十二月に入り、千穂たちは冬休みに入った。
その間、千穂の周辺はある程度平和だった。
父は会社近くのカフェに天城家の護衛に人間が着くようになったし、千穂の家の近くにも護衛が着くようになった。
サタニストの狙いが千穂──悪魔憑きであるのは明確だ。だから護衛を付けているのである。
だがそれ以外は平和に過ごした。
退魔師としての仕事もこなし、アンデッドも悪魔も倒した。暇な日は蓮司と模擬戦で鍛錬をした。
そうした日々は忙しくも充実していて、あぁこれが青春なんだなと千穂は笑顔の日が増えた。
そうして迎えた二千二十五年一月一日。千穂と千夏、蓮司は近所の神社に来ていた。
そこそこの人数が居り、少しは出店もある。
三人はきゃっきゃっきゃと笑いながらお参りし、おみくじを買った。
「あ、凶だ……」
千穂のくじの内容は凶で外れだった。
こういうのもあるさと三人で笑った。
この三人の中はだいぶ良い。秘密を共有している仲というのもあるだろう。
そうして談笑しながらイカ焼きの店でイカの丸焼きを買い、近くのベンチに座って食べる。
「よっ」
そこに第三者が現れた。
「あなたは……! あの時の!」
千穂がガタっと立ち上がり、千夏もイカ焼きを構えた。
そこに居たのは七罪卿の一人、スコルピウスだ。
「安心しなよ、今回は襲撃に来たわけじゃない。ただ、今度こそちゃんと勧誘しようと思ってね」
「勧誘? うちが居る中でよくもまぁそんなこと言えはるなぁ」
一瞬でイカ焼きを食べ終えた蓮司が構えた。
「おっと、流石に日本最強の退魔師を
そうニヤニヤ笑みを浮かべた。
「……目的は何ですか? なんで私を狙うんですか?」
そう千穂は問いかけた。
それに対しスコルピウスは「よく言ってくれました」と拍手した。
「俺たちの目的はただ一つ──人類の幸福だよ」
その言葉に三人とも目を点にした。
「幸福?」
「そう、今の世界は辛いだろ? 病で死に、怪我で死に、戦争で死に、事故で死ぬ……俺たちサタニストはこんな世界をぶち壊し、新たな世界を創り出す事なんだ」
「んなもん出来るわけないやろ。人は神やあらへん」
蓮司が冷静にツッコミを入れた。
それに対しスコルピウスはくつくつと笑う。
「人ではな。だが、神と敵対する種族である悪魔の力ならどうだ? それが出来るんじゃないか? そうでなくとも……今の分裂した世界を統一し、平和な世を作るぐらいは出来るんじゃないか?」
「世界を統一するために邪魔者全員排除する言うんか? そりゃ独裁者の思考やな」
「けど、そうした方が良いだろう? ウクライナ戦争とか、中東の情勢とか、俺たちが関わった方が良いところはいくつもある」
スコルピウスは肩を竦めた。
「もっと自由に生きようぜ。俺たちは力があるんだ。それを思うがままに振り回して何が悪い? 他人だって喋って走って笑うのを禁止されてないだろ? 俺たちだけ力の行使にあーだこーだの言われるのは間違ってる」
「それが本音やな。ただ力をふりかざして遊びたい餓鬼や、お前らは。見た目通りやな」
「何とでもいうがいいさ……そして、俺たちの目的には強力な悪魔を宿した悪魔憑きがいるんだ。だから佐野千穂、俺たちの元に来い。幸福な未来が待ってるぜ」
その言葉に千穂は少し考え──「お断りします」と断った。
「……理由を聞いても?」
「人を人質にするような、いきなり私に襲い掛かってくるような人の言葉はそれがどれだけ正論であっても、聞くには値しません」
強い目で千穂はそう言った。
「……そっか。じゃあ、次は本気で行くぜ。じゃあな」
そういうとスコルピウスは去っていった。
それと同時に蓮司が電話を取り出しどこかに電話する。
二度目の邂逅は、すぐ終わった。だが、次あう時は──殺し合う時だろう。
■
一月十七日、金曜日。
佐野家の隣のアパートで天羽達也はあくびをした。
「しかしなんで俺がこんなことを……」
本家からの命令で、佐野家の護衛を頼まれている達也は面倒だ、とコーヒーを啜った。
佐野家が──正確には千穂が狙われているのはいまだ上層部には秘密である。
千穂もある程度強くなった。一人前の退魔師と既に呼べるだろう。
だが、一人前ではまだ足りない。それ以上の力が無ければいけないのだ。
だからまだ上層部には隠している。悪魔が憑いている事は。
故に護衛は天城家内で完結させるしかないのだ。
と言っても千穂個人には神代蓮司という最強の護衛が付いているが。
神代蓮司はその日の気分で動く気分屋だ。
だから天城家からの護衛の依頼を受けた。
日本には御三家と呼ばれる、退魔師の大きな家がある。
天城家。神代家。白峰家の三つだ。
そして蓮司は神代家の次期当主だ。
故に天城家に対し借りを作れるのをチャンスと踏み、護衛の依頼を受けたのだ。更に言えば蓮司が出張るようなことが最近少なかったのもある。
最強だからと酷使しすぎれば反逆されうる。だから仕事は適度に振られる。だから蓮司は少し暇だったので、護衛を受けたのだ。
達也は暇だし何かゲームでもするかと思っていると探知用の霊装に反応があった。
「……こんな時間に悪魔だと?」
今の時刻は十一時。逢魔が時には遠すぎる。
奇妙に思いつつも達也は部屋を出る。
そして護衛として佐野家の前に行くと、そこには先客が居た。
「悪魔と……お前は、誰だ?」
そこに居たのはいかにもな悪の科学者ですよ、と言った格好の老人だ。
白髪に白衣を着ており、腰が曲がっている。
丸い眼鏡をかけている。右手の中指には髑髏をモチーフにした指輪をハメている。
顔つきはボビーアニメに出てきそうなザ、悪役と言った風貌である。
その傍には女の形をした真っ黒な悪魔が立って居る。
「……悪魔を使役しているのか?」
そう達也は霊装を展開しながら問いかけた。
「その通りじゃ、退魔師。ひひ、ここが佐野家であってるかね?」
「……さぁ? 俺は東京の人間じゃないからわからないんだ。交番にでも行ったらどうだい?」
「そうかい? なら、ここらの人間を拷問して聞いた方が早そうだ」
「……させるわけないだろ!」
達也はそう叫び突撃する。
「やれ、コペルニクス」
その言葉に従い悪魔が動く。
(速いっ!)
その速度は速く、軽自動車並みの速度があった。
ぎりぎりで達也は防御が間に合ったが、押し込まれる。
「<退魔斬>!」
達也は
コペルニクスの腹が大きく斬られた。
しかしコペルニクスは痛みなど感じぬとばかりにその鋭い爪で斬りかかる。
達也は防具があるのだからと無視しようとし──霊装を貫かれ生身にダメージが入ったことで後ろに大きく飛んだ。
(霊装の防御力を超えた攻撃力……! 並みの悪魔じゃない!)
達也は更に警戒を強める。
距離をって遠距離攻撃で削ろうとするが、すぐコペルニクスが動いて距離を詰めてくる。
無理矢理の接近戦。だが、コペルニクスの身体能力は高いが技術が無かった。
そのためダメージレースでは達也の方が勝る。
そのことに達也は違和感を抱いた。
(まるでゲームのNPCを相手にしてるような──)
そう違和感を感じた途端、白衣を着た老人が指示を出す。
「コペルニクス、戻れ」
その言葉に従いコペルニクスが戻る。
「やはりこの段階じゃうまく使えんのぉ。自我のあるアンデッドを作るのは失敗か」
「……アンデッドだと?」
アンデッド化の禁呪は国の裏で研究されることもあるが、うまくいっていないのが現状だ。
そもそも自我を残した状態で異形種化するのがこの世界では不可能に近いし、研究しようものなら退魔師に即潰される。
だから死霊術や魔法と言った物は殆ど碌に研究されていない。
「そうじゃ。名乗ってなかったな。ワシは七罪卿の一人、カプリコルヌス。まぁ、死霊研究科を名乗っとる」
そうヒヒヒ、と老人──カプリコルヌスは笑みを漏らした。
「アンデッドに対する研究か……ロクな物じゃないんだろうな」
「何を言う。アンデッドは疲労、睡眠無効の超存在。それを利用できればエネルギー問題も解決するだろうに研究しない方が馬鹿じゃろう」
アンデッドを使ってエネルギー問題を解決する、という言葉に達也は疑問を浮かべるしかない。
だが実際問題アンデッドを使えば一部のエネルギー問題に解決の兆しが見えるのは確かだ。
理論上タービン型──というよりは回転できる円形のアンデッドなんてものを創り出し、無限に回転させ続けそこからエネルギーを取り出せれば夢の永久機関が誕生するだろう。
まぁ、魔法を使えればもっと楽に済むのだが、この世界で魔法はあまり発展していないので無理な話だろう。
「……アンデッドなどと言う不浄なる物を使う呪術を許すわけにはいかないな」
「……ふん。どいつもこいつもワシの考えを理解しようとしない衆愚ばかり……死ぬが良い」
カプリコルヌスは右手を向け、コペルニクスに指示を出し突撃させる。
「
唱えたのは火球を放つ魔法だ。
燃え盛る炎の弾が飛んで行き、達也に命中する。
爆発。体が燃え盛る。
火傷し、痛みでくらくらする。だが、退魔師なら耐えれない程ではない。
むしろコペルニクスにもダメージが入り楽になったぐらいだ。
「オオオオオ!」
達也は叫び
それによりコペルニクスは倒され、消滅した。
「やるじゃないか、退魔師。ならこれはどうだい? ──
行使されたのは召喚魔法だ。
召喚魔法とは術者より弱いモンスターを一体、あるいは複数対召喚し使役する魔法だ。
原則術者より強いモンスターを使役出来ないが、召喚系にのみ特化した場合は強いのを使役出来たりもする。
だがカプリコルヌスはそこまでの術者ではないため、召喚されたのはカプリコルヌスより弱いアンデッド一体だ。
召喚されたのはワイトというアンデッドだ。いかつい骨をしたスケルトン型のアンデッドで目には黒い炎が灯っている。
武器や防具は持っていない。霊威六十のアンデッドだ。
「ひひ、
カプリコルヌスが支援魔法を唱え、ワイトを強化する。
退魔師は魔法について無知だ。サタニストが使う術、としか知らずどんなことが出来るのかも魔法についても殆ど知らない。
だから何か妙なことをしている、としか達也は認識できなかった。
達也の霊威は七十──レベルにして二十三と少し。
レベル差による有利はあるが、その差はバフ魔法と二対一という数的不利で覆された。
ワイトが高い身体能力で持って殴りかかり、達也はそれをどうにか防ぐ。
アンデッドは疲労をしない。そのため全力の殴打を無限に繰り返せる。
退魔師はアンデッドと悪魔に対しダメージを与える事に特化しているクラスだ。防御力まで高い訳じゃない。
更にカプリコルヌスが唱えた魔法の一つ、
拳を刀で受けてもそのダメージまでは防げない。
じわじわと達也の体力が削られていく。
「
更にカプリコルヌスは必中属性の魔法を放った。
無属性の魔法の矢が三つ浮かび、ワイトを迂回し達也に命中する。
この魔法は回避不能。それにより達也は少し体勢を崩してしまった。
しまった、と思った時にはもう遅い。達也は腹を蹴られ、吹っ飛ばされた。
「かはっ……!」
大ダメージだ。腹の骨が折れ、動けなくなる。
「これで動けんが……メッセンジャーにはなるじゃろ。ぬしよ。ワシらは例の悪魔憑きの家族を攫う。そして、人質交換の場所は……えぇと、そうじゃ。愛知県の豊橋市、大塚遊園地跡地に今月の十九日、午後一時にに来るよう佐野千穂に伝えろ。勿論、一人でな」
そういうとカプリコルヌスはひひひと笑いながら達也を蹴り飛ばし、佐野家に行く。
玄関のドアを開けようとするが、当然鍵がかかっている。
「ワイト」
カプリコルヌスが指示を出し、ワイトがドアをぶち破った。
そのまま家の中に入り、リビングに行く。
「あ、あなた誰ですか?!」
そこに居た千穂の母、澪がソファから立ち上がり後ずさりしながら叫んだ。
「ワシは七罪卿……と言ってもわからんか。退魔師と敵対する勢力の幹部じゃよ。さて、佐野澪殿。ワシについて来てもらおうか。手荒な真似はしたくないんじゃよ」
そうカプリコルヌスは頬をかきながら言った。
「……私を連れて行って、何をするつもりですか?」
「交渉材料にするだけじゃよ。危害は加えんから安心せぇ」
そう言われても悪漢の言う事など信じられない。
澪はスマホを取り出そうとする。
「警察に連絡しても無駄じゃよ。護衛の退魔師は既に倒したし、警察程度じゃワシらを止められん。大人しくついてくるのが賢明だと思うがね」
「……家族には手を出さないでください」
「勿論、未来の同胞を傷つけるような事はせんよ。さぁ、行こうか」
カプリコルヌスが澪に近づく。
「受け入れてくれよ」
そう言って懐から一枚の巻物を取り出した。
これは
魔法の威力などは製作者に依存するが魔力を消費せず魔法を行使できるアイテムだが、その魔法が使えるクラスに就いている必要がある。しかも消耗品で一度使うとなくなる。
そんな貴重品を誘拐の為だけに使うのだ。
「
そして転移魔法で二人はワイトを残し消えてしまった。