アーチャー自身のサーヴァントだという、ワルター・フォン・シェーンコップ。遠坂凛と彼の相性は最悪に近かった。
人のことを、色々足りない女性未満とは何事か。だから心配無用なんて、失礼にもほどがある。
しかし、シェーンコップにはシェーンコップの言い分がある。自分が敬愛を捧げた宇宙一の名将を、死んだ後まで戦いに引っ張り出すのだ。おまけに『
「あの人もあの人だ。
人間の平等を守る思想のために、十倍の敵に喧嘩を売ったくせに」
呟いて、シェーンコップは尖り気味の顎をさすった。
「ふん、まあ、仕方がないな。
自分がそうだっただけに、寄る辺ない孤児にとことん弱いからな」
凛は、アーチャーが定位置にしているソファに座った美丈夫に、刺だらけの視線を突き刺した。アーチャーよりも頭一つ近く長身で、体格は二回りほども大きい。長い手足を優雅に組んで、貴族のごとき態度で、マスターのマスターを値踏みしている。
「ずいぶん、アーチャーへの態度と違うじゃない」
あの恭しさはなんだったのだ。
「それはだな、実績の違いさ」
シェーンコップはシニカルな微笑を浮かべ、片眉を上げてみせた。
腹立つ! 決まってて格好いいだけに、ものすごく腹立つ!
「俺を、いや閣下を従えるに足る、器量なり技量なりを見せてもらいたいね。
でなければ、俺自身の忠誠を、フロイラインに捧げる理由はないな」
「……言うじゃない。あなたのほうが、よっぽどアーチャーより強いのに」
シェーンコップは鼻で笑った。
「随分と単純だな。我々は、古い時代のサーヴァントとは違う。
この時代の軍隊でも、腕っ節で序列が決まるわけじゃあるまい」
「う……」
「俺たちの世界の軍隊の花形は、宇宙戦艦による艦隊戦だ。
その最高峰の用兵家が、ヤン・ウェンリーだ。
諸君らは侮っているようだが、あの人は天才だぞ」
「あいつが天才ですって!?
それは、敵の皇帝ラインハルトのことじゃないの?」
昨夜、アーチャーが凛に語ったのは、神話的な英雄だった。金髪碧眼の絶世の美青年。彼の天才性、激しさと孤独を、詩的なほど美しく表現をしてみせたものだ。凛がそう言うと、シェーンコップはまた顎をさすった。
「やれやれ、他人のことはお見通しのくせに、自分のことには鈍感な人だ」
「どういう意味よ?」
「あの坊やは戦略の天才なのさ。戦争をするための準備を完璧にこなす。
戦いは数だ。物量を揃えれば、まず負けないものだ」
「アーチャーも同じことを言ってたわ」
「その『数』を個人の才で食い破るのがあの人だ。
戦略の天才をして、目の色を変えて飛びつかせる戦術の天才。
それがヤン・ウェンリーだ」
目を瞠った凛に、美丈夫は唇の端を上げた。
「考えてみるんだな、閣下のマスター。
その天才との幾多の戦いに生き残らなくては、
君に語ったようなことは言えないはずだが」
「あれって、そういうことだったの!?」
「圧倒的な大軍と、片手の指では足りんほど戦い、一度も負けたことがない。
それが俺の上官だ。自ずと基準が厳しくなるのも納得していただけるだろう?」
「くっ!」
歯噛みをする黒髪に翡翠の瞳の美少女に、シェーンコップは嫌味たっぷりに告げた。
「幸い、短期間でも器量や技量は成長が可能だ。
女としての成熟とは違ってな」
「やっぱ、あんたとは相容れない!」
「おや、相互理解が深まったな。結構結構」
相互理解に比例して、溝も深まっていく両者であった。