幻想郷に飛ばされてしまったアインズ様、今回はこの幻想郷をナザリックの支配下に置くようです。   作:白いスミレ

2 / 2
第2話

ナザリック地下大墳墓。

 

 玉座の間には、静かな緊張が漂っていた。

 

 玉座に座るアインズ。

 

 その左右には、守護者たちが並んでいる。

 

 誰も口を開かない。

 

 彼らが待っているのは、ただ一つ。

 

 偉大なる支配者の言葉だった。

 

「……では、報告を聞こう」

 

 アインズがそう告げる。

 

 最初に前へ出たのは、デミウルゴスだった。

 

「はっ」

 

 デミウルゴスは恭しく一礼する。

 

「現在までに確認できた範囲では、ナザリック周辺に敵対的な勢力は確認されておりません」

 

「そうか」

 

「ただし――」

 

 デミウルゴスが言葉を止めた。

 

「周辺の森林には、我々がこれまで確認したことのない生物が多数存在しております」

 

「具体的には?」

 

「巨大な昆虫。知性を持つと思われる獣。そして――」

 

 デミウルゴスは眼鏡の奥の目を細めた。

 

「人型の存在です」

 

 アインズの赤い眼窩が僅かに輝く。

 

「人間か?」

 

「現時点では断定できません」

 

「……なるほど」

 

 アインズは腕を組んだ。

 

 未知の人型生物。

 

 それだけなら、さほど珍しい話ではない。

 

 しかし問題は、この世界についての情報がほとんど存在しないことだった。

 

 ユグドラシルではない。

 

 これまで訪れた異世界とも異なる。

 

 ならば、この世界の常識がナザリックに通用する保証はどこにもない。

 

「魔法体系については?」

 

「それについても、現在調査中です」

 

「そうか」

 

 アインズは考える。

 

 情報がない。

 

 ならば、集めるしかない。

 

 単純なことだった。

 

「探索範囲を広げる。ただし、こちらから積極的に接触する必要はない」

 

「御意」

 

「敵対する意思を示す者が現れた場合も、可能な限り情報を得ろ」

 

「承知しました」

 

 デミウルゴスが頭を下げる。

 

 アインズは一度、守護者たち全員を見渡した。

 

「この世界について、まだ何も分かっていない。だからこそ、慎重に行動せよ」

 

 その言葉に、全員が静かに耳を傾ける。

 

 

「「「はっ」」」

 

 完璧な返答。

 

 しかし――。

 

 アインズの内心は、それほど落ち着いてはいなかった。

 

 未知の世界。

 

 未知の敵。

 

 そして未知の魔法。

 

 もし、ナザリックが知らない何かが存在していたら?

 

 もし、この世界にワールドアイテムのようなものが存在していたら?

 

 あるいは――。

 

 かつてのプレイヤーが。

 

 アインズはその考えを振り払う。

 

 今は考えても仕方がない。

 

「……まずは情報だ」

 

 その呟きだけが、玉座の間に響いた。

 

 同時刻。

 

 ナザリックから遠く離れた森。

 

 一人の少女が木々の間を歩いていた。

 

「……へぇ」

 

 少女は足を止める。

 

 周囲を見回す。

 

 普通の森。

 

 少なくとも、一見しただけならそう見える。

 

 だが。

 

「なんか変だな」

 

 少女――霧雨魔理沙は帽子のつばを指で持ち上げた。

 

 森の奥。

 

 そこから、微かな魔力の気配が漂っている。

 

 魔理沙は笑った。

 

「面白そうじゃないか」

 

 危険かもしれない。

 

 だが、それ以上に興味があった。

 

 彼女にとって未知とは、恐怖よりも好奇心を刺激するものだった。

 

「ちょっと見に行ってみるか」

 

 魔理沙は箒にまたがった。

 

 そして――。

 

 森の奥へ進んでいく。

 

 そのころ。

 

 博麗神社。

 

「……なんか、おかしい」

 

 霊夢は空を見上げていた。

 

 何かがおかしい。

 

 だが、それが何なのか分からない。

 

 幻想郷の結界。

 

 それに、ほんの僅かな違和感があった。

 

「霊夢ー!」

 

 聞き慣れた声。

 

「魔理沙なら今いないわよ」

 

「いや、今日は魔理沙じゃない」

 

 霊夢が振り返る。

 

「じゃあ何よ」

 

「……分からない」

 

「は?」

 

 霊夢が眉をひそめる。

 

 声の主は続けた。

 

「でも、外側に何かいる」

 

「外側?」

 

「うん」

 

 霊夢は黙った。

 

 幻想郷の外。

 

 そこには、本来ならば簡単に入り込めないものが存在する。

 

 しかし――。

 

 何かがいる。

 

 それだけは分かる。

 

「……紫は?」

 

「まだ来てない」

 

「そう」

 

 霊夢は空を見る。

 

「なら、もう少し様子を見るわ」

 

 さらに同じ頃。

 

 幻想郷の境界。

 

 八雲紫は一人、立っていた。

 

「…………」

 

 目の前に開いたスキマ。

 

 その向こう側。

 

 森。

 

 そして、その森の先に存在する巨大な建造物。

 

 紫は目を細める。

 

「……これは困ったわね」

 

 巨大な建造物。

 

 見たことがない。

 

 幻想郷のどの勢力にも属していない。

 

 そして何より。

 

「……結界の内側に、いつの間に?」

 

 それが問題だった。

 

 紫はスキマを少しだけ広げる。

 

 向こう側を覗く。

 

 何もない。

 

 ――いや。

 

 何もないのではない。

 

 見えない。

 

 そこに何かが存在している。

 

 だが、それを認識することができない。

 

 紫は僅かに笑った。

 

「なるほど」

 

 面白い。

 

 同時に。

 

 危険だ。

 

「少しだけ、覗いてみましょうか」

 

 紫がスキマへ手を伸ばす。

 

 その瞬間。

 

 ――何かに触れた。

 

「……!」

 

 紫の表情が変わる。

 

 ほんの一瞬。

 

 だが、確かに感じた。

 

 こちらを見ている。

 

 誰かが。

 

 向こう側から。

 

 こちらを。

 

「…………」

 

 紫は手を引いた。

 

 スキマを閉じる。

 

「これは……」

 

 笑みが消える。

 

 未知。

 

 幻想郷には、これまでにも数多くの異変があった。

 

 だが。

 

 今回のものは違う。

 

 少なくとも。

 

 紫にはそう思えた。

 

 ナザリック。

 

 玉座の間。

 

「アインズ様」

 

 アルベドが報告する。

 

「周辺空間に、微弱な異常を確認いたしました」

 

「空間?」

 

「はい」

 

 アインズは静かに立ち上がる。

 

「詳細は」

 

「何者かが、ナザリック周辺を探っている可能性があります」

 

「……誰かが?」

 

 アインズの思考が加速する。

 

 先ほどまで、この世界には誰もいないと思っていた。

 

 だが違う。

 

 すでに――。

 

 こちらを認識している存在がいる。

 

「正体は?」

 

「不明です」

 

「……そうか」

 

 アインズは玉座の間を見渡した。

 

 そして静かに告げる。

 

「警戒を強めろ」

 

「はっ」

 

「ただし、こちらからは動くな」

 

「御意」

 

 アインズは一人、窓の外を見る。

 

 ナザリックの外。

 

 遥か彼方。

 

 見知らぬ世界が広がっている。

 

 そして、そのどこかに。

 

 ナザリックを観察している存在がいる。

 

「……面白い」

 

 アインズはそう呟いた。

 

 もっとも。

 

 その言葉とは裏腹に、内心では別のことを考えていた。

 

 ――頼むから、いきなり攻めてこないでくれよ。

 

 夜。

 

 幻想郷。

 

 森の中を、一人の妖怪が歩いていた。

 

「……あれは何だ?」

 

 木々の隙間。

 

 遠くに見える巨大な建造物。

 

 妖怪は目を細める。

 

「こんなもの……昨日までなかったぞ」

 

 その背後。

 

 闇の中から、別の声が響いた。

 

「近づくな」

 

「誰だ?」

 

「知らないほうがいい」

 

「何?」

 

 妖怪が振り返る。

 

 そこには誰もいない。

 

 ただ、声だけが聞こえた。

 

「あそこにいるものは――」

 

 声が止まる。

 

 森に風が吹いた。

 

 木々が揺れる。

 

 そして。

 

「……幻想郷のものではない」

 

 妖怪は再び、遠くの建造物を見る。

 

 その姿は、月明かりの中で異様なほど巨大に見えた。

 

 そして誰も知らない。

 

 その建造物の最深部で。

 

 一人の死の支配者が。

 

 同じように、この世界を見ていることを。

 

 ――まだ。

 

 両者は互いを知らない。

 

 だが。

 

 その距離は。

 

 確実に縮まり始めていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。