影ですが、なにか? 作:邪神ですが。
巣を拡張して、蜂を迎撃しながら上を目指す。
数日かけて、目標の高さの半分くらいまで拡張して、蜂に目をつけられ、戦って。
マイホームさえあれば何でも出来る!!デカい蜂!!多い蜂!!強い蜂!!
あれだけ恐ろしかった蜂共も、マイホームがある私の敵じゃなかった。
大々的に目をつけられたことで巣の拡張に使える時間は減ったけど、私が有利ならなんだっていい。
だってそれは時間さえかければ脱出出来ることの証明で、私はこのままいけば上に戻れるってこと。
だからかなー、だからなのかなー、気を抜いたつもりはなかったんだけどさ。
危機感が足りなかったんだ、私は、致命的に。
振り向かずとも分かる悪寒、生物的な恐怖。
分かんない、やばい、やばいやばいやばい!!
そんなことしか考えられない、それしか頭に浮かばない、何これ。
振り返らなきゃいけないのに、見たくない。
見たくないけど、見なきゃならない。
《地龍アラバ LV31 ステータスの鑑定に失敗しました》
そこには奴がいた、恐れていた奴がいた。
しかもその目は確実に、私の巣を捉えている。
どうすることもできない。
どうしようと考えることさえできない。
私が、あれをどうこう出来るはずがない。
見逃してくれることを祈るしかないのに、あの龍は私の巣を標的として捉えている。
地龍が、その口を開いたのが見えた。
龍の最大の武器といえば、アイデンティティといえばやっぱりブレスで。
轟音、爆風、破壊の渦、私の視界は光って弾けて。
何が起こったのか正確には分からないけど、分からないけど、私の巣は消失した。
土台にしていた大岩ごと、それどころか、背後の壁まで大きく抉れている。
それにつられて岩が剥離して、崩れて、崩壊して。
文字通り、それは“災害”だった。
ブレスの直撃はどうにか免れた、でも、私は今落下している。
痛い。
そのまま地面に叩きつけられて、HPがごっそり減った、でもまだ生きてる。
痛い。
生きてるけど、このあとは分からない。
あの地龍の気分次第で、私の運命は決まる。
怖い、どうしようもなく怖い、身体が震える。
動いたらそこにいることがバレるかもしれないのに、それでも震えが止まらない。
怖い。
怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い!!
ふと、背中から何かが覆い被さったような感覚がした。
冷たい何か、でも、私はそれを確認出来ない。
怖い、怖い、私はそれしか感じられない。
『大丈夫』
頭に響いたのはそんな声、散々聞かされた天の声(仮)とは違う声。
恐怖のあまり聞こえた幻聴か、それとも何か違うものなのか。
そんなことを考えることも出来ずにひたすら黙って、恐怖して、震えていた私……
いや、震えは、何故だか止まっていた。
いつまでそうしていたのかは分からないし、まだ恐怖は収まらない。
でも、龍の気配は感じない、私はまだ生きている。
生き残った、助かった、それだけの感覚がそこにあって。
ようやく私は背中に覆い被さっている何かの気配を知覚する。
恐る恐る身体を動かしてみれば、ぴくりと。
私に覆い被さる何かが、ぴくりと動いた。
『んぁ』
それは、上で見かけた筈の彼女。
幻覚かもしれない、あまりの恐怖に最近の記憶の中で一番マシなものを。
今の私にとって、一番マシな相手を勝手に思い浮かべているだけかもしれない。
だって彼女がいたのは上層の筈で、ここはそこから先の地下深くの大穴で。
でも確かにそこにいる、でも確かにそこにある。
『これ、聞こえてる?』
頭に響くのは、やっぱりそんな声。
聞き覚えがあるとは言えない、日本語で話す人の声。
私がこの世界で聞いた日本語は天の声(仮)の無機質なものだけ。
でもそれは確かに、人が語りかけてくる時の声だった。
『やっぱり、あなたも
***
彼女のことを私に“被せて”歩く、結構重いけど、彼女の方が隠密のレベルが高いからなのか蜂に気付かれることはなかった。
その道中で話したこと……いや、一方的に聞かされたのは彼女が転生者だということ。
分かってる、分かってた、分かった上で放置していた私と。
私が転生者だということを理解して、私に接触してきた彼女。
『名前だけ、聞いてもいい?』
彼女はきっと〈念話〉を用いて私に話しかけているんだろう。
私はそんなスキルは持ってないし、持っていたとしてもきっと話せない。
だから、爪で地面に文字を書くことでその質問に答えた。
『……若葉、姫色……』
私ってば前世ではボッチだったし、陰キャだったし、コミュ症だったし。
そりゃあそんな微妙な反応にもなりますよね、って思ったけど、案外気にしていないようだった。
初めて会った転生者、意思の疎通が出来る相手。
嬉しかった、そうだよ、嬉しいよ、嬉しいけど。
それを素直に喜べるほど、私は今を“喜べない”。
マイホームが壊されて、上層に帰れる目処も消えて。
私は今、彼女と交流出来たことを素直に喜べない。
あの場に留まって、再びマイホームを作るという選択肢。
無理だった、もう一度あの地龍が来る可能性があるんだから。
どうしても、その選択肢を取ることが出来ない。
次こそはきっと、いや、確実に私は殺される。
だから地龍の進んだ方向とは別の方向に進むことにして、私は今ここにいる。
ここにいるけど、心ここにあらずといった感じ。
怒涛も怒涛、私の心が受け止められる限界を通り越してしまった。
それでも私は生きている、生きているのなら前に進まなければいけない。
進む道はかなり広くて、途方もない。
体長2メートル半はある蜂が自由に飛び回り、体長5メートルくらいはありそうな巨大蟷螂が縦横無尽に動き回れるくらいには広い。
《エルローグレシガード LV7 ステータスの鑑定に失敗しました》
腕が六本もある蟷螂が、群れた蜂相手に迎撃している。
蜂は空中から一斉に攻撃しようとしているのに、蟷螂の方が一枚上手といった形で状況は拮抗している状況。
私達はその様子を岩陰から観察しつつ、軽い休憩を取っていた。
それは物理的な休憩でもあるし、色々と疲れてしまったが故の精神的な休憩でもある。
《エルローグレシガード:エルロー大迷宮下層に生息する蟷螂型の魔物。鎌による強力な物理攻撃を得意とする》
ここが、エルロー大迷宮下層。
中層を通り越して、私は下層まで落ちてきた。
ならきっと私が元々いたのは上層だったんだろう。
それはつまり彼女がいたのも上層だったということ。
どうして彼女が落ちてきたのか、分からない。
そもそも私は彼女の存在に気付かなかった、気付いていなかった。
もし私を追って彼女がここまで来たのだとしたら……
いや、流石にそれはないか、普通に考えて危険すぎるし。
そんな彼女はこちらのことをじっと見つめてきている。
どうしたんだろうかとこちらからも視線を向けると、一言。
『呼び方、若葉ちゃんでいい?』
……なぜなにそんなことを聞いてくるのでしょう?
いや、うーん、確かになんだか違和感があるんだよね。
今の私、人間の姿じゃないからなのか若葉 姫色って呼ばれることに若干の違和感がある。
だから配慮してくれるっていうなら、その言葉に甘えさせてもらおう。
なら、そうだなー、うーん、蜘蛛子でよろしく!!
……の、蜘蛛子の部分だけを地面に書く。
『蜘蛛子ちゃん、了解』
じゃあ私も心の中では
……なんて、そんなくだらない話をしていたからか少しだけ心が落ち着いてきた。
ほぼほぼ一方的な話、会話とはお世辞にも言えないけど。
そこには言葉が、話が通じる相手がいる。
それだけのことが私にとっては嬉しくて、受けたメンタルダメージを相殺してくれていた。
思わぬ形での再会だったけど、こうして前世での知人……
……いや、知人ではないな、知人ではないか。
知人ではないけど、顔を知っている相手と出会えたのは今世の私の数少ない幸運だったと言えなんかデッカい蜘蛛いる!?
《グレータータラテクト LV18 ステータスの鑑定に失敗しました》
《グレータータラテクト:蜘蛛型の魔物タラテクト種の進化形態。肉食で牙に強力な毒を持つ》
うわぁ、タラテクトってことはあれ私の超進化系?
マジで?やべー、すげー、私って最終的にはあんな感じに……
いや、いくとこまでいくとマザーみたいになるのかな。
うっわ、蟷螂が一瞬でバラバラにされた。
あれ10メートルくらいない?蟷螂がちっちゃく見えちゃってるよ?
私のステータス、速度除くと20なんちゃらとかなんですけど。
あの蜘蛛はどんなステータスをしちゃってるんだろうね、マジで。
ステータス……あぁ、影ちゃんのこと鑑定してみようかな。
《エルローウンブレラ(茉莉花 影) LV6
HP:106/106(緑)
MP:60/60(青)
SP:88/88(黄)
:120/120(赤)
平均攻撃能力:68
平均防御能力:80
平均魔法能力:35
平均抵抗能力:22
平均速度能力:60》
あれ、ステータスまで見れてる?
んー、失敗すると思ったからレベルだけ確認するつもりだったんだけど……
いや、まあ、見れたなら見れたでよし!!
ステータスは予想通り、私より余裕で高い。
でしょうねとは思ってた、でしょうね、だって私ってばステータス的には貧弱すぎるんだから。
速度では勝ってるし!?悔しくなんかないんだからね!?
……はぁ、虚しい……
でもさ、敵対する相手みたいなわけでもないんだから別にいいんだよね。
むしろあまりにも弱いと、ほら、私も弱いから守れないし……
なら自分の身は自分で守ってくれた方が、さ?
ステータス的には私が守られる側なんだけど、なんでさー。
とにかく、私は生きている、私は生き残った。
心が折れないように喜びを噛み締めて、絶望は行動のための糧とする。
転生してから苦節……どれくらいだっけ、覚えてないや。
でもとにかく大変だった、大変だったことだけは覚えてる。
そんな中で初めて出会った仲間……もしかしたらこれが最初で最後の仲間かもしれないわけだし?
これからよろしくね、影ちゃん。
……っていう言葉の、よろしくの部分だけを地面に書いた。
『うん、よろしく、蜘蛛子ちゃん』
コミュ症でごめんなさいね!!!!!!
***
その少女を一目見た時に思ったこと。
それは“白い”という思考で、それ以外の感情は不思議と思い浮かばなかった。
その少女を次に見た時に思ったこと。
それは“暗い”という思考で、それ以外の感情は不思議と思い浮かばなかった。
今だから分かることだが、アレは違う。
アレは
アレは
白の彼女には影があり、影の彼女には白がある。
彼女達は二人で一つの存在としてそこにいたのだ。
俺がそれを知った時、正体不明の悪寒に襲われて。
「バルトさー、あんまり乙女を凝視するのは感心しないぞー」
俺はそれ以上深いことを考えないようにした、考えたところで無駄だということは既に分かっている。
だが、そうだな、強いて一つ言わせてもらうなら。
「ね、
魔王様の連れて来たコレは、魔王様と同程度に恐ろしい存在だということか。
魔物図鑑file.?? エルローウンブレラ
LV.01 status
HP:100/100(緑)
MP:55/55(青)
SP:83/83(黄)
:115/115(赤)
平均攻撃能力:62
平均防御能力:75
平均魔法能力:30
平均抵抗能力:17
平均速度能力:55
エルロー大迷宮で死亡した冒険者の遺体の影から這い出るように生まれると噂されている、人影のような姿をした魔物。臆病で仲間意識の強い個体が多く、積極的に人間を襲うことはほとんどない。目撃数が非常に少ないためその素材は高値で取引されている。個体としての危険度はE〜D。