影ですが、なにか?   作:хорошо!

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13 つよつよ蜘蛛子ちゃん

 進化した蜘蛛子ちゃんは“ゾア・エレ”って魔物になっていて、全身の色が白から黒っぽい感じに変化していた。

 その結果“黒い魔物の背後に真っ黒い影が付き纏っている”みたいな見た目になってて、私達二人の外見の物騒さが増した気がする。

 白い身体に真っ黒な動く影もそれはそれで物騒だったので、実際のところあんまり変わらない気もするけどさ。

 

 で、私のステータスがとんでもなく上がったように蜘蛛子ちゃんのステータスもしっかりと上がっていた。

 上がり幅は私より少し小さいくらいだけど、それでも各ステータスが100は上昇している。

 強めの魔物と比べたら勝てないが、ステータス的にも蜘蛛子ちゃんが最低限の強さを手に入れたのは喜ばしいことだ。

 これに加えて毒とか糸とかあるんだから今の彼女は本当に強い、今ここだと糸はあんまり機能しないけど。

 

 だが蜘蛛子ちゃんの場合は進化以上に、もっと重要視するべきスキルを取得していたのだ。

 それは進化してから少し後に取った忍耐のスキルと、それに付随する外道無効のスキル。

 

 《忍耐:神へと至らんとするn%の力。自身の持つ神性領域を拡張する。MPの続く限りどんなダメージを受けてもHP1で生き残る。また、Wのシステムを凌駕し、MA領域への干渉権を得る》

 

 純潔の食いしばり版のような効果のスキル、食らう前に塞ぐ純潔と食らった上で耐える忍耐。

 正直前者の方が強そうに感じるけど、今のところ蜘蛛子ちゃんが即死級のダメージを受けた場面がないので効果の詳細は分からない。

 そして神性領域の拡張、これは文字通り神性領域が拡張されるらしい。

 なんのこっちゃである、私もこれ関連のスキル進化の時に取得してたんだけど。

 

 いやまあ、これだけ聞くと結局何が重要視すればいい部分なのか分からないだろう。

 謎スキルシリーズの新たなスキル、って意味では確かに注目すべき部分かもしれない。

 けど効果を実感出来ていないんだから今のところこのスキルはそんなに視線を集めるようなものでもない……

 

 《忍耐の支配者:取得スキル「外道無効」「断罪」》

 

 そう、今回重要なのは付随スキルの外道無効の方。

 蜘蛛子ちゃんは元々、というか以前取得したスキルとして探知というスキルを持っている。

 文字通り探知、それは感知系スキルの全てを複合した夢のようなスキル。

 魔力感知とか術式感知とか気配感知とか熱感知とか、それはまあ色々。

 そのスキルが外道耐性を取得したことでようやく“使用可能になった”とのことらしい。

 

 彼女は探知を使おうとする度に無視できないレベルの頭痛を感じていたと言う。

 無視できない、が本当に文字通り無視出来ない激痛だったからこそスキルを封印する判断。

 そう、探知は取ったはいいものの使われていなかったのだ。

 今の今まで封印されてきたその探知のスキルを、蜘蛛子ちゃんは外道無効の影響で初めてまともに使えるようになった。

 何故かと聞かれても分からない、とにかく出来るようになったものは使わないと損である。

 

 その結果、見える世界が変わった。

 

 私のもとに共有されてる情報?感覚?は多分蜘蛛子ちゃんが得ているそれのほんの一部。

 そのほんの一部ですら私の頭がじんじんと痛むんだから、彼女が今見ている情報は一体どんなものなのか。

 少なくとも私とは見えるものが、見るものが違うところまで突き進んでいることだけは理解出来た。

 

 魔力の流れ、物質の在り方、空気の流れ。

 普通だったら視覚情報として得られない筈のそれらが、私の頭にもぼんやりと流れてきている。

 きっと蜘蛛子ちゃんはもっと鮮明に認識出来ているのだろう、でも私の脳じゃこの情報を捌き切れない。

 共有してくれてる潜影の防衛機能なのか、それ以上を認識しようとしても情報はぼやけるばかりで私はやんわりとしかその効果を実感することは出来なかった。

 そのやんわりですらこれなんだから凄いけどね。

 

 あとこっちはオマケ、オマケにしてはちょっと強烈すぎるけど。

 どうやら忍耐の称号の効果で、蜘蛛子ちゃんが邪眼系スキルを取得出来るようになったらしい。

 邪眼というからにはこう、真の英雄は目で殺す的な攻撃が出来るスキルっぽくて。

 それはつまり私達の持たない遠距離攻撃の手段になるのでは?とお互いに気付いたのがさっきの出来事。

 

 スキルポイントが枯渇している蜘蛛子ちゃんのためにナマズ狩りをしていた私達のレベルは進化して早速3まで上昇していた。

 それによって蜘蛛子ちゃんがスキルポイントを取得、そのスキルポイントを使って呪いの邪眼というスキルを取得。

 邪眼系のスキルは他にも色々あるらしく、種族的に瞳が八つある蜘蛛子ちゃんはもしかしたら複数の邪眼を八つまで同時に発動することも可能なのかもしれない。

 出来るか否かは別の話として、実際やられたらちょっと面白いかも。

 

 本当は死滅の邪眼ってスキルを取りたかったらしい、理由は直接的な攻撃の手段になりそうだったから。

 が、私の静止によってその選択が取られることはなかった。

 だって死滅の邪眼って腐触属性の攻撃で、それを目から遠くの相手に発動するんだよ?

 腐触属性、私はあんまり気にしたことがなかったけど結構やばめな属性っぽいんだよ?

 

 蜘蛛子ちゃんはゾア・エレに進化した時に新しく腐触攻撃というスキルを手に入れていた。

 それをさっきウキウキでナマズに叩き込んだ蜘蛛子ちゃんの手がこう、ボロボロと崩れ落ちたのを私は見ていたよ。

 それを受けたナマズの身体もボロボロと崩れ落ちたのを私は見たよ、死骸が残っていなかった。

 それを邪眼として使ったら目が潰れる……で済めばいい方、最悪顔面が崩れ落ちる可能性だってある。

 

 ので大人しく呪いの邪眼で我慢させた、これもダメージにはなるっぽいし。

 

 《呪い:各種能力値を弱体化させ、HP、MP、SPにダメージを与える》

 

 試してみたその邪眼の効果は正直高いとは言えなかった、レベルまだ1だしね。

 それでも遠距離から少しずつHPを削り、MPとSPの消費速度を早められるというのはやはり強く感じられた。

 ステータスの弱体化に関しては正直分かんない、半分くらいまで下がったタイミングで下降が止まったから。

 半分まで下がるという時点で破格な気もするが、その速度がやんわりとしすぎてるからここまで機能することは性能確認の今回以外ではないだろう。

 

 邪眼と嫉妬で相手の動きを鈍らせつつ、マグマから這い出てきた瞬間を即仕留める。

 この戦法が中々に良いもので、ナマズくらいまでならこれで一切苦戦せずに乱獲することが出来た。

 鰻に通用するかは分からない、あれ以来私達は鰻ほど強い魔物には会っていないから。

 そりゃあまあ、あんなに強い魔物がそうそういてたまるかって話ではあるんだけど。

 

 だから私達はのほほんと中層を探索し続ける、その道中で蜘蛛子ちゃんと一緒に魔法について考えながら。

 そう、魔法、探知を使えるようになった蜘蛛子ちゃん。

 探知の共有で“魔力の流れ”が見えたと私は言った、それは蜘蛛子ちゃんにはより鮮明に見えている。

 魔力というもの?概念?を認識し理解することが魔法仕様への第一歩なのではと思いついたのは蜘蛛子ちゃん。

 だから魔法に思いを馳せながら、私達はだらだらとマグマ道を徘徊する。

 

 蜘蛛子ちゃんが魔法を使えるようになったらさ。

 潜影の共有で私も魔法のコツとか、やり方とか学べたりしないかなぁ。

 

 

 

***

 

 

 

 長い廊下を歩く俺の斜め前に、頭二つ分ほど背の低い少女が歩いている。

 当然歩幅が合わないわけで、俺の歩く速度は普段よりもゆっくりとした足取りになっていた。

 かと言って追い抜かすわけにもいかない、何故なら目の前を歩くこの少女こそ今代の魔王。

 失礼な行動をすれば俺の首が繋がっている保証はない、そのためには一挙一動に気を付けなければ。

 

 長い廊下を時間をかけて進み、辿り着いたのは一つの扉の前。

 そこで歩みを止めた魔王様はこちらを振り向き、見つめてくる。

 開けたくないな、この扉を開けたくはない。

 開けたくはないが、開けないという選択肢は取れない。

 思わず漏れそうになる溜息を飲み込んで、扉を開け放つ。

 そして魔王様に席を譲り、恭しく頭を垂れる。

 

 魔王様は俺のその行動が当たり前のものであるかのように、一瞥もせずに室内へと踏み込んでいった。

 そこは所謂会議室、魔王様が座る上座の席を中心に円形のテーブルが部屋の中心に存在する。

 その円形のテーブルには、合わせて十(・)人(・)の男女が既に席についていた。

 

 「それでは会議を始める、バルト」

 

 「は」

 

 魔王様の開催の合図に短く答える俺。

 はっきり言うと、この開催の合図を出すこととそこに存在することが魔王様の役目。

 これ以外に彼女がすることはない、会議の進行も実務も全て俺が担っているのだから。

 

 「ではまず各方面の報告から聞こう、第一軍から」

 

 「第一軍はレングザント帝国の正面に、クソリオン砦への進行準備が整いました」

 

 会議は滞りなく進んでいく、途中途中でトラブルは起きたが。

 その度に魔王様が一目、その目をたった一度向けるだけでその反発は収まった。

 魔王様の表情には張り付いたような意地の悪い笑みが浮かんでいる、わざとらしい。

 しかしそんなことを口に出せば、明日の俺の命はない。

 

 魔王様はまだ俺にも奥の手を見せていない。

 魔王様はここにいるだけの案山子ではない。

 魔王は魔王であるが故に魔王なのではない。

 魔王は魔王足り得るからこそ魔王なのである。

 

 少女はまさにその権化のような存在だった。

 それに気付いているのはこの場で俺以外に、果たして何人いるのだろうか。

 皆気付いていない、皆魔王様を軽く見ている。

 あれは立場上の魔王ではない、魔王と呼ばれるに相応しい存在だからこそ魔王なのに。

 外面だけを見て、その事実に気付いていない者が殆どだ。

 

 その“殆ど”に当て嵌まらない者が二人存在する。

 

 「第九軍も問題なく進軍可能だ」

 

 「…………」

 

 それは元々魔族として我々と共に活動してきた者ではない。

 名前さえ分からないその二人は、魔王様が連れて来た素性不明の人物。

 黒い甲冑、浅黒い肌、ただ一点目だけが異様なほどに赤い男。

 黒と呼ばれる男、第九軍の軍団長。

 そしてその黒の男の隣に座る少女は真逆の白。

 着ているローブは純白で、晒された肌も異様な程に白い。

 その少女は語らない、口を開かない。

 

 「ん」

 

 ようやくそんな風に、声にもならないような声を発したかと思えば。

 

 「第十軍も問題ないよ」

 

 十(・)一(・)人(・)目(・)。

 先ほどまでは確かにそこにいなかった何かが、白の少女の代わりと言わんばかりに口を開いた。

 最も素性の知れない彼女、その輪郭はぼやけていて存在が暗くて。

 いつだってその白の少女の傍にいる、正体不明の少女。

 その三人の素性はやはり分からない、分からないが推測は出来る。

 

 この三人は恐らく支配者だ、この世界を裏から操るとされる存在である支配者。

 魔王様がどうやってそんな三人を配下に加えたのかは分からない、魔王様が彼らより強い可能性だって捨て切れない。

 その圧倒的なまでの不気味さと理解の及ばない存在に、どうしても俺は警戒心を捨て切れない。

 

 「うんうん、全員順調ってことでいいのかな?」

 

 ご機嫌そうに首を振る魔王様の行動は外見通りの少女のそれのようで、余計に不気味な印象を際立てた。

 少女のような見た目をしていても、それは最低最悪の存在なのに。

 

 「じゃあ、戦争を始めようか」

 

 その言葉で、その一言で、魔と人との最悪の戦争が静かに幕を開けた。

 俺はその事実に対し、ひっそりと溜息を漏らすのだった。

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