鰻は強敵だった、そんな強敵を倒したから私のレベルも一気に上がった。
LV7からLV10まで、一体の魔物しか倒してないのにこの上がり幅なんだから本当に凄まじい。
明確な格上だったということもあるだろうし、同時に傲慢の効果を私も受けられているからというのもあるだろう。
ただナマズと違って安定して狩り続けることは出来ないと思う、それくらい危ない橋を渡っていた。
そんなわけで、レベルが10になったわけだ。
予想通りというかなんというか、一回目の時と同じようにレベルが10になったら進化出来るようになった。
進化のステータスの上がり幅は割と馬鹿にならなかったし、スキルのレベルが上がるのも美味しい。
出来れば早いうちに進化したい、ただ中層で進化する選択を取っていいものか。
そんな風に悩んでいるのが今の私達の現状。
まず前提として、マイホームを作れるか否かで私達の防衛攻略は天と地ほどの差がある。
それくらい蜘蛛子ちゃんの蜘蛛糸は強力で、私の持つ防御スキルも合わせると更にその要塞は鉄壁となることだろう。
逆に言うとマイホームを作れない状況、まさに今のような場面での私達の防衛能力は飛び抜けて高いわけではない。
それだけならまだいい、私達は一人じゃないから。
同時に進化しなければ二人が同時に行動不能になる、みたいな事態は起きないわけで。
どちらか片方が見張りを出来る状況下なら、多分ナマズあたりまでならギリギリ一対一だとしても守り切れる。
問題はSP、進化をするとSPが空になる。
前回の進化は猿軍団との死闘の後だったから、進化した後にSPを補給するための食糧があった。
今回は備蓄がない、唯一あるのは今倒した鰻。
そんなこんなでタツノオトシゴ狩りの時間です。
流石に慣れてきた、タツノオトシゴに負けるような危なっかしさは私達にはない。
蜘蛛子ちゃんの速度にまず追いつけないし、タツノオトシゴ相手なら私の嫉妬も純潔も機能する。
備蓄のためにSPを減らすなんてことも出来ないので、ナマズとかには手を出さずに大人しくタツノオトシゴだけを二匹倒した。
これでどうにかなるだろう、潜影使い始めてからの私って自分で動くことが減ったからSPあんまり使わないし。
せっせと死体を岩陰に運び、出来るだけ目立たないように丸めた後に考える。
相変わらず進化先の候補は二つ、私が選ぶべきなのはどちらの進化先か。
《進化可能:ハイレクターウンブレラ OR サン・スキュア》
前提として私はウンブレラ種という種類の魔物だ、見た目通り影に関する魔物である。
蜘蛛子ちゃんにおける“タラテクト”とか、火竜達における“ゲネ”の部分とか。
そんな風に、この世界にも同系の種族を表す言葉が存在している。
だからハイレクターウンブレラは分かる、今の私がレクターウンブレラっていう個体だから。
問題はサン・スキュアである、ウンブレラのウの字すらない。
いやンの字はあるけどそういうことじゃなくて。
《サン・スキュア:進化条件:一定以上のステータスを持つウンブレラ種、「無慈悲」の称号》
《説明:種の特性である温厚さを捨て、行動範囲が広がった影の魔物。高い戦闘能力と知性を併せ持つ》
前は進化条件なんて出てこなかった筈だし、これは鑑定のレベルによる新たな開示情報ってことかな。
あんまり気にしたことはなかったけど、称号が進化に関係するというのは大事な話かもしれない。
意識して取ったことがないし、というか意識して取れるものでもないように思えるし。
《ハイレクターウンブレラ:進化条件:レクターウンブレラLV10》
《説明:群れを率いるウンブレラ種の成長体。非常に高い知性を持つ》
で、こっちが今の私、レクターウンブレラの正当進化先ってことなんだろう。
レクターウンブレラに進化する時も思ったんだけど、そもそも魔物基準の高い知性ってあんまり意味がない気がする。
私転生者だし、進化したことによる思考力の上昇とか感じなかったし。
群れを率いてるわけでもないしね、あくまで蜘蛛子ちゃんとペアで行動してるってだけ。
だから進化するならもう一方、サン・スキュアの方。
名前からウンブレラが抜けていることから多分、ウンブレラ種とは少し違った方向性の進化に進むのかな?
種の特性を捨てた的な説明もされてるし、私そんなに無慈悲じゃないと思うんだけど。
進化条件もハイレクターウンブレラより厳しいように感じる、なら希少価値もこっちの方が高いんじゃなかろうか。
まあ、順当に進化していくウンブレラ種ルートと違ってどう転ぶかの予想はしづらいんだけども。
ただ私は自分の同族をあれ以来、転生した直後のあの同族以外に見たことがない。
蜘蛛子ちゃんの場合は下層で見たつよつよ蜘蛛がいるけど、私はウンブレラ種に拘った先がある確証がない。
ぶっちゃけどっちに進化するにしても少々不安が残るわけ、なら折角だし希少そうな方を選んでみよう。
ということで蜘蛛子ちゃんにその旨を伝えて、今回も先に進化させてもらう。
進化を始めた後に“純潔があるんだから私が後の方が良かったのでは?”なんて思ったけど、後の祭り。
意識はあるけど動けない、不思議な進化の過程。
気を張り詰めていても仕方ないので私は前回の進化ぶりの睡眠を取る、マイホームが作れない中層で眠れる筈もなく結局あれから一睡も出来ていなかった。
進化を待ち望みながら、おやすみ世界。
***
目が覚めたらあの世、なんてことはなく私は無事に進化を終えて目覚めた。
私が起き上がったのに気付いた蜘蛛子ちゃん、恐らく私に鑑定をかけてきている。
前回の進化と比べて身体に違和感があるというか、なんというか。
大きく身体構造が変わったわけじゃないんだけど、前より身体の輪郭がハッキリしてる?というか。
まあ前回の進化と比べて見た目的な変化があるのは確かだ、前は進化って言いながら外見は何も変わってなかったし。
取り敢えず自分自身に鑑定をかけてステータスを確認してみる。
確認すると同時に、念話を通して変な声が漏れ出てしまった。
《サン・スキュア(茉莉花 影) LV1
HP:349/349(緑)
MP:1/199(青)
SP:203/203(黄)
:98/237(赤)
平均攻撃能力:295
平均防御能力:496
平均魔法能力:140
平均抵抗能力:456
平均速度能力:172
「HP自動回復LV7」「MP回復速度LV3」
「MP消費緩和LV2」「SP回復速度LV3」
「SP消費緩和LV3」「破壊強化LV4」
「打撃強化LV3」「斬撃大強化LV1」
「貫通強化LV5」「気闘法LV3」
「気力付与LV3」「体術の才能LV4」
「集中LV10」「思考加速LV3」「予測LV9」
「並列思考LV4」「演算処理LV5」「回避LV4」
「立体機動LV4」「鑑定LV8」「念話LV6」
「統率LV5」「隠密LV10」「隠蔽LV5」
「無音LV1」「無臭LV1」「影魔法LV10」
「闇魔法LV1」「外道魔法LV2」「過食LV5」
「視覚強化LV4」「暗視LV10」
「視覚領域拡張LV4」「聴覚強化LV6」
「触覚強化LV5」「物理耐性LV6」
「火耐性LV6」「光耐性LV1」「闇耐性LV3」
「毒耐性LV9」「麻痺耐性LV7」
「酸耐性LV7」「腐触大耐性LV1」
「気絶耐性LV4」「恐怖耐性LV6」
「外道耐性LV6」「苦痛無効」「痛覚軽減LV4」
「睡眠無効」「天鱗LV10」「神性領域拡張LV1」
「身命LV2」「魔量LV6」「瞬発LV7」
「持久LV9」「剛力LV5」「堅牢LV7」
「術師LV1」「護符LV1」「疾走LV8」「潜影」
「嫉妬」「禍根」「純潔」「夢想」
「禁忌LV7」「n%I=W」
スキルポイント:53400
「悪食」「暗殺者」「魔物殺し」「無慈悲」
「魔物の殺戮者」「嫉妬の支配者」
「純潔の支配者」
ステータスの上がり幅が尋常ではない、嫉妬や純潔を取った時と同じくらい上がっている。
それだけ聞くとあまり凄くないように感じるが、そのステータスが全ての値に適応されているというのが凄まじい。
だって今の私多分ナマズにステータスで勝ってるもん、流石に鰻はまだまだ遠いけど。
それでも高いものは高い、あと鑑定のレベルアップで称号が見られるようになったのも地味に便利かも。
興奮してぶんぶんと腕を振ってる私に対して、同じく驚いたような様子で硬直している蜘蛛子ちゃん。
そんな風に良いこと尽くしだったら良かったんだけど、さらっと禁忌のレベルが上昇していることに気付いて私のテンションは少し下がった。
ある意味で落ち着けたとも言える、それはそれとしてそろそろカンストするのは怖いからやめてほしい。
あと各種耐性スキルとか、他にも色んなスキルのレベルが上がっているのが嬉しい。
中には見覚えのないスキルもある、蜘蛛子ちゃんの進化が始まったらゆっくり確認してみよう。
とにかく食べる、タツノオトシゴを食べる。
過食……余分に食べた食料の回復SPをストック出来るスキルのお陰でSPは空になっていなかった。
けど減ってるものは減っているので食べる、鰻は鰻っぽいから美味しいという可能性に賭けて蜘蛛子ちゃんに残しておく。
そういえば蜘蛛子ちゃんは味覚強化のスキルを持っていた、あれって不味いものに対しても発動しちゃわないのかな。
そんな私の様子を確認した後、背中を叩いて進化する意を伝えてくる彼女。
それに対して了承すれば私と同じように、蜘蛛子ちゃんも岩陰に蹲って動かなくなった。
食べ終わったらスキルを確認しよう、今食べながら確認してもいいんだけどあんまりマルチタスクをしすぎると事故が起こる気がする。
だから同時に進行するのは二つまで、っていう意識を持って行動しビックリした!?
私と蜘蛛子ちゃんに目掛けて飛んできたのは火球、MPが尽きている今の状況では純潔は使えない。
なら避けるか、いや、避けたら背後にいる動けない蜘蛛子ちゃんに火球が命中する。
だから避けずに身体で受けた、私の胴体に命中した火球は私のHPを減らす。
減らすけど、致命傷じゃない。
擦り傷って言えるほどのダメージではないけど、それでも問題なく受けれる。
スキルとか戦略とか、そういうものじゃない。
確かに天鱗の効果とかはあるのかもしれないけど、それでも私はステータスの高さで火球を受けた。
それがなんだか嬉しくて、昂って、柄にもなく興奮しながら
ナマズの攻撃は私に対して大きなダメージを与えられなかった、私の攻撃も致命傷にはならない。
蜘蛛子ちゃんの毒みたいな決定打がない私にとって、その戦闘は酷く泥臭く長引いた戦闘でだったし、完勝とは言い難いものだった。
けど確実に着実に、安定して一人でナマズを倒せたという事実。
私は着実に強くなっている、頼ってばかりだけど私一人でも少しはやれる。
私は、蜘蛛子ちゃんを守れる身体を持っている。
そこでようやく蜘蛛子ちゃんの存在を思い出して振り返るが、そこには傷一つない彼女の姿があった。
いやうん、過程に執着しすぎて結果を蔑ろにしてたら意味ないもんね。
恐らく私の身体にはない心臓がバクバクと鳴っているのを感じながら、私は大人しく蜘蛛子ちゃんを見守ることにした。