Fate/sn×銀英伝クロスを考えてみた   作:白詰草

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9:ミッシング・リンク

 黒髪の青年の言葉に、衛宮士郎は口を開いた。五里霧中の状況だが、この青年は頼れるような気がしたのだ。短い間だが彼の為人(ひととなり)はなんとなく分かる。穏やかで公正、優しいが時に厳しい。それに、ただ一人士郎に助け舟を出してくれた。

 

「俺は衛宮士郎だ。十年前に衛宮切嗣に引き取られたんだ。

 魔術は切嗣に教えてもらった。一応は魔術師、いや魔術使いだ」

 

「それはどう違うんだい?」

 

「魔術師みたいに研究はしてないってこと。

 それに俺、大した魔術は使えないぞ。精々、解析と強化ぐらいで」

 

「それだって凄いと思うよ。普通の人にはできないことだろう。

 もちろん、私だってできないよ。魔術なんて、私にとっては想像上のものだった」

 

「あ、そうなんだ……」

 

 アーチャーと名乗った青年の服装は、黒いベレーにジャンパー、アイボリーのスカーフとスラックス。ベレーと襟元に五稜星を配し、左の胸にはオレンジの徽章、左上腕にはエンブレム。現代の軍服にもありそうなデザインだ。半裸の巨人や、鎧甲冑の美少女とは全然違う。 

 

「じゃあ、なんで、俺のこと魔術師って知ってたのさ?」

 

 黒い瞳が金髪の少女に向けられる。 

 

「彼女……、セイバーのサーヴァントがマスターと呼んだからさ。

 サーヴァントを召喚できるのは魔術師、

 もしくは魔術師の素養のある人間だからだよ」

 

「そ、そうなのか?」

 

 アーチャーのマスターが頷いた。

 

「そうよ。なにも知らない素質だけの素人なら話は簡単だったけど、

 魔術を使えるなら、衛宮くんのこともそのままにはできないわよ」

 

「う……」

 

 学園のアイドルが放つ並ならぬ迫力に、士郎は及び腰になった。それをみたセイバーが、膝立ちになりかける。アーチャーは両手を上げ、双方を制するような仕草をした。

 

「だから凛、それは後にしてくれ。セイバーの話が先だ。

 長いこと蚊帳の外に置いてしまって申し訳なかったね、セイバーのサーヴァント。

 君の自己紹介と、十年前の聖杯戦争の話を聞かせてくれないか。

 君のマスターとバーサーカーのマスターを繋ぐ、キーパーソン。

 衛宮切嗣氏のことを」

 

 それまで、会話に入れなかったセイバーは、アーチャーを鋭く見やった。

 

「たしかに私はセイバーのサーヴァントだ。

 だが、アーチャー、あなたにそんなことを聞かれる筋合いはない」

 

 潔癖な少女のサーヴァントを促したのは、当のアーチャーのマスターだった。

 

「気持ちはわかるけど、話した方があなたのためよ、セイバー。

 こいつは、ものすごく悪辣なヤツよ。

 ちょっとした言葉尻からでも、とんでもないことまで見抜くの。

 素直に言ったほうが、まだしも傷が浅くて済むわ」

 

「ひどいなあ、凛。そのおかげで助かったんじゃないか」

 

 凛は豊かな黒髪を、首筋から手櫛で梳き上げた。自分の従者の手口を真似て、圧力をかけてみようと思い立ったのである。

 

「それに、私は冬木の管理者(セカンドオーナー)よ。

 モグリの魔術師、衛宮切嗣と衛宮士郎は、我が家門に入るなり、

 上納金を納めて居住の許可を求めるべきだった。

 それを十年も怠ってきたんだもの、遅延金込みで請求するわ」

 

「ええっ、なんでさ!? なんで、そんなの払わなきゃならないんだよ」

 

「冬木の魔術基盤を使ってるんだからあたりまえじゃないの。

 家賃と使用料みたいなものでしょ。そのための管理者だもの。

 たとえ、月五万や十万でも十年分は大きいわよね、衛宮くん」

 

「いや、待ってくれ。一月分でも大きいぞ!?」

 

「セイバーの証言次第では、遅延金は値引き、分割払いも可としてあげるけど」

 

 これに水を差したのは、凛のサーヴァントである。

 

「日本の法律上、五年前以上の遡及請求は不当だよ、凛。

 彼が父上の跡を継ぎ、一定の責任能力を持った十五歳以降が

 支払期間として妥当だろう。

 君にも知らずに請求を怠っていたという責任があるから、

 さらにその半額ぐらいにしときなさい」

 

「あんた……、ほんとにいいヤツだな!」

 

「アーチャー、あんたね、どっちの味方なの?」

 

「法治国家で不法行為を働くのはよくない」

 

「なんですって?」

 

「君ね、軍人を何だと思ってるのかな。要するに国家公務員だよ。

 法律を守らない軍人なんて存在する価値はない。そういうことは見逃せないな」

 

 凛は座ったままよろめきそうになった。変なところが厳しいサーヴァントである。

 

「それにね、セイバーの証言次第では士郎君はそれどころじゃなくなる」

 

 セイバーが眼差しを険しくした。

 

「どういうことですか、アーチャー」

 

 アーチャーは黒髪をかき回した。

 

「順を追って話すが、最初は君の自己紹介の続きから。

 十年前の切嗣氏のことを。

 まずは、バーサーカーのマスターが、本当に彼の娘なのか」

 

「はい、彼の娘がイリヤスフィールだということは間違いありません。

 しかし、本当にイリヤスフィール本人なのか……。

 今が十年後ならば、あなたはもっと……成長しているはずです」

 

 疑念を籠めたエメラルドに、怒りに燃えたルビーがぶつかる。小柄な少女は立ち上がった。

 

「嘘つきで裏切り者で、おまけに失礼なんて、

 最優じゃなくて最悪のサーヴァントね!」

 

 そして、硬度に勝るほうが相手を粉砕した。

 

「わたしはイリヤスフィール・フォン・アインツベルン。

 キリツグとあなたが死なせたアイリスフィールの娘よ!

 本人がそう言っているのに、人の外見をどうこう言うなんて!」

 

「なっ……」

 

 アーチャーは肩を竦めた。

 

「君の怒りはもっともだし、セイバーの疑いももっともだ。

 人間は、自分の尺度でしか判断のできない生き物だからね。

 自らを知ってもらう努力も必要だよ。

 かわいそうに、一番の被害者が一番何も知らない。

 まずは、全部の事実を並べて、それを分析しないとまとまりやしないさ。

 その後で恨むなり、怒るなり、死後認知やら遺産の請求やらしたらいいんだよ」

 

「はい?」

 

 人とそれ以外の少年少女は異口同音に疑問の声を上げ、青年のサーヴァントに視線を向けた。

 

「士郎君の養父は五年前に亡くなり、相続人は養子の彼一人というわけだ。

 それは、イリヤスフィールという娘が戸籍に載っていないからだ」

 

「え、この子、外国人なんだろ?」

 

「違うよ。父親が日本人ということは、彼女には本来、日本国籍もあるんだよ。

 外国人が日本人と結婚しても日本人にはなれない。だが子供は違う。

 婚姻届を提出した夫婦の子なら、日本国籍と外国籍双方を持つのさ。

 最終的にはどちらかを選ぶんだが、それは大人になってからでもいいんだ」

 

 そう言うと、彼は拙い発音のドイツ語で、イリヤスフィールに語りかけた。

 

【こんなことを言うのは失礼にあたるんだろうが、

 君の母上は、フラウ・アイリスフィールであって、

 フラウ・衛宮ではないんじゃないのかな?】

 

 真紅が漆黒を見た。配慮のいきとどいた穏やかな示唆に、白銀の頭が頷く。

 

【ええ】

 

「つまりね、なんらかの事情で日本の行政機関に婚姻届を出していないんだ。

 そうなると、内縁の妻子ということになって戸籍に載らない。

 戸籍に載らないと相続権がないんだよ。 

 でもね、子どもには父の死後に認知をさせるという権利がある。

 しかるべき書類を添えて、裁判所に訴えればいいのさ。

 そうすれば、君の名は戸籍に載り、

 切嗣氏の遺産の四分の一は法律上君のものにできる」

 

 みな一様に目と口を見開いて、アーチャーの顔を見つめた。

 

「あんた、何者なんだ」

 

 士郎の疑問は、一同の心を代弁していた。アーチャーはもう一度肩を竦めた。

 

「私が十五の時、父が交易船の事故で亡くなってね。乗組員も全員助からなかった。

 私は社長の息子として、遺産相続というか

 負債の清算をしなくちゃならなかったのさ。

 乗組員の遺族にそういう人がいて、一緒に裁判所にも行ったものだよ」

 

「ああ、そこが私とアーチャーの似てるところだったのね。

 ……複雑だわ。性格が似てないってのは安心したけど」

 

 凛は安堵し、先日の戸籍うんぬんの疑問も同時に解消した。どおりで法律にこだわるし、しかもえらく詳しいわけだ。彼の人生経験からの知識だったのか。

 

 しかし、十五歳の少年がやらざるをえなかった、ということは。――彼にも母がいないのだ。なんて皮肉な相似。

 

「どういう意味かな、マスター。

 まあ、だからね、死んだ父親にも、そういう意味での償いをさせることはできる。

 何も知らなかった養子も、間接的にだが償うことになる。

 それでも許せないというのは思想の自由だから、誰にもどうこうは言えないが、

 全てをごっちゃにして、暴力を持ちだすのはよくないよ。争いは何も生み出さない」

 

「……お金なんていらない」

 

「うん。でも、君が切嗣氏の娘だって公式な書類に載る意味は大きい。

 望めば日本人の『衛宮イリヤスフィール』にもなれるんだよ。

 かなり手間はかかるけれどね」

 

 諄々と説かれて、ルビーの炎は鎮火に向かい、イリヤスフィールは、アーチャーのそばに腰を下ろして膝を抱え込む。セイバーの主従からは、ぷいと顔を背けたままだったが。

 

「だから、十年前にイリヤスフィール嬢と同居していた切嗣氏と、

 士郎君を引き取って死去するまで暮らした切嗣氏。

 この切れ目となる第四次の聖杯戦争のパートナー、セイバーの証言は非常に重要だ」

 

「たしかに、私はキリツグのサーヴァントとして第四次聖杯戦争に参加しました。

 しかし、キリツグが私に口を利いたのは三回に過ぎません。

 いずれ劣らぬ強敵ぞろいでありましたが、

 我が剣はどのサーヴァントにも後れをとることはなかった。

 最後に残った黄金のサーヴァントと戦い、あと少しで手が届くというところで、

 キリツグは令呪をもって私に聖杯の破壊を命じました。

 私は抵抗しましたが、重ねて命じられ宝具を抜き、聖杯を破壊しました。

 ……そこで魔力が尽き、現世から消滅しました。

 キリツグこそが聖杯を裏切ったのです」

 

 アーチャーはまた髪をかき回すことになった。これは困った。三回しか会話がないとは、銀河帝国の沈黙提督じゃあるまいに。

 

「なるほど、切嗣氏の聖杯にかける願いや、

 それを諦めた理由は君は知らないのかい?」

 

 金沙の髪が上下に振られた。 

 

「そして、君は聖杯の破壊後どうなったか知っているかい」

 

 それが今度は左右に振られる。なるほど、ここが失われた環だ。

 

「じゃあ、最後になったが、聖杯戦争後から五年前までの切嗣氏を知る、

 士郎君の証言を聞かせてくれないか。君と切嗣氏の出会いから別れまでを。

 辛いことだろうが頼むよ」

 

 穏やかな声のやさしい促しが、士郎の口を自然に開かせた。それは、□□士郎が死した日の記憶。

 

 黒と赤の世界、黒く燃える太陽。焦土の中、薪と化す数多の人々。助けを求める声に耳を塞ぎ、かつて人だった、家族であった炭化物を踏み越えながら、彼は彷徨い歩いた。助けを、救いを、安全を求めて。劫火に感情と柔らかな記憶をくべ、それでもどこかへと向かおうとして……。

 

 次の記憶は、覗き込む灰墨色の目。頬に落ち、濡らしていく冷たい雨と温かな雫。

霞む目に、その人は心から嬉しそうに、悲しそうに笑いかけ、彼を抱きしめて感謝の言葉をくれた。

 

「生きていてくれてありがとう……」

 

 そして、衛宮士郎が誕生した日。その笑顔があまりに幸せそうだったから、彼はそれを拠り所にした。命の代わりに、あの黒と赤の炎に捧げた記憶と感情。がらんどうになった心には、自分は誰かの役に立たねばいけないのだと思った誰かに喜んでもらうこと。自分が助けなかった人への償いにはならないけれど。

 

 家事がからっきしの父に代わって、料理を作り始め、家事を進んでやった。最初は下手だったけれど、父の笑顔がうれしくて、見る見るうちに上達した。

 

 切嗣は、ときおりふらりと旅行に出かけ、海外の土産をくれたが、そのたびに痩せてやつれ、落ち込んでいた。最初に助けられて、養子にならないかと言ってくれた時も、老けていたために、父さんではなくじいさんと呼んでいた。無論、照れくささもあったからだが。

 

「ああ、それはわかるよ。私は里子を預かっていたんだが、

 あの子は私を名前ではなく、階級や役職で呼んでいたものさ」

 

「へ、あんた、俺よりちょっと年上ぐらいだろ? 十八歳ぐらいじゃないのか」

 

「それなんだがねえ……。

 この聖杯、サーヴァントを生前の最盛期の肉体で召喚するんだ。

 言っておくが、私はもっと年上だ。この状態は二十歳の時だよ。

 それは、すべてのサーヴァントに言えるんだ。外見で判断はできない」

 

「そう、そうなんだよ。じいさんは、やつれて老けこんでいたんだ。

 俺もまだ小学生だったから、余計に爺さんに見えた。本当はそうじゃなかったんだ」

 

 そして、五年前の冬の夜。冴え冴えとした月光の下で、士郎は父に誓った。全てに手を差し伸べ、救済する正義の味方。父が諦めてしまった、きれいなユメを必ず実現させると。魔法使いだと言った、養父から教えられた魔術。できることならそれを使って。

 

 そんなこと、ありえない。そんな存在はこの世にいない。思わず反論しようとした凛を、アーチャーは一瞥で制止した。

 

『彼が全てを話すまで、反論は待ってくれ。

 この場だけじゃなくて、彼をよく知り、理解してからだ』

 

『だって、おかしいじゃない。あんな考え方!』

 

『典型的なサバイバーズ・ギルトだよ。

 私の国ではありふれているが、この平和な国では本当に珍しい。

 だから、周囲もケアの方法を知らないんだ。

 というより、病気だとは思わないのさ。だから、安易に責めてはいけない』

 

『病気ですって!?』

 

『重症だよ。でも、私も人の事は言えない。何度も思ったものさ。

 あの時、船を降りなければよかったのにとね。

 そして、きっと、もっとひどいことを巻き起こしただろう。

 身につまされるよ。死んでから思い知らされるとは、皮肉なものだ』

 

 アーチャーは、黒い瞳を伏せた。士郎少年の養父が、彼の言葉に一際嬉しそうな笑みを浮かべて、そして座ったまま、静かに息絶えたというくだりを聞いて。

 

「じいさんが死んで、俺ははじめてじいさんの歳を知った。

 まだ、三十四歳だったんだ」

 

「じゃあ、第四次聖杯戦争当時は二十九歳ということだね。

 そして切嗣氏は、その前はイリヤスフィール君の母の実家で暮らしていたんだね」

 

 白銀が無言で頷く。

 

「さきほど教えてもらった君の年齢から逆算すると、

 彼は二十歳そこそこで魔術の名家から、

 婿入りを乞われるような魔術師だったということになる。

 ……どういう魔術師だったんだい? 

 十代半ばから活動したとしても、研究で名を成せるとは思えないんだが」

 

「アインツベルンの魔術は、あんまり戦闘向きじゃないの。

 だから、名うての傭兵として、キリツグを雇い入れたんだって、お爺さまが」

 

「は? 傭兵ってなんだい」

 

 物騒な単語に、アーチャーだけでなく、高校生コンビも目を瞬いた。前回も参加したという剣の従者が口を開いた。

 

「キリツグは、外道の魔術師を仕留める、フリーランスの暗殺者だったと。

 魔術師殺し、とも呼ばれていました」

 

「他の参加者から?」

 

「はい」

 

 アーチャーはベレーを脱ぐと、眉間を揉みしだいた。

 

「ちょっと待ってくれ。

 それでも活動期間は、やはり十代後半だってことに変わりはないんじゃないか?

 いやはや、何だかわからないが、君たちにとっては、

 切嗣氏の個人史を知ることが重要だろうなあ」

 

 衛宮切嗣の娘と養子は、この指摘に目をまん丸にした。娘は戦争前の父しか知らず、養子はその後の五年間の父しか知らない。声を荒らげたのは、セイバーだった。

 

「なにを悠長な!」

 

「いや、セイバー、前の戦いの検証は非常に重要だよ。

 また同じ轍を踏む羽目になるかもしれない。

 幽霊の我々が、無辜(むこ)の人間に害を及ぼすなんてあってはならないと思う」

 

「戦いになれば、そんなことばかり言ってはいられない!」

 

「たしかにそうなのかも知れないね。私はその点はとても恵まれていた。

 さいわい、そういう事が可能な時代であり、戦場だったんだ。

 君と私は時代や立場が違っている。それは論争しても始まらないことだよ。

 君の気を悪くしたのなら、すまなく思うが」

 

 そして、ぺこりと黒い頭を下げる。見守っていた高校生らは、非常に微妙な気分になった。外見は似ていない兄妹の喧嘩、だが内容は娘を諭す父親だった。

 

「ところでね、セイバー。

 彼らにとって、亡き父を知るための調査と聖杯戦争はまったくの別物さ。

 二週間で終わるものではないだろうし、終わらせるべきものでもない。

 それは混同しないでほしい」

 

「っ……。わかりました」

 

「だから、バーサーカーとセイバーのマスターは、

 互いを殺さぬようにすべきじゃないだろうか。

 この戦いの後も、父のことを知ることができるように。

 サーヴァント同士が勝負をつけるのは、仕方がないのだとしてもね」

 

「心配はいらないわよ、アーチャー。

 わたしのバーサーカーは最強なんだから。

 セイバーみたいなザコ、敵いっこないもの」

 

「そういう言い方はレディにふさわしくないと思うなあ」

 

「むー」

 

 これは『カリスマA』の産物というよりも、父性に富んだ受容的な性格と、柔らかで情理を巧みに織りあげた語り口がもたらすものに違いない。父の愛情に飢えていただろうアインツベルンのマスターがすっかり懐き、衛宮士郎も彼に好感を持っているに違いない。

 

 なんて、ファザコンホイホイ。

 

 一番反感を抱くだろうセイバーが、アーチャーを脱落させてやりたいと思っても、どちらかのマスターから制止がかかるだろう。

 

「ちょっと待ってよ。アーチャー、あんた衛宮くんを聖杯戦争に参加させる気?」

 

 漆黒が琥珀を見つめた。

 

「それは、士郎君の意思次第だよ。しかし、これも言わなきゃいけないだろう。

 セイバーが召喚され、それは冬木にいる他の主従の感知するところになっている。

 こうなると、リタイヤします、記憶も抹消しますじゃ、逆に危険な気がするんだ。

 それに十年前の事情を知るためには、セイバーの助力が必要でもある」

 

「いや、参加するよ、遠坂。俺も、十年前の事が知りたい。

 それ以上に、じいさんのことを知りたいんだ。

 俺を引き取る前の事も。俺、じいさんに娘がいるなんて知らなかった。

 でも、今思うとさ、けっこう頻繁に海外旅行してたのは、

 君のこと迎えに行こうとしてたのかもしれない」

 

「そんなの、ウソよ!」

 

 アーチャーは髪をかき回した。海外旅行、ね。彼に聖杯が囁く。それに必要なものを。彼の国、彼の時代にも似たシステムは残っている。遥かな時が流れても、人間の考えることに大きな違いはないのだろう。

 

「傍証となるものはあるかもしれないよ」


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