Fate/sn×銀英伝クロスを考えてみた   作:白詰草

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2:最弱のサーヴァント

 漆黒の闇に色とりどりの宝石が散らばる。それは地上の大気を通さないため、瞬かない星々の群れ。現代の人間が、見ることのない宇宙空間の光景だ。『彼』は声もなくそれを凝視していた。

 

 鷹揚で磊落な大きな体をした父。男性ばかりで、荒っぽくガサツだったが、彼に優しかった乗組員(クルー)たち。旧式で武骨な星間宇宙船。そこはまぎれもなく彼の家と家族だった。父との目線の高さの差が当初の1/3になった頃に、『彼』は父に大学受験を切り出した。歴史を学びたいという息子に、『歴史で金儲けした奴がいないわけじゃない』と、父親は素直でない了解を寄こした。そして、彼が大学受験のために下船した直後のことだった。核融合炉の事故で、船と家族を失ったのは――

 

 

「う……最悪」

 

 凛が目を覚ました時、時計は八時を回っていた。とにかくだるい。サーヴァント召喚の高揚感が睡眠を取ったことで薄れて、疲労を増幅させてしまったようだ。あと15分で学校の予鈴が鳴る。実際に体調不良なのだから、息せき切って遅刻するより、いっそ休みの連絡を入れてしまおう。

 

 髪を乱し、幽鬼のような足取りで、電話のある居間へと向かう。そこに惨状が待っていた。テーブルにはチラシの裏に新聞の切り抜きが貼られ、疑問符混じりの殴り書きが添えられたものが山積していた。切り抜かれた新聞の残りは、テーブルの下やらソファの周りに散乱している。

 

 その生産者は、六法全書を枕に、黒ベレーをアイマスクにして、ソファの上で熟睡していた。たしか、サーヴァントは睡眠も食事も不要だと聞いていたのだったが……。

 

「ちょっとアーチャー! なに寝てるのよ、起きなさい!」

 

「……うーん、フレデリカ。あと5分、いや4分30秒、4分15秒でいいから……」

 

 フレデリカって誰よ!? 内心で激しく突っ込む凛だった。そしてやたらに具体的な寝言、実は起きているだろうと。とりあえず、肩を掴んで揺さぶり、また耳元で叫ぶ。

 

「アーチャー!!」

 

「う、ううん、いいじゃないか。聖杯戦争は夜にやるんだろうに」

 

 なに、そのいらない知識。国や時代を超えて召喚されるサーヴァントに、聖杯戦争や現代の知識、言語を付与するのも聖杯のバックアップなのだが、正直行き過ぎではないか。

 

「もう、せめてテーブルを片付けてちょうだい。これじゃ紅茶も飲めないでしょ」

 

「……はいはい。私にも一杯貰えるとうれしいなあ」

 

 黒い頭がむくりと動き、白兵戦や射撃とは縁のなさそうな手がベレーを握って伸びをした。そのままソファーから起きあがると、ようやく立ち上がっておざなりにチラシをまとめ始める。

 

「そう言えば今日はどうするんだい? 君は学生だよね」

 

「あー!!」

 

 アーチャーからの意外な指摘で、凛は当初の目的を思い出した。

 

「今日は体調不良で休むって連絡するわ。あなたとこの街の下見をしなくちゃ」

 

「それなんだけど、今まで知らなかった親戚が、急に訪ねて来るから、

 ということにしてくれないか」

 

「は?」

 

「そっちも後で説明するよ。学校が始まる前に先に連絡をしておいで」

 

 アーチャーに促されるままに学校に連絡し、ついでにケトルを火にかけ、湯が沸くのを待つ。その間にポットとカップ2つも温めておく。ちょっと奮発してお気に入りの茶葉をティースプーンに2杯半。

 

 沸騰の大きな泡が連続して立つようになったら、高い位置から円を描くように湯を注ぎ、素早くポットに蓋をして、砂時計をひっくり返す。そしてポットとカップを盆に載せて、居間へと向かう。

 

 とりあえず、アーチャーの片付けは、見られる程度に進んでいた。新聞はラックに戻り、チラシと六法全書はソファの反対の隅に積み重ねられている。

 

 凛は盆をテーブルに置くと、砂が落ち切るのを見計らい、2つのカップに均等に紅茶を注いだ。もちろん、最後の一滴(ゴールデンドロップ)まで落としきる。

 

「はい、どうぞ」

 

「ありがとう、久しぶりだ。……うん、君もなかなか上手だね。とてもおいしいよ」

 

「『君も』?」

 

「ああ、私には被保護者、ええと里子がいてね。本当によくできた子で、紅茶を淹れる名人だったよ」

 

「それじゃあ、フレデリカって誰なの?」

 

「私の妻だよ。……傷付くからそんなに驚かないでくれないか、マスター」

 

「そ、そうね、あなた実際は33歳なんだものね」

 

 改めて彼を見れば、左の薬指にプラチナの結婚指輪をはめている。そのあたりは遥か未来でも変わらないものらしい。

 

「なりたくてなったわけじゃないんだけどなあ」

 

 アーチャーは天井を仰いで嘆息した。

 

「まあ、私のことはさておいて、この戦争の基本方針をどうするか相談しよう」

 

「そうだ、宝具、あなた宝具は持ってないの?」

 

「まあ、宝具っていうか、使えそうな武器はこれぐらいだね」

 

 アーチャーがジャンパーのポケットから出したのは、一見拳銃に見えた。

 

「自由惑星同盟軍制式光線銃(ブラスター)

 一応、君の魔力の続く限り、エネルギー切れにならないみたいだ。

 有効射程距離は30メートル前後だね」

 

 取り出された未来の武器に、凛の愁眉もようやく開いた。なるほど、この武器なら引き金を引く以上の腕力は不要だ。そして光線銃というからには、その弾速はほぼ光速。アーチャー自身の敏捷もさほど問題ではなくなる。

 

「ただ問題は……」

 

「問題は?」

 

「わたしの射撃が下手くそだってことさ」

 

 今度は凛のこめかみに青筋が浮いた。

 

「……あなた、本当にそれでも軍人なの!?」

 

「うん、それはよくみんなに言われた。今にして思えばちょっと後悔しているよ。

 でも、『座』に固定された私は不変だからね。

 今さら練習しても上達しないから、現状を凌ぐのは難しい」

 

「じゃあ、どうするのよ……」

 

「聖杯からの知識によると、私たちを現世に留めおけるのは期間限定だそうだね。

 要はその間、生き残ればいいんじゃないかな。

 君は何が何でも聖杯が必要なわけでもないみたいだし、こんなことで死ぬのも馬鹿らしいだろう」

 

「あのね、召喚した時にも言ったと思うけど、

 遠坂の後継者として、参加するからには勝ちにいかないといけないのよ」

 

 そろそろ、こめかみと心の血管が切れそうになってきた凛である。対するアーチャーは、あくまで冷静だった。

 

「でも勝利を収めて自分は死ぬ、ということも有り得る。

 これは、私の国でも起こった例だよ。

 自分が負ける、死ぬと思って戦争をする人間は少ないけどね。

 でも、それこそが一番考えるべきことなんだ」

 

 漆黒の瞳は凛を見つめていたが、その対象はずっと彼方にあるものなのだろう。彼は、傍らの六法全書を手にとった。最初のほうの頁を開いて、凛の前に差し出す。

 

「どんなに平凡な人間だって、誰もその人の代わりにはなれない。敵を倒すということは、それが方向を変えるだけだということも。せっかく、君は素晴らしい憲法を持った国に生まれたのだから」

 

 軍人らしさのない指が示したのは前文と第九条。現在では右派左派の論争の的となっているのだが、150年間戦争が続く世界の人間の指摘は、あまりにも重たいものだった。……しかし。

 

「サーヴァントに日本の法律について言われるなんて……」

 

 魔術という、現代から過去に逆行する学問においては、最も相性の悪い分野であったろう。そもそも、魔術によって生じた現象に、どんな法律が適用できるというのか。召喚したサーヴァントの行為など、その最たるものである。

 

「だからね」

 

 アーチャーは傍らのチラシの束に手をやった。

 

「私に、こういったことを命じないで欲しい。令呪を使われる前に、座に帰らせてもらうよ」

 

 それらは、例の事件の記事が時系列順にスクラップされ、英語らしき書き込みがされていた。

 

「これ……、あなた一晩で調べたの?」

 

「そりゃ、私もこういう仕事で給料を貰っていたんだから。

 とりあえず、ここにあった新聞の中で、サーヴァントによると思われる事件を抜き出してみたよ。

 少なくとも三件、集団昏倒事件に、吸血鬼、一家三人の刀槍によるとみられる惨殺。

 今現界しているサーヴァントが、私を含めて六人。

 時系列的に私は除外できる。

 全て異なる犯人によるものなら、3/5が住民相手に残虐行為を働いていることになる」

 

 アーチャーの表情や口調は、柔らかで穏やかなものだったが、生半可な反論を許さぬ強さを秘めている。

 

「サーヴァント同士が争うなら、死人をもう一度殺すようなものだ。

 せいぜい他人に迷惑をかけないようにやればいい。

 何も知らない住民を巻き込むなんて、戦争とさえ言えない。単なる暴力だ」

 

 アーチャーの瞳が、凛の翡翠の瞳をひたと見つめる。今朝がたの夢でみた、星の海の闇そのままの色で。遠坂家の広い居間は、まだ十分に暖房が効いていないのに、凛は背筋に滲む汗を感じた。

 

「……返す言葉がないわね。

 一応聖杯戦争に監督役はいるけど、サーヴァントには対抗できないもの。

 結局、サーヴァントにはサーヴァント、ということになるわ。

 またはマスターの排除だけど」

 

「できれば人的被害を出したくないね。それが競争相手だとしても」

 

「でも、サーヴァントを倒すより、マスターを倒した方が楽なのよ」

 

「凛、凛、よく考えてごらん。

 一度、その手を血で汚したら、大海の水を以ってしても雪ぐことはできないんだよ」

 

 そう言うと、アーチャーは少し冷めた紅茶を飲み干した。

 

「もっとも、現段階では情報が少なすぎる。

 君以外のマスターやサーヴァントも分からないのに、闇雲に打って出るのは無謀だよ。

 だから、まずは情報収集をしないとね」

 

「でも、どうやって……」

 

「君の父上やご先祖様はなにか記録を残していないのかい?」

 

「正直にいうと、父の記録は所在が分からなかったわ。

 もっと古い物はあるにはあるけど、沢山あるし、何て書いてあるのか解読できなかったし」

 

「この聖杯戦争は、五回目だそうだね。では、四回目は何年前かな?」

 

「十年前。それで父が……」

 

「……そうか、すまない。じゃあその前はいつかな」

 

「第三回はその六十年前よ。聖杯戦争の開始は、だいたい二百年前ね」

 

「じゃあ、周期は通常六十年であっているのかい?」

 

「ええ、そのようね」

 

「う~ん、十年前……ね。

 できれば三次と四次を比較してみたいけれど、とりあえず前回の状況を調べないか?」

 

「だから、どうやって!?」

 

 また柳眉を釣りあげかけた凛に、アーチャーは穏やかに笑いかけた。

 

「個人的な記録が曖昧なら、公式や報道の記録を調べる。歴史学の基本さ。

 案内してもらえないかな?」

 

「どこへ?」

 

「市役所と図書館と教育委員会。この街にあるなら博物館も。でもその前に銀行だね」

 

 凛は、唖然としてアーチャーを見つめた。たしかに彼の世界は、現代社会と大枠で似ているようではあった。しかし、サーヴァントという幻想の存在に、こんなに現実的な場所を口にされるとは思わなかった。その凛に、アーチャーは苦笑をして肩を竦めた。

 

「人間の本質なんて、千六百年経っても変わらないのさ。

 戦争にお金がかかるってこともね」

 

 調べ物をするなら、実体化して同行しないと意味がないとのアーチャーの主張はもっともであった。幸い、彼の容姿は日本人と主張してもそうは問題ない。だが、問題は服装である。このちょっとぼうっとした、大人しそうな文系青年にはミリタリー系ファッションが全く似合わないのである。

 

 幸い、凛の父とアーチャーの体格は近かった。時臣が亡くなった頃の物は、さすがに彼には似合わない。しかし、資産家の着道楽らしく、学生時代にオーダーした衣服も残っていた。父のシャツにウールのパンツ、紺のコートに着替えたアーチャーは、見事に学生にしか見えなくなった。

 

 銀行に向かう途中、凛は彼に疑問をぶつけた。

 

「たしかに、あの三件の事件は私もサーヴァントの仕業だと思うわよ。

 でも、どうしてあなたはそう考えたの? 昨日、いえ今朝召喚されたばっかりで」

 

 凛の疑問に、アーチャーは黒髪をかき回した。

 

「じゃあ、まずは集団昏倒事件から話そうか。

 ガス中毒説があげられているが、一家四人のうち父親が入院、

 母と幼児は軽症というケースがあった。これはね、おかしいんだよ」

 

「どうしてよ」

 

「要するに毒物だ。体重の軽い方が重症化する。

 彼らが住んでいたのは2DKのアパートだったね。

 同じようなアパートの賃貸情報の広告があったが、

 ああいう間取りなら、一家そろって同じ部屋で寝るはずだ。

 母子が重症、父が軽症ならありうるが、逆はまずない。

 一方で、一家三人入院の例。これは子どもが高校生だ。

 被害者をえり好みしているし、えり好みのできる実力者だよ」

 

「えり好みってなにがよ」

 

「母親が倒れたら、小さな子の面倒を見る者がいなくなる。

 本質的には戦いに向いていない、むしろ優しい人物だと思うね。

 女性の可能性が高いな。本当のガスなら子どもから先に死ぬ」

 

 百五十年間戦争をやっている国の軍人の言葉には、容赦というものがなかった。言葉を失くす凛に、アーチャーは肩を竦めた。

 

「こんな言葉で君が蒼褪めるくらいだ。この国は本当に平和なんだね。

 だから、吸血鬼事件もこの国の人にはまずできない」

 

「あんまり聞きたくなくなってきたけど、一応聞くわ。どうしてよ」

 

「凛、君はずいぶん華奢だね。新聞や広告に載っていた人も全般的に細い。

 それでも犠牲者の成人男女なら、五十から七十キロ前後は体重があるだろう。

 その人間を昏倒させて、路地裏まで引っ張り、抱き起こして首に齧りつく。

 たしかに生前の私にもできたよ。軍人として訓練をしていたからね。

 とはいっても、同じぐらいの体格の相手までだが。

 だが、なんの素養もない、普通の人には不可能だよ。気絶した人間はとても重い。

 体格差でできるとしたら、身長は百八十センチ以上、体重は九十キロ近い偉丈夫になる。

 私の国には大勢いるが、この国ではそんな人間は少ないんじゃないのかい?」

 

 魔術など知らない遥か未来の住人は、非常に論理的に不審点を炙り出していく。

 

「だいたい、人間の歯は首に穴があくようには噛み付けない。

 歯の形状もそうだが、そこまでの顎の力もないし、

 生身の人間がこんな肉体的接触をしたら、唾液やDNAも付着する。

 これだけ治安のいい国の警察だ。そんなに無能じゃないだろう」

 

「うう、一々もっともだわ。じゃあ、最後の一家三人惨殺は……?」

 

 そう聞く凛に、アーチャーは黒髪をかき回しながら反問した。

 

「刀と槍の違いはなにかな、凛?」

 

「ええ? 斬るのと刺すのかしら」

 

「それもあるけど、片刃と両刃だよ。

 この国の一般的は刃物は包丁だろうが、

 つまりは刺し傷の形状や深さがあてはまらないんだろう。

 なんで、複数の武器を使う必要があるんだ?」

 

「え?」

 

 意表を突かれてぽかんとした凛が、震え上がるのはこの後だった。

 

「普通の人間には、片刃と両刃の武器を右手と左手に握って戦うことなどできない。

 訓練を積んだ最精鋭の白兵戦闘員も、そんな戦い方はしない。

 そして悲鳴も上げぬ間に、三人を同じ部屋で滅多刺しにして殺す。

 これも不可能だよ。滅多刺しという条件を除くなら、私の部下にはできる者がいた。

 しかし、それには一撃で即死させる必要がある。そうでなきゃ、この図式は成立しない。

 一人が滅多刺しにされていうちに、残りは逃げるからさ。大声で悲鳴を上げてね」

 

 数式を述べる学者のように、淡々とした口調で恐るべきことを口にする。外見がおとなしいだけに、怖いことこの上ない。言いながら、彼は小首を傾げた。

 

「殺害方法としてはいささか馬鹿馬鹿しいが、複数の片刃や両刃の刃物を、

 マシンガンのように投げつければ可能かも知れないがね」

 

 もはや凛には言葉もない。こういうことをして給料をもらっていたというのは何の誇張もなかった。

 

 軍資金を降ろした後で、アーチャーに通信機器が絶対に必要だと強く主張され、

凛にとっての鬼門、携帯電話ショップに行くことにした。

 

「別にあなたとは心話ができるんだから、携帯なんかなくってもいいじゃない」

 

「心で念じて救急車や警察が来てくれるなら、問題はないんだけどね」

 

「っく、分かったわよ」

 

 たとえ彼の外見は凛と同年代でも、中身はずっと年長者。やんわりと正論で返されると、凛も反論できない。

 

 とりあえず、操作が簡単だという携帯電話を購入し、アーチャーがマニュアル片手に、ちょっと不器用な手つきで、短縮ボタンに救急と警察とタクシー会社の電話番号を入力するのを横目で見て、改めてサーヴァントって何だろう思う凛であった。

 

 そして、次に向かったのが市役所。

アーチャーが凛に取るようにと言ったのは、なんと遠坂家代々の戸籍謄本であった。その間、市役所のロビーの情報公開コーナーで、人口統計を調べ始めたではないか。

 

「ねえ……ほんとうにあなた、何やっているのよ……」

 

「凛、なんで何百年、何千年前の歴史が伝わっていると思う?」

 

「……考えたこともなかったけど、言い伝えとか古文書とか?」

 

「うん、正解だ。特に第一資料は、時の政権の公式文書だよ。

 よくお役所仕事っていうけど、そう馬鹿にしたものでもない。……ほら」

 

 アーチャーの指が、人口統計の十年前の行を指した。

 

「冬木市の年間死亡者数は、この統計上だとだいたい年六百から七百人台だね。

 でもこの年は千二百人に届いている。平年の倍だ。これは異常だよ」

 

「この年に、冬木では大火災が起こったの。死者は五百人以上だったそうよ」

 

「四回目との関連は?」

 

「たぶん」

 

 気まずく黙りかけたところに、凛の受付番号を告げるアナウンスが聞こえたのは、救いであったろう。だが、会計窓口で請求金額を聞いて、仰天する凛であった。

 

「い、一万円以上!? さっきの携帯より高いじゃない」

 

「さすが、先祖代々の名家だね」

 

 古い戸籍は一通750円。それを先祖代々で遡って取ると、予想もしない金額を請求されるのだ。二十通ちかくになった戸籍謄本を受け取ると、二人はロビーの隅の椅子に戻った。アーチャーが戸籍を新しい方からめくっていく。五通目あたりに入ったところで、一人の名前を指差した。

 

「ああ、やっぱり、君の父方祖父の弟が養子に出てるね。

 この人が私の祖父。生前は養子ということを母も知らなかった。

 先日亡くなってね、戸籍を取ったら、遠坂家が実家だとわかったんだ」

 

『……ということにしよう』

 

 と、器用に念話を交えて話すアーチャー。凛も当たり障りなく答える。

 

「じゃあ、大叔父さんの孫ということね」

 

「そういうことになるのかなあ。あ、そろそろお昼にしないかい」

 

 ちょうど正午のチャイムが鳴った。

 

『サーヴァントは食事はいらないんでしょう?』

 

『君は朝食抜きだろう。腹が減っては戦はできないよ。それはもう……』

 

 おっとりとした顔が一瞬苦渋の色を浮かべる。だが、彼はすぐにそれを消し去った。


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