影ですが、なにか?   作:хорошо!

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21 影VS蜘蛛

 私は多分、前世でも今世でも根本的にはあまり変わっていない。

 とにかく死にたくないって気持ちと、それでも自分の感性を捨てたくないっていう傲慢な気持ち。

 いつだって考えているのはそんなこと、あとは蜘蛛子ちゃんのことくらい。

 だから私は今も正気……というか、こんな環境にいるのにあんまり狂ってないんだと思う。

 それは勿論、蜘蛛子ちゃんが近くにいる影響もあるんだろうけど。

 

 正気だった、今でもそう思える程度にはあの時私は正気だった。

 その上で私はあの人間を害する選択をした、そして今もその敵意が消えきっていない。

 その理由はわかんない……なんてことはなく、明確すぎるけど。

 私は自分で思ってるより、最初に殺されかけたことを引き摺ってるっぽい。

 

 価値観が狂ってるってわけじゃないと思うんだよね、人殺しに対する忌避感はまだ強いし。

 強いのに、私の恐怖が、生存本能がそれを上回った結果、私はその選択を取りかけた。

 意識して避けないとそのうちやらかしそう、今回は蜘蛛子ちゃんが止めてくれたからいいけど。

 二度はない気がする、というか二度も迷惑をかけたくない。

 

 とまあ、色々考えることはあるけどレベル20。

 進化が出来るレベルになったので、一旦頭を空っぽにして進化をしようというわけで。

 今回はマイホームがあるからと先に進化し終えた蜘蛛子ちゃんの様子を見届けて、私も進化態勢に入る。

 選んだ進化先は“スキュア・ノックス”、というかこれしか進化先が存在しなかった。

 

 選択肢を選ぶ、っていうのも結構面白みがあったのでここにきて一択の進化先は少々味気なく感じる。

 蜘蛛子ちゃんは複数の進化先があったらしいし、これは単に私の努力不足なのか種族的な問題なのか。

 その真相は分からないけど、選べないなら大人しくこの魔物に進化するしかないということで進化を開始。

 眠くはならない、いつもと同じ、寝ようと思って寝る時以外で私が眠くなることはない。

 

 だからそれは、眠気が原因のものではなかった。

 頭痛、突如訪れた頭を割るように響く頭痛。

 痛みに耐えられなかったのか、私の意識は少しずつ遠のいていく。

 自らの意思ではない、今世で初めての自然に意識を奪われる感覚。

 その痛みは引くことなく私の頭に張り付いて、意識を無くした後もただひたすらに語りかけてくる。

 

 その声で、その姿で、ただひたすらに。

 “贖え”と、その一言を反復し続ける。

 

《熟練度が一定に達しました》

《スキル〈禁忌LV9〉が〈禁忌LV10〉になりました》

《条件を満たしました》

《禁忌の効果を発動します》

《情報をインストール中です》

 

 

 

***

 

 

 

《インストールが完了しました》

 

 ……多分、前世を含めてみても一番気分の悪い目覚め方をしたと思う。

 前作を知らない映画の続編を見せられて、その続編が微塵の救いもないバッドエンドで終わったみたいな。

 とにかく胸糞悪い、胸糞悪いだけで私からすればそれ以上の感情は存在しないけど。

 そんな感じの記憶を……記録を、一気に脳内に流し込まれた感じ。

 

 だから結構頭の中がぐちゃぐちゃで、暫くこの頭痛は収まりそうにない。

 確かにこれは禁忌だと思う、この世界の人間にとってこの情報は禁忌である。

 けどほんとに、部外者である私からすればどうでもいいことだしなぁ。

 Dちゃんの性格が悪すぎるってことは分かったけど、それは気にすることというより私が気になることだし。

 いや、何も分からない状況からこの世界のことを知れたって考えると収穫自体はあったのかもしれない。

 

 そういう意味ではありがとう禁忌LV10、頭痛の方は許さないけど。

 

 アレを見せられて私が何をするべきか……って言われても、ピンと来ないな。

 人類と魔族の大半を壊滅させれば解決しそうな問題ではあるけど、そんなことしたくないし。

 というかどう考えても止められるし、私にそこまでの力はないし。

 そもそも私は世界なんてどうでもいい、自分が満足に生きられる環境さえ得られたら私はそれでいい。

 こんなにスケールの大きい話をされても正直ついていけない、元々一般的な日本人なんだから当然のこと。

 

 っていうのが私の答え、私としてはそれで終わり。

 

 『……だから、まあ、蜘蛛子ちゃん次第か……』

 

 蜘蛛子ちゃんがどうにかしたいと言うのなら、私もそれに協力すると思う。

 私は彼女に協力したい、だから蜘蛛子ちゃんがどうでもいいって言うなら私としても行動しないつもり。

 まあ、元々個人としてはどうでもいいって思ってるわけだし。

 進化したことで禁忌のレベルが上がったのなら、私だけじゃなくて蜘蛛子ちゃんもあの情報を脳内に流し込まれた筈。

 

 早速このことを相談しようと思ったところで、巣の内部に蜘蛛子ちゃんの姿がないことに気付く。

 荒らされた形跡などはない、そして私の無事からも分かる通り単純に巣を離れただけ?

 その説が一番真っ当だけど、蜘蛛子ちゃんが約束を破って誰かを置いてどこかへ行くような人物だろうか。

 ちょっと変なところはあるけど、そこまでするような子ではないって私は思ってる。

 

 巣の出口から顔を出し、周りを見渡してみてもやはり蜘蛛子ちゃんの姿は見えない。

 同時に荒らされた形跡もなければ、周囲で戦闘などが起きた形跡も見られなかった。

 蜘蛛子ちゃんは転移を使って色んなところを行き来出来るから、それでどこかに立ち寄っているだけかもしれない。

 

 まあでも所詮上層だし、一人で探しに行ってもなんとかなる。

 巣の位置だけ忘れないようにと頭に刻んで、上層の道を進んでいく。

 蜘蛛子ちゃんの痕跡がないかなと辺りを見ながら、一定の距離まで近付けば潜影が……

 いや、今は別のスキルに統合されちゃってるけど。

 そのスキルが蜘蛛子ちゃんに反応するので、とにかく近付くことだけを考えて進む。

 

 その道中でようやく見つけた蜘蛛子ちゃんの痕跡。

 結構歩いたような気がする、なんだかんだ2時間くらい?

 そこにあったのは蜘蛛糸、千切れた蜘蛛糸がそこにある。

 近付いて触ってみれば、それは紛れもなく蜘蛛子ちゃんの糸……

 

 ……じゃない?

 これは、蜘蛛子ちゃんの出す糸じゃない。

 私が切れないくらい硬いから彼女のものかと思ったけど、なんとなく性質が違う気がする。

 蜘蛛子ちゃんの糸はなんというか、もっと繊細だ。

 

 しかしここは上層、上層にいる蜘蛛の魔物といえばスモールレッサータラテクトとかスモールタラテクトとか。

 あとレッサータラテクトとかもいるけど、いずれにせよ魔物としてはあまり強くない部類に位置する者達。

 その魔物の糸を、まあまあ強い私が切れないなんてことはない。

 私に対してステータス的に匹敵する相手、それも蜘蛛と来たら、その対象は蜘蛛子ちゃんしかいない筈。

 

 危険を察知し前を見れば、視界に映る蜘蛛の集団。

 その先頭にはひときわ大きな蜘蛛の姿、それは明らかに上層にいていい格の魔物ではない。

 まず、これだけの蜘蛛が群れているというのがそもそも違和感がある。

 そして、この魔物達が上層にいるということにも違和感がある。

 そんな魔物達が私が来た道と反対から、私が元いた場所へと向かって走って来ていた。

 その道中にいる私のことを、明確に敵として認識しながら。

 

 《アークタラテクト LV31

 HP:4466/4466(緑)

 MP:3182/3182(青)

 SP:4267/4267(黄)

   :4262/4262(赤)

 平均攻撃能力:4399

 平均防御能力:4315

 平均魔法能力:3004

 平均抵抗能力:3101

 平均速度能力:4237

 「HP高速回復LV5」「MP回復速度LV7」

 「MP消費緩和LV7」「魔力感知LV7」

 「魔力操作LV7」「SP高速回復LV2」

 「SP消費大緩和LV2」「状態異常大強化LV3」

 「破壊大強化LV2」「斬撃大強化LV4」

 「貫通大強化LV8」「打撃大強化LV3」

 「衝撃大強化LV1」「魔力撃LV6」「魔闘法LV4」

 「気闘法LV7」「猛毒攻撃LV10」「毒合成LV5」

 「糸の才能LV5」「万能糸LV3」「操糸LV10」

 「念動LV2」「空間機動LV8」「命中LV10」

 「回避LV10」「確率大補正LV2」

 「危険感知LV10」「気配感知LV10」

 「動体感知LV10」「外道魔法LV10」

 「毒魔法LV10」「治療魔法LV4」

 「破壊大耐性LV1」「斬撃大耐性LV2」

 「貫通大耐性LV2」「打撃大耐性LV4」

 「衝撃耐性LV9」「状態異常大耐性LV8」

 「腐触耐性LV6」「外道耐性LV5」「苦痛無効」

 「痛覚大軽減LV2」「視覚強化LV10」

 「千里眼LV2」「暗視LV10」

 「視覚領域拡張LV7」「聴覚強化LV7」

 「嗅覚強化LV2」「触覚強化LV7」「天命LV2」

 「魔蔵LV8」「天動LV1」「富天LV1」

 「剛毅LV2」「城塞LV2」「道士LV7」

 「護符LV8」「韋駄天LV1」「飽食LV4」

 「禁忌LV7」

 スキルポイント:34500

 「悪食」「血縁喰ライ」「魔物殺し」「毒術師」

 「魔物の殺戮者」「糸使い」「魔物の天災」

 「人族殺し」「覇者」

 

 ダメだ、逃げられない。

 私だから逃げられないとかそういうのじゃない、あれだけ苦戦した火龍よりもステータスが高いんだから。

 蜘蛛子ちゃんでも逃げられるか怪しい、彼女は転移があるから逃げる方法があるけど。

 私にそんなスキルはないし、そもそも魔法の発動が未だに満足に出来ていない。

 つまるところ、今の私に逃げるという選択肢は存在しない。

 

 それだけならまだいい、いや全く良くないけど。

 周りに無数のスモールレッサータラテクトや、タラテクト等の集団。

 私は集団を相手にするのに向いたスキルがない、一対一ならなんてことない相手ではあるけど数が多すぎる。

 その中でも目立つ存在、アークタラテクトの他にグレータータラテクトが三匹いるのも問題だった。

 このグレータータラテクトですら火龍と同じくらい強い、それが三匹とそれ以上の相手が一匹。

 

 勝ち目が見当たらない……ってほどじゃないんだけど、絶望的状況。

 

 蜘蛛子ちゃんがいれば良かったんだけど、こういう時に限って孤立して……

 ……そもそも、なんでこんなに蜘蛛の魔物が集まってるんだ?

 蜘蛛子ちゃんに聞いた限りだと、生まれてすぐに同族を食べ始めるような協調性のない魔物って話なのに。

 分からないけどなんとなく蜘蛛子ちゃんが関わっているような気がしてならない、だって蜘蛛だし。

 

 とにかく接敵、最初の攻撃はグレータータラテクトから飛ばされた糸。

 私は各種防御能力だけは一丁前なので、グレーターどころかアーク相手でも攻撃を何度か受けることが出来ると思う。

 進化によって上がったステータスなら、もしかしたらもっと耐えられるかもしれない。

 だけどアレはダメだ、その糸を純潔の結界を使って防ぐ。

 

 私のステータスじゃ、あの糸を切れない。

 そして、蜘蛛糸に捕まった後の魔物がどういう末路を辿るかは蜘蛛子ちゃんの姿を見てよく知っている。

 あの糸を一度でも真正面から受けた瞬間、私の死は確定する。

 単なる高威力攻撃よりタチが悪い、だってアレに捕まったら耐えるとかの話じゃなくなるし。

 糸飛ばし自体の威力は低いからか、純潔を使用してもMPの減りが少ないことが救いだろうか。

 

 有象無象の雑魚蜘蛛達はどうでもいい、私の勝利条件はあの上位蜘蛛四体を倒すこと。

 または、私を追えない程度の行動不能状況までに追い込むこと。

 それまでに蜘蛛子ちゃんが合流してくれれば万々歳、しかしそれは難しい願いだと割り切る。

 久々だ、本当に久々、ここまでの格上相手ってなると初めてかもしれない。

 蜘蛛子ちゃんが前にいない状態での戦闘っていうのは。

 

 私一人、蜘蛛子ちゃんのいない戦闘が幕を開けた。

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