第1話
佐野千穂の自認はよくいる陰キャ女である。
だが、現実は違う。
佐野千穂は高校に通う一年生であり、校内でも一、二を争う美少女である。
日本人らしい黒髪黒目の外見にスレンダーながらも女らしい体。顔つきはどこか哀愁漂ってそうだが可愛らしい顔。
身長は平均値丁度の百五十七センチ。
更に言えば彼女の家はそこそこの金持ちだ。
父親が大手企業に勤めており、年収は千万クラス。そして両親とも美人。
家族構成は父母と弟が一人だ。
そんな彼女は後一週間で夏休みが終わるという時期に、自室で怪しげな儀式をていた。
千穂は一軒家に住んでいる。東京の一等地だ。
二階建ての建物で二階に自室がある。
床には大量の紙を使って人がはいれそうな魔法陣が描かれ、周囲には生の牛肉と豚の生き血があった。
「これで……悪魔を……!」
そう。千穂は今悪魔召喚の儀式の真っ最中だった。
何故悪魔を召喚するのか、というと彼女はボッチだった。
学校に行っても親しい友人はおらず、クラスラインにも入っていない。
彼女が嫌われている、という訳ではない。その逆だ。
その美しい容姿から男子生徒からはうっすらと好意を持たれているし、女子からは男子に好かれててムカつくとは思われているも虐めには至っていない。
だが、校内一、二の美少女程度とはいえ美少女だ。話しかける勇気あるものは少なく、居たとしても千穂がきょどってしまうので友人には至らなかった。
結果、彼女は友人を求め悪魔召喚に手を出した。
その前に自己啓発本を読むなり真っ当な手段はあっただろ、と言いたくなるが彼女は古本屋に行った際目についた悪魔の召喚の仕方という本になぜか心惹かれてしまったのだ。
そして彼女は本に書かれていた通りに魔法陣を書き、生贄は無かったので牛肉で。人の血は怖かったので豚の生き血で代用した。
その時点で仮にあっていたとしても召喚できるわけないが、それでも千穂はこれで召喚出来るはずときらきらした目をしていた。
千穂は悪魔を召喚したら悪魔に友達を作ってもらうつもりで居た。悪魔と友達になるつもりはない。怖いから。
そして千穂は暗い部屋で呪文をぶつぶつと唱え始めた。
長い詠唱だ。一分ほど噛まずに言い切ると、魔法が発動した──してしまった。
外は真昼間で、晴れだというのに雷鳴が響いた。
「きゃっ?!」
急な音に千穂は可愛らしい声を出した。
次の瞬間。魔法陣が黒く輝き始めた。
そして──魔法陣から異形がはい出て来た。
人型。だが真っ黒な体だ。墨のように黒い。
その体には至る所に赤い目がある。鼻や目、耳は無いが口はあり牙が生えている。
その異形──召喚された悪魔パトリツィアが千穂に覆いかぶさった。
千穂は思わず目を閉じ──そのまま眠った。
「うーん……?」
再び千穂が目を開けたら、そこは自室ではなく白い空間だった。
上も下も無く、どこまでも続く白い世界。重力に縛られてないかのような浮遊感。
そして、目の前に居るのは異形の悪魔パトリツィア。
「あ、悪魔さん?!」
「悪魔にさん付けって珍しいな……そうだ。俺が悪魔だ」
パトリツィアの声は男の物だ。よっと気軽に手を挙げる。
「え、えっと、その、えっと」
千穂はきょどってしまう。念願の悪魔に会えたはいいが初対面の人なので会話に困るのだ。
「お前が俺を召喚したんだろ? さぁ願いを言え。叶えられる範囲でなら叶えてやるぞ」
そうパトリツィアがニヒルな笑みを見せながら言った。
パトリツィアにとって全ては遊戯だ。己の死すら遊びに含む。
だから召喚されたことに対し怒りなどはなく、今回の主は何をして己を楽しませてくれるのかという期待があった。
「え、えっと、でしたら、その……お友達が、欲しいです」
「……友達が欲しい?」
パトリツィアはオウム返しをした。信じられぬとばかりに。
「お前友達欲しさに悪魔召喚したの? 引くわー」
うぇとパトリツィアは露骨に引いた演技をした。
「い、いいじゃないですか! 友達欲しさに悪魔召喚したって!」
「悪魔崇拝とかで異端審問かけられるリスクを負ってまでするかね、普通」
「今の時代に異端審問なんてないので問題ないです!」
ふんす、と千穂は鼻を鳴らす。
異端審問が無い、という事にパトリツィアは首をひねった。
「……まぁいい。その願いは叶えた。俺がお前のトモダチだ」
「え、いやです」
強い拒否の言葉が返って来た。
「お前、悪魔様が友達になってやろうってんだから受け入れろよ」
「悪魔って、人の魂とか寿命吸うんですよね? 友達に成ったら食べられそうで嫌です」
「なんでそんな認識なのに召喚した?」
パトリツィアは最近の子供はわからん、とため息を吐いた。
「だが悪魔の願いを拒否する事は出来ん。大人しく友達になれ。でないと死ぬぞ、お前」
「え、死ぬって、なんで?」
「お前の体に俺が取り憑りついた。今お前と俺は二心同体。俺が死ねばお前が死ぬし、俺が出て行っても死ぬ」
「えぇ?! なんで?!」
千穂はひどく狼狽した。
「俺を召喚した代償だ。俺を召喚した奴は願いを叶えてやる代わりにその体をもらい受けるんだ。現世で俺が活動できるようにな」
「そ、そんな……私の体が目当てって事?! このエッチ!」
「エッチじゃねぇ。この体見ろ、生殖器ねぇだろ俺は性別が無いタイプの悪魔だ」
悪魔の中にも種類がある。
人やエルフなどが後天的に悪魔になった者などから魔界の瘴気で生まれた者などだ。
パトリツィアは後者であり、故に性別という物を持たない。無性だ。と言っても人格は男性よりだが。
「そ、そうなんだ……えっと、じゃあ体を得て、何をするの?」
「普通に、まぁ観光だとか冒険だとか、そう言った事だ。世界を混沌に陥れるなんてことはしねぇから安心しな」
「嘘じゃない?」
「悪魔は嘘を嫌う。だからほんとだ」
その言葉に千穂はほっと息を吐いた。
パトリツィアの言う事はほんとだ。悪魔は種族的に嘘を嫌う。
だがそれはそれとして嘘を言えないという訳ではないので嘘をつく奴も居る。
「け、けど……私の体で変な事しない?」
「しないしない。お前の心を深く読むなんてことはしないから安心しな。プライベートは守るたちなんだ俺は」
「それならいいけど……じゃあ、お友達からお願いします。私は佐野千穂です」
「あー、俺は名乗らん。悪魔とだけ呼んでくれ」
悪魔にとって名は重要だ。魔法を使って名を知った相手を縛ることが出来る。だから悪魔は人の世界で名乗らない。
人間の悪魔使いなどにとっては悪魔の名は重要なファクターなのだ。同族間ではそうでもないので魔界では普通に名乗るが。
「悪魔さん、ですね。よろしくお願いします」
そう千穂は頭を下げた。
「それじゃあ、私の願いを叶えてくれますか?」
「俺友達だけど」
「あ、そうじゃなくて……人の友達も欲しいので、人の友達を作って欲しいんです」
「あー、そう言う事ね……わかった。叶えてやるよ」
その言葉に千穂はぱぁっと顔を明るくした。
「ほんとですか?! 約束ですからね!」
「おう。オレ ウソ ツカナイ」
「それじゃあ、悪魔さん、これからよろしくお願いしますね!」
そう言って千穂は右手を差し出し、パトリツィアも右手を差し出し握手をした。
次の瞬間、千穂は現実で目を覚ました。
「ここは……」
『お前よく牛肉とかで俺召喚しようとしたな』
「うえ?! 誰?!」
千穂の脳内の突如男の声がした。
『落ち着け、俺だ、悪魔だ。お前の中にいるからお前の心に直接話しかけてる』
「あ、そうなんだ……えっと、人肉とか用意するのは難しいから牛肉で代用したんだけど、駄目だったかな?」
『駄目というか、魔法の儀式は手順間違えると暴発して爆発すんぞ。よく俺召喚出来たな』
「え、そうなの? そんなのどこにも書いてなかったけど……」
『お前魔法について何も知らないのか?』
「うん。古本屋で悪魔召喚の本があったから試してみただけで……」
『……その本、ちょっと見せてみろ』
パトリツィアは真剣な声でそう言った。
千穂もただ事ではない、と思い「わかった」と机の上に置いておいた本を取った。
「これだけど……」
『
「……どういう事?」
『使い捨ての消耗品である代わりに魔界から悪魔を召喚できるってアイテムだ。まぁ召喚できるだけで使役とかは出来ないから召喚した悪魔に殺される可能性もあるが』
「ひぇぇえ……」
千穂は震えた。思わぬところにあった死の危険性に。
パトリツィアは殺されると言ったが、よほどのことがないと殺される事は無いだろうと考える。
召喚された存在は原則術者──召喚主が死ぬと自動的に送還される。
そのため己以外が召喚されたとしても現世にとどまる為に即殺しにはいかず契約を持ちかけたはずだとパトリツィアは考える。
『取りあえずこの現状直せ。つうか明るさ関係ないのに何で灯り消してんだ。つけろ、目に悪いぞ』
「わ、わかった」
そうして千穂は電気をつけた。
『うお、なんだこの灯り……え、マジ?』
パトリツィアは信じられない物を見たような反応を見せた。
「どうしたの?」
『……この灯り、これ電気か? なんであるんだ?』
「なんでって言われても、普通にある物としか……」
『……俺が魔界に籠ってる間に随分文明発達したんだな』
パトリツィアは魔界の住人だが、本来地球に属する存在ではない。
剣と魔法の世界アルトミアルスにある魔界の住人だ。
だからこそ、魔法の世界においてあるはずのない電気という物に驚いたのだ。
千穂は変なの、と思いつつ片づけをする。
「この豚の血どうしよ……」
『あー、料理に使えばいいんじゃないか? 確か腸詰とかにも使えたはずだ』
「腸詰なんて一般家庭じゃできないよ……」
『それじゃあ煮込み料理なんかはどうだ? どっかの国にそう言った料理があったはずだ』
「そうなの? ネットで調べてみるね」
パトリツィアは千穂のネット、という言葉に更に驚いた。
なんで剣と魔法の世界にネットがあるねん、と。
パトリツィア──前世名木村修は転生者である。
現代日本で落ちて来た鉄骨によって圧死した彼は、魔界の悪魔として二度目の生を受けた。
魔界ではそれなりに楽しく生きていた。転生者特有の
パトリツィアは他者の体を乗っ取ることが出来る悪魔だ。そのため魔界の悪魔の体を乗っ取ったりして活動していた。
何度か現世に召喚されたりもした大悪魔である。
悪魔なのでそれなりに悪事もした。強姦こそしてないが、殺しに盗みに強盗などはしていた。
異世界生活は千年を超えるだろう。だからこそ、今更現代に召喚されるなんて考えてもおらず時代も発展したな……と思っていた。
その気になれば千穂の脳内を読み取り情報を得ることも可能だが、プライバシーには配慮せねばとそれはしていなかった。
片づけが終わると、時刻は夕方。
一階から千穂の母の声がした。
「千穂ー! ご飯よー!」
その声に千穂は「はーい!」と元気よく返事し、部屋を出て一階に降りる。
一階のリビングに行くと其処には晩飯があった。から揚げだ。
パトリツィアはもろ現代のキッチンにもしは俺は地球に帰還したのか? と疑問を抱いていた。
時刻は六時。家族全員揃っての晩御飯だ。
テレビを流し見しながら晩飯を食べていく。
平和な家庭其の物で、パトリツィアは悪魔として一瞬台無しにしてやりたいと思ったが理性が勝ったので辞めておいた。
そしてパトリツィアは人間の友達ってどうやって作るっけなーとのんきに考えていた。
──いずれ悪魔王に歯向かう事になるとも知らずに。
週一更新目指してます。