数日後。
千穂は家族に心配されながらも、通学を再開した。
家を出た一歩目で千夏に遭遇した。
「おはよう、千穂ちゃん」
「おはようございます、千夏さん」
そして二人は歩き始める。
「いきなりだけど、学校に退魔師の人が来るわ」
その言葉に千穂は驚いた表情を浮かべる。
「……私の事がバレたの?」
「そうではないけど……恐らく敵は千穂ちゃんを狙ってる。だから護衛が居ると思って、家の方に話を通したの」
「バレてないんだ……ならよかった」
ほっと千穂は胸を撫でおろした。
「……けど、そろそろ隠すのも限界かもしれない。人の口に戸は立てられないから……」
「……そうなると、私どうなっちゃうのかな」
『何があっても俺が守ったるから安心せぇ』
パトリツィア個人としてはここで千穂が死ぬのは惜しい。
まだまだ千穂は成長の余地がある。だから限界まで成長してから死んでほしいのだ。死ねば体はパトリツィアの物となり、自由に動けるから。
この段階で自我を潰してしまっては成長がここで止まり、中途半端な雑魚退魔師の体にしかならない。それはパトリツィアにとって損だ。
だからこのまま健やかに成長してほしいのがパトリツィアの本心だ。
更に言えばパトリツィアは悪魔で、悪魔は死んでも魔界で復活できる。だから己の死すらどうでもいいのだ。
まぁ現世から魔界に送還されるので現世の娯楽を楽しめなくなるのは悲しいが、魔界も発展していてアニメとか普通にあるので魔界でもそれなりに楽しく暮らせるのである。
そうして雑談しながら学校に着くと友人になった恵美から心配されるも、軽く流して終わった。
そうして授業が始まった。
■
放課後。授業は何の問題も無く終わった。
千穂も一日入院していたが予習復習は欠かしてなかったので授業には普通についていけた。
そうして放課後になり、さぁ帰ろうかと昇降口から外に出ると其処には青いつなぎを着た青年が居た。
染めているのだろう金髪。身長は高く百八十二センチもある。
顔つきは関西系で糸目の男だ。筋肉質な体もしている。
右手には箒を持っている。
「お、いたいた、千穂ちゃーん」
そう男は軽薄そうな声を出しながら千穂に近づく。
「え、えっと、誰ですか?」
千穂は初対面の相手なので若干緊張する。しかも相手は知らないのに自分の名を言っているのだ。怖くない訳がない。
「あれ、話聞いとらん? うち京都から来た退魔師の
そう糸目なのに器用に笑顔を向けた。
「……佐野千穂です、よろしくお願いします」
そう言って千穂は頭を下げた。
「はいよろしゅう。これから学校や仕事時はうちが護衛に着くで。天城家の方から来た護衛やから、身元も確かや。安心してな」
そう蓮司は笑顔を向けた。
「はい、お願いします」
千穂は少し無理をした笑顔を向けた。
(……こんな若い子が退魔師なんて、やっぱ間違えとる)
そう蓮司は考える。
命を懸けるのは大人、二十歳以上で良い。こんな高校生の子供が切った張ったの世界に居るのが可笑しいのだと蓮司は考える。
蓮司の年は二十四。立派な大人である。
「あと、あんさんの家族にも天城家の方から護衛就くらしいから、それもよろしゅうな」
「そうなんですか?」
そこに千夏が参加した。
「そうよ……そこで、神代さん。話したいことがあるんだけど」
「なんや? 好みの相手は年上のエッチなおねぇさんや」
その言葉に千夏は軽蔑した目を向けた。
「……そういうのではなくて……この後ファミレスにでも行きましょう」
「お、ファミレスか。存在は知ってても行った事あらへんな。楽しみや」
そして蓮司は着替えのため一旦帰った。
■
「んで話ってなんや?」
ファミレスで集合した三人は軽食を注文し、テーブル席についていた。
蓮司は和服を着ている。書生ルックだ。
ここからは天城家が考えている話になり、千穂にはまだ通してない話だ。
だがここですべきだと千夏は判断した。
「神代さん。佐野さんは悪魔に憑りつかれています」
その言葉に蓮司は眉を潜めた。
「……それを言うからには相当厄介な悪魔に憑りつかれとるんやな。なんや、国を滅ぼせるレベルか?」
「はい。貴方でも──この国の総力を挙げても倒せないだろう相手です」
「そらすごい。ほんとならこの国滅んでるなぁ」
そう蓮司はけらけら笑った。
「ですが相手は友好的な悪魔です。だからこの国は滅んでません」
蓮司は怪訝な顔をした。
「そんで、悪魔が憑いとるちゅうのをばらして何をしてほしいん?」
蓮司は相手の狙いを読んでいた。
悪魔が憑いてる相手など退魔師の常識では即死刑だ。だというのにその情報をバラした。
となれば要求は大きく分けて二つに別れる。自分たちでは殺せないから殺してくれ、か匿うから手伝ってくれか。
蓮司は後者だと考える。
「サタニストから狙われている千穂ちゃんを守ってほしいんです。この国最強の退魔師である貴方にしか頼めません」
お願いします、と千夏は頭を下げた。
それに対し蓮司は「ええで」と軽く返した。
「悪魔が憑いとるからって子供を殺すのはあかん。子は宝やからな」
そう軽く言った。
そのことに驚きつつ千夏と千穂は「ありがとうございます!」と礼を言った。
「そんで本題は?」
「……千穂さんを強くして欲しいんです。このままじゃ、敵に殺されてしまうから」
千穂が強くなれば狙っているサタニストから身を守れるし、強くなって有能になれば退魔師の上層部も殺すより生かして使った方が利益があるとみるだろう。
だから鍛錬は必須だ。
「それで胸襟を開いたっちゅうわけか……当然、対価は貰うで。これはなぁなぁにしたらあかんからな」
「勿論です。天城家の方から二億円を渡します」
「?!」
千穂が二億という単位に驚愕の目をした。中の人のパトリツィアもだ。
対し蓮司は驚いてない。
「ま、それぐらいが妥当やな。ええで、鍛錬付きあったる」
「ありがとうございます」
千夏が礼を言うのに合わせ千穂も「ありがとうございます」と頭を小さく下げた。
「しかしなんで悪魔に憑依されてるんや? 廃墟にでも行ったんか?」
その言葉に千穂は口を閉じてしまった。
だが、言わねばならぬと頑張って口を開いた。
「……友達が欲しくて、悪魔を召喚したら憑りつかれました」
「……なるほどなぁ。まぁ思春期やしそういうのもするわな」
そう軽く流した。
「ほいじゃ、早速今日から鍛錬と行こうか。あ、ここの会計はうちがするで」
■
という訳で鍛錬できる場所──天城家の修練場に来た。
「ほいじゃ、模擬戦と行こうか」
「模擬戦、ですか?」
千穂がフル装備で問いかけた。
「せや。退魔師が強くなるには実戦が一番。戦う事でのみ強くなるんや」
この世界にあるレベルはある種ゲーム的だ。敵を倒すことで経験値を得て、強くなる。
だが現実でもある為経験的行動をすることでもレベルは上がるが、それの場合は上昇は遅い。
そして格上との戦闘はそれだけで大きな経験値を得られる。
「んじゃ、やりましょか。先手は譲るで」
「わかりました……行きます!」
千穂はパトリツィアの力を使わず素のステータスで突撃した。
大上段からの袈裟斬りを放とうとするも、途中で刀に止められた。
千穂は後ろに飛び距離を取る。
だがそれと同時に蓮司が接近し、斬りかかる。
すんでのところで防御に成功するも、押される。
男女の性差による筋力さに加えレベル差によるステータスの差が響いているのだ。
蓮司のレベルは三十。熊すら素手で倒せるレベルだ。ちなみに熊のレベルは十ぐらいである。
蓮司は千穂の腹に蹴りを入れ、吹っ飛ばした。
千穂は無様に転がった。
「このまま模擬戦十戦やるから、耐えなはれや」
「……はいっ!」
千穂は気合の籠った目と声で返事をした。