『まずい魔物はもうやだよー!!』
『ぉ、おお……』
度々話してはいるけど、私の身体には現在味覚というものが搭載されていない。
カエルを食べようがタニシを食べようが鰻を食べようが、私の感覚的にはそれほど大差のないものを摂取しているように感じるのである。
多分これは魔物に限った話ではなくて、果物とかを食べたとしても同じような感覚になる筈。
この特性のお陰で私は今のところ、魔物を食べるという行為に対する忌避感が少し抑えられている。
だって味しないからゲテモノ食べてる感少ないし。
が、それは私だけの特性である。
蜘蛛子ちゃんはタニシを食べれば物凄い顔を歪めるし、猿を食べてる時も微妙な表情だったし。
ナマズと鰻は美味しかったらしくて満足そうな食事を取ってたけど、それはそれ。
私と違い彼女にとって食生活、食という娯楽に対する問題は非常に深刻なものなのである。
『ちなみに火竜の味は微妙でした……』
ナマズや鰻の美味しさにも限度があるというか、限界がある。
私だって“味を感じない”と物寂しい、こういう話をしてるとオムライスとか食べたくなってくる。
蜘蛛子ちゃんもそんな感じで、エルロー大迷宮で食べられる魔物食にうんざりとしているというのが現状だった。
『なので脱出がしたいのよー』
『私もしたいよ』
エルロー大迷宮は上層、中層、下層に分かれている巨大なダンジョンである。
その下に最下層なるエリアがあるらしいけど、私達は見たことがないので一旦省略。
元々私達がいた上層から下層に落ちてきて、そこから登って今はマグマの溢れる中層。
中層を進んでいけばやがて上層に辿り着く筈で、上層には地上へと繋がる道がきっと……
『魔物が迷宮を出て、大丈夫?』
『…………』
とまあ、脱出したところでどうにかなるのかという話があるが今回は置いておこう。
そもそもまだ迷宮を抜け出せるわけでもないのにこんな話をするのは少し気が早すぎる。
まだ私達は中層を歩いているのだから、ひとまずこのマグマ地獄を抜け出さねばならない。
火竜に勝った私達なら、大抵の相手はどうにか倒すことが出来るし……
『……火龍って、いると思う?』
『
『
竜と龍、これらには大きな違いが存在する。
そう、大きな違い、単純明快でありながらあまりに大きな違い。
それは単純に竜より龍の方が強いということ。
『まー、傾向から考えるといそうですわなー』
私達が出会った龍というのは、下層で出会った地龍二匹。
地龍がいるということは火龍がいても何も不思議ではない筈で、しかし私達はまだその存在を見ていない。
中層は下層よりも比較的魔物の平均値が弱いから、もしかしたらこの中層には火龍はいないのかもしれない。
いやそんな筈ない、そんな甘い話があってたまるか。
そんな風に甘い世界なら、私達は魔物になんか生まれ変わっていない筈である。
出来ればその火龍と鉢合わせないようにと、願いながら進んでいる時の出来事だった。
『っ……!?』
蜘蛛子ちゃんが歩みを止めたことで、その影に潜む私の動きも自然と止まる。
突然の出来事、なんの報告もなく行われたその急停止。
嫌な予感がして、蜘蛛子ちゃんの視線の先に噂の火龍でもいたんじゃないかと。
恐る恐る見てみるが、違う、火龍なんていない。
火龍なんていないけど、火龍よりも恐ろしいかもしれない存在がそこにいる。
それは巨大な蜘蛛、姿形は進化する前の蜘蛛子ちゃんと大差ない。
しかし大きい、とんでもなく大きいその蜘蛛がマグマに照らされ怪しく光っている。
距離があるせいで鑑定は出来ない、出来ないが、とにかく分かる。
アレは手を出してはいけないものだ、私達が戦った火竜なんかとは比べ物にならない。
アレは手を出した瞬間、私達の存在を消してくるタイプの魔物だ。
『……あれ多分私のマザーだわ……』
『蜘蛛子ちゃん、アレから生まれたの……?』
なんでこんな場所にそんな存在がいるのかはよく分からない、だって蜘蛛は火に弱い筈。
もっと言うならこの中層で蜘蛛の魔物を見たのは蜘蛛子ちゃんを除けばあのデカい蜘蛛が初めてだったから。
そもそも生息域が違う、余計にどうしてここにいるのか分からない。
蜘蛛子ちゃんの生みの親?なら上層にいないとおかしな筈だし。
いやアレが上層にいるのもおかしい?あれ?混乱してきた?
そんな大蜘蛛に、もう一つの大きな影が迫った。
その姿はこの前私達が戦った火竜と似ているけど、一回り小さい上に翼が生えている。
見た感じあの火竜よりも上位の存在、暫定火龍。
その暫定火龍が大蜘蛛に飛行しながら接近する、体格では大蜘蛛の方が圧倒的に有利。
仮にあの火龍が地龍と同じようなステータスだとするのなら、案外いい勝負をするのかも……
『は?』
『え?』
私達とその大蜘蛛の距離は離れていた、鑑定が出来ない程度なのだから本当に相当な距離が離れていた。
興味本位で近付かなくて良かったと思う、この距離ですら衝撃を感じたのだから。
いや、衝撃を感じるどころじゃない、衝撃の余波で蜘蛛子ちゃんがひっくり返りかけたレベル。
慌ててその身体を支える私の目に映ったのは、巨大なクレーター。
火龍が存在していた筈のその場所には、ただただ大きなクレーターしか残っていなかった。
そこにいた筈の火龍は、もう何処にも存在しない。
大蜘蛛はその惨状を見て離れて行った、少なくとも私達に近付いてくることはなかった。
アレが上層にいてたまるか、きっと下層か最下層に存在するべき魔物なんだろう。
そう言ってほしい、そうじゃなきゃ上層に帰るという目的自体が嫌になる。
それくらい衝撃的だった、“龍が蜘蛛に真正面から負けた”というその事実が。
『私達さ、竜を倒したじゃん?』
『龍じゃない方、ね』
『でもアレはさ、なんか、なんか違うじゃん……!!』
確かに私達は火竜を倒した、その勝利は作戦に基づいた計画的な戦闘による賜物。
決して運が良かったから勝てた、みたいな不確定要素の塊的な勝利ではなかった。
多少運は絡んだけれど、それでもアレは蜘蛛子ちゃんの実力による勝利だとハッキリ言える。
ハッキリ言える上で、アレはそういうものではない。
策略なんてものはなく、戦略なんてものはなく。
何が起きたのかわからないまま、あの大蜘蛛は火竜の上位存在であろう火龍を消し飛ばしていた。
真正面から龍を、物理的な手段で圧倒している。
怖い、生物的な恐怖という怖さではなく、意味が分からないという意味で怖い。
『……蜘蛛子ちゃんも、ああなるの……?』
『ごめん、流石になれる気がしない』
蜘蛛子ちゃんの生みの親である以上、蜘蛛子ちゃんと同じ種族の魔物であることは確実。
蜘蛛の魔物なんだからそりゃそうではあるだろうけど、とどのつまり彼女はああなれる進化先があるということ。
私、蜘蛛子ちゃんが火龍を一撃で消し飛ばすような存在になったら耐えられないかもしれない。
それは精神的な意味でもそうだし、物理的な意味でも着いていくことが出来なくなると思う。
『置いていかないで……』
『影ちゃんそれ持ちネタにしようとしてる?』
失礼な、ちゃんと本心を述べています。
実際ずっと思っていることではあるんだ、足手纏いとまではいかないだろうけど。
私が蜘蛛子ちゃんと比べて一歩、二歩と遅れた道を歩んでいるのは自覚しているから。
責任感でもプレッシャーでもない、これは単純に私の感情の話。
私は彼女の相方でありたいから、そのためにはせめて一緒にいられる最低限の実力、を……
『蜘蛛子ちゃん!!逃げて!!』
『え!?……ぁえ!?』
視界に映ったのは、大蜘蛛の通った通路の反対。
その周辺にあるマグマの池からゆっくりと姿を現した、その姿。
先程大蜘蛛にやられた火龍がそこにいる、消し飛ばされたと思った火龍がそこにいる。
凄い生命力だ、あの衝撃が発生する攻撃を受けてちゃんと形を保って生きているなんて。
いや違う、そんなことはどうでもいい、火龍の安否確認なんてものは大切ではない。
問題は、その火龍が明確に此方を認識しているということ。
『ごめん影ちゃん!!』
『なにが!?』
蜘蛛子ちゃんより先にその存在に気付いた私が、彼女に対して撤退の意図を伝える。
伝えたけど彼女の足は動かない、動かない理由はただ一つ。
『“速度で負けてる”!!』
《火龍レンド LV20
HP:1709/3701(緑)
MP:3122/3122(青)
SP:3698/3698(黄)
:3665/3665(赤)
平均攻撃能力:3281
平均防御能力:3009
平均魔法能力:2645
平均抵抗能力:2601
平均速度能力:3175
「火龍LV1」「逆鱗LV8」「HP高速回復LV3」
「MP回復速度LV6」「MP消費緩和LV6」
「魔力感知LV5」「魔力操作LV4」
「SP高速回復LV1」「SP消費大緩和LV1」
「魔力撃LV4」「火炎攻撃LV9」「火炎攻撃LV9」
「火炎強化LV7」「破壊強化LV6」
「斬撃強化LV2」「貫通強化LV2」
「打撃大強化LV2」「連携LV10」「指揮LV2」
「立体機動LV4」「命中LV10」「回避LV10」
「確率大補正LV5」「気配感知LV10」
「危機感知LV10」「熱感知LV3」「飛翔LV7」
「高速遊泳LV10」「火魔法LV4」
「斬撃耐性LV1」「貫通耐性LV1」
「打撃大耐性LV1」「炎熱無効」
「状態異常耐性LV1」「身命LV5」「魔蔵LV4」
「瞬身LV5」「耐久LV5」「剛力LV5」
「堅牢LV5」「道士LV4」「護符LV3」
「縮地LV5」「飽食LV2」
スキルポイント:30050
「魔物殺し」「魔物の殺戮者」「率いるもの」
「龍」「覇者」
SPで負けてたり地形で逃げづらかったり、みたいなことは今までも沢山あった。
けど蜘蛛子ちゃんが純粋にステータスで、その速度ステータスで負けているということ。
逃げるとそのうち、ではない。
逃げの姿勢を取ったところで、まず距離が遠ざかることはない。
詰まるところ、私達は逃げられない。
能力値は火龍の方が断然上で、火竜より上位の龍となると魔法も効きづらい。
そのスキルに状態異常耐性というものがあったのが余計に絶望的だった、蜘蛛子ちゃんのメイン攻撃手段は毒。
効かないわけではないだろうが、その毒に対してある程度の耐性があるとなると一撃での決着がつけられない。
そもそも火竜に対して挑んだ時とはわけが違う、逃げるという選択の余地すらない戦闘。
『……ないわ、マジで……』
勝算は一つ、大蜘蛛の攻撃によって体力が減っているという部分を叩くことのみ。
が、減っていたところでそのHPはまだ高い。
勝てるか分からない、ではなく、勝つ方法が分からない。
分からないけど、やらないと死ぬんだから、やるしかない。
『影ちゃん、やれる……?』
『……やるしかないし……』
私達の、火龍への抵抗が始まる。
日間ランキングで当作品の名前を見かけることがありました。
皆様の応援のお陰です、ありがとうございます。