島を飛び移るのはやめ、天井を走って移動する私達。
飛んでくるタツノオトシゴの火球は蜘蛛子ちゃんが魔法で出した毒弾で迎撃し、撃ち落とす。
しかし火竜の火球はそんなものでは相殺出来ない、嫌な予感を察知し天井から再び島へと飛び移る蜘蛛子ちゃん。
直後、私達のいた天井に赤い花が咲いた。
とんでもない破壊力である、その天井は燃えるだけではなく火球の威力で“抉れて”いるようだ。
前を見れば鰻が三匹、突撃する蜘蛛子ちゃんに合わせて私が鰻に爪を突き立て攻撃を試みる。
ダメージが通っていない、というわけではない。
しかし致命傷には程遠い擦り傷、それでも今は十分。
近距離での攻撃を受けた鰻は火球ではなく、眼下にいる私達を焼き払わんと三匹一斉にブレスを放った。
目の前が真っ赤な色に染まっていく、それで私達が燃えることはない。
『視界は奪った!!』
『かしこまりー!!』
私達に対して一斉にブレスを放ったことで、鰻から見たこの場所は燃え盛る炎に包まれている小さな島となっている。
当然そんな場所を一匹の蜘蛛と影の魔物が生き残れる筈もない、自然と鰻は警戒を解くだろう。
ごうごうと音を立てながら燃え続けるその島に、本来生存者の姿はない筈だった。
『一匹よーし!!』
まあ、それを狙って純潔を使ったんだけど。
純潔の結界は相手の魔法を打ち消すように防ぐ、しかしブレスのような継続的な攻撃の場合は違う。
純潔の作用しない範囲は普通に燃え続けるのだ、つまり私達がいる場所の“手前”は火の海と化す。
私達を覆う火の壁は、鰻から私達の姿を見えないように隠す隠れ蓑となり。
その壁から飛び出した蜘蛛子ちゃんが、即座に鰻の喉元を掻っ切った。
『アッツ!!いっっった!!!!!!』
何の保護もなく火の壁を通り過ぎたから身体が滅茶苦茶燃えてるけど。
蜘蛛子ちゃんの攻撃を受けた一匹の鰻は、龍鱗に守られている筈のその身体が何の抵抗もなく切り裂かれ。
“切り口が砂のように崩れながら”マグマの中へと沈んでいった。
その直後、私達の脳内に流れるレベルアップ通知。
『これヤバいわ!!炎もそうだけど腐触のがやばい!!』
『れ、レベルアップしたから……』
腐触攻撃、蜘蛛子ちゃんが進化したことで手に入れた諸刃の剣。
その属性を纏った攻撃はたとえ鰻であろうと食らえば一撃で倒れる、その代償として蜘蛛子ちゃんもダメージを受ける。
それでもこれだけの大ダメージが見込めるなら中々に強いのでは?
うん、私もそう思う、そう思うけど使った後に蜘蛛子ちゃんの腕がボロボロと崩れ落ちるのを見てちょっと後悔した。
『無理しないでね』
『いや無理しないと勝てないよこれは!!』
『仰る通り』
その腕もレベルアップによる回復、蜘蛛子ちゃんの場合は脱皮で綺麗さっぱり治っている。
一撃で切り捨てられた仲間を見たからか残りの鰻二匹も躊躇うような、怯えるような様子を見せながら此方への攻撃を止める。
しかしそれも一瞬、正気に戻ったかのように残った鰻達は私達へ再びブレスを放ってきた。
首を引き、力を溜め、その口を開いて炎の吐息を……
『はい、毒あげる』
その口からブレスが吐き出されることは、ない。
だって会敵してからここまで、私達を倒したと勘違いした時間や仲間が呆気なく殺された時間。
そしてその様子を見て呆けていた時間、私が何もしていないなんて筈がない。
嫉妬の効果によってブレスの発動が封じられた鰻二匹は、マヌケに大口を開けたところに蜘蛛子ちゃんの猛毒を放り込まれ。
暫くもがいた後に、間も無く絶命した。
『うわ、案外いけるもんだねー』
『蜘蛛子ちゃんが強いから』
『そうかなー』
前回戦った鰻よりこの三匹の鰻が弱い、というわけではない。
単純に蜘蛛子ちゃんが強くなりすぎてあまり苦戦せずに倒せている、というだけの事実。
だってあれだけ硬い鰻をリスクありとはいえ一撃で倒せるんだから、そりゃあ前よりも楽に戦える。
三匹同時だろうが、それは私達にとって倒せる範囲の相手だった。
『んじゃアレ、どうしよっか?』
再び天井へ飛び移ると同時に、私達がいた足場が火の海に包まれる。
いや、元々燃え盛っていたんだから絵面的にはあまり変わらないけど。
私達は鰻相手に苦戦してるのではなく、それよりも強い火竜を倒すためにここにいる。
鰻をこうして楽に倒そうと残りの火竜、あと無数のタツノオトシゴが私達を取り囲んでいた。
けどまあ、タツノオトシゴの方は時間の問題。
『ほんとに大丈夫なの?影ちゃんの方は』
『うん、平気』
戦闘が始まってから発動させ続けていたらしい毒魔法の“毒霧”の効果で、タツノオトシゴ達は少しずつ体力を削られている。
毒は後になるほど身体を強く蝕む、直接攻撃せずともアレらが倒れるのは時間の問題だろう。
毒の霧をばら撒くということで私にも被害が出そうなものだけど、何故だか私の体力は減っていない。
これに関してはよく分かってないけど多分天鱗の効果なのかな、初めて魔法方面で天鱗の効果を実感したかも。
最後の生命を振り絞るつもりか、天井の私達へと無数の火球を飛ばしてくるタツノオトシゴの群れ。
しかし当たらない、当たる軌道のものも蜘蛛子ちゃんの毒弾で迎撃されこちらへ届くことはない。
私達が走り行くのは火竜の元、ある程度の距離まで近付いたところで天井から飛び一直線に接近する。
当然火竜がその接近を許す筈もなく、迎撃行動を取ってきた。
大口を開いて放たれる火球、その火球は球というにはあまりにも大きくあまりにも範囲が広い。
しかし蜘蛛子ちゃんはそれを、空中で急加速することによって避けた。
空中での軌道変化は予測していなかったのか、その再びの接近に対して僅かに反応が遅れる火竜。
一体どうやってそんな加速をしたのかって?
そりゃあもう、答えなんて一つしかない。
『ごめんね影ちゃん!!』
『いいってことよ』
ずっと蜘蛛子ちゃんに引っ付いてる私を“踏み台にして”の急加速、蹴り飛ばされた私はマグマの湖へと落下していく。
落下していくけど、特に問題はない。
私の潜影にはちょっとしたオマケ効果がある。
それは初めて潜影を使った時に気付いたこと、あれから離れることがなかったから結局あまり使い道がなかったこと。
そう、私の潜影は潜って移動するだけではなく。
『ただいま』
『おかえり!!』
潜る対象として定めている相手の影に“短距離転移する”能力がある。
マグマにダイブする直前に蜘蛛子ちゃんの元へと戻ってきた私、火竜の身体はすぐ間近。
この距離まで近付かれた火竜は火球は遅いと考えたか、それとも鰻の口に毒が投げ込まれるのを見ていたからか。
その身体に炎を纏い、接近する私達に対して向かって突撃してくる。
蜘蛛子ちゃん一人ならその炎に身体が焼かれ、これ以上接近することが難しかったかもしれない。
そういう意味ではその選択は非常に合理的な判断だ。
でも私がいる、私が戻ってきている。
“レベルアップによりMPが全回復した”私が、そこにいた。
純潔の効果は不安定で、対象の攻撃能力によって防げる回数限界が決まっている。
きっとMPを増やせば使用出来る回数も増えるんだろうが、今の私が格上相手に純潔を使えるのは精々一回か二回。
逆に言えば、一回か二回は状況に左右されず確実に相手の攻撃を防ぐことが出来るということ。
炎を纏って突撃してきた火竜の身体だって、それは例外ではない。
結界によって分解され、火竜が纏う炎が消えていく。
それと同時に結界本体に突撃した火竜の身体が、鈍い音を立てながらその場で静止した。
その隙は攻撃を避けられた時などとは比べ物にならないほど大きなもの。
袋叩きにするには十分な時間があり、火竜の頭の上に着地した私達はその脳天に対して攻撃を仕掛け。
『やっぱこれだねー』
衝撃で口を開けた火竜に、いつものように猛毒を投げ入れた。
一撃で倒れることはない、しかし一度身体を蝕まれれば思い通りに動くことは出来ない。
抵抗と言わんばかりに再び身体に炎を纏おうとした火竜だったが、その身体は動くことなく静止する。
これも蜘蛛子ちゃんのスキル、麻痺の邪眼。
発動さえしてしまえばその対象を見ている限り、常に相手を拘束出来るというもの。
勝負はついた。
毒に身体を蝕まれている上、動けなくなった火竜。
毒霧によってバタバタとマグマに沈んでいったタツノオトシゴの群れ。
そして、呆気なく倒された三匹の鰻。
あれだけいた火竜の群れは、実質的に全滅していた。
もう私達を妨害するものも、火竜を守るものもいない。
安全な足場に着地した後、火竜をずるずると引っ張って運んだ後にその息の根を止める。
『……やべー、ほんとに勝っちゃったよ』
『ね』
呆気ない、とは流石に言えないけど。
ギリギリを彷徨ったわけではない、しっかりと作戦を立てた上でそれを実行して勝利した。
というか蜘蛛子ちゃんが強すぎて作戦よりスムーズに勝利した、ほとんど一撃で全員倒すとは思ってなかった。
うん、もっと長期戦になると予想してたし、ちょっと蜘蛛子ちゃんが怖いかもしれない。
『なんか失礼なこと考えてるでしょー』
『考えてないよ』
『嘘つけー、うりうりー』
冗談を言い合える程度には、戦闘後の余裕がある。
作業のようにこなせるような楽な戦いではなかったが、私達は戦略で勝って火竜を倒した。
ギリギリの橋を渡ったというわけではない、まあ開戦自体は急だったけど。
魔法を用いて、火竜の群れ相手に拮抗し、不利な戦場で明確な隙を作って撃破するという戦績。
つまり私達は……というか蜘蛛子ちゃんがあまりに強い。
魔法も使えて毒もあって、今は出力が落ちてるけど蜘蛛糸だってある。
私も置いていかれないようにしないと、まずい。
このままだといつか蜘蛛子ちゃん、魔物の頂点に立っちゃったりして。
それこそ、魔王みたいな感じで。