じように、二匹ともMPが切れてマグマから這い出てきて。
無策に突進してきたところを蜘蛛子ちゃんに捌かれ、順番に私に拘束されて生き絶えた。
正直MPが切れた後もマグマに籠られ続けたら私達は何も出来ないんだけど、そんなことを考える知能もないようで。
私達にとってあのタツノオトシゴは強敵ではない、ということが分かった。
まあ、強敵じゃないってことは沢山いるんだけど。
実際見渡す限りでも数え切れないくらいのタツノオトシゴが見えるし、中層ではメジャーな魔物なんだろう。
にしては殺意高い気がするけどね、火球。
そしてレベルアップ、熱でやられた指の痛みが引いた。
まあHP自動回復があるから少しずつ回復はするんだけど、レベルアップでの回復の方が気持ち的に楽だから嬉しい。
因みに明確に火に弱い魔物である蜘蛛子ちゃんは、地形ダメージというか熱のダメージでHP自動回復が相殺されてるらしくて中層では自然回復に頼れないとのこと。
***
『まあ、勝てるね』
中層の攻略はそこそこ順調だと思う、何匹かタツノオトシゴ以外の魔物も見かけたけどどれもあまり強くない。
というか下層の魔物の方がステータス的には上な魔物が多いんだと思う、そもそも中層と下層だし。
マグマが溢れる地形なのと、相手の魔物はマグマに耐性があることだけが懸念点かな。
遠くから火球を撃つだけ撃ってそのまま逃げられると、私達には本当に何もすることがない。
蜘蛛子ちゃんに提案されて申し訳程度に石を投げてみたりもしたけど、雀の涙くらいのダメージにしかならなかった。
そんなわけで一旦休憩、私はともかく蜘蛛子ちゃんには睡眠の時間が必要。
適度な岩場を見つけたので、そこで寝始めた蜘蛛子ちゃんを見守る私。
とんでもなく寝苦しそうだけど、どうしようもないので私にはやはり見守ることしか出来ない。
熱いもんね流石に、蜘蛛子ちゃんより熱に耐性があるであろう私ですら凄い熱い、
あと糸が燃えるせいでマイホームが作れないのも心理的ストレスになるかもしれない、安全地帯の確保が難しい。
そこはまあ、寝なくても行動が出来る私がどうにか補っていくしかない。
それはそれとして、ああやって火球を連打されると改めて思う。
『……私も魔法的なもの、使いたいな……』