魔力の認識、魔力の操作、術式の構築。
叡智を取得し魔法が使えるようになった蜘蛛子ちゃん曰く、この世界の魔法はその三つの段階によって成り立っているとのこと。
それぞれには対応するスキルがある、っていうのは予想通りだけどこの世界のスキルっていうのはあくまで補助。
それらの三つに対応するスキルを取得せずとも、やり方さえ分かれば魔法を発動することが出来るのだ。
『それが分からないけど』
『もっかい説明してあげよっか?』
いや、うん、今はいいかな……
蜘蛛子ちゃんの説明が分かりづらかったとかじゃない、むしろ上手い方だと思う。
実際魔法の基本のキの部分は分かったし、その基本がある上で蜘蛛子ちゃんはどうやって魔法を発動しているか。
それぞれのやり方、感じ方まで分かりやすく説明してくれたんだから。
ただ出来ない、魔力操作が出来ない。
実のところ魔力の認識自体はなんとなく出来てる、これは多分蜘蛛子ちゃんとの感覚の共有の影響。
その上でそれを操作出来ない、これはそういう話。
自分の中に流れている血液があったとして、その存在を認識出来ても自分の意思で逆流させたりは出来ないじゃん?
私の感覚としてはそんな感じ、動かし方が分からない。
『まー、コツコツやっていけばいいんじゃない?』
『そうだね』
何一つ収穫がなかった、というわけではない。
私は影だ、うん、影である。
自己紹介的な話ではなく、私は影の魔物である。
その身体の構成要素はよく分からないけど、概念的な話として私は“影”という存在に密接な魔物。
だから影魔法のレベルの上がり方が、魔法を使えないにも関わらず凄まじかったんだろう。
そのお陰なのか、魔力の操作の仕方は分からないのに影魔法だけはなんとなく使うことが出来た。
出来たんだけど、これを影魔法と言っていいのかよく分からないというか。
蜘蛛子ちゃんのやってる魔法は“無から魔力を用いて何かを生み出す”みたいなもの。
私に出来た影魔法は“自分の身体を変化させる”というもの。
それは魔法と言っていいのかちょっと怪しくない?
しかも発動出来たのは影魔法の一番最初の魔法である濃影、自分の影を濃くするだけの魔法。
私の場合は自分自身の身体の色がもっと暗くなったってだけ、実質的に効果無しのようなもの。
他の魔法に影を用いた攻撃とかがあるから、それを使う時のバフスキル的な感じなんだろうけども。
それが出来ないんだから、今のところ私が出来るのは影を濃くすることだけ。
『置いていかないで……』
『置いて行ってないけど!?』
魔法、というか叡智の副産物スキルである〈魔導の極み〉の使用に躊躇いがなくなった蜘蛛子ちゃん。
けどやっぱり全部全部気にしない、というのは無理らしく管理者のことはしこりとして残っている。
でも私達って情報を得る手段がないんだよね、精々鑑定と蜘蛛子ちゃんの持つ叡智くらい。
それらのスキルは確かに凄いし、大抵の情報は手に入る。
手に入るけど、私達はエルロー大迷宮の情報しか“知覚”する手段がない。
よくよく考えれば私達はこの世界のことを“この迷宮基準”でしか知らないわけで、この世界の常識が分からない。
もしかしたら管理者というのは普通に存在して、認知されている、そんな存在の可能性だってあるわけだ。
少なくともこの世界にも人間がいる、人の営みがあるということは分かっているんだし。
私のコミュニケーション相手といえば蜘蛛子ちゃんだけ、それは蜘蛛子ちゃん側も同じ。
そんな私達もさっきようやく言葉を交わすようになった、他に情報を共有出来る相手がいる筈もなく。
とにかく“気にしない"んじゃなくて“あとで考える”ということで、この話には決着がついた。
というかそもそも私達って本来狩られる側の魔物で、人間が取り合ってくれるかは怪しいんだけど。
って話をしてたら、蜘蛛子ちゃんから付け足された。
『ぁそっか、これ私にしか見れないのか』
そこで蜘蛛子ちゃんから語られたのは進化ツリーの存在、その名の通り自分がどんな魔物に参加出来るのか確認出来るものらしい。
叡智の効果によって見ることが出来るそれは当然私には確認出来ない。
流石の潜影でもこういう部分までは共有出来ない、南無。
で、その進化ツリーの進化先の一つにこういうものがあるらしい。
“アラクネ”
それは蜘蛛の下半身に、人間の上半身を持つ魔物。
ファンタジー系の作品とかには出てくることがある存在らしくて、蜘蛛子ちゃんはそんな進化先を選択出来るらしい。
まだ先の話ではあるけど、蜘蛛子ちゃんは確かにその魔物に進化するルートが選択出来るとのこと。
人の顔と身体があれば今の状態よりはまだマシなコミュニケーションが取れるがしれない。
『蜘蛛子ちゃん、喋れるの?』
『いやー、無理だわー』
念話を取れるスキルポイントがあったにも関わらず、蜘蛛子ちゃんがいつまでも取得していなかったこと。
それは私と違って蜘蛛子ちゃんにはスキルポイントの余裕がないから、って勝手に思ってたんだけど。
思ってたんだけど、実際は蜘蛛子ちゃんが私とコミュニケーションを取りたくなくて取得していなかったらしい。
『語弊!?あまりにも語弊!?』
『しくしく』
……コミュ症なんだってさ、蜘蛛子ちゃん。
だから話せる自信がなくて、私とはああいう形でコミュニケーションを取ることにしていたらしい。
そもそも人に近い姿だろうと魔物は魔物、人間がそんな魔物相手に話を聞いてくれるとは思えない。
つまり初対面の相手と、人間に近い姿を手に入れたとて、蜘蛛子ちゃんが話せる可能性は。
『ないわー』
とはいえ、魔物の姿より人に近い姿の方がいいという話も分かる。
まあ嫌だよね、私もこの身体あんまり好きじゃない。
私も人に近い姿に進化できるのだとしたらその進化先を選びたい、私の場合はあるのか知らないけど。
『私もないかな、そういう進化先』
『あるといいねー』
***
中層の構造は単純で、かなり横幅の広い一本の通路がずっと続いているような形になっている。
その横幅が1キロくらいあるから通路っぽくはないけど、まあとにかく一本道になっていると認識してもらえればいい。
その進んできた道が、とうとう途切れた。
『渡る?』
『それしかないよねー』
幸い一本道以外にもところどころに浮島がある、島と島の間を飛んでいけば移動自体は出来なくもない。
一応天井を進むという選択肢もある、とにかく方法がないというわけではないが。
ないけど、こんな場所を普通に踏破出来る人間がいるのだとしたらそれは私の知ってる人間とは別の生物なのでは?
まあ考えないようにしよう、うん。
それならまあ渡ればいいんだけど、このマグマ沼には罠がある。
それはもう沢山の魔物が潜んでいるということ、タツノオトシゴとかナマズとか沢山。
一体一体は大したことない存在だけど、鰻とかが複数出てきたら若干話が怪しくなってくる。
『そこで魔法よ、今の私は遠距離戦が可能!!』
『わあ』
しかしマグマに潜む相手に何も出来なかった私達はもういない、蜘蛛子ちゃんの魔法があれば火竜達を遠くから倒せる。
どんどん私の立つ背がなくなっていくけど、ほら、うん、蜘蛛子ちゃんが強くなること自体はいいことだから……
『置いていかないで……』
『だから置いて行ってないって!?』
ピョンピョンと島と島の間を渡っていく蜘蛛子ちゃん、空中にいる間は影がそこにないので私は蜘蛛子ちゃんにしがみつくように引っ付いていく。
結果的に蜘蛛子ちゃんの身体に影みたいな何かが纏わりついてるみたいで絵面が凄い。
正直重くないか心配なんだけど、蜘蛛子ちゃんは重くないって返してきたので気にしない。
気にすると負けた気がするので、気にしない。
今のところ順調に進んでいる、そもそも魔物が襲ってこない。
数発くらいは火球を撃ち込まれると予想してたのにこれだから肩透かしというか、なんだろう。
これだけ静かだと逆に不安になってくる。
こういう不安っていうのは的中するもので、こう考えた次の瞬間にはマグマの中からダバーッて感じで……
《エルローゲネソーカ LV17
HP:2331/2331(緑)
MP:1894/1894(青)
SP:2119/2119(黄)
:2315/2315(赤)
平均攻撃能力:1999
平均防御能力:1876
平均魔法能力:1551
平均抵抗能力:1528
平均速度能力:1657
「火竜LV9」「逆鱗LV2」「HP自動回復LV2」
「MP回復速度LV1」「MP消費緩和LV1」
「SP回復速度LV3」「SP消費緩和LV3」
「火炎攻撃LV5」「火炎強化LV3」
「破壊強化LV2」「打撃強化LV4」「連携LV5」
「統率LV7」「命中LV10」「回避LV10」
「確率補正LV8」「気配感知LV4」
「危険感知LV7」「高速遊泳LV7」「過食LV8」
「打撃耐性LV6」「炎熱無効」「身命LV1」
「瞬発LV8」「持久LV9」「剛力LV9」
「堅牢LV1」「術師LV4」「護法LV4」
「疾走LV5」
スキルポイント:11250》
ほら出た、竜が。
竜が出……竜、竜すぎるかも、タツノオトシゴとかナマズみたいなモドキじゃなくて。
一目見ただけでそう認識するような、竜。
『影ちゃんアレやばいかも!!』
『撤退!!』
竜種には魔法を阻害する鱗系のスキルがある。
私の天鱗が恐らくその中で最も強いスキルで、書き方的に大抵の魔法を阻害するもの。
この迷宮で明確な魔法を使う相手と会ってないから分からない、きっと強力なスキルだ。
そして今私達が持つ遠距離の攻撃手段は“魔法”によるもの。
相性が悪い、こちらの攻撃だけが通らない。
そしてそこにいるのは竜だけではない、次々とマグマの中から顔を出す魔物の姿。
あの火竜は他の魔物を率いている、その上で私達を捕捉し囲んできている。
今の私達なら鰻には勝てるという確信があったけど、アレは少し……
いいや、相当に分が悪い相手だ。
蜘蛛子ちゃんの判断は即断即決、私の言葉を聞く前には既に逃げ出していた。
が、足場が悪い、というか最悪。
小さな島という足場しかない状況で、マグマの湖を自在に泳ぐ火竜達から逃げ続ける。
ジャンプして島を飛び移れば、その身体を火球で穿たんと飛んでくる無数の攻撃。
まるで対空砲火、そしてその精度は非常に高い。
火に弱いが一瞬だけ使える糸を用いて、どうにか軌道をずらしながら移動する彼女。
『純潔いける!?』
『いける、けど……』
逃げるために純潔を使い続けられるほど私のMPの総量は多くない。
出し惜しみはしてられないから当たる軌道の火球は防ぐつもりだけど、出来れば無闇に使いたくはない。
だとすれば、無闇に使わない方法を選ぶべき。
逃げる場合は分が悪い、ただし一発か二発程度なら確実に攻撃を防げるのが純潔の能力。
だから言い換えれば、相手の攻撃を無理矢理隙にすることが出来るということ。
『……蜘蛛子ちゃん、あれ、倒さない?』
『……マジでー……?』