影ですが、なにか?   作:邪神ですが。

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4 無計画で無鉄砲

 新たな進捗は、大きく分けて三つくらい。

 

 まず、スキルポイントを使用してスキルのレベルを上げられるのが分かったこと。

 使用ポイントはスキルによってまちまちだけど、とにかく有用そうなスキルを上げようとポイントを使って。

 

 〈隠密LV8〉

 〈斬撃強化LV5〉

 〈鑑定LV5〉

 

 無闇な使いすぎは良くないと、取り敢えずここで止めた。

 わざわざスキルポイントを使わずともスキルの使用とか個体としてのレベルアップとか、そういう部分でもスキルレベルが上がるのは確認出来ている。

 だから適当に使うのも良くないか、と一部のスキルのレベルだけ上げて終わり。

 

 因みにLV5になった鑑定は、前より情報を開示してくれるようになった。

 

 《エルローウンブレラ(茉莉花 影) LV4 ステータス 弱い》

 

 うん、まあ、これからの活躍に期待したい。

 

 二つ目は、自分の戦闘能力が確認出来たこと。

 

 真正面から魔物と戦って特に問題なく勝利出来る事を確認出来た、私の爪は魔物相手に通用する。

 ……闇討ちを真正面からの戦闘とするかは怪しいけども、だって折角隠密のレベル上げたんだもん。

 蜘蛛、ゲジ、あと新しく見かけた蛙のモンスター。

 どれも私の敵ではない……と言ったら盛ってるけど、どれも私の糧となった。

 

 ついでの情報として、レベルアップに関する話。

 どうやらこの世界はレベルアップする度に体力?とかのステータスが全回復するらしくて、戦闘中に受けた毒的な何かが消えるのを確認した。

 それを確認出来たということは当然レベルアップしたということ、今の私はLV4のエルローウンブレラ。

 強いのか弱いのかは分からないけど、鑑定が示すには“弱い”らしいので多分まだまだ弱いんだろうね。

 

 最後に、進んでいた道の先に大穴を見つけたこと。

 

 このダンジョンに“外”があるのかって話、人が存在するなら外の世界はあると思う。

 でも私が外に出たところで門番的な何かに殺されておしまいの未来が見える、怖い。

 なら私が進むべきなのはきっとダンジョンの先、幸い私は壁を歩ける。

 この大穴を下って更なるダンジョンの奥地を目指す、という選択肢が生まれたわけだ。

 

 が、これは一旦保留にしてる。

 

 どうしてダンジョンの奥を目指すかと聞かれたら、ダンジョンの奥にはより強い魔物がいるから。

 より強い魔物がいるってことは多分、倒した時に貰える経験値も多い。

 そうやって強くなれば人間に一方的に殺されるようなこともなくなって、意思の疎通も図れるかもしれない。

 

 じゃあ、どうやってその私より強い魔物を倒す?

 

 《フィンジゴアット LV5 ステータスの鑑定に失敗しました》

 

 その大穴には、蜂のような見た目の魔物が群れて存在していた。

 見た目からして今まで戦ってきた魔物より殺意が高い、なんてったって針がある、そして群れている。

 一対一で勝てたところでどうにもならなそうな蜂が、それはもう沢山。

 この先、こんな魔物ばかりいるのだとしたら私はまだダンジョンの奥へ進むべきではない。

 勝てる可能性が見えない相手に挑むのは勇気ではなく無謀、蛮勇である。

 

 って、思ってたんだけどな……

 

 私は今、見下ろしていた“大穴の下”にいる。

 

 隠密のスキルレベルが高かったからか、“私の他に狙われている魔物がいた”からか。

 それとも、直前に大穴の下を通り過ぎた存在のせいなのか。

 壁を走って、這って、下へ降りてる最中に私が襲われることはなかった。

 どうして躊躇っていた私がこの大穴を降りたのか、それにはちゃんとした理由がある。

 計画性を持たずに突き進むほど私は馬鹿じゃない。

 

 時は遡ること……うん、どれくらい前だろう。

 

 “人の声”が聞こえたような気がして、トラウマが刺激された……

 ってほどではないけど、なんとなく嫌な感じがして大穴に繋がる道を進んだ私。

 その大穴を覗いた先で目に映ったのは蜂、蜂、相変わらずの蜂と、一匹の蜘蛛。

 壁に張り付いた蜘蛛が、蜂に群がられ襲われている姿が見えた。

 

 根拠もなく、あの時に現れた白蜘蛛だと感じた。

 あの時はあんなに恐ろしく、強者だと感じた白蜘蛛も地形と数の暴力で一方的に攻撃されている。

 間違いなく、目(・)が(・)合(・)っ(・)た(・)。

 こちらを認識した白蜘蛛は何かを伝えるわけでもなく、直後に蜂から逃走するためにか壁から飛び降りて。

 巧みに糸を使って大穴を下っていく、やがて私の目にその白蜘蛛は見えなくなる。

 

 目(・)が(・)合(・)っ(・)た(・)。

 

 それだけのことが私にはどうしても無視出来ない。

 その行為に大きな意味があったとは思えないし、ただ相手の目に入っただけというのが一番ありえる。

 でも、目が合った、私と目が合った。

 敵意のない瞳が、私の目を貫いた。

 最(・)初(・)と(・)同(・)じ(・)だ、私の最(・)初(・)と(・)同(・)じ(・)。

 

 それだけのことで、私は駆け出していた。

 

 ……うん、やっぱり無計画で無鉄砲かも。

 改めて考えてみれば、後付けでそれっぽい理由を考えただけにも思える。

 自分でも訳が分からなかった、でも、とにかく私は大穴を降りていた。

 白蜘蛛を追いかけようと必死に、こちらに気付いたような反応を見せる数匹の蜂から目を逸らして。

 

《熟練度が一定に達しました》

《スキル〈隠密LV8〉が〈隠密LV9〉になりました》

 

 やっぱり降りない方が良かったと、今更ながらにそう思った。

 

 降りた先にいたのは、背中に大穴が空いた白蜘蛛。

 岩陰に隠れた白蜘蛛は此方のことを認識していない、私の方からも僅かにしかその姿は確認出来ない。

 恐らくあの蜂の攻撃を受けた傷なんだろう、どう見ても無事ではないと思う。

 けど、どうでもいい、その蜘蛛のために降りた筈なのに。

 もはや、そんなことはどうでもいいと感じていた。

 そう思ってしまうほど、私は目の前の存在に意識を奪われていた。

 

 《地龍アラバ LV31 ステータスの鑑定に失敗しました》

 

 そこにいたのは龍、或いはドラゴン、何処か狼のようにも見えるかもしれない。

 雄大で、悠然として、ある意味で場違いなその姿。

 いいや、本来この場は“その生物ものである”と、そう主張するほどの格の違い。

 翼がないその龍は、悠々とその大地を踏み締める。

 

 勝てるか勝てないか、そんな話が出来るようなレベルの相手ではなかった。

 

 

《熟練度が一定に達しました》

《スキル〈恐怖耐性LV1〉が〈恐怖耐性LV2〉になりました》

 

 初めてこの世界で目覚めた時に感じた恐怖、きっとアレを忘れる事はないと思う。

 なら、この恐怖はなんだろう。

 本能的な恐怖、生物的な恐怖、人としての私ではなく“魔物としての私”が危険信号を発している。

 死にたくない、なんていう感情ではなかった。

 私はアレと関わってはいけない、アレに認識されてはいけない。

 そんな感情、恐怖を恐怖だと認識する暇すらもない。

 

 息を潜め、気配を殺し、降りて来た理由すら忘れ必死に隠れる。

 

 岩場があった、でも、移動すれば見つかるだろう。

 その場に留まる、動けば間違いなく殺される。

 

 ———地龍は去っていった、何もせずに去っていった。

 

 私は生きている、でも、あんなのが沢山いるなら私は生きられない。

 改めて己の間違いを悟る、私はここに来るべきではなかった。

 私は、ここに降りてくるべきではなかった。

 

 

 

***

 

 

 

 目の前を通りかかったはぐれ蜂の首に、爪で斬りかかる。

 落ちて来た蜂に覆い被さって、爪で刺して、吸収。

 一対一という前提があれば、私は蜂相手でもどうにか勝てる。

 逆に、群れに手を出せば間違いなく勝ち目はない。

 

 私がここへ降りて来て、数日が経った。

 

 隠密のスキルレベルが高いからなのか、それとも私の身体の色が目立たないからなのか。

 わざわざ岩場に隠れずとも、その場でじっと動かないだけで私は蜂に認識されない。

 それが分かったのは私にとっての大きな追い風だった。

 

 あの蜂には群れている個体と、はぐれている個体がいる。

 

 群れている個体は集団行動を心がけているというか、とにかく一匹一匹がしっかりと集団で固まっている。

 多分、そのうちのどれか一匹に手を出せば群れ全体が一斉に襲いかかってくるだろう。

 はぐれている個体は単独行動上等勢、統率を外れているからなのか手を出しても群れは気にも留めない。

 それか多分、消えたことにすら気付いてないんじゃないか。

 

 今私がしているのは、そのはぐれ個体が目の前を通るのを待ち構えるという行為。

 

 なんでこんなことをしているのかは、正直分からない。

 いや、こうやって狩りを続ける理由自体は沢山ある。

 レベルを上げるためとか、食料の確保のためとか、まあとにかく沢山。

 実際こうしているうちにLV4からLV6へと成長したし、それに伴って幾つかのスキルレベルも上がった。

 どちらかというと私には“ここに留まる理由”の方がない。

 だってレベル上げも食料確保も、ここじゃなくても出来るんだから。

 

 大穴の上に戻る?正直出来なくはないと思う。

 降りて来た時のように走って登るのは無理だろうけど、隠密を活かしてゆっくり登る分には問題ないような気がする。

 今いる場所が危険だと、そう分かったのだから今すぐにでも元いた場所へ戻るべきだ。

 真っ当に、理性的に考えれば正しいのはその選択。

 しかし視界に映るのは、少しずつ規模を大きくしていく“蜘蛛の巣”のようなもの。

 

 あの白蜘蛛は、大岩を起点として巣作りを行っていた。

 それも明らかに“上へと伸ばす巣作り”を。

 それが意味する事はつまり、あの蜘蛛は上へ帰ろうとしているということ、だろうか。

 巣の拡張の合間合間で糸で作った投擲物のようなものを用いて蜂を狩っているのも何度か捕捉した。

 

 明らかに、私の知ってる魔物の持つ知能ではない。

 

 私が見た魔物といえば、愚直に突進してくる蜘蛛とか奇襲に気付かないゲジとか仲間が消えた事に気付かない蜂とか。

 まあなんというか、大体そんな感じの魔物が多い。

 例外を挙げるなら、最初に私のことを庇ってくれた……と仮定している私の同族。

 そして、あの蜘蛛、あの白蜘蛛だ。

 

 同族の起こした行動、アレは種族的に知能が高いが故の動きの可能性がある。

 そもそも私はあの個体と自分以外にエルローウンブレラという魔物を見たことがない。

 蛙も蜂もゲジも結構な数を見かけたけど、未だ同族は一人しか知らない。

 

 当然、蜘蛛も何度か見かけている、そして仕留めている。

 

 愚直に真っ直ぐ突っ込んで、その牙で襲いかかってくる。

 私の知ってる蜘蛛……スモールレッサータラテクト、だったっけ。

 蜘蛛の知能というのはそんな感じで、あんな風に巣を作っているのも。

 明確な方針を持って行動している姿も、あの蜘蛛以外には見たことがない。

 

 “そんなわけない”という理性が、私に帰ることを求めている。

 “そうかもしれない”という願望が、私に残ることを提案している。

 

 でもやっぱり私はそんな不確定要素に心が囚われている、迷っているようで結局“そうかもしれない”という感情を捨てられない。

 

 だから私はここにいる、まだ私はここに残っている。

 この選択が正しいなんて思わないし、間違っているとしか思えないけど。

 それでも私は、ここにいることを選んだ。

 

 

 

《〈念話LV1〉を取得しました》

《残りスキルポイント57000です》




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