影ですが、なにか? 作:邪神ですが。
結果よければ全て良しなんて言葉を使うタイプじゃないんだけど、今回はまさにそうだった。
本当に言葉の通り上手くいった、結果的には上手くいったと言える。
わざわざ地龍の前で動いたのは正気じゃない選択だ、その上で庇ったのが得体の知れない魔物だというのも、また。
そもそも上層からあの大穴に降りたこと自体、正気の沙汰ではなかったと思う。
でも結果として私は生きているし、隣には今世で初めての仲間がいる。
結果論というのも時には良いもので、とにかく上手くいったという事実だけがそこにあった。
事前に念話の存在を確認出来ていて本当に良かったと思う、正直相手も転生者であることは確信してたんだけど。
そう、私と行動を共にするようになった彼女もまた転生者。
蜘蛛の姿をしたスモールタラテクトという魔物、前世の名前は若葉 姫色だと名乗ったその白蜘蛛。
若葉ちゃんがここにいるってことは、やっぱり私以外のクラスメイトも死んでこの世界に転生してるってことなんだろう。
本人からの要望で今後は彼女のことを蜘蛛子ちゃんと呼ぶことにする、若葉ちゃんって呼び続けるのも違和感があるし。
そんな蜘蛛子ちゃんは今、私の前で痙攣しながら蹲っている。
あの縦穴を離れて下層を探索していた私達は、その道中で何度も何度もタニシのような魔物を目にしていた。
蟷螂とか大きな蜘蛛とか、あと見慣れた蜂とか、まあ他にも色々いたんだけど。
そのタニシはなんというか“他の生物と争っていない”ように見えて、それを疑問に思った私達はそのタニシを興味本位で仕留めてみることにした。
ステータス的にも貧弱なのかあっさりと、私の爪で一発で倒れたそのタニシ。
もはや魔物を食べることにも躊躇いがなくなっているため、迷いなくソレを食べた私は飢えが満たされる感覚と同時に……
……間違いなく死んでいる筈のタニシから、抵抗されていないにも関わらずダメージを受けた。
あと腐蝕耐性のスキルを取得した、そのシステム音声を聞いてなんとなくこれは食べていいものではないんだろうなと察した。
だからこのタニシ達には争った形跡がなく、他の魔物からも無視されているんだろうな、と。
まあそれはどうでも……良くはないんだけど、これくらいなら割とどうでもいい。
問題は、うん、私じゃないから。
この姿になってから、私は味とか食感とか、それらの感覚を感じることが出来ていない。
それは多分口がないからで、食事の方法が捕食というより吸収に近い感じだからなんだと思う。
言語化するとちょっと自分でも嫌になるけど、お陰様で見た目がまアレな魔物達を食べることにも忌避感がないのは明確な利点。
そして“不味いものを食べているという感覚がない”というのも。
私が平然とそれを食べ続ける横で、蜘蛛子ちゃんは青い顔をして震えていた。
蜘蛛の顔色なんてものは私には分からないけど、それでも青い顔と表現してしまうような形相だった。
ダメージを負ってるからとか、見た目がアレだからだとか、多分そういうのじゃない。
このタニシは、とんでもなく不味いんだと思う。
『……残したら……?』
震え蹲りながらそのタニシをちびちびと食べ続ける蜘蛛子ちゃんには、なんとも言えない悲壮感があった。
食べない方がいいと思うんだけどな、それ……
***
探索と戦闘を続けながら時々魔物を鑑定していたら、ようやく鑑定のレベルが上がったところ。
折角だからと蜘蛛子ちゃんのステータスを鑑定してみて、自分のステータスと見比べてみる。
《スモールタラテクト(名前 なし) LV3
HP:38/38(緑)
MP:38/38(青)
SP:38/38(黄)
:38/38(赤)
平均攻撃能力:21
平均防御能力:21
平均魔法能力:19
平均抵抗能力:19
平均速度能力:369》
特筆するべき部分は速度ステータスの高さで、蜘蛛子ちゃんの持つ他のステータスと比べて10倍以上の数値……
そして、私のステータスと比べてもその速度の値は明らかに高い。
しかし他のステータスは私と比べて明らかに全ての数値が低かった。
私が高いのか、蜘蛛子ちゃんが低いのか、それは恐らく後者の方。
なのに私より蜘蛛子ちゃんの方が明らかに戦闘に慣れているし、スムーズに魔物を仕留めている。
背後から奇襲を仕掛けて一撃で仕留めることを狙う私、そう言いながらも一発で仕留められるような相手は中々いない。
大抵、先に攻撃を仕掛けられたという利点を活かして抵抗する魔物を無理矢理押さえ付けるのが私のやり方。
不恰好というかなんというか、正直安定はしていない戦い方だ。
でもきっと真正面から戦えば大抵の魔物に負けるし、私の場合はこうするのが一番マシだった。
蜘蛛子ちゃんも同じだ、奇襲だったり蜘蛛糸を用いた罠を使ったり。
色んなアプローチをかけてはいるけど、ステータスだけを見るなら大抵の相手は格上になる。
私よりも失敗が許されなくて、私よりも求められる要求値が大きい。
一切安定はしてないし、いつかどこかで崩れ落ちるような危うさがある。
なのに私より上手くやれているのは、それが彼女の才能だからか。
それとも、そうしないと“生きていけない”だけの環境だったからなのか。
そうやって鑑定を続けてたら、蜘蛛子ちゃんがその爪で地面に字を刻んだ。
“鑑定、レベル”
『えっと、今は6かな』
蜘蛛子ちゃんは念話を持っていないので、コミュニケーションを取る際はこうやって地面に文字を刻んで会話をしている。
方法が方法なのでたまに伝えたいことが何か分からなくなることもあるけど、まあ急を要する事態じゃなければ大丈夫だろう。
話を聞く限り蜘蛛子ちゃんの鑑定のスキルレベルは7らしく、7になると自分のスキルが確認出来るようになるとのこと。
私は多分、自分で把握出来てないスキルが幾つもある。
それは単純に元々所持しているスキルがどうこうという話もそうだし、レベルアップ音声や取得音声を聞き逃しているという可能性の話でもある。
だからそれを確認出来るというのは嬉しい情報だった、こういう情報共有が出来るのも嬉しい。
まだ転生してから日が浅いとはいえ、訳もわからずこんなダンジョンに放り出されて。
それに対する不安を誤魔化すように、自分の脳内で言葉を紡ぎ続ける。
その吐き出し先が、意思の疎通が出来る相手がいるというのが一つの心の支えになっていた。
いや、流石に愚痴は話さないけど、どう考えても蜘蛛子ちゃんの方が過酷な道のりを歩んでたっぽいし。
私は恵まれている、そう思うことにしておく。
とかなんとか考えてたら暗視のレベルが上がった。
こうやって他のことをしてない時に聞こえてくる言葉はちゃんと把握出来るんだけど、戦闘中とかに聞こえる言葉って何を言ってたのか曖昧で……
やっぱり聞き逃しの再確認が出来る鑑定は優先して上げた方がいいのかもしれない、いっそスキルポイントを使うのも手、か……?
急に、目の前を歩く蜘蛛子ちゃんが振り向いた。
私の様子を確認するためかと見つめ返すが、その視線は私より後ろの何かを捉えている。
その様子に私もすぐに振り返れば、そこにいたのは猿のような姿をした魔物。
《アノグラッチ LV8 ステータスの鑑定に失敗しました》
明らかに私達二人のことを認識してじっと見つめてきている。
大きさは……たぶん2メートルよりちょっと大きいくらい、私もあれくらい大きくなりたい。
蜘蛛子ちゃんが私に目で合図を送ってきた、その瞬間に猿はこちらへと駆け出してくる。
動きを阻害しようと糸を飛ばす蜘蛛子ちゃん、だが猿はそれをステップで避けている。
私にはこの距離で相手に手を出す手段がない、真正面の戦闘は不得手だし割と足手纏い気味。
でもその代わり、私は彼女よりステータスが高い。
蜘蛛子ちゃんの目前に迫った猿が腕を大きく振りかぶる。
が、
弱ってない魔物のフルスイングってこんなに重いんだ、うん。
ちょっと調子乗ったかも、これ私一人だと厳しい。
しかし私は一人ではない、私が抑えている猿に巻き付いた糸は当然蜘蛛子ちゃんのもの。
拘束してしまえばこっちのもので、動きが鈍くなった猿を蜘蛛子ちゃんが投げ飛……飛ば……せて、ない……ね。
とはいえ拘束さえしてしまえば、真正面からじゃ力負けする私でもどうにかなる。
捕食する時と同じように猿の上に覆い被さり、そのまま吸収……
『ぁ、食べる?』
そう聞いたところ頷かれたので、蜘蛛子ちゃんの牙にトドメを譲った。
あんまり人のことを言える立場でもないけど、牙に刺された猿が悶え苦しみながら力尽きるのは中々にグロかった。
捕食といい毒牙といい、やり方にこだわれないから結果的に絵面がグロテスクなことになりがちらしい。
また新しくスキルを取得したけど、これは常時発動系のスキルなのかな。
貰えるなら貰えるに越したことはないんだけど、使い道がわからないスキルばかり把握しても逆に困る。
そう、影魔法とか、名前が名前だから覚えてるけど今のところ使い道がない。
そういえば魔法関連は蜘蛛子ちゃんもよく使い方が分からないらしい、何か特殊な条件でもあるのかな。
そんな蜘蛛子ちゃんは仕留めた猿を食べている、タニシよりは美味しそうに食べてた。
そういえば、この世界ではゲームのようにステータスが存在する。
その中でもSP、それも赤色のバーの方は空腹度的なメーターを表しているらしい。
だから私も食事をするわけで、蜘蛛子ちゃんも食事をするわけだ。
食欲、睡眠欲、あとひとつはノーコメントにしておくけど。
私はあまり睡眠を取らない、この身体になってから眠くなったことがない。
寝ようと思えば寝れるんだと思う、寝たい、ゴロゴロしたいって感じの欲求はあるし。
でも転生してから暫くはこんな場所で寝るのが怖くて、結果的に一睡も出来ず。
ただそれでも不調は出ないし、ステータスの表記にも今のところ異常はない。
だからこの世界は“そういうもの”だと認識していたんだけど、他の魔物を見ると普通に寝てる魔物がいる。
タニシとかがいい例だ、寝てる個体が沢山いる、ほんとに沢山いる。
そしてその認識は、蜘蛛子ちゃんが床に書いた文字によって改められた。
“眠い”
なんというか、私がこの世界の常識だと思ってる要素は実は常識ではない可能性があるのかもしれない。
前世の感覚を引き摺りすぎるとどこかで転ぶかな、なんて思ってたけど。
この調子だと前世の感覚、捨てない方がいいかもしれない。
そんなことを考えながら、私は彼女が作るマイホーム?とやらの設立を手伝った。
ほとんど岩運んだだけだったけどね、私。
『よくタニシ食べれるな影ちゃん……こわ……』