Fate/sn×銀英伝クロスを考えてみた   作:白詰草

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メイド【英】小間使い
サーヴァント【英】家僕


閑話5:メイドとサーヴァント

 イリヤスフィール・フォン・アインツベルンとその一行は、アーチャーの依頼を果たすべく、家電量販店に繰り出した。銀髪紅眼の美少女が一人、美女が二人。金髪翠眼の美少女が一人。その目立つことときたら。平日の日中で、客の少ない時間の来訪なのは、店にとって幸いだった。

 

 そして、この美しい外国人女性たちが、日本語に不自由していないこともだ。

 

「すーごい、色々なケイタイがあるのね」

 

 外見上の最年少者が、大きな瞳を輝かせる。本物のルビーにも勝るほどに。

 

「リンはどんなのにしたのかな?」

 

「遠坂様と同じ物になさいますか、お嬢様?」

 

「セラ、どれがそうなの」

 

「機種をうかがってまいりました。ええと、あ、あちらですね」

 

 少し離れたコーナーにある、シンプルな外観の携帯電話だった。

正面に配置された最新機種よりも、やや大ぶりでボタンの数も少ない。

壁のポップには『初心者の方、ご高齢の方にもおすすめ!』の紹介文が。

 

「……これ、おじいさん、おばあさん用のなの?」

 

 ぽつりと言った主人に、セラは礼儀正しい反論をした。

 

「初めての方にも使いやすい、ということで選ばれたのではないでしょうか。

 アーチャー様がお使いになる場合もあるでしょうから」

 

「どうする、イリヤ」

 

「リズ、様をつけなさい」

 

 メイド二人のやりとりに、白銀の頭が傾げられる。

 

「これも悪くないと思うけど、さっきのみたいにキレイな色のがないわ。

 赤だとリンと一緒になっちゃうもん。違うのがいい。あ、あれがかわいい!」

 

 イリヤが指差したのは、キッズ携帯と書かれたコーナー。しかし、セラは首を振った。

 

「旅行中などの短期間ならば、プリペイド携帯というものがよいそうですわ。

 それには専用の機種があるようです。

 とりあえず、そちらになさってはいかがでしょうか」

 

「えー、こっち? あんまりかわいいのがないじゃない」

 

「これが終われば、一旦、ドイツにお帰りになるのですから」

 

 セラの言葉に、少女は目を見開いた。

 

「ドイツに帰る……なぜなの?」

 

 イリヤは、聖杯の器として形作られ、生まれ、生きてきた存在だった。五十年も繰り上がった聖杯戦争に参加するべく、さらに急遽調整されたホムンクルス。この戦いの勝者となれば、小聖杯となるだろう。よしんば聖杯が降りなくても、長い命ではない。

 

【昨晩、旦那様にアーチャー様のお考えをお話ししました。

 驚いておいででしたわ】

 

 キャスターとして第三魔法の魔法使いを召喚し、協力してくれる魔術師を参加させ、

サーヴァントを令呪で自殺させればいい。

 

 あるいは、不老不死となって存命かもしれない魔法使いを探し出す。おおむね平和な、情報が行き渡る社会となった今、全世界に訪ね人をするのも可能だろうと。

 

【それは、アハトお爺さまも驚くだろうけど……】

 

【今回は無理をせず、あの方のお考えを詳しくお聞きするようにとのお言葉です。

 無論、お嬢様には勝ちぬくお力がありましょうが、

 その方法も視野に入れるとなると、

 この先もお元気でいていただかなくてはなりませんから】

 

 それは、次回への布石として、イリヤの体を再調整するというものだった。アインツベルン千年の歴史が生んだ、奇蹟の存在。アーチャーの考えを聞かされてみれば、イレギュラーの今回で使い潰すのは惜しくなる。

 

 六十年以内に訪ね人が見つかれば、小聖杯としての魔術特性を持つイリヤは、魔法使いの後継者にうってつけだ。

 

 見つからなかった場合には、次回の聖杯戦争で、アインツベルンの魔法使いを召喚するのだ。第六次のキャスターのマスターとなれるように、より高度な調整を行う必要がある。小聖杯になって、意識や知能を喪失してしまうと、魔法を継承できないからだ。

 

 並行して、新たな戦略を練らなくてはならない。次回のキャスターを、アインツベルンの魔法使いとするなら、この冬木の霊脈に拠点が必要になる。遠坂家の協力が不可欠だ。

 

 そして、第三魔法が不明である以上、聖杯の器をホムンクルスにするのは疑問である。第三魔法の使い手が、自ら望む形に器をアレンジをするかもしれない。ホムンクルスの調整は、聖杯戦争の二週間程度でできるものではない。だとしたら、無機物の方が適している。

 

 アーチャーの言葉をきっかけに、様々な検討が必要となったのだ。

 

 それは、イリヤが一般人の天寿に近い年月を生きられるということだ。セラの密やかな願いだった。彼女はイリヤの教師となるために調整されたホムンクルスだ。高い知性と母性的な性格を持つように作られている。

 

 だが作りものでも、姉のように、母のように、主人の幸福を祈っている。ユスティーツィアに連なる、アイリスフィールに続く存在だからだろうか。

 

【ほ、ほんとうなの】

 

 セラは頷くと、イリヤの耳元に囁いた。

 

【はい、そしてできれば、あの方をお引き留めするようにとのことです。

 お嬢様以外には不可能ですわ】

 

 若き天才の遠坂凛をして、魔力を馬鹿食いするというアーチャーだ。聖杯のバックアップがなくなったら、彼女でも受け止めきれないだろう。

 

 だが、冬木から遠いアインツベルンで、三か月もの間ヘラクレスと暮らしたイリヤなら? 彼は本当はとても格の高い英霊だ。それでも多分可能だろう。

 

 凛のアーチャーを、どうやってイリヤのアーチャーにするかという難題が立ち塞がるけれど。彼のマスターに危害を加えて奪い取ったり、バーサーカーを非道に死なせたら、きっと協力してくれない。座に自分で帰ってしまうだろう。だから、味方にしなくっちゃ。

 

「うふふ、おもしろいわ。それって、リャクダツアイよね」

 

 知らない単語に無表情に首を傾げるリズ。身に覚えのある言葉にへたりこみそうになるセイバー。セラは目を伏せて、厳かに家庭教師としての役割を果たした。

 

「お嬢様、藤村様のお宅でテレビをご覧になるのは禁止します」

 

「えーー、ひどーい! おもしろいのに」

 

 あがる不平に、リズがぼそりと呟いた。

 

「テレビじゃなくても、今日学校で見られる。それもイリヤ……様が主役」

 

「もう、リズったら、ああいうのはテレビだからおもしろいの」

 

「たしかに。本当だと笑えない」

 

 イリヤは唇を尖らせ、セラは瞑目してこめかみを揉み、セイバーは棚に取りすがってなんとか身を支えた。

 

「あら、セイバー、顔色が悪いわよ。そんなことで大丈夫なの?」

 

 棘はたっぷりと生えていたが、仮の主人からの労わりの声。イリヤからの初めての歩み寄りだった。

 

「な、なんでもありません……。

 いいえ、申し訳ありません、イリヤスフィール。

 私が不甲斐ないばかりに……」

 

 前回に勝っていれば、いや、アイリスフィールを守り切れていれば。忸怩たる思いで一礼するセイバーに、セラからの厳しい叱咤が飛ぶ。

 

「あなたも様をつけなさい、セイバー。

 今のあなたはアインツベルンの使用人なのですよ」

 

「は、はい……」

 

 セイバーは、アインツベルン陣営に出戻った格好だ。『先輩』らの態度は、大事な令嬢の母を死なせた者に対して、むしろ寛大だといえよう。

 

 ――しかし、これはきついです。これでも仲良くしなさいというのですか、アーチャー……。

 

 答えは聞くまでもなく、『うん』に違いない。このメイド稼業に関しては、自分のマスターである衛宮士郎が最大の賛同者だ。もしも、取りなしてくれる者がいるとすれば、アーチャーのマスター 遠坂凛しかいない。 

 

 みんなに真名を明かして、助けを求めた方が楽ではないかと思い始めるセイバーだった。

 

 それは、穂群原学園で昼ドラ上演が始まる五時間前の物語。


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