Fate/sn×銀英伝クロスを考えてみた   作:白詰草

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閑話9:疑似親子

 アーチャー自身のサーヴァントだという、ワルター・フォン・シェーンコップ。遠坂凛と彼の相性は最悪に近かった。

 

 人のことを、色々足りない女性未満とは何事か。だから心配無用なんて、失礼にもほどがある。

 

 しかし、シェーンコップにはシェーンコップの言い分がある。自分が敬愛を捧げた宇宙一の名将を、死んだ後まで戦いに引っ張り出すのだ。おまけに『サーヴァント(下僕)』だなどと、尊厳のかけらもない単語でくくり、首縄に等しい令呪で縛って。

 

「あの人もあの人だ。

 人間の平等を守る思想のために、十倍の敵に喧嘩を売ったくせに」

 

 呟いて、シェーンコップは尖り気味の顎をさすった。

 

「ふん、まあ、仕方がないな。

 自分がそうだっただけに、寄る辺ない孤児にとことん弱いからな」

 

 凛は、アーチャーが定位置にしているソファに座った美丈夫に、刺だらけの視線を突き刺した。アーチャーよりも頭一つ近く長身で、体格は二回りほども大きい。長い手足を優雅に組んで、貴族のごとき態度で、マスターのマスターを値踏みしている。

 

「ずいぶん、アーチャーへの態度と違うじゃない」

 

 あの恭しさはなんだったのだ。

 

「それはだな、実績の違いさ」

 

 シェーンコップはシニカルな微笑を浮かべ、片眉を上げてみせた。

 

 腹立つ! 決まってて格好いいだけに、ものすごく腹立つ!

 

「俺を、いや閣下を従えるに足る、器量なり技量なりを見せてもらいたいね。

 でなければ、俺自身の忠誠を、フロイラインに捧げる理由はないな」

 

「……言うじゃない。あなたのほうが、よっぽどアーチャーより強いのに」

 

 シェーンコップは鼻で笑った。

 

「随分と単純だな。我々は、古い時代のサーヴァントとは違う。

 この時代の軍隊でも、腕っ節で序列が決まるわけじゃあるまい」

 

「う……」

 

「俺たちの世界の軍隊の花形は、宇宙戦艦による艦隊戦だ。

 その最高峰の用兵家が、ヤン・ウェンリーだ。

 諸君らは侮っているようだが、あの人は天才だぞ」

 

「あいつが天才ですって!? 

 それは、敵の皇帝ラインハルトのことじゃないの?」

 

 昨夜、アーチャーが凛に語ったのは、神話的な英雄だった。金髪碧眼の絶世の美青年。彼の天才性、激しさと孤独を、詩的なほど美しく表現をしてみせたものだ。凛がそう言うと、シェーンコップはまた顎をさすった。

 

「やれやれ、他人のことはお見通しのくせに、自分のことには鈍感な人だ」

 

「どういう意味よ?」 

 

「あの坊やは戦略の天才なのさ。戦争をするための準備を完璧にこなす。

 戦いは数だ。物量を揃えれば、まず負けないものだ」

 

「アーチャーも同じことを言ってたわ」

 

「その『数』を個人の才で食い破るのがあの人だ。

 戦略の天才をして、目の色を変えて飛びつかせる戦術の天才。

 それがヤン・ウェンリーだ」

 

 目を瞠った凛に、美丈夫は唇の端を上げた。

 

「考えてみるんだな、閣下のマスター。 

 その天才との幾多の戦いに生き残らなくては、

 君に語ったようなことは言えないはずだが」

 

「あれって、そういうことだったの!?」

 

「圧倒的な大軍と、片手の指では足りんほど戦い、一度も負けたことがない。

 それが俺の上官だ。自ずと基準が厳しくなるのも納得していただけるだろう?」

 

「くっ!」

 

 歯噛みをする黒髪に翡翠の瞳の美少女に、シェーンコップは嫌味たっぷりに告げた。

 

「幸い、短期間でも器量や技量は成長が可能だ。

 女としての成熟とは違ってな」

 

「やっぱ、あんたとは相容れない!」

 

「おや、相互理解が深まったな。結構結構」

 

 相互理解に比例して、溝も深まっていく両者であった。


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