影ですが、なにか?   作:хорошо!

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22 孤独な集団戦

 速度で負けているのは、単に逃げられないというだけの話ではない。

 

 真正面からグレータータラテクトの牙が襲いかかってくる、これはギリギリ避けられる。

 その回避先に他のグレーターが張った蜘蛛糸、これは純潔の効果で身体に触れる前に弾く。

 そうやって回避先に意識を割けば、今度は背後から迫ってくるタラテクトの攻撃に対しての防御が疎かになる。

 幸いそこにいたのは上位蜘蛛四匹ではなく通常のタラテクト、避けずに牙を受け入れてカウンター気味で息の根を止める。

 

 私の今の状況はこんな感じ、出来れば避けたい上位蜘蛛の行動を回避と純潔でいなしながら雑魚集団を一匹ずつ仕留めている。

 二匹、三匹倒すごとに少なくとも一回は被弾している。

 死ぬ気でそれだけは避けているから、あのグレーター三匹とアーク一匹の攻撃はまだ貰っていない。

 雑魚蜘蛛の攻撃で私が受けるのは精々カスダメ、こっちに関しては意識を割かなくても問題ない。

 

 けど、問題はいつまで経っても数が減らないこと。

 いくらダメージを負わなくてもSPは減り続けるし、純潔を乱用してるんだからMPも減り続ける。

 それに、一体ずつ仕掛けてきてくれるから避けられているだけで。

 あの上位蜘蛛達が私を狙って一斉に襲いかかってきたら、私の速度じゃ回避が出来る筈もなく。

 

 劣勢とかそういうレベルじゃなくて、既にじわじわと負けている形。

 そのテンポ感を崩すためには上位蜘蛛四匹のうちどれか一匹を仕留める必要がある。

 あれだけ強い魔物を倒せば流石にレベルが1か2は上がると思う、そうしてレベルが上がればMPとSPを回復出来る。

 私が目指すのは、相手が油断しているうちにとにかく一匹の上位蜘蛛を持っていくこと。

 

 回避行動に専念していたらチャンスは生まれない、アークタラテクトが放ってきた毒魔法を真正面から受けにいく。

 蜘蛛子ちゃんといいなんでこうもスムーズに魔法を使えるんだろう、とか思うけど私からすれば知ったことではない。

 だって相手が使う魔法と私の性能は、超がつくほどに相性が悪いんだから。

 その毒魔法は私の身体に当たった瞬間に霧散し、そのダメージを0へと変換する。

 

 魔法を使う相手がいなかったから腐ってたけど、私の天鱗は本来物理防御よりも魔法防御を伸ばすスキル。

 魔法を使う相手とは相性がいい、今までは魔法を使う相手がいなかったから実感しづらかったけど。

 ここまで完全に打ち消すのなら、私が魔法攻撃でダメージを受けることはまずない。

 

 とはいえそれを見て放心するような相手でもなく、密着から蜘蛛糸を放つことで抵抗してくるアーク。

 この距離の攻撃はまず回避出来ない、これも純潔を使って防がせてもらう。

 が、目の前のアークに対して意識を割き過ぎた結果その後ろから飛び出してきたグレーターへの反応が遅れる。

 純潔の結界を縫うような形で飛び掛かったその蜘蛛の牙が、私の身体に突き刺さる。

 

 痛い、耐えられる程度だけど、やっぱり痛い。

 防御能力的に大きなダメージにはなってない、なってないけど問題はそっちじゃない。

 あれは単なる牙攻撃ではない、その真髄は毒を持っていること。

 全身を覆う不快感と激痛、すぐに死ぬなんてことはないけどその毒は確実に私のHPを減らしていく。

 しかし私のステータスじゃグレーターを振り払うことすら一苦労、隙を狙って噛み付いてきたこの蜘蛛の相手をしている暇な私にはない。

 

 そう、今までの私なら存在しない。

 

 私の身体に牙を突き刺したグレータータラテクト、振り払われない限りその牙を抜く必要はないだろう。

 だって刺しっぱなしにしておけばこのまま毒を流し続けられる、その調子で毒を流せば私はいつか死ぬ。

 それは私にも分かっていること、だから咄嗟に回避されないことを予測していた。

 

 私に覆い被さるように牙を刺していたグレーターが、その影に呑まれるようにして黒に呑み込まれていく。

 咄嗟に振り払おうとしたようだけどもう遅い、一度呑み込んでしまえばそこから先は一方通行。

 それは私が初めて獲物を仕留めた時にしたことの再現、そこにスキルの効果をプラスした圧倒的な殺意。

 影に呑まれたグレータータラテクトの輪郭がぼやけ、少しずつその身体が消えていく。

 もはや抵抗の意思は感じられない、目の前のアークが私に魔法を放ってきてるけど知ったことか。

 

《経験値が一定に達しました》

《個体、スキュア・ノックスがLV1からLV2になりました》

《スキル熟練度レベルアップボーナスを取得しました》

《熟練度が一定に達しました》

《スキル〈龍力LV1〉が〈龍力LV2〉になりました》

《スキルポイントを入手しました》

 

 確かにそこにあった筈の一匹の蜘蛛の体積が、跡形もなく消え去った。

 そこに残ったのは一つの影と、それを取り囲む蜘蛛の大群。

 影の身体を貫いていた蜘蛛はもういない、痕跡もなくこの世から消えている。

 これが私の見ていた勝ち目、私に残された唯一の勝ち筋。

 

 それを見たからか蜘蛛達の警戒度が上がった、道中の雑魚敵扱いだった私が上位の蜘蛛一匹を倒した相手に変わったんだから。

 さっきより連携を意識した攻撃をしてくるかもしれない、そうなったら状況的にはむしろ不利になる。

 

 けど問題の四匹のうち一匹は倒した、これは大きな進歩。

 

 《真影:あらゆる影を操るスキル。その影はいずれ真なる己すらも呑み込むだろう》

 

 Dちゃんから貰った虚飾、その称号報酬として得た真影というスキル。

 これは出来ることが増えた影魔法って感じのスキルで、自分の影を変形させたりその影の性質を変化させたりすることが出来る。

 私の場合、影っていうのは自分の身体のことだから単純に出来ることの幅が広い。

 その代わり使用感がスキルというより魔法に近くて、ある程度集中しないと効果の発動が出来ないのが欠点。

 

 私はこの効果で自分の影の……なんだろう、存在的な格を高めた。

 影魔法LV1の濃影の応用みたいな感じで、自分の身体の持つ概念的な強さ的なものを引き上げて。

 その状態から普段の捕食行動を行うことで吸収速度を早めて、まだ生きているグレータータラテクトを無理矢理取り込んだ。

 攻撃性能の低い私に出来る唯一の一撃必殺、それがこの吸収。

 

 しかし当然吸収するには相手に覆い被さるような体勢を取らないといけないし、その状態を暫く維持しなければならない。

 その上、こういうことが出来るというのが既に相手にバレてしまった。

 初見殺しは二度は通用しない、さっきみたいな迎撃で持っていくことはもう不可能と考えていいだろう。

 それにさっきの場面、噛み付いてきたのが一匹じゃなかったらHP的に怪しかったし。

 

 防戦一方、回避に徹していた私に仲間のリーダー格の一匹が倒されるとは予想していなかったのか。

 明らかに先程よりも警戒レベルが上がって私のことを敵視する、その蜘蛛の軍団。

 具体的に言うならさっきよりも“固まった”、私がグレーターを仕留めるまでは一匹一匹が自由にやっていた感じだったのに。

 ってなると、正直まずいかもしれない。

 

 二匹、残った二匹のグレータータラテクトが襲いかかってくる。

 同時に行動を判断している余裕はない、とにかく食らってはいけない糸だけを警戒する。

 動きを見てからじゃ遅い、それが実際どんな攻撃であろうと念を入れて純潔を展開。

 片方が放ったのは蜘蛛糸、もう片方は素直な突撃。

 どちらにせよ純潔の効果で私に届くことはない、しかし拘束目的の糸ではなく攻撃目的の突進を防いだことでMPが大きく減少する。

 

 まだ純潔は使い続けられるけど、糸を防げなくなるまで消耗させられたらそこで終わり。

 微々たるものでも経験値稼ぎにならないかなと、合間を縫って雑魚蜘蛛達を仕留めてはいるけど雀の涙でしかない気がする。

 やっぱり一匹ずつ、一匹ずつあの上位蜘蛛を倒してMPとSPを補充しながら戦うしかない。

 

 一応戦闘が始まってからずっとアークに対して嫉妬を発動させ続けている、狙いは糸関連のスキルの封印。

 最も食らってはいけない糸を封じれば少しは戦闘が楽になるだろう、と思ってのその選択。

 けどそもそもアークどころかグレーターとの正面戦闘すら厳しいんだから、アークのスキルを一つ封じたところであまり変わらない気がする!!

 

 悠長に思考をしている暇はない、グレーター二匹が攻め込んでいるのにヤツが悠々と突っ立っている筈もない。

 私が純潔の連続使用を嫌がっていることがバレている、結界を解いた瞬間に牙を構えながら迫ってくるアーク。

 この距離まで接近された後に回避行動を取れるほど、私のステータスは優秀じゃない。

 かといってこの状況で仕方なしと攻撃を受け入れれば、三匹から一斉にリンチされる未来が見える。

 

 他に方法がないので純潔で防ぐ、やはりMPの減り方が大きい。

 物理攻撃だからか、あとは進化で私のMP量が上がったからか。

 火龍の攻撃を防いでいた時よりはよっぽどマシ、マシだけど一度防げば終わりみたいな状況じゃないんだからジリ貧。

 アークが弾かれた隙に背後へと下がって距離を取るが、その隙間を埋めるように雑魚蜘蛛達が迫ってくるので鬱陶しいったらありゃしない。

 

 即死を狙わずに少しずつ削ってダメージを与えていくべきか?

 真影は何も吸収だけじゃなくて、自分の腕を槍のように変化させて相手を突き刺したりも出来る。

 しかしその威力は常識の範囲内というか、決定打になるようなダメージは生み出せない。

 の割にMPを消費する、一応魔法として発動してるらしいからその消費量も結構大きい。

 純潔頼りの私が攻撃にMPを使用したらどうなるかは、言わずとも分かるだろう。

 

 ってなるとやっぱりさっきみたいに一撃で仕留めることを狙うしかないんだけど、ああやって固まられると吸収することだって出来ない。

 

 アークの魔法が効かない分、相性的には悪くない相手だと思う。

 受けたら負けが確定するような蜘蛛糸も純潔で防げる、各種防御ステータス類のお陰でダメージも抑えられる。

 決して不利な相手ではない、種族的に不利な火龍と戦った蜘蛛子ちゃんなんかと比べれば何倍もマシだ。

 マシなのに、私は勝てると自信を持って口に出せない。

 

 こんな時蜘蛛子ちゃんがいれば、って思っちゃう私はやっぱり彼女に頼りきりなんだと思う。

 置いていかれないようにと強くなることを目指して、そのためにDちゃんに我儘を言って。

 その結果がこれか、笑えるね、全く笑えないけど。

 

 MPは着々と減っていく、SPには余裕があるけど純潔が使えなくなれば私の回避なんて意味をなさない。

 もう一度どうにか隙を縫って、あの三匹の中のどれか一匹を仕留めなければいけない。

 そのために私はどうすればいい、どうすればあの蜘蛛達を一瞬でも引き剥がせる?

 こんな時、蜘蛛子ちゃんなら一体どうする?

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