食べる。
食べる。
食べる。
とにかく食べる。
影ちゃんと一緒に、食べる。
上層に辿り着いた私は、まずはマイホームの建設に取り掛かった。
中層では糸が燃えるから作れなかったけど、本来の私の日常生活はマイホームありきの暮らしだった。
これは下層で地龍カグナに吹き飛ばされて以来、久々のマイホームとなる。
安心感がダンチすぎる、居心地が良すぎるだろ!!
そもそも気温がいい、暑くも寒くもない丁度いい適温!!
『いやー、快適だわー』
『そうだね』
防犯対策も完璧だし、加えて強い魔物もいないから気を抜いたって問題ナッシング。
最高じゃー、ゴロゴロするのは最高じゃー。
と、何日か何もせず影ちゃんと二人でゴロゴロとして過ごしてきた。
今まで死ぬ気で、文字通り死を目の前にして頑張ってきたんだからね。
流石にこれくらいの休日はあってもいい筈!!
私が持ってる威圧のスキルと恐怖を齎す者の称号の影響で、巣に作ったトラップに魔物が寄り付かなくなっている。
影ちゃんも持ってるスキルと称号だから単純計算でその魔物除け性能は二倍、私達の圧は傍から見ればとんでもない。
だからだらだらしてると食料が取れないんだよねー、食べるためには狩りに出なきゃ。
ついでに上層の構造を把握して出口を探したい、まだ外に出る準備は出来てないけど。
狩りの目的はまず第一に食料集め、その次に経験値稼ぎである。
私も影ちゃんも現在レベル19、私は20レベになると進化が出来る。
多分影ちゃんも20レベで進化出来るんじゃないかな、ってことで二人でその進化を目指している感じ。
そんな感じで上層でまったり狩りを始めて、早数日。
『魔物いねぇー……』
『まあ、乱獲したし……』
いやさ、私達ってなんだかんだ強いのよ。
二人がかりとはいえ、火龍相手に勝ちの目を作れるくらいには強いのよ。
そんな私達が上層っていう穏やかな環境で、とんでも威圧感出しながら毒と魔法をブッパしながら攻めてくるわけ。
そりゃあみんな逃げる、私のマイホーム周辺を避ける。
ってことで魔物がいなくなっちゃった、マジで微塵も見かけない。
『くそー!!ダルすぎるだろ!!』
あまりにもマイホーム周辺に魔物がいなさすぎて、簡易ホームを使って長距離移動の旅をする羽目になってる。
ないわー、マジないわー、折角楽な環境に来た筈なのにこりゃないわー。
ってことで、空間魔法のレベルを急ピッチで上げた。
空間魔法レベル9、長距離転移を使うために。
この魔法は一度訪れたことのある場所になら瞬時に移動できるっていうトンデモ魔法。
この魔法を取得したことにより、遠出した後でもマイホームに戻ることが可能になった。
その影響でアクティブ範囲が増えた私達は、マザーでも通れそうなレベルの広い通路を発見しました。
んで、そこで恐竜みたいな地竜と遭遇したわけ。
『真正面からでも、いけるね』
『まあステータス的にも並び始めてるしー』
竜ってことはタツノオトシゴとかナマズとか、鰻くらいの格の魔物ってことになる。
それくらいの魔物は今の私達にとって恐るるに足らず、糸で拘束して影ちゃんの嫉妬と私の邪眼で嬲り殺してやった。
糸が使えるって便利すぎる、というか糸がマトモに使えない中層がカスすぎた。
蜘蛛なんだからさ、やっぱり糸で拘束することこそが我が戦法の要ってわけよ!!
で、大型の魔物を狩ったからその場に簡易ホームを作って保存食として地竜を放置、転移で顔を出してはちょこちょこ食べてたんだわ。
魔物が見つからなくてもここに戻ってくればいつでも食料を食べられる、便利も便利。
だからその日も小腹が減って、影ちゃんを連れてそこに転移してきたのよ。
いたんだよ、ヤツが、ヤツらがさ。
いや地龍とかじゃないよ、地龍とかじゃないけど。
人間がいた、そこにはワラワラと人間がいた。
思わず硬直してダンディーなおっちゃんと見つめ合っちまったぜ、煙草が似合いそうな渋メンでした。
なんか背後から冷たい視線が突き刺さった気がするけど気にしなーい。
いや、うん、慌てて邪眼をオフにした私偉いと思う。
あのまま邪眼を発動させ続けてたら折角の渋メンがポックリ逝ってしまうところだった。
んでビックリしたのは私達だけじゃなくて、向こうもだったっぽい。
明らかに私達の威圧にビビってたし、いきなり何か叫んで走り出したし。
まあ逃げたんだろうね、いきなり襲いかかられるよりは何倍もマシだ。
騎士っぽい格好してたしそれなりに戦える集団だったと思うんだけど、私達の威圧にビビって逃走って。
これもしかして私達が迷宮の外に出たら人間達はパニック間違いなしって感じ?
じゃあアラクネに進化したところであんま意味ないかも、平穏に過ごせるビジョンが思い浮かばない。
そんなことをふわふわと考えていたら、私の影が伸びた。
私の影が伸びたってことは、それ即ち影ちゃんが動いたってこと。
その影は私の形から人のような形状へと変化し、その腕を槍のように鋭くすると。
速いとは決して言えない速度で逃げていく人間達に狙いを定め、その槍を真っ直ぐに突き、刺し、て……
『ちょぉい!?』
咄嗟に身を乗り出して割り込む、影ちゃんより私の方が速いので当然その割り込みは成功した。
攻撃の先にいるのが人間から私になったからか、影ちゃんの攻撃はそこで止まった。
あぶねー、よく気付いたよ私、あのままぽやぽやしてたら危なかったわ。
『か、影ちゃん?』
『……ごめん……』
その目が狂気に染まっている!!
……なんてことはなく、いつもの影ちゃんの青い瞳。
正気を失ってるなんて様子はなくて、普段通りの影ちゃんが人間を襲おうとしたことが私にはわかる。
でも違う、それでも普段と違うところがある。
それは怯え、恐怖、詳しくは分からないけど。
私が初めて見る影ちゃんの表情、火龍と戦った時よりもよっぽど震えている影ちゃんがそこにいた。
***
騎士集団と遭遇してから数日、まーだ進化できない私がいる。
魔物の数が少なすぎるのもそうなんだけど、単純に弱すぎて経験値の溜まる速度が滅茶苦茶遅い。
私と影ちゃんは傲慢の効果を共有してるから、入ってくる経験値の量はほぼ同じ。
私が進化できないなら影ちゃんも当然まだレベル19で、だらだらと過ごす日々が続く。
足りないのは魔物の数だけ、環境的には整ってるのに魔物だけが存在しない。
と思ってたらあっさり見つけたよ、経験値。
蛇だね蛇、上層だと結構強い方に位置する魔物。
まあ所詮上層の魔物なので、今の私達ならちょちょいのちょいって調理出来ちゃうくらいなんだけど。
で、折角見つけたはいいものの問題が一つ。
その蛇と、人間が戦っている。
蛇に対して立ち向かってる人間が二人、ちょっと離れた場所で伸びちゃってるのが二人、その治療をしているのが一人。
千里眼で確認する感じ、蛇に襲われた冒険者って感じかな。
千里眼と鑑定の併用が出来ないから分からんけども、パッと見だと蛇の方が優勢っぽい。
いや既に二人伸されてるんだから圧倒的に負けてるかこれ、予想以上に人間って弱い感じ?
いやー、どうするべきかなー。
割り込んで蛇を掻っ攫うことも出来るんだけど、そうするとあの人間達に私達の存在が捕捉される。
その結果狂乱されると面倒臭い、けど放置すると間違いなく全滅するだろうしなー。
全滅してから蛇倒せば良くね?そしたらわざわざあの人間達と関わらなくていいじゃん。
……やっぱなしかー、うん、元人間としてちょっとそれは嫌かも。
我ながらひっでぇ性格してる自覚はあるけど、それはそれとして最低限の道徳心は持ってるし。
わざわざ身を投げ出すような真似は出来ないけど、片手間に出来る人助けくらいならやってもいいかなって思える。
面倒ってだけで放置するのはちょっと、ね。
『影ちゃん、助けても大丈夫そ?』
『……うん、大丈夫……』
やっぱり彼女は怯えている、前回みたく私に一声もかけずに襲いかかったりはしなかったけど。
影ちゃんは自分のことをあんまり語ってくれない、いや、正確には私と出会う前のことをやんわりとしか話してくれない。
生まれてすぐに人間に襲われた、ってことは知ってるんだけど、それが原因でトラウマになっちゃってるっぽい?
しかしそんな影ちゃんの許可も取れたので、寛大な心を持って†救済†してやろうではないか。
うおおー!!ダッシュ!!
そしてサクッと蛇を瞬殺!!私の今のステータスなら問題なくワンパン!!
脳天を鎌に貫かれた蛇は呆気なく絶命する、さっきまでの優勢が嘘のように倒れる蛇。
ふっ、またつまらぬものを切ってしまった……
最初に上層にいた頃はボスキャラクラスの強敵だったのに、今となっては蛇もカエルも対処の程度に差がない。
ようやっとレベルアップ!!進化可能!!
自分の目的を完遂したので冒険者(仮)の様子を見ると、呆然と動きを止めている。
まあ気持ちは分かる、ありえない登場からのありえない蛇の退場だったわけだし。
取り敢えず私はこのまま蛇を担いで転移でおさらばしよう。
……って思ったけど、やっぱり奥にいる気絶した二人が死にそうだ。
蛇の毒が効いてるみたいで、看病してる男の人が必死に魔法で治療してるけど全然意味を成してない。
んー、いやまあ、一度関わっちゃったしなー。
やるならとことんやるべきか、うん。
倒れている二人のところに移動して、治癒魔法を発動。
治療してた男の人がびっくりして魔法の構築を霧散させちゃったけど、ぶっちゃけこの人の魔法なんかあってもなくても変わらない。
火耐性を上げる時に、マグマに前足突っ込んで治療するを繰り返してたお陰でそこそこレベルの高い治癒魔法。
影ちゃんが後ろから凄い禍々しいオーラを放ってるような気がするけど、ちょっとだけ我慢しててくれ。
完全治療とまではいかないけど、なんとかなる程度までは二人の治療を終えて。
それを見ていた男の人が目を見開いて私を見ていたのを確認する。
これ以上関わると流石にめんどい、いや、この人達を橋として人間達とコミュニケーションを取る手もあるんだけどさ。
コミュ症の私と違って積極的にコミュニケーションを取れる方が、さっきからずっと禍々しい気配を発しているので……
今度こそ転移をしようとした私の目に、とあるものが映った。
それは乾燥させた干し柿みたいな感じの……干し柿!?果物!?つまり甘いもの!?
戦ってる最中にこの人達が落としたものっぽい!?
これ貰っていい!?いいよね!?拒否権ないけど!!
というわけで甘味をゲット!!今世初の甘味を!!
ふぉぉぉぉぉおおお!!ぶっちゃけレベルアップより嬉しいかもしれない!!
『……ごめん、もう、いい?』
あ、すいません、帰りましょうか。
まだ呆然としている冒険者(仮)を残して、蛇を抱えマイホームへと転移する。
しかしその手には蛇だけではなく、果物がある!!
早速手に入れた果物を食べてみよう、進化とかもうどうでもいい。
今はこの人生……蜘蛛生?初の甘味を味わうことに全力を尽くすのだ!!
深呼吸をして、味覚強化と嗅覚強化をフル発動させながら、いただきます。
……甘い。
ああ、甘い、これは、甘い。
前世で食べてた果物と比べると、渋いし瑞々しさもないし、正直美味しくないと思う。
けど甘い、確かにそれは甘い。
甘くて、美味しくて、幸せになる。
『甘いよぉぉぉぉぉぉお……』
今世初のちゃんとした甘いものっていうのは格別で、何も考えずに口に出来たそれは本当に美味しかった。
迷宮の外に出ればこういう美味しいものが食べられる、って考えたらやる気が出てきたわ。
アラクネ、やっぱり目指した方が良さそうね!!
『……良かったね』
影ちゃんの纏っていた圧は鳴りを潜めていて、そんな私の姿を見てほのかに笑っていた。