Fate/sn×銀英伝クロスを考えてみた   作:白詰草

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閑話14:学校の怪談

 日は昇り、また沈み、時は移る。そして、期末考査も刻一刻と近づいていくのであった。居間の座卓の問題集を前に、士郎は赤毛を抱え込んだ。

 

「ああぁぁ~~。こいつが残ってたんだっけ。ほんと、マジにどうしよう……」

 

 聖杯戦争は一大事だったが、こっちも人生を左右する戦いだ。

 

「ホントにもう、アーチャーが言ってたけど、

 聖杯の加護が俺にもあったらいいのに……」

 

 弟子の嘆きに、同じくテスト勉強に取り組んでいた凛の眉が吊り上がった。

 

「……言わないで!」

 

 設置者の子孫として、心の底からそう思う。なぜ、マスターにも使えるようにしなかったのかと。不可能な理由は重々承知しているが、納得できるかは別の話だ。

 

「サーヴァントは霊格が高いから、膨大な知識を受けても平気なのよ。

 人間ではたちまち脳みそがパンクして、発狂しちゃうでしょうね」

 

「それを魔術で調節するとかさ……」

 

「あんたね、それができたらアインツベルンは第三魔法を自力で復活できるでしょ」

 

「そっかぁ、そうだよな……。でも遠坂はいいよな。

 アーチャーに、勉強教えてもらえばよくないか?」

 

 士郎は、熱心に世界史の教科書を読み耽るアーチャーに目をやった。士官学校というのは、様々な教科があったようだ。さっき、物理の問題に頭を捻っていたら、後ろから覗きこんでいたアーチャーが教えてくれた。

 

「いや、これが絶頂期ということか。

 物理の授業なんて忘れてたけど、今なら解けるんだなあ」

 

 と言いながら。物理は平均点レベルだったそうだが、彼の偏差値はかなり高そうだ。

 

 慎二が参考書から顔を上げ、凛に据わった目を向けた。

 

「おまえが羨ましいよ。

 そいつに霊体化してもらえば、テストだってバッチリじゃないか」

 

 士郎もまじまじと凛を凝視した。彼らは暗黒面に足を突っ込みかけていた。そのぐらい切羽詰まってます。

 

「家庭教師はまだしも、カンニングなんて却下よ!

 フェアでも優雅でもないわ。

 神秘は秘匿するものだけれど、ばれなきゃ魔術で非道をしてもいいって、

 そういうものじゃないでしょ。そんな考えだと、行き着く先は封印指定よ」

 

 凛の厳しい一言に、男ふたりはびくりと背筋を伸ばした。アーチャーも教科書から顔を上げた。

 

「まあ、これは凛が正しいが、こんな状況で勉強どころじゃなかったのは、

 よーくわかるよ。

 私なんて好きな教科以外は及第点を取れればいいやって、

 ぎりぎりまで手を抜いたもんだ」

 

 こっちも問題児か。学年一の成績の遠坂凛は、座卓に拳を打ちつけてから、従者に説教した。

 

「あんた、その結果が今だってわかってんの?

 射撃が下手で、白兵戦もだめ。

 だから、サーヴァントとして呼ばれる羽目になったんでしょ!」

 

「だって、船が沈めば死ぬような戦場では、どっちも意味がない。

 相手も自分も遥か彼方から砲撃しあうんだから。当時はそう思ってね。

 ああ、その二つは手は抜いてないよ。努力しても落第しないのがやっとだった」

 

「なんですって、なお悪いわ!」

 

「そんなことを言っても、私は船育ちの本の虫で、

 ろくに運動なんかしなかったんだから、仕方ないだろう。

 親父が死ななかったら、大学に行ってたし」

 

 二人の言い合いを聞いて、慎二の手からシャープペンが転がり落ちた。

 

「手抜きして及第点って、それは劣等生と違うだろ!?

 っていうか、アーチャーは小学校とか中学校に行ってないのか?」

 

「ああ、うん、通信教育なんだよ。

 修了判定を受けて合格すれば、大学受験はできるからね。

 結局士官学校になってしまったけど」

 

 慎二は黒髪の青年を凝視した。なにそれ怖い。ほぼ独学で大学合格レベルの学力があった、ということではないか。

 

「おまえの志望校って、どんな大学だったんだ?」

 

「首都にある国立大だ。私が尊敬していた国父の名の学校だった。

 父が進学を許してくれたけど、商人だからシビアでね。

 一番学費が安く、一番いい大学にしろ、でないと学費は出さんぞって」

 

 ……それって東大相当!? 高校生三人は揃って平伏し、異口同音に懇願の声を上げた。

 

「お願いします! 勉強教えてください!」

 

「まあ、だいぶ内容も今と違うから、私のわかる範囲なら……」

 

 アーチャーことヤン・ウェンリーは、首から上はまことに役に立つサーヴァントだった。

 

***

 

「ところで、アーチャー。どうすればそんなに頭良くなれるんだ……」

 

 高校生たちの臨時家庭教師となったアーチャーだが、とにかく賢い。未来人のくせに、古文にも対応。これは聖杯のおかげもあるんだろうが。

 

「学校が厳しかったんだよ。

 衣食住を賄ってくれて、少々だが給料も出る。

 そのかわり、55点未満を取ると即座に退学になるけど」

 

 潔癖な印象の眉が寄せられた。

 

「ホントに厳しいな……!」

 

 穂群原の赤点の基準は、平均点の六割未満。だいたい30点から40点の間だ。それに即退学なんてことはない。補習授業というものがある。士郎たちが頑張っているのは、それを回避するためだ。

 

「だろう? 苦手な実技はもう必死だったよ。

 学校を追い出されたら、食いっぱぐれて宿なしになってしまうからね」

 

 生活がかかれば、船育ちのもやしっ子も必死になるのだ。

 

「もっとも、数学は船乗りの必須科目なんだ。

 大航海時代の船乗りは、三角法で進路を計算し、未知の海を越えたんだ。

 その間に必要な食料や水の配分なんかもそうだ。

 そいつは、今も、私たちの時代も大きな違いはないんだよ」

 

「へえぇ……。でもそんなの数学の授業じゃ習わないぞ」

 

「こっちは戦史の授業で習ったのさ。

 人間の歴史は戦争の歴史でもあるんだ。切ないことだがね」

 

 アーチャーことヤン・ウェンリーは溜息を吐いた。まったく、死後まで戦いに呼び出されるなんて、なんの因果だろうか。私が一体何をしたと言うには、心当たりがありすぎる。

 

「せっかく、人類史上でも稀な、平和で豊かな時代なのに、

 なんだってこんな戦いをするんだろう……」

 

「それ、俺に言われても困る」

 

「だよね。士郎君はとばっちりもいいところだもんなあ。

 あ、その計算、間違ってる」

 

「げ、マジ!?」

 

 それを居間の隅っこから、セイバーとランサーが畏怖を込めて見つめていた。

 

「いくら聖杯の加護があっても、あれは無理です……」

 

「おう……。あいつの時代の武人ってのは、学問もできないといけねえのか……」

 

「……あなたは、原初のルーンを習得していると聞きましたが」

 

「アホ抜かせ、あれとは全くの別モンだ。

 それを普通に学んでいる、坊主らも凄くねえか?」

 

「確かに……」

 

 彼らも生前は国内屈指の文化人であった。ただ、時代と国の違いは大きい。ヨーロッパの文明の中心は、長らく地中海地方であり、彼らの故国は辺境もいいところである。

 

 古代ローマ帝国が東西に分裂し、ゲルマン人やサクソン人の侵入に耐えきれなくなったのがセイバーの時代。

 

 それより五世紀ほど遡るが、ランサーはケルトの人間だ。神代に生きたキャスターやライダー、バーサーカーのほうが、文化的にはずっと洗練されているのだった。

 

 それをも凌ぐのが、現代の高校生である。先人たちの知恵よ、ありがとう。そのお陰ではありますが、だからとっても大変です。

 

 士郎は髪を掻きむしった。

 

「と、とてもじゃないけど間に合わないぞ……」

 

「じゃあ、山を賭けるかい?」

 

「へ?」

 

「授業の内容と先生の言葉から、出題傾向を予測するんだ。

 私はそれで乗り切った。六割当たればなんとかなるし」

 

 実戦的なアドバイスに、士郎の顔に喜色が昇った。

 

「お、おお! いいな、それ。なんとかなりそうだ」

 

 黙々と問題集に取り組んでいた凛と慎二が、顔を上げた。

 

「馬鹿ね。なんともならないわよ」

 

「なんでさ!?」

 

「山を六割も当てて、全問正解しなきゃいけないんだぞ。

 非現実的だね」

 

「あ!? ああぁ~~!! そうじゃないか!」

 

 それがわかる二人だって、とっくにハマりかけた落とし穴というわけだが。

 

「普通にやったほうがずっとマシよ」

 

「そうさ。山を賭ける時間、勉強したほうがまだ捗るね」

 

「遠坂、慎二……。それができたら苦労はしないんだ」

 

 そんなのは優等生の言い分だが、この二人はまさしく優等生なのだ。入学以来、穂群原学園二年の不動の一位と二位である。だからこそ、プライドで自縄自縛なのだが。

 

「私も士郎君に賛成だ。

 それは、出題範囲をまんべんなくカバーできる人が言えることだよ。

 そうでない者にとっては、寡兵で大軍に立ち向かうようなものだ。

 戦力を投入すべきポイントを選択し、集中を行わないと」

 

 アーチャーの言い分のほうが、士郎にはずっと賛同できた。

 

「うんうん。で、どんなふうにやればいいのさ?」

 

「なにも闇雲にやるわけじゃない。

 授業内容を見返し、重点を絞り込み、その周辺をカバーする。

 これならずばり的中しなくても、大ハズレはしないよ」

 

 士郎は衝撃を受けた。

 

「ち、違うぞ、アーチャー。

 それ、きっちりと授業がわかっている人のやりかただ……。

 わかんないから山を張るんだ!」

 

「でしょ。だから詰め込んだほうがマシなのよ!」

 

 天才は模倣できないが、秀才の真似はできる。結局、士郎はコツコツと問題集に取り組むことにした。学問に王道はないのである。

 

 そんな学生たちに、ランサーがぽつりと一言。

 

「その山を、アーチャーに張らせたらいいんじゃねえか?」

 

 がばりと顔を上げる士郎に、凛は力なく頭を振った。

 

「無理よ。教えるのはできるけど、山を張るには内容が違いすぎるんだって。

 数学と物理以外は」

 

「なんでそんなことがわかるのさ?」

 

「わたしの隣で授業を受けてたからよ!」

 

 とんだ学校の怪談だ。幽霊のほうが優等生だなんて、笑い話にもならなかった。




注:同盟軍士官学校は一学年五千人弱。東大の合格者数は約三千人。
  自由惑星同盟の人口は百三十億。寿命は百年ぐらい。
  単純計算で、一億人以上は同い年の人間がいる。
  なお、日本の18歳人口は約百二十万人。
  かなりの狭き門であることは間違いない。

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