影ですが、なにか?   作:хорошо!

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27 焦土と化す戦場

 《虚飾:神へと至らんとするn%の力。自身と対象の存在を証明し、状態の共有を可能とする。また、Wのシステムを凌駕し、MA領域への干渉権を得る》

 

 虚飾は相手の“影”に、相手の“嘘”になれるスキル。

 相手の持つ影の一部を奪うことで、その相手と一時的に“同じ”になるスキル。

 今の私はあの地龍と同じステータスを保持している、そう、あの地龍と今の私の力量は全く同じ。

 そう聞くととんでもないチートスキルみたいな印象を受けるけど、実際はそこまでぶっ壊れた効果を持っているわけでもない。

 

 相手が私という存在を受け入れてくれないと、当然影を奪うという行為にも“抵抗”される。

 抵抗する相手が強ければ強いほど私が相手からコピーできる要素も減っていく。

 実際に、ステータスは真似出来てもあの地龍のスキル群までは真似出来なかった。

 今の私は他のステータスが上昇した代わりに、防御系のステータスが若干下がっただけのただの“私”。

 

 そんな微々たる変化でも、この場では十二分に機能するんだけど。

 

 急いで蜘蛛子ちゃんと合流する、虚飾の同時発動は出来ないから今の私は蜘蛛子ちゃんの影に潜れない。

 その代わり、潜らない単独行動でもアラバに追いつけるステータスがある。

 蜘蛛子ちゃんに振り下ろされる尾、私はそれを受け止める。

 普段の私なら受け止めて終わり、防御だけが高い私は受け止めたその先が存在しない。

 でも今の私なら、その尾を受け止めた後にそのまま拘束出来る。

 

 アラバの尻尾を掴んで離さない、突然その巨体で抵抗される。

 単純なステータスが並んでるとはいえ、物理方面のスキル群を見た場合はアラバの方が優れている。

 長時間の拘束は難しい、しかしあの巨体相手に私がしっかりと拮抗することが出来ている。

 その大口を開き私にブレスを放とうとしてくるアラバ、しかしその口から息吹は出ない。

 嫉妬の発動は怠らない、既にそれは封じている。

 

 『影ちゃんそのまま拘束よろしく!!』

 

 アラバは他の魔物と違って様々なスキルを操る、展開されるのは闇魔法の闇弾。

 飛来してくるそれらの攻撃は天鱗によって威力を減衰されながら私に届く、ほとんどノーダメージと言っても過言ではない。

 そうやって私に夢中になっている地龍を蜘蛛子ちゃんの糸が襲う。

 尾を掴まれた状態でも上手い具合に攻撃を避けるアラバ、しかし全て避けるには私の存在が邪魔。

 その糸は確かに地龍の身体に絡み付き、動きを阻害していく。

 

 なんらかのスキルを使ったのか、一時的に力の強くなった地龍は無理矢理私の拘束を抜け出した。

 が、そうやって私に夢中になっている間に受けた攻撃や妨害の数は馬鹿にならない。

 戦闘開始時よりも動きが鈍っているアラバは、私のことを無視し始める。

 蜘蛛子ちゃんを倒しさえすれば、その後に待つ私との戦闘も楽に進められると判断したか。

 

 まあ、実際アラバの考える通りなんだけど。

 虚飾は問答無用で相手のステータスをコピーできるようなスキルじゃない、使えば使うだけ使用後の反動がある。

 具体的に言えば一時的な疲労、ステータスの低下、あとMPとSPの減少。

 ほんと絶妙に使い勝手が悪い、かといって使わないのは勿体無いスキルであることは間違いないんだけど。

 

 しかし糸に絡まれたアラバの動きは本来のそれよりも鈍っている、そんな地龍に速度特化の蜘蛛子ちゃんが追いつかれる筈もない。

 ブレスを封じられたアラバは闇魔法を用いて蜘蛛子ちゃんに攻撃するが、魔法の練度は蜘蛛子ちゃんの方が上。

 相殺どころか一方勝ちした蜘蛛子ちゃんの暗黒弾がアラバに殺到し、天鱗の効果によってかき消される。

 

 そんな風に悠長にしていれば、いくら攻撃的なスキルを少ない私でもアクションを起こすことは出来る。

 気闘法だとか龍力だとか、一時的なバフスキルを一気に使用する。

 ステータス的には並んだ今の私でも、普通に攻撃するだけではアラバに致命傷を与えることは不可能。

 拘束行為に徹するのも手ではあるが、今は私がヘイトを買うように意識を変えさせることの方が重要。

 

 スキルを真似出来たわけではない、だから私が放つこれは形だけ真似たただの影魔法。

 しかし意識させればいい、“出来る”という風に相手に錯覚させればそれだけで私に対する警戒心は大きくなる。

 私に口は存在しない、擬似的に再現されたそれは宙に術式を展開し放たれる。

 それはブレス、地龍の放つブレスの猿真似。

 広がった影は形を大きくしながら、地龍の身体を包むように広がっていく。

 

 正直なところ、威力はあんまり大きくない。

 何の妨害もされずに格下相手に当たれば強力かもしれないが、魔法による猿真似である以上この攻撃はアラバの天鱗によって減衰される。

 が、それでも形は、放たれた攻撃の外観は紛れもなくブレスであった。

 自分の姿を真似た相手が、自分の放つブレスを再現し放ってきた。

 その状況を見たアラバは咄嗟にそのブレスを避ける、致命傷になる筈もないその攻撃を無理に避けた。

 

 その避けた先には蜘蛛子ちゃんが張り巡らせた糸がある、カモフラージュされたその糸の網に突っ込んだ。

 またアラバの動きが鈍くなる、完全な拘束は難しい。

 蜘蛛子ちゃんの糸は地龍のステータスでも抜け出すのに苦労する代物、当たれば必殺級の妨害ではある。

 が、相手は地龍、糸を付けた“壁自体”を操ることで自身の身体に糸を付けたまま無理矢理拘束を抜け出してくる。

 

 しかし確実に動きは鈍くなっている、戦況では私達が有利。

 ……と、素直に言い切るのは少し難しい。

 戦場は縦穴、アラバから逃げるように縦穴を登る蜘蛛子ちゃんと、それを追いかけるアラバ。

 そして、そのアラバと並走するように妨害や防御を担っているのが私。

 この場所が縦穴である以上、その高さには限りがある。

 天井に到達すれば蜘蛛子ちゃんの逃げ場はなくなる、そうなると持久戦を求めている私達は途端に不利になる。

 

 それを理解してか私には目もくれず蜘蛛子ちゃんを追い続ける地龍、ブレスモドキに大した威力がないことは先程の一回で既にバレてしまったようで。

 どうにかアラバの攻撃に割り込み防御と拘束を試みてはいるものの、ここまでガン無視されると出来ることも少ない。

 とはいえ無視されているということは、無防備なその身体に攻撃が通る。

 高威力とは言えない私の物理攻撃は、確かにアラバのHPを減らし始めていた。

 

 私に意識を向ければ蜘蛛子ちゃんに対して意識が割けず、蜘蛛糸や魔法などでじわじわと追い詰められる。

 かといって蜘蛛子ちゃんを追いかけると、その隙に撃ち込まれる私の攻撃により少しずつ体力を削られる。

 その上、戦闘が続けば続くほど嫉妬の効果でアラバの手札は減らされていく。

 勝利が見えてきた、それは私も蜘蛛子ちゃんも感じていた感覚だと思う。

 

 効率良く嫉妬を発動するためにと、常にアラバに対して鑑定をかけていたのが功を奏した。

 

 『蜘蛛子ちゃん!!』

 

 『なにさ影ちゃ……うわっ!?』

 

 アラバの行動を阻害していた蜘蛛子ちゃんの糸が“燃えていく”。

 アラバが使うのは土関連の魔法と闇関連の魔法、糸が燃えるなんてことが起きる筈もない。

 そう、これまでは起きる筈がなかった。

 意識したことがなかった、それだけの理由で考慮していなかったその行動。

 その全身に火を纏ったアラバは、保持していたスキルポイントが減少している。

 41000もあったスキルポイントの残数は、たったの100。

 

 「火魔法LV10」

 「火炎魔法LV10」

 「獄炎魔法LV1」

 「火炎強化LV1」

 「火炎耐性LV1」

 「暗黒耐性LV1」

 「空間感知」

 

 〈地龍〉のスキルを封じられ、次は〈大地魔法〉を封じようと嫉妬を発動させていた。

 そんなアラバのスキルが増えた、一気に七つも増えた。

 スキルポイントを使用してスキルを取得する、魔物がその行動をすると考えていなかった。

 いや、普通の魔物だってスキルポイントを持ってるんだから使用する可能性なんていくらでもあった。

 あったけど、勝手な思い込みでその可能性を弾いていただけ。

 

 例によって蜘蛛子ちゃんは火に弱い。

 アラバのステータスから放たれる獄炎魔法は蜘蛛子ちゃんの糸を焼き尽くし、そのまま蜘蛛子ちゃん本人にも殺到する。

 それを避ける彼女、しかし突然のことに動揺したか僅かに攻撃が掠ったのが見えた。

 地龍側に、蜘蛛子ちゃんを倒す明確な決定打が生まれた。

 持久戦を考えるにしても私が今するべきことは、彼女を守ること。

 

 アラバは地龍であって火龍ではない、自身の攻撃によって身体を燃やせば当然自傷ダメージが発生する。

 が、ダメージを気にせずに蜘蛛子ちゃんを殺さんと魔法を連発するアラバ。

 しかもそのダメージ、その自傷ダメージは少しずつ小さくなっている。

 HP高速回復のスキルレベルが上がっている、このままだとやがて自傷ダメージを相殺するだろう。

 

 アラバが壁に手をつく、と同時にその壁を炎が駆け上がっていく。

 縦穴の壁全体に広がった炎は当然蜘蛛子ちゃんの元へ届く、逃げるように上へ上へと登っていく彼女。

 それを追いかけるように壁伝いに走るアラバと私、その地面が突如として隆起する。

 私の行動を阻害するように隆起した壁は私だけをその場に留めて、アラバの行動を助ける橋となる。

 

 これはダメだ、ステータスがどうとか考えてる場合じゃない。

 アラバに対して使用していた虚飾を解く、姿が元に戻ると同時に自分のステータスが低下するのを感じる。

 代わりに蜘蛛子ちゃんに対して発動が出来るようになった虚飾、普段と同じように彼女の影まで転移する。

 

 その先で見えたものは、眼前まで迫る龍の爪。

 

 炎を纏ったそれを私の身体で受けたところで、余波によるダメージが彼女を焼いてしまう。

 ここまで温存してきた純潔で防ぐ、しかし虚飾の使用のせいで私のMPは減少している。

 龍の爪を弾く純潔の結界、もう一度使えるかはかなり怪しい。

 そんな私を嘲笑うかのように、橋へと着地したアラバは再び蜘蛛子ちゃん目掛けて駆けてくる。

 

 上へ、上へと逃げ続ける彼女。

 逃げれば逃げるだけその逃げ道は短くなっていく、そして辿り着く天井。

 もはや逃げ場はなく、私の純潔もMPの回復速度的にまだ使用できない。

 燃え盛る炎の大地と化したこの縦穴は私はともかく、着実に蜘蛛子ちゃんの身体を蝕んでいる。

 しかし逃げ場がないのなら、戦うしかない。

 

 炎を纏いながら突撃してくる地龍、彼女はいつも通りにその攻撃を避ける。

 しかし避けた先には炎、何処にいっても炎がある。

 地龍本人の攻撃を避ければ燃え盛る縦穴の環境にやられる、かといって避けずに受ければ彼女は致命傷を受ける。

 再び繰り出される地龍の爪、これ以上彼女に無理をさせるべきではないとこれを私が受ける。

 

 受けたはいいものの、これは、耐えられない!!

 

 現在ステータスが下がっている私、それでも蜘蛛子ちゃんよりは防御能力が高い。

 ただただそれを上回る地龍の攻撃力が私のHPを削っていく、物凄い速度で減り始めるHP。

 アラバの追撃は止まらない、たとえ背後から蜘蛛子ちゃんの魔法が飛来しようとも。

 あと数秒、あと数秒で私のHPはきっと空になる。

 

 あと数秒、そう、あと数秒。

 

 その数秒が過ぎ去る前に、私でも押し返せる程度にアラバの力が弱々しくなった。

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