圧巻、って感じで積み上がってる猿の死体の山。
何度か危ない橋を渡りつつも、私達二人は猿の大軍を倒し切った。
その道中でレベルアップしたこともあってHPとかSPは回復している。
けど、蜘蛛子ちゃんと違って私はここまで本格的な戦闘をしたのが初めてだったから……
正直まだ怖い、あと治った筈の身体がまだ痛い。
その時、蜘蛛子ちゃんが何かに気付いて走り出した。
彼女が走ると私の速度では追い付けないので、その後ろをのろのろと追いかける。
そこにあったのは上り坂、明らかに傾いた地形。
私達はエルロー大迷宮とやらの上層から、大穴を落ちて下層にいる。
つまり上り坂があるということは、この坂を進めば中層に進めるということ。
中層に進んで、更に上を目指せば上層へ。
私たちが元いた場所へと戻ることが出来る。
上層なら危険も少ない、一対一なら私が勝てるような魔物ばかりの場所だから。
それは蜘蛛子ちゃんにとっても同じ……というか、蜘蛛子ちゃんにとっての方が重要なんだと思う。
だから急に駆け出したんだろうなぁ……なんて思いながらようやく見えた蜘蛛子ちゃんの後ろ姿、様子がおかしい。
『どうしたの?』
そこから見えたのは、ただひたすらに“赤い”広大な空間。
マグマだ、マグマが溢れてる、身体が熱い。
あまりの暑さに若干HPが減ってる、大きな支障が出るほどではないけどそれくらい暑すぎるってこと。
ほら、あまりの暑さに蜘蛛子ちゃんのお尻が燃えて……
『燃えてる!?』
正確には蜘蛛子ちゃんが出してる糸の部分が燃えていたらしく、慌ててそれを切り離すことで大事には至らなかった。
これは出会った直後に聞いた話なんだけど、彼女の糸は火に弱いらしくてよく燃える。
だからここ……中層と仮定しておくけど、この場所と蜘蛛子ちゃんの相性はとことん悪そう。
そんな風に考えてた時、タツノオトシゴみたいな魔物がいたので取り敢えず鑑定をかけてみる。
《エルローゲネラッシュ LV7 ステータスの鑑定に失敗しました》
ステータスは見れなかったけど、隣にいる蜘蛛子ちゃんの反応的に手に負えないレベルの魔物じゃなさそう?
それかお互いに失敗している感じか、その場合ちょっと危険かも。
ただあのタツノオトシゴはマグマの中を泳いでるし、私達とは距離があるしで仮に見つかっても……
あ、目合った。
タツノオトシゴはこちらを捕捉するや否や、こちらに火の玉を吐き出してきた。
飛んでくる速度は結構速かったけど距離が距離なので避けれる、無事。
というか、原理の分からないファンタジーって感じの攻撃だ、アレ。
私が知ってるそういう技といえば地龍のブレスと、あと蜘蛛子ちゃんの毒合成。
一応私の転生特典?らしい潜影もそれに入るのかな。
ただ私達転生者と明らか超越存在の地龍を除くと本当に初めて見た攻撃だった、なんか嬉しい。
嬉しいけど、これ私達があっちに仕掛ける手段がない。
唯一遠距離攻撃が出来る蜘蛛子ちゃんの糸、ここだと燃えるし。
『撤退撤退』
って感じで、私達は中層の様子だけ見て下層へと戻ってきた。
上層に戻るためには中層を抜けないといけない。
けど中層にあんな感じの遠距離手段を持つ魔物が複数いる場合、私達は戦闘で間違いなく遅れを取る。
そもそも主な戦闘手段の奇襲が通用しづらい、マグマの中にいるんだもん。
遠距離攻撃とかトラップとか、そういうのは蜘蛛子ちゃんの専門だけどそもそも糸が使えないときた。
『……どうしよっか……』
そう聞いたところ、蜘蛛子ちゃんは策があるらしく文字を書き始めた。
地面に書かれた文字は簡素に“進化”、と。
進化、進化ってなんだろう、なにかあったっけ。
なんだかそんな音声を聞いたような聞いていないような気がして、自分自身を鑑定してみるとステータスに“進化可能”という文字が記されていた。
気付かなかった、私ってば音声聞き逃しすぎ?
《進化可能:ウンブレラ OR レアウンブレラ》
表示されたのはそんな文言、どうやら進化先が選べるらしい。
ひとまずそれぞれの種族名を鑑定してみる。
《ウンブレラ:エルロー大迷宮の外部で活動出来るように適応したウンブレラ種。日光に対しての耐性を持つ》
《レクターウンブレラ:群れを率いるウンブレラ種の姿。非常に高い知性を持つ》
文章だけじゃ具体的な違いがよく分からないけど、前者は外での活動に特化した進化ってことなのかな。
で、後者が知能特化の進化になると。
そもそも転生者で人間として最低限の知能がある私にとって魔物基準の高度な知性ってどうなんだ……?というところがある。
けど、そもそも迷宮から脱出する目処も立ってないのに外の活動に適応したところで、まあ。
そう考えると、群れのリーダー的な感じで強そうな後者を選ぶ方がまだマシなのかもしれない。
決めた、私はレクターウンブレラに進化します。
『蜘蛛子ちゃん、これどうすればいい?』
ゆっくりと文字を介して説明されたのは、進化している最中は意識が飛んで動けなくなるということ。
だからこれからまた壁に巣を作って安全に進化をする、ということ。
そして蜘蛛子ちゃんも進化が可能なので、順番に進化してもう一方が進化している間の見張りをするということ。
完璧に理解したので、巣を作るのを手伝った後にまずは私から進化を開始する。
目の前が真っ暗になって、身体が丸まって動かなくなる。
……けど、意識は別に保ったままだ。
何か間違ってるんじゃないかと不安になったけど、私は睡眠を必要としない身体。
実は進化の際に意識が飛ぶのは睡眠にあたる行為で、私は意識を飛ばさずとも進化が出来るのでは?
だからなんだって話なんだけど、だって実際動けないのには違いないし。
動けないのなら、起きていたって仕方がない。
外敵が来ようが襲われようが今の私じゃ対応出来ないわけで、そもそも蜘蛛子ちゃんも見守ってくれてる。
私にとっては初めての、理由のある睡眠が取れるかもしれない。
なんとなく“眠くならない”だけで“寝れる”ということは分かっていた、だって睡眠欲求自体は多少あるし。
というわけで私は転生してから初の睡眠をとります、おやすみなさい。
***
久々すぎる睡眠、物凄い心地良かった。
何が良いって、何も考えなくていいっていうのが良い。
気を張ってた……というよりは、気が気じゃなくて張り詰めてた私のメンタルを休めるのには丁度良い機会だった。
蜘蛛子ちゃんもいるんだから今度からは機会を探してたまに寝ようかなって思うくらいには、快眠。
取り敢えず無事に目覚めたので、蜘蛛子ちゃんにそれを伝えて見張りを交代する。
私と同じように微動だにしなくなった蜘蛛子ちゃんを確認した後、あたりを一度見渡して自分の身体を確認する。
身体が大きくなってたりは、しない。
色が変わってたり、何か新しい部位が生えてたりもしない。
自分に見える範囲では何かが変わったような感覚はないが、そこで役に立つのが鑑定だ。
猿との防衛戦の最中に私の鑑定はレベルが上がってスキルを見られるようになった。
それもあって、期待を込めながらステータスを確認してみる。
《レクターウンブレラ(茉莉花 影) LV1
HP:115/115(緑)
MP:65/65(青)
SP:94/94(黄)
:1/129(赤)
平均攻撃能力:84
平均防御能力:96
平均魔法能力:39
平均抵抗能力:26
平均速度能力:66
「HP自動回復LV2」「SP回復速度LV1」
「SP消費緩和LV1」「斬撃強化LV7」
「集中LV2」「回避LV2」「鑑定LV7」
「念話LV2」「統率LV1」「隠密LV10」
「隠蔽LV1」「影魔法LV4」「外道魔法LV1」
「過食LV2」「暗視LV10」「視覚領域拡張LV1」
「羨望LV2」「毒耐性LV3」「麻痺耐性LV2」
「酸耐性LV2」「腐触耐性LV2」「恐怖耐性LV3」
「外道耐性LV2」「苦痛耐性LV6」
「睡眠無効」「生命LV3」「魔量LV1」
「瞬発LV2」「持久LV5」「剛力LV1」
「堅牢LV1」「疾走LV2」「潜影」
「禁忌LV2」「n%I=W」
スキルポイント:57600》
おお……いや、うん、おお……?
ステータスが上昇してるのは分かる、これは真っ当に強くなった証拠。
これなら猿相手にも真正面から勝て……勝てるかな、だいぶギリギリな気がする。
とはいえステータスが伸びて悪いことなんてない、上昇したのは素直に嬉しいね。
注目するべきなのはスキル、新規習得の分とか見落としてた分とか……
丁度いい機会だし、折角スキルが見れるようになったんだから詳しく確認してみよう。
存在を知らなかったけど使えるスキルとか割とありそうだし、あと名前から用途が予想しづらかったスキルとか。
ということで鑑定を使ってスキル名を鑑定してみる。
特定の行動に対して補正?がかかるスキルとか、食事した分のSPを蓄えられるスキルとか。
あと各種ステータスに対してレベルに応じたプラス補正がかかるスキルとか、まあとにかく色々ある。
基本的に常時発動系のスキルが多くて、任意発動のスキルは微妙なものが集まってる感じ。
正確には使い方が分からない魔法関連のスキル、使ったところで効果があるのか分からないスキル。
影魔法とか羨望とかがその枠に該当する、羨望はスキルを封印出来る的な能力なんだけど相手のスキルが確認出来ないんだから腐ってる。
とはいえそれらのスキルは“あっても困らない"スキル
使い道が分からないだけで、使うことが持っているだけでマイナスになるようなものではない。
今後使い方が見つかるかもしれないしね、やっぱり持ってるに越したことはないわけ。
で、まあ、そう言うからには“あると困るスキル”も当然存在するっぽい。
《禁忌:禁忌を犯した者が得るスキル。決して上げることなかれ》
《n%I=W:鑑定不能》
明らかに“持っていること”自体が厄でありそうなスキルが、二つ。
禁忌はもう説明と名前からして不穏だし、もう一つの方は……
その、何、なんなのかな、これって。
読めないし、何故かこのスキルだけ鑑定不能だし。
なんだか不安になる、気付かないうちに禁忌はLV2になってるし。
これLV10になったら即死するとかある?天罰?
まあ、正直気にしても仕方ない気がする。
だって対処のしようがない、先を気にする暇がないくらいには今生きることに精一杯。
今は進化して、確かに強くなったという部分だけを気にしよう。
少なくとも今の私は昨日の私より強くなってる、何より潜影だってある。
相変わらず遠距離攻撃の手段はないけど、それは蜘蛛子ちゃんが起きてから考えるということで。
……この後進化した蜘蛛子ちゃんのステータスが私より高い、なんてことはないと思ってる。
これはプライドとかマウントの話じゃなくて、単純に種族的な差が出ているように感じるから。
けど蜘蛛子ちゃんはどこを見ても私より強い、色んな意味でそう。
置いて行かれてるのは私の方で、この先も足手纏いになってしまう気がしてならない。
私は彼女に縋ったけど、彼女が私を気にかける理由は“顔見知り”であること以外に存在しないんだから。
いや、顔見知りっていうのも若干違うのかもしれない。
前世のよしみ?面倒見の良さ?そんな感じかな。
蜘蛛子ちゃんを守れるくらい強くなろう、なんて傲慢な願望は私には追いかけられない。
だからせめて、その背中を任せてもらえるように。
隣で眠る蜘蛛子ちゃんを見て、そう思った。
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