Fate/sn×銀英伝クロスを考えてみた   作:白詰草

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58:聖杯のパズル

 そして、すぐさま仰天することになった。

 

「ええっ!? ライダーと組むの!?」

 

 凛とアーチャーは、ライダーを銃で蜂の巣にしたうえ、氷漬けにした。それが彼女の真のマスター、遠坂桜を瀕死に追い込んだのだ。挙句、諸悪の根源を断つためとはいえ、ランサーに桜の心臓を貫かせた。

 

「承知してくれるとは思えないけど……」

 

「君はライダーにとって、加害者であると同時に、

 願いを叶えてくれた恩人の一人とは言えないか?」

 

 凛はぷいと横を向いた。

 

「そんな立派なものじゃないわよ!

 わたしが、もっと早くに気づいていたら……」

 

「だが、君だけの力では、きっと桜君は助けられなかった。

 聖杯戦争という状況下で、いくつもの偶然が重なった結果だ。

 もちろん、慎二君やライダーだけでも不可能だったろう。

 せっかく助かった命なら、団結して守るべきじゃないか。

 いま一番弱いのは、間違いなく間桐の陣営だよ」

 

 正論ではある。だが、加害者が抜け抜けと言っていい台詞ではない。さすがの士郎も溜息交じりに手を振った。

 

「や、アーチャーが言っても説得力ないから」

 

 隣でランサーも頷いている。

 

「俺、これから見舞いに行って、そう言ってみるよ」

 

「ああ、ありがとう。持つべきものは仲介役だねえ。

 それに彼女の宝具や能力なら……」

 

 凛はアーチャーの顔面に、疑いの視線を突き刺した。

 

「あんた、美人とペガサスに乗りたいだけじゃないの?」

 

「ペガサスに乗りたいのは否定しないけど、いくら美人でも私にも好みはあるよ」

 

 彼の好みは、金褐色の髪にヘイゼルの瞳をした知的な美女だった。一途な性格で仕事は完璧、射撃は達人、料理の腕は努力中の。 

 

「まあ、それはそれとして、彼女と組めば勝てなくても逃げられる。

 こいつはとても重要だ」

 

 天馬の鞍上から魔眼で睥睨すれば、まず逃れられる者はいない。

 

「聖杯を調査しつつ、いるかもしれない敵への対応という

 二正面作戦は本当は避けたいが、もうあまり時間がない。

 ならば、できるだけ戦力を分散させないようにすべきだ」

 

 騎乗兵の身上は機動力。どちらかが狙われても避難なり、加勢なりが可能だ。アーチャーはそう続けた。

 

「剣を雨あられと飛ばす相手には、こちらも手数を増やすしかないからね」

 

「アーチャーの宝具には、銃を持ってた騎士がいっぱいいたじゃないか。

 あれじゃダメなのか?」

 

 士郎からの質問に、アーチャーはお手上げの身振りをした。

 

「刀剣のサイズは、ちょっとした砲弾並みだからね。

 残念ながら、荷電粒子ビームライフルでは勝負にならないよ」

 

「か、かでんりゅうしビームって……マジに……?

 じゃ、じゃあ、慎二の言ってた光の矢って……」

 

「いわゆる光線銃だね。宇宙船の中では、大威力の実弾銃が使えないのさ」

 

 さらりとした答えに、士郎は時代差を思い知らされた。

 

「ううう、マジで未来人だったんだ……」

 

 唸る士郎にランサーが首を傾げた。

 

「坊主、今度はやけにあっさり納得したじゃねえか」

 

「だ、だって、レーザーって工業用には使われてるけどさ。

 今の機械はでっかいし、銃みたいに長い距離には使えないぞ」

 

 機械いじりが好きな士郎ならではの知識だ。女性陣はきょとんとしている。

 

「レーザー装置が銃の大きさになって、

 学校の廊下の端まで届くなんてありえないんだよ!」

 

 士郎の言葉にランサーは、髪の色にも勝るほどの青筋を立てた。

 

「あれもてめえの仕業か!」

 

 その剣幕に漆黒の眼が丸くなった。

 

「なんであなたが怒るんですか」

 

「誰が直したと思ってんだ!」

 

 ということは、怒っている者が直したのだろう。壊した者の主が負けじと青筋を立て、修理人の主を糾弾する。

 

「あの腐れ神父! 居留守どころかサーヴァントに修理させるなんて!

 っていうか、断ればいいじゃないの!」

 

 ランサーの朝日の色の瞳に、哀愁の暗雲がかかった。

 

「そいつができりゃ苦労はしねえ。令呪を盾に取られたらよ」

 

 アーチャーは髪をかきまわした。たった三つの貴重品のぞんざいな扱い。その意味するところは……。

 

「なるほど、サーヴァントを奪っても、まともに参戦する気がないわけだ。

 だから、あなたを盗られたのに反応が乏しいんでしょう。

 本来のマスターへの攻撃も、労せずしてキャスターのせいにできますし」

 

「ランサーかわいそう……」

 

 口に出したのはイリヤだが、メイドのセラまで同情に満ちた表情になった。人の温かさは、冷たさよりも心を打ちのめすものだ。ランサーは畳に手をついて項垂れた。

 

「だから、そんな目で見ねえでくれねえか……」

 

『……冗談ではないわ。私は濡れ衣を着せられるのは我慢できないの』

 

 電話の向こうに氷河を抱いた活火山が出現した。失意のランサーは、キャスターの冷ややかな激情に閉口し、携帯電話をアーチャーに押し付けた。

 

「まあまあ、落ち着いてください。あなたがたはこれから移動を。

 ランサーも警護に向かってください。一旦、遠坂邸に集合しましょう」

 

「ちょっと!」

 

 家主の凛はアーチャーの袖を引っ張った。

 

「なんでわたしの家に!?」

 

『あら、マキリの家に行くのではなかったの?』

 

「あなたには、人間として振舞っていただかなくてなりません。

 先日の私のように、桜君の家庭教師、キャスター・なにがしとしてね。

 その服はよくお似合いですが、現代人には見えませんからね。失礼ながら」

 

 つまり、現代人として通用する服が必要。凛は息を呑み込んだ。遠坂家にはそれがある。母の葵の着ていた物が。

 

「第八のサーヴァントがいるかもしれない。

 我々は防衛戦を意識しつつ、聖杯の解析をしなくてはならない。

 座りたくなるように、椅子を二つ空けておきましょう」

 

「ふたつ?」

 

 異口同音に上がった声に、彼は頷いた。

 

「今日は、停戦勧告への対応状況の報告期限だ。

 キャスター、あなたのところへ教会から何らかの申し入れはありましたか?」

 

『いいえ、貴方以外からはなにも』

 

「士郎君、慎二君のところにも連絡はなかったんだよね」

 

 士郎は頷いた。慎二からの最初の接触の際に、教会への申し入れを伝えたが、寝耳に水といった様子だった。御三家の間桐には、とりあえず話を通しておくべきだろうに。

 

「彼のところで、情報が握りつぶされていると見てよさそうだ」

 

「どうすんのさ、アーチャー。教会へ乗り込むのか?」

 

「いや、それはやめておこう。

 教会の上層部に連絡し、対応してもらったほうがいい。

 我々が教会に乗り込んで戦闘になったら、第四次のアーチャーに今は勝ち目がない。

 戦車隊に歩兵で立ち向かうようなものだからね」

 

 不平の声を上げかけたイリヤだが、アーチャーの言い回しにピンと来るものがあった。

 

「ねえ、アーチャー。今じゃなかったら勝てるの?」

 

「ああ、勝てるというか、負けないと思う。作戦を練ればね。

 そのために相手を動かすんだ。空いている椅子のどちらかに。

 一つは柳洞寺。もう一つは、冬木のアインツベルンの城」

 

「あ!」

 

 驚いたのはイリヤだけではなかった。セイバーもだ。拳を口許にあて、しばし考え込む。緑柱石の瞳が鋭くなった。

 

「……前回のアサシンのマスターならば、

 あの城に入り込むことは不可能ではありません。

 そしてもう一つ。シロウのように、重傷がたちまち治った者がいるのです。

 イリヤスフィール、あなたの母上だ。彼女は言峰綺礼と戦っている……」

 

 呟くように言葉を紡ぎながら、セイバーの白い頬が青褪めていく。瞬く間に傷が癒えたアイリスフィールは、あの後で教会に出頭していた。彼女が瀕死の重傷だったことは、加害者以外は知りえないのだ。

 

 そして――。

 

「あの時、確かに黄金の杯がありました。

 アイリスフィールをかどわかしたのはバーサーカーだった。

 バーサーカーは、私がこの手で斃した……。

 ですが、彼のマスターは姿を現さず、アイリスフィールも見つけられず……」

 

 セイバーは声を絞り出した。

 

「なのに、聖杯の器は決戦の場にあったのです。

 私がバーサーカーを戦ったのとは違う場所に!

 ……バーサーカーとアーチャーのマスターが共謀していたとしか思えない。

 でなければ、あの場に聖杯の器があるはずがない!」

 

「ケッ、胸糞の悪い。女を殺して、荷を漁ったのかよ」

 

 ランサーは吐き捨て、士郎はひっかかりを覚えた。

 

「黄金? ……なあ、イリヤ。イリヤが持ってる器は大丈夫なのか」

 

「う、うん、大丈夫よ。バーサーカーが守ってくれるもん」

 

 イリヤは琥珀の眼差しにどぎまぎしながら答えた。

 

「ところで、あの……あの蟲から出てきたの、金属の欠片じゃなかったか?」

 

 びくりと紫のブラウスの肩が揺れ、華奢な手が震えながらスカートのポケットを握り締める。

 

「……うん」

 

『ならば、前回のバーサーカーの主は、きっとあの蟲の眷属よ』

 

 出し抜けに携帯電話から指摘の声が上がる。

 

「えっ!?」

 

『それはただの金屑ではないわ。強い魔力の痕跡がある。

 恐らく、聖杯の欠片。

 それがどうして、マキリの養い子の心臓にあるのだと思う?』

 

 桜のことを慮ってか、キャスターの言葉は抑制の効いたものだった。士郎やセイバー、アーチャーにはわからないだろう。しかし、凛やイリヤにはそれで充分だった。

桜に巣食っていたという蟲。前回のバーサーカーのマスターが間桐の者で、同様の術を受けていたら。

 

 あの蟲は、擬似的な魔術刻印であり、臓硯の使い魔でもある。そのうちの一匹を、アイリスフィールに張りつけておけばいい。彼女が所持していた聖杯のありかを知り、欠片を入手するのも容易だろう。

 

 イリヤは間桐臓硯の野望を悟った。彼自身は蟲となって弱体化し、直系子孫の魔力は衰退した。一方、アインツベルンは、他者の血を入れてホムンクルスに子を生ませ、強大な魔術師であり聖杯の器であるイリヤに仕立て上げた。

 

 同じことを、桜と慎二で行なおうとしたのではないか。つまり、桜はマキリの聖杯の母胎。本来の周期で聖杯戦争が開催されていたら、第二のイリヤに近い、強大な魔術師が参加したことだろう。

 

 イリヤはのろのろとスカートのポケットから金属片を取り出した。これは母の形見、いや母そのもの。イリヤの核でもある、聖杯の欠片。

 

「バーサーカーのマスターから、マキリに伝わったから……?」

 

 セイバーが首を振った。

 

「いいえ、私が剣を交えるうちに、バーサーカーは魔力が尽き、半ば自滅しました」

 

 魔力は生命力だ。バーサーカーへの魔力供給が追いつかず、マスターが死亡したのだとセイバーは思っていた。

 

「聖杯の下に辿りつき、欠片を持ち帰るのは不可能では……」

 

『そうとも言い切れなくてよ。

 先日の夜、アーチャーとランサーが戦ったのが、災害の現場だったのでしょう。

 そんな小さな欠片を、闇雲に漁って見つけられるものかしら?』

 

 何らかの方法で、セイバーらの決戦を見ていなければ不可能に近い。

 

「私とアーチャーの戦いの場には、第三者はいなかった。

 キリツグが、アーチャーのマスターと対峙した場所に……?」

 

 ランサーが頭を振った。

 

「いいや。俺の本当のマスターは、滅法強い女だった。

 あいつの不意を衝けた野郎が、人ひとり隠れているのを見逃すものか」

 

「わたしもそれには賛成よ。癪だけど綺礼は強い。

 うまく隠れていたとしても、セイバーの宝具開放をやりすごし、

 聖杯の欠片を奪って、大災害の中から逃げ出す?」

 

 凛は眉間をさすった。

 

「サーヴァントもなしでそんなことできたら、普通に優勝できるわよ」

 

 凛の言葉に、黒髪のサーヴァントは頷いた。

 

「つまり、常人には不可能ってことかい。たしかに、生前の私には無理だ。

 今だって怪しいものだが」

 

 キャスターが言葉を挟む。

 

『もっと大きな欠片なら見つけられるでしょうけれど。……人間ならね。

 でも蟲ならばどう?』

 

 バーサーカーのマスターから、アイリスフィールを経由し、決戦の地へ。アーチャーは顔を顰めた。

 

「宿主を移り変わる、まさに寄生虫そのものだ。しかし納得のいく推論です。

 ただし、たぶん順番は逆です。焼け落ちる前に探し出した。

 鉄筋コンクリートの建物が焼失する火では、どんな金属も無傷では済まない。

 その大きさが、蟲に運べる限度なのでしょう」

 

 複数の情報を入手し、様々な視点で検証する重要性。凛がアーチャーから繰り返し聞かされたことが、結実しようとしていた。第四次聖杯戦争が、少しずつその輪郭を露わにしはじめた。栄光どころか、悲惨そのものの醜悪な姿を。

 

「でも、なんでさ。なんでそんな物を桜に……」

 

 漆黒の瞳が、士郎からイリヤへと視線を移す。少女の銀の睫毛が伏せられ、肩に置かれた手の温かさに上げられる。

 

「正確なところは、施術者にしかわからない」

 

 臓硯亡き今、永遠に謎というわけだが、桜にとってはその方がいいのではないか。だからアーチャーはこう言った。

 

「我々が首を捻っても、出てくるのは想像だけだ」

 

「そっか……」

 

「とにかく、日が暮れる前に移動しなくてはね」

 

 それから、アーチャーはいくつかの指示を出した。ランサーに遠坂邸まで同行してもらい、次に柳洞寺へ足を伸ばし、キャスター陣営の案内を依頼する。

 

 間桐兄妹は入院中だ。士郎とイリヤとセイバーは彼らの見舞いに行き、ライダーに同盟の申し入れを行う。

 

「わたしも行くの? この家を守らなくてもいいの?」

 

「今、守るべきは場所ではなく人だよ。

 セイバーが士郎君に同行するなら、イリヤ君がいなくては不自然だ。

 義理のきょうだいとして、ついて行ってもおかしくはないだろう。

 メイドのお二人にも同行してもらったほうがいいね」

 

「ふうん、そういうものなのね」

 

「なんだか、えらく細けぇなあ」

 

 呑気な感想のランサーに、アーチャーは溜息を吐いた。

 

「あのですね、普通の高校生の周辺に、突如として外国人の集団が現れたら

 おかしいに決まっているじゃないですか。

 それも高校生とは言いがたい美男美女ばかり。分散化するしかないでしょう」

 

 愕然としたのは士郎である。

 

「や、やっぱし!?」

 

 そうではないかとは思っていたが、面と向かって指摘されると改めてマズイ。イリヤの一行とセイバー、ライダーやキャスターも飛び抜けた美女ばかりだ。長身の美男子なのがランサーとアサシン。揃いも揃って、派手な髪や瞳の色をしている。いや、ライダーの目の色はわからないけど。

 

「アーチャーの言うとおりだ。

 みんなして俺の家に集まられても、ものすごく困る!

 お、俺とじいさんにも、立場ってものがさぁ……」

 

 イリヤとセイバーをどうするかでも大騒ぎだったのに、妙齢のライダーとキャスターが加わったら、藤ねえがどんな反応をするか。不吉な光景が頭をよぎり、嫌な汗が出てくる。

 

 彼女らが切嗣の関係者を名乗ったら、今度こそ修羅場だ。いや、――地獄だ。

 

 セイバーと違って、年齢に問題がないのが大問題。超のつく異国の美女がふたり。……なんてことだ。じいさんの海外旅行に理由ができちまう。

 

 やばい。やばすぎる。衛宮切嗣の名誉は地に墜ち、底なしの穴を掘るだろう。かといって、士郎の知り合いというのはもっと無理があった。交友録の薄いページは、近所と学校とバイト先で全部が埋まるし、藤ねえもそれを承知している。

 

 顔色が目まぐるしく紅白を行き来する士郎に、アーチャーは気の毒そうに言ってくれた。

 

「そうだろう。少しでも、世間に申し訳が立つようにしないと。

 残りの全員が、イリヤ君がらみというのも不自然だ」

 

 赤毛が力強く頷いた。黒髪がそれに頷き返し、蒼い髪へと向き直る。

 

「ああ、ランサー、あなたは私の友人の留学生ということにしますから。

 設定を暗記してもらいますよ」

 

「はぁ!?」

 

 ランサーは、とばっちりに声もなく口を開閉させた。

 

「さて、ライダーの所在は明らかでないが、多分桜君や慎二君のそばにいると思う。

 もし、間桐邸で留守番をしていても……」

 

 桜に向かってつぶやけば、ラインがつながっているライダーに伝わるだろう。

 

「慎二たちは大丈夫かな……」

 

「病院にいるから、ひとまずは大丈夫だろう。じゃあ凛、私たちも行こうか。

 士郎君もイリヤ君も十分に気をつけて」

 

 衛宮きょうだいが仲良く頷き、揃って同意の返事をした。

 

「そうだ、士郎君。病院に行くなら、ついでに頼みたい物があるんだ」

 

「いいけど、なにをさ?」

 

「冬木の地図。いや、地形図がいいな。等高線が詳しく載っているもの。

 そして、もしも見つかるなら、この地方の断層や活断層の資料」

 

 マスターもサーヴァントも、一様にきょとんとした。

 

「今度はなんなのよ」

 

「聖杯の調査と戦いの準備さ。作戦参謀は、地図を読み解くのも給料のうちでね」

 

 そう言うと、アーチャーはセイバー主従に微笑みかけだ。

 

「図書館で、司書さんに頼むといいよ。

 そして、これは素人歴史家からのアドバイスだが、

 セイバーも祖国の歴史の本を借りておいで」


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