影ですが、なにか?   作:邪神ですが。

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3 スキルを使ってみる

《現在所持スキルポイントは60100です》

《スキル『嫉妬』をスキルポイント100使用して取得可能です》

《取得しますか?》

 

 ほんの少し時を遡る、レベルアップしてから間もないタイミング。

 

 色んなことを考える中で、そもそもの私の“死因”について考えていたところ。

 訳も分からずに死んで、気が付いたらここにいた。

 感じたことといえば痛みとか光とか、よく分からないことだらけだったけどそれ以前の話がある。

 

 男子生徒……山田くんが、何かに驚いたように目を見開いていたこと。

 あれが私の最後の記憶、本当の意味で最後の意識。

 その先を確認する前に私の意識は溶けて、次に目覚めた時には訳の分からない影の魔物(エルローウンブレラ)になっていた。

 

 山田くんは“何か”に気付いていたんだと思う。

 

 ならきっと、あの場で死んだのは私だけじゃなくて山田くん……

 いや、多分もっと沢山の人が死んだんじゃないか。

 きっと、クラスメイト全員があの場所で死んだのだろう。

 それなのに転生したのが私だけ、っていうのもおかしな話。

 なら私以外にもこの世界には転生者がいるのではないか?

 

 という、推測を立ててみる。

 そんなことなく全員が別の世界に飛んでいる、みたいな可能性もあるけど結局は推論の域を出ない。

 でも他にも転生者がいるのだとすればツッコみたいことがある。

 魔物に転生してるの、私だけだったらどうしよう。

 

 この世界にも人間という生物は存在するわけで、その人間が魔物を狩っていたということは人と魔物は敵対関係にある筈。

 普通、異世界転生っていったら人間……

 それこそ勇者とか、聖女とか、そういうものに転生するのが一般的なんじゃないの?

 いや、つまり“その枠”に転生したクラスメイトが誰かいるのかもしれない。

 

 それに比べて私、正体不明の影の魔物。

 

 明らかに扱いが酷い、これがもし名前のせいだったら本当に酷い。

 じゃあアレなのか、草間くんは草間忍だから忍者にでも転生してるわけ?

 ……ちょっとありそうで嫌になってきた、ごめんね草間くん。

 でも、それでも、人に転生してるだけマシなんじゃないか?

 

 前提として妄言なのだが、それはそれとして妬ましい。

 もし魔物に転生しているのが私だけだとするのなら、余計に妬ましい。

 悠々自堕落な生活を過ごしたい、という程ではないが私は転生と同時に死にかけているわけで。

 人の子として転生していればもっとマシな道があったんじゃないかと考えると、やっぱりどうしても嫉(・)妬(・)してしまう。

 

《現在所持スキルポイントは60100です》

《スキル『嫉妬』をスキルポイント100使用して取得可能です》

《取得しますか?》

 

 ……という経緯で今に至る。

 さっき手に入れたスキルポイントっていうのはやっぱりスキルの取得に必要なポイントだったようで、私は今それを60100ポイント持っているらしい。

 そしてこの音声が聞こえてきたトリガーは多分、存在するスキル名を心の中で念じたから?

 ってことは、ステータスとか鑑(・)定(・)とかプロフィールとか片っ端から念じてみたら……

 

《現在所持スキルポイントは60100です》

《スキル『鑑定LV1』をスキルポイント100使用して取得可能です》

《取得しますか?》

 

 ……まあ、取る価値はあるのかな。

 一発目に出てきた《嫉妬》っていう謎スキルに比べれば使い道がなんとなく理解出来るし。

 鑑定の性能次第だけど、もしかしたらその謎スキルの性能を知ることも出来るかもしれない。

 そもそも他のスキルと同じように鑑定が使えないような可能性も高いけど、どうせ使うのは60100ポイントのうちの100ポイント。

 何故か100ポイントだけ“使ってください"と言わんばかりにキリ悪く持っているわけだし。

 

 うん、取ってみよう、取得します。

 

《『鑑定LV1』を取得しました》

《残りスキルポイント60000です》

 

 特に何かが変化した感覚はない、ここまでは他のスキルと同じ。

 いや、暗視だけはレベルが上がった時に若干視界が明るくなったような……

 でもプラシーボな気もする、それくらい微々たる差だった。

 とにかく私がするべきことは、このスキルが使えるのか否か試すこと。

 容姿もあまり把握出来ていない自分自身を頭の中に思い浮かべて、鑑定と念じてみる。

 

 お、おぉ、おおぅ……?

 

 結論から述べるなら、私は初めて意識してスキルを使用出来たということになる。

 そういう意味ではきっと鑑定は取る価値のあるスキルだったんだろう、スキルが無駄ではないものだという証明をしてくれたんだから。

 問題を述べるなら、その結果だろうか。

 

 《影(茉莉花 影)》

 

 私の頭の中には、そんな情報が流れてきた。

 

 

 

***

 

 

 

 《壁》《壁》《石》《壁》《石》あと私。

 

 鑑定内容は一目見れば分かるような情報ばかりで、正直スキルとして有用なものには思えない。

 でも“使えている”というだけ私にとっては幾分もマシな話で、こんな性能でも他のスキルよりは何倍も役に立っていた。

 役に……いや、役には立ってないかもしれない……

 でも使わないよりは使った方がいいと思う、なんとなく。

 

 鑑定が使用出来て影魔法が使用出来ないのは何故なのか、魔法はそう易々と使えるものではない?

 それかMP的なステータスが足りていなくて、発動しようにも発動出来ない的な。

 恐怖耐性や暗視は常時発動型だとして、私が今求めているのは戦闘に役立つスキルだろうか。

 魔法が使えないとなるとパッと思い浮かぶのは、武器を用いた戦闘。

 でも私には武器がないので、他の手段を考える。

 

 存在を把握しているスキルは私が保持している六つのスキルと、嫉妬。

 名前でなんとなく能力を察せる他と違って、嫉妬は名前だけ聞いても能力が思い浮かばない。

 他にもそういうスキルがあると予想するなら、適当に単語を羅列して戦闘スキルを探すのは無理があるかもしれない。

 どうせ100ポイントだからと嫉妬を取る選択肢もあるが、これでデメリット持ちスキルとかだったら嫌なので保留。

 

 なら適当にではなく、傾向的に考えよう。

 思い出すのは白蜘蛛、それも強い方の白蜘蛛の行動。

 用いていたのは牙と爪、前者は私には存在しないけど後者なら私も持っている。

 

 ただこう、私の身体って若干不定形というか、硬くないっていうのかな。

 壁に爪を突き立ててみても傷を付ける事は出来ないし、むしろ私の爪の形が崩れた。

 ゆっくりと壁から指を離せば、その爪は元の形へと戻る。

 

 なんだろうね、形が安定してるスライムみたいな感じ。

 身体が液体というわけではないけど、生物の肉体としてはちょっと不思議な感覚。

 魔物だからなんでもありなんだろうね、お陰様で慣れない私は四苦八苦していますけど。

 

 とにかくこのままではダメージを与えられる気がしない、ならスキルに頼ろうというわけだ。

 爪だから属性的には斬撃なのか、それとも爪系のスキルが別であるのか。

 パッと思いつくのは爪撃とか斬(・)撃(・)強(・)化(・)とか、そんな感じかな。

 

《現在所持スキルポイントは60000です》

《スキル『斬撃強化LV1』をスキルポイント300使用して取得可能です》

《取得しますか?》

 

 名前が単純なおかげで当てやすいのは助かるかもしれない、出来ればこういう名前のスキルだけでお願いしたい。

 斬撃強化が存在するってことは他の属性?の攻撃スキルも存在しそうだけど、今は一旦置いておく。

 それにしても300ポイント、鑑定に比べて取得に必要なポイントの数が大きい。

 いや、鑑定の性能がアレだったことを考えるとその分性能が上であることの証明になるのかも?

 

 取り敢えず取得してみよう、話はそれから。

 

《『斬撃強化LV1』を取得しました》

《残りスキルポイント59700です》

 

 相変わらず何かが変わった気配はない、でもこれは常時発動型のスキルなように感じる。

 これがエンチャント的なスキルなら任意発動なんだろうけど、こういう名称ってことは常時行動に補正がかかるとかそんな感じなんじゃないかな。

 というわけで、目の前の岩に向かって思いっ切り右手の爪を振り下ろしてみる。

 

 岩に、小さな傷が付いた。

 

 あと私の爪が変な方向に曲がった。

 

 痛い、やばい、ダメなタイプの痛みが指を襲ってる、ほんとに痛い。

 ちょっと語彙力がなくなるレベルの痛さ、まずいかも、ごめん、痛すぎる。

 さっきのゲジに攻撃された時より痛い、この世界に来てからの一番大きな物理的ダメージが自傷になってる。

 これが斬撃強化の性能、っていうわけじゃない、気がする。

 

 変な曲がり方をしている指を見つめる、さっきと違って“硬そうに見える爪”がそこにあった、曲がってるけど。

 明確な攻撃の意思を持って行動したから身体が変化した?

逆に、気を張らずに脱力してみたら?

 指が、爪が元の緩いシルエットへと戻った。

 でも痛みは消えない、泣きそう、泣きそうだけど涙が出てこない。

 

 これは果たして私の知らないスキルの効果なんだろうか、それとも私の種族特性的なものなんだろうか。

 

 分からないし、その真相は今は重要ではない。

 とにかく私は一つの攻撃手段を手に入れた、その事実だけで十二分な成果。

 嬉しい、心の中で変な笑い声が出そう、でも痛い、心の中で変な呻き声が出そう。

 テンションの上下が激しいのは、ここ短時間で受け入れ難い事が起きすぎて混乱しているからなのか。

 

 でも、とにかく、少しずつだけど前を向けているような気がする。

 

 だから、まずは。

 

 ……まずは、この右手の痛みをどうにかしよう。

 

 

 

***

 

 

 

 茉莉花 影って生徒がクラスにいたことは覚えてる。

 

 私が覚えてるってこと多分交流があったような、なかったような?

 でも印象に残ってるってことはある程度存在感があった生徒だってことで、結構周りからも好かれてる子だった記憶があるんだよね。

 ほら、存在感ない生徒のことは私覚えてないし。

 正直存在感があったとしても覚えてないわ、十人くらいしかクラスメイトのこと覚えてないわ。

 

 我ながらないわー、でも興味なかったしなー。

 じゃあなんで茉莉花さんのことは覚えてるんだろうって考えると……

 う〜ん、授業中によく私(・)の(・)こ(・)と(・)を(・)見(・)て(・)た(・)気がするんだよね、あの子。

 え?自意識過剰だ?そうかもしれんけど!!

 そうですよー、私は所詮万年ボッチのコミュ少女でしたよーだ。

 

 まあ、うん、ぶっちゃけ前世の記憶とか印象とか。

 重要なのはそこじゃないんだよねー、顔と名前を一致させるために思い出してただけだし。

 

 《エルローウンブレラ LV1 茉莉花 影》

 

 確かにあの時、鑑定した時、そう私は認識した。

 見た事のない魔物だからって慌てて鑑定した私が見たのは、前世のクラスメイトの名前。

 魔物の姿となってそこにいる、前世のクラスメイトの姿。

 

 いやさー、私も思ったよ?

 クラスメイト、全員転生しちゃってるんじゃないかって。

 だからこそ思ってたわけよ、なんで私は蜘蛛なんかに転生しちゃってんのさ!!

 でもそれは、どこまでも私自身のことだから軽く言えてたわけで。

 

 ないわー、そりゃないわー。

 

 だからってしてあげられることもないから、何も出来なかったけどさー。

 でも放っておくのもなんだかなー、一応元クラスメイトだしなー。

 って言いながらあの場に置いてきちゃったんだけど、うん。

 自分のことで精一杯だしー、今の私。

 

 どうか、まだ生きてるといいけど。

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