Fate/sn×銀英伝クロスを考えてみた   作:白詰草

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75:Boy meets Girl

「大丈夫ですか?」

 

「いや、あまりいいとは言えねえな」

 

 心身共に強靭なランサーの、珍しい弱音だった。彼は光の神ルーの子として生まれ、正義と誓約を重んじた活躍で、敵にすら賞賛された英雄だ。その一方で、闇や悪に対しての相性は良くない。守護のルーンを中空に刻み、息を吐く。

 

「こりゃ難物だぞ。悪い予感しかしねえ。おまえ、よく平気だな」

 

「いや、私は気配とかよくわかりませんから……」

 

 ランサーは目を眇めた。

 

「チッ、ただの鈍感か……」

 

 頭を掻いたアーチャーがふと見回すと、セイバーの頬から血の気が失せ、キャスターも不快そうに眉根を寄せていた。

 

「皆、お待ちなさい。守護の術を掛けるわ」

 

 キャスターの指先が複雑な印を描き、朱唇から不可思議な発音の呪文を発する。それを合図に、すっと不快な気配が退く。しかし、その柳眉は顰められたままだ。  

 

「ひどく不浄な気配がするわね。

 『この世すべての悪』によって、大聖杯が汚染されているのは間違いなさそう」

 

 イリヤから伝え聞いた、第三次聖杯戦争の顛末だ。

 

「でも、どうしてそうなったのかしら?

 『この世すべての悪』の脱落で、なぜ大聖杯が汚染されるの?」

 

「はあ、どういうことでしょうか?」

 

 研究者の顔になったキャスターに、アーチャーは首を傾げながら質問した。

 

「大聖杯はこの奥で、小聖杯はアインツベルンのマスターが担っている。

 全くの別物ではなくて?」

 

「あ、そうか。小聖杯の汚染が、単純に大聖杯に及ぶのは辻褄が合わないんだ。

 エネルギー源が違うんだから」

 

 キャスターは頷きを返した。

 

「ええ。大聖杯は霊脈を薪に、世界の外に働きかける。

 サーヴァントはその寄る辺に従い、英霊の座からこの世に降り立つ。

 死して小聖杯の器に集い、器が満ちれば小聖杯が顕現する。

 それは世界の壁を越え、根源に至るほどの力を持つ万能の釜」 

 

 濃紫の瞳が、闇の先をじっと見据えた。

 

「いえ、写し身が本体へ還るのを利用して、世界の壁を越えるのよ。

 その方が術としても等価。

 ――小聖杯は、本体への帰り道でもあるのでしょうね。

 ねえ、アーチャー。道を断たれてしまったら、貴方ならばどうするかしら?」

 

「そりゃ、来た道を帰りますが……。ああ、なるほど、そういうことか」

 

 第三次聖杯戦争に、アインツベルンが召喚した『この世すべての悪』は、すぐに斃され、聖杯の器を壊されてしまった。彼または彼女は、帰る道を失い、来た道を戻ろうとしたのではないか。

 

「だが、大聖杯は一方通行なのかもしれませんね。

 下りしかないエレベーターのような。

 『この世すべての悪』は帰れないから、大聖杯に留まっているのかな?」

 

「そう考えたほうが説明がつかないかしら?」

 

 問われたアーチャーは腕組みをした。 

 

「たしかにね。

 だが、大聖杯の汚染はそれとして、前回の小聖杯の汚染はなぜでしょう?

 壊れた器を新調しているのでしょうに」

 

 イリヤは必死に悲鳴を堪えた。幸いにも暗闇が表情を隠してくれたが、彼らにいつまで隠せるだろうか。

 

「そうね……。大聖杯はサーヴァントを支えるものでもあるわ。

 我々が死して器に集う際に、大聖杯の汚染が引き込まれるのかもしれない」

 

「還るために?」

 

 問い返して、アーチャーは歩を進める。

 

「さあ? でも、悪の概念にされた『彼』にとっては、

 人界から隔絶した座こそ、初めて得た安住の地なのかも知れないでしょう?

 ……私にも分からなくはないわ」

 

 言葉を切って、彼女も青年の背を追う。士郎たちも後に続いた。神代と未来の魔術師の会話に、目を白黒させながら。伝説の激情の王女メディアと、アーチャーはごく普通に会話している。研究室の同僚のようだ。

 

 ランサーが、凛の腕を突いて囁きかけた。

 

「なあ、嬢ちゃん。あいつ、本当にキャスターじゃないんだな?」

 

「マジシャンと呼ばれたことならあるみたいだけどね」

 

 イリヤも頷く。

 

「うん、わたしも聞いたわ。でも、どうしてマジシャンなの?」

 

「トリックまみれの作戦を使うからだって」

 

「あー、なるほどな……」

 

 先日まで、アーチャーに散々な目に遭わされたランサーだが、味方になればこの上なく心強い軍師だ。だが、あれでもまだまだ本気ではなかったことも知ってしまった。

 

「でもね、本職としては悔しいんだけど、

 あいつの世界には、魔法の領域の技術があるの。

 神秘もなにもあったもんじゃないわ。千六百年後は基礎知識なのよ……」

 

「そいつは俺らが、今の世に感じていることだけどな、嬢ちゃんよ」

 

「ううう……。あいつは魔術を理解してるみたいなのに、

 わたしには、あいつの世界の技術がさっぱり分からないのよ。

 悔しいじゃない!」

 

 携帯電話の操作で四苦八苦している凛では無理だろうな、とはランサーも士郎も口にしなかった。賢明にも。

 

 アーチャーことヤン・ウェンリーは、亜空間跳躍に重力制御、超光速通信が実在している世界の住人であったという。平行世界や世界の内外という概念を、それなりに噛み砕いて理解しているようだ。

 

 いまもキャスターの意を汲んで、自らの所見を述べている。

 

「数十年に一度、ようやく現れる上りのエレベーターじゃあ、

 密航したくもなるよなあ……」

 

「そんな知性が残っているかは疑問ね。

 でも、人であれ獣であれ、本能のままに動く方が厄介なものよ」

 

「ごもっともです……」

 

 溜息と共に同意して、ヤンは足を止めた。通路はそこで終わり、大空間が広がっている。待機していたシェーンコップが上官らに敬礼し、装甲服に内蔵された照明を点灯した。

 

「うわあ……」

 

 少年少女と、バーサーカー以外のサーヴァントは、異口同音に呻いた。目の前に広がる奇観。広間の中央に巨大な石筍がそそり立つ。その周囲は、棚田のように、鍾乳石でできた池が囲んでいた。だが、石筍を濡らすのも、周囲の池に湛えられているのも、水ではなかった。黒い得体のしれない液体だ。一目見ただけで、汚穢と毒に満ちたものだと直感する。

 

「これは……」

 

 絶句するセイバー。イリヤは小さな手を握りしめた。

 

「そんな、大聖杯が……。こんなの、ひどい……!」

 

 風もないのに池の水面が波立った。イリヤが叫んだ程度では、この規模の揺らぎは起こらない。ライトの反射で気付いたシェーンコップが、警告の叫びを発した。

 

「皆、下がれ!」

 

 シェーンコップの叫びに、キャスターが再び複雑な印を結ぶ。不可思議な音声が響くのと、黒い水面から何かが突き出るのはほぼ同時。鞭のように撓り、槍と化して一行に襲い掛かる汚水を、間半髪の差で透明の障壁が阻む。

 

「くっ!」

 

 キャスターは噛み殺しきれない苦鳴を発した。魔力で構成されたサーヴァントにとって、魔術は伸ばした手に等しい。それを強酸に灼かれたようなものだった。

 

「……これは、私たちを喰い殺す気だわ!

 貴方たち、お止めなさい。武器では歯が立たない!」

 

 武器を携えて前へ出ようとしたセイバーとランサーに、キャスターは制止の声を上げた。水面が再び波打ち、大きく盛り上がる。速度を犠牲にしても、より巨大な質量を叩きつけようというのか。

 

「あれでは、私の結界も長くは保たないわ」

 

 と、黒い波が迷うように波頭を揺らす。士郎たちが向けたライトの光が歪み、煌らかな黄金に反射した。

 

「ほう、面白いことになっているではないか」

 

「うわぁ、やっぱり出たか」 

 

 アーチャーことヤン・ウェンリーは、緊張感に乏しい呟きを漏らした。出たのはお化けより質の悪い英雄王だった。

 

「……まずいなあ」

 

 予測はしていたが、最悪のパターンになってしまった。美青年が高々と腕を掲げ、背後から無数の剣が切っ先を覗かせている。

 

「チッ! どうすりゃいい!?」

 

 ランサーは焦慮を露わにした。彼の機動性を活かすには、背後の人数は多すぎ、動ける空間は小さすぎて、毒まで充満している。バーサーカーも顕現して斧剣を構えたが、上げる咆哮は苦しげだ。狂化されていても、ヘラクレスは最上級の名声を誇る英雄だ。

五次サーヴァントの中で、最も『この世全ての悪』とは相反する存在であったろう。

 

 淡々とした声が流れた。まるで、不変の公式を述べる学者のような。

 

「逃げるしかありませんね。それには準備が必要ですが。……士郎君」

 

 士郎は頷くと、一歩前に出た。

 

「――第七のマスターが令呪に告げる」

 

 やや低められた声が響く。その声がアサシンに似ていることに、今さらながら凛は気付いた。

 

 なんとしても帰らなくちゃ。誰一人欠けることなく、衛宮士郎をエミヤシロウにしないために。イリヤを、桜を、セイバーを、自分を失わないように。手の中に、残り少なくなった宝石を握り締める。

 

「セイバーに鞘を!」

 

 士郎の右手の令呪の一角が弾けて消え、英雄王にも勝る金色の輝きが、少年から立ち上った。

 

「なに!?」

 

 その光輝は、対面する英雄王の目を眩ませるほどだった。押し寄せようとしていた黒い波も、たじろいで形を失う。黄金の光は、士郎の手の中に収斂していった。黄金と群青。銀の象嵌が、美しい幾何学模様を描く鞘に。

 

「これは……私の鞘……遥か遠き理想郷――」

 

 触媒の鞘を衛宮切嗣が使えたのは、鞘とアーサー王の双方が存在したからだろう。マスターはサーヴァントの上位存在。魔力で構成された宝具ではなく、実物の鞘だから、

もう一人の持ち主として認められたのではないか。だから何とかなるかもしれない。そう言ったのはアーチャーだった。

 

『そんなに簡単に言うけどさあ……』

 

『簡単じゃないか。鞘の持ち主はあくまでアーサー王だ。

 失われた鞘を時を超えて王に返す。

 これはもう奇蹟のようなものだが、マスターにはその手段があるだろう?』

 

『あ、令呪か』

 

 士郎の回答にアーチャーはにっこりと微笑み、アーサー王の伝説の一節を語ってくれたものだ。聖剣と鞘を携えたアーサー王は、十二の戦いに勝利を続けた。最後の戦いで相討ちとなったのは、義姉の陰謀で鞘を失ったから。

 

『鞘が戻れば、セイバーは往時の強さを取り戻すだろう。

 万難を寄せ付けず、無尽の魔力で剣を揮う、

 湖の貴婦人の加護持つ騎士にね』

 

 柔らかな声で紡がれた、不敗の魔術師の予言にして祝福。そしてここに奇蹟は起こった。

 

「長いこと借りっぱなしでごめんな。 

 でも、この鞘のおかげで、俺とじいさんは巡り会えたんだと思う。

 ……いままでありがとう」

 

「シロウ……」

 

 少年は少女に鞘を差し出した。

 

「頼む。アイツに負けるな」

 

「はい!」

 

 セイバーの手の中で、再び鞘の姿が解けた。金沙と緑柱石、白銀に群青が柔らかな光芒を纏う。ギルガメッシュの瞳が愉悦に輝いた。

 

「面白い。それが貴様の真の姿か。わが財を受けてみよ!」

 

 襲い来る剣弾。セイバーは見えざる剣を正眼に構え、振り下ろした。

 

風王鉄槌(ストライク・エア)!」

 

 仮初めの鞘を解除するのと同時に、圧縮されていた疾風が荒れ狂う。剣の矢を相殺するには不十分だったが、針路を狂わせ、勢いを殺すには充分だった。そんな矢を叩き落せぬランサーやバーサーカーではない。前者は精密極まりない刺突を繰り返し、後者は豪放な一閃で複数を跳ね飛ばす。

 

「はぁっ!」

 

 両者にマスターたちを任せ、セイバーは風の余勢を駆って、英雄王へと突進する。水上を歩める精霊の加護と、万難を遮る不壊の鞘が彼女を護る。剣の矢嵐も、その歩をとどめることはあたわぬ。黒い水が無数の触手と化してセイバーに迫ったが、叩き落とされた宝具に斬りつけられる羽目になった。

 

「ほう、いつぞやとは別人のようだが、我の財を甘く見るなよ」

 

 これまでに倍する勢いで、剣弾が飛来した。セイバーではなく、背後の士郎たちが直撃を受ける弾道だ。

 

「くっ!」

 

 セイバーは水上でたたらを踏みかけた。

 

「迷うな! そのまま行け!」

 

 ランサーの檄が飛ぶ。深紅の瞳を闘争の歓喜に輝かせた槍兵は、飛来する宝具を片端から叩き落とした。

 

「アーチャーじゃねえが、こういうのを待ってたんだよ。

 なあ、おっさん」

 

 おっさん呼ばわりされたバーサーカーは、咆哮を上げながら斧剣を振るう。本能のままの剛力に見えて、洗練の極みにある武技で。

 

「……戦いを喜ぶなんて、私には到底理解できないわね!」

 

 結界を補強しながら、キャスターは叫んだが。

 

「ランサー、バーサーカー、かたじけない!」

 

 セイバーは迷いを捨てた。水飛沫を蹴立て、英雄王へと迫る。翻る金沙の髪と群青のリボン、ドレスの裳裾。白銀の鎧が鈴の音を立てる。小さな手を篭手で固め、握るのはセイバーを同じ彩りの剣。聖剣、エクスカリバー。黎明の空と星の輝きをそのまま剣にしたかのように美しく、曙光にも似た輝きを放つ。飛来する剣も、黒い水も一撃に斬り伏せて。

 

 その姿を、衛宮士郎は決して忘れないだろう。

 

「行けーー! セイバー!」

 

 ヤン・ウェンリーの漆黒の目にも、セイバーの輝きが焼きついた。

 

「私の願いも叶ったなあ……」

 

 英雄譚の再演を目の当たりにすることができた。

 

「叶わないほうがよかったのだろうけどね」

 

 戦いなどないに越したことはないのだ。だが、騎士王と英雄王の剣戟に目を凝らしながらも、ヤンの頭脳は回転を続ける。

 

 今ここに、英雄王が出現した理由。令呪に命ずれば、サーヴァントには大抵のことが可能になるという。しかし、曖昧な命令では効果が薄いとも。どこにいるかわからない、ヤン達の前に転移しろというのはこれに当たるだろう。

 

「どう思う、中将?」

 

 剣の矢を落とすのには参加せず、背後に控えた部下にヤンは問いかけた。

 

「魔術以外の方法で監視しているんでしょうな」

 

「だろうね。魔術ならば誰かしら気がつく」

 

 神代最高峰の魔女と、ケルト有数のルーン使い、現代の天才魔術師美少女が二人。 

初心者でへっぽこの士郎だって、世界の異状を感知する能力は高い。

 

「仕掛け人はおそらく言峰神父。だとするとこれは陽動だ。

 ――私が第九次イゼルローン会戦でやったのと同じだよ」

 

 シェーンコップの眉宇に緊張が走った。ヤン・ウェンリーの旗艦の出撃に、冷静沈着な帝国の双璧が勢い込んだ。僅かな隊列の乱れにつけこんで、彼の旗艦トリスタンを強襲揚陸艦で襲撃した。シェーンコップ率いる薔薇の騎士が、彼を白兵戦で討ち取ろうとしたのだ。だが、金銀妖瞳の名将は、シェーンコップと互角に戦った。もっとも、あと三分あったら、勝っていたのは自分だが。

 

 翻ってこの面々はどうか。マスターは少年少女、ランサーとバーサーカーは前からの防衛に手一杯。上官とキャスターは文弱の徒だ。かの双璧、ロイエンタール提督の真似などできないだろう。

 

「――これはこれは」

 

 処置なしとばかりに首を振ると、シェーンコップは背を向けた。戦斧を構え直し、さきほど通ってた通路に目を配る。魔術とやらに、索敵機器が通用するかは心許なかったが。

 

 アーチャーはキャスターに囁いた。

 

「アサシンからの連絡はどうです?」

 

「今のところ、あちらは大丈夫なようだわ」

 

「ではキャスター、彼に連絡を」

 

「ええ」

 

「セイバーにも後退する機会が必要です。士郎君、もう少し頑張ってくれ」

 

「おう」

 

 士郎は、額に浮いた汗を手の甲で拭いながら短く答えた。

 

 鞘の加護を取り戻したセイバーは、襲い来る剣の矢を捌きながら、果敢に英雄王に斬りかかる。弓兵が剣士に肉薄されるのは戦術的な敗北だが、英雄王の宝具は剣戟と等しい性質を持つ。そして、英雄王自身も剣を振るう。セイバーから見れば、練達の剣士数十人を相手取るに等しい。

 

 鞘の加護があったとしても、ランサーと互角に切り結んだ彼女でなくば、ギルガメッシュの元にはたどり着けなかっただろう。セイバーの猛攻に、ギルガメッシュもマスターらを狙う余裕がなくなったからだ。

 

「自慢の財も底を尽いたか、アーチャー?」

 

 剣戟の合間に、セイバーはあえて挑発の言葉を口にした。

 

「財を誇るのなら、出し惜しみするものではない。

 吝嗇では戦さには勝てぬと聞いたぞ」

 

「抜かせ!」

 

 とはいえ、セイバーに抜かせるつもりはなかった。斬り払い、突き、斬り上げる。踏み込み、旋回し、跳躍する。高く澄んだ刃鳴りと、かそけき鈴の音が彩る剣の舞。至高の舞い手に、主なき剣は次々に袖にされていく。

 

「凄い……。これが最優のサーヴァント」

 

 やはり羨ましい凛だった。戦闘になるとアーチャーはすっかりお荷物である。

 

「ああもう、頑張んなさいよ、士郎」

 

 今の凛には、士郎を励ますことしかできない。士郎は苦痛に顔を歪め、魔術回路を限界まで酷使している。 

 

 一見優位に見えるが、セイバーが生身ではなくサーヴァントである以上、限界が存在する。マスターからの魔力供給だ。生前、補給に苦労したヤンは、早くからその弱点に対策を講じた。凛に弟子入りさせたり、士郎の未来形であるアサシンに修行をつけてもらい、セイバー主従には極力戦いを避けさせた。しかし、所詮は十日足らずの付け焼き刃である。

 

 士郎が力尽きるのが先か、セイバーが勝利するのが先か。ぎりぎりの戦いは、後者に軍配が上がろうとしていた。鍔迫り合いを演じていたセイバーが剣を巧みに操り、ギルガメッシュの剣を逸らした。

 

「はぁっ!」

 

 セイバーは瞬速で踏み込み、敵手の眉間を断ち割った。

 

「がっ……」

 

 大理石のような額から血がしぶき、さしもの英雄王が膝をついた。黒い水がさっと波立つと同時に、黄金の姿が消える。

 

「やったか!?」

 

 士郎は拳を握ったが、イリヤが否定の声を上げた。

 

「ちがうわ!」

 

 キャスターが顔色を変えて振り向いた。

 

「令呪よ! 反応が近いわ!」

 

 澄んだ音が木霊した。飛来した短剣を、炭素クリスタルのトマホークが叩き落としたのだ。

 

「ふむ、この馬鹿馬鹿しい戦いも、案外と捨てたものではありませんな」

 

 歴代最強の薔薇の騎士も、生前の無念を晴らしたのであった。危なっかしい上官を、今度こそ守ることができた。

 

「ほら、黒幕のお出ましですよ」

 

 靴音が響く。固い革靴のものだ。

 

「いいサーヴァントを引いたな、凛」

 


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