中国北京郊外のあるビルの会議室にて。
そこには七人の男女が居た。
「カプリコルヌスがやられたようだな」
レオンが机に両肘を立てて両手を口元で組みながら言った。
「所詮奴は七罪卿の中でも最弱の老人。七罪卿の恥知らずデース!」
そういうのは女だ。
金髪碧眼の日系アメリカ人の美女だ。グラマスな体をしており室内だというのにマイクロビキニを着用している。
更に乳輪がでかいので少し見えてしまっている。
名をヴィルゴという。
「けど最弱だけど一番仕事してたよね」
そういうのは十四歳ほどの日本人の少年、スコルピウスだ。
そう、単純な戦闘力なら最下位に近いカプリコルヌスだったが、一番サタニストに貢献していた。
何せ上から三番目ぐらいにサタニストに所属してきた暦が長く、数少ない魔法が使える
そのためにサタニストが使う
更に弟子も複数取り、自身の技術を残し更なる発展をさせようと努力してきた努力家でもある。
故にここで死ぬというのは非常にまずい。幾つかの研究開発がストップ、いや下手したら破綻してしまう。
そうなるとサタニスト側も大損害を受けるだろう。ギャグを言っている場合ではなかった。
「あの爺俺が回収してこようか?」
そういうのはサタニスト最強の男だ。
四十代程の男に見える。顔つきはまさしく野獣と言ったワイルド系である。
髭も生えており、黒髪黒目。だが日本人からは離れた顔つきである。
服の上からでもわかる筋肉を持つ男で手足は丸太のように太い。
七罪卿、タウルスだ。
霊威も百五十と人類最強を優に超えた強さを持つ。
因みに頭も多少は回り、ヤクザ業務をこなしている。
「そうだね。それがいいだろう」
そう返すのはインテリヤクザと言った雰囲気の男だ。
中国系の人間だ。眼鏡をかけており、この中では一番真面なスーツを着ている。
名はアリエスという。
「ではさっそく飛行機で日本に向かってくれ。東京にでも行けばカプリコルヌス側から念話が届くだろう」
レオンが言った。
「おーけー、ボス」
サタニストのトップは最強であるタウルスではない。レオンがトップだ。
レオン事態の戦闘力はたいして高くない。だが組織の長としての知恵が回る為、トップをしている。
ファンタジーじゃないのだから強いだけの奴がトップには成れないのである。
「それで、例の実験──境界門だが、アリエス。進捗は?」
「問題なく進行しております。予定通りなら二月二十三日には開くかと」
その言葉にレオンはニヤリと笑みを浮かべた。
境界門。魔界とこの世界を繋ぐ門の事だ。
その実験をここ数十年続けており、ついにまともなゲートが開こうとしているのだ。
だが、それは安定しないし、開くのに多大なコストがかかる。生贄が大量に居るのだ。
裏社会から消えても左程問題にならない人間を集めている為、時間がかかる。乱獲は出来ない。
これはただの犯罪組織の行動であり、サタニストが起こした事ではない、と思わせなければ国が本気で動いて潰しに来るからだ。
だから時間がかかる。
「境界門が開けば、次はついに魔界へのゲートが開く。そうなれば我らの本願が叶うのだ」
レオンはそういう。
しかし肝心の魔界へのゲートを開くには強力な悪魔──パトリツィアが必要だ。
「その例の悪魔憑きの女、どうやって確保する?」
タウルスが問いかけた。
「家族を人質にしたが、今回は奪われたからね……交渉地とは遠くのところに移動させておくかね?」
アリエスがそう提案する。
それに対しレオンは「いや」と返した。
「力技だ。カプリコルヌスが言うには儀式の場に強力な悪魔が居れば成立するらしい。そして、儀式の場は整いつつある……故に──上海で大規模テロを起こし、佐野千穂をおびき出す」
ニヤリ、とレオンは笑みを浮かべた。
■
退魔師の学校というのが各国にある。
ただ日本と中国以外は信仰形
兎も角日本には退魔師の学校があり、それは東京にある。
東京八王子の山奥に東京都立神秘高等専門学校がある。
全五年生の高専であり、退魔師の本部を兼ねている。
その地下深くには罪を犯した退魔師やサタニストを捕らえる牢獄があった。
牢獄として最低限整っているがトイレは部屋に備え付きで丸見えだ。
そこには見張りの退魔師が二名と、捕らえられているサタニスト──カプリコルヌスが居た。
その牢獄に、一人の政治家がやって来た。
その者の名は吉田輝和という、一見するとくたびれたおっさんにしか見えない男だ。
身長は百七十五センチ。顔は土気色。眼鏡をかけている。
吉田は退魔師の家系に生まれたものの、才能が無かった人間だ。
ただ知恵は回る。壊滅的に退魔師としての才能が無かっただけの人間だ。
だからこそ表で成り上がることを選び、退魔師の上層部の一員になったのだ。
吉田は護衛の蓮司と共にカプリコルヌスに会いに来ていた。
カプリコルヌスは
そのため両手は手かせで防ぎ、口には猿轡を挟み詠唱を阻止している。
と言ってもカプリコルヌスは
しかしそれでも大人しく拘束されているのは、ここの警備が厳重だからだ。
カプリコルヌス自体の霊威は左程高くなく、単独での戦闘力は七罪卿の中でも劣る。
カプリコルヌスが厄介なのは数少ない魔法が使える者というところで、習得している魔法は多岐に渡る。
それらの知識を元に作り出す
この高専の警備は厳重で多数の監視カメラだけでなく退魔師を巡回させており、教師も全員退魔師で非常に強い者が所属している。
ギガンテスを失ったカプリコルヌスでは脱獄は不可能に近いだろう。
吉田は護衛の退魔師の一人を檻の中に居れ、カプリコルヌスの猿轡を外させた。
「ひひ、何の用かね、退魔師さま」
猿轡が外された途端カプリコルヌスはいやな笑みを浮かべた。
だが実際内心は精一杯だ。サタニストに人権は無く、即死刑が執行される。
だからこれでも頭を回しここから生き残る術を模索している。
「サタニスト。君たちの目的を知りたい。何故悪戯にテロ活動を繰り返す? 何故佐野千穂というただの退魔師を狙った?」
「おや、本人から聞いてないのかね? 佐野千穂は悪魔憑き、我らが狙うには充分な理由だと思うがね」
悪魔憑き、という言葉に吉田は驚愕の表情を浮かべた。
「……なるほど、勧誘という訳か。それは失敗したようだが……前者の質問の答えは?」
「ひひ、佐野千穂には明かしたが、我らの目的は世界をあるべき姿に取り戻す事じゃよ」
「なんだと?」
吉田は怪訝な表情をした。
「悪魔が蔓延り、アンデッドが湧いてくるこの世界をあるべき姿に戻し、正常なる世界に戻す。それが我らの目的じゃよ」
「……そのためなら犠牲をいとわないと?」
「喪失無くては得るものはない。必要な犠牲じゃよ。退魔師ならわかるじゃろ?」
その言葉に吉田は「ちっ」と舌打ちをした。
割とわかるのがムカつくのだ。
退魔師の世界は弱肉強食。十全な準備をしようと予期せぬ事態で新人や先輩が死ぬのはよくある事だ。
更にここ最近は悪魔の出現数も増加している為死亡率は高い。
それをもどかしくも思っているのだ。
「なるほど。では、そのための具体的な手段は?」
「ひひ、言う訳なかろうて」
カプリコルヌスは嗤った。
「なら拷問でもしようか。大丈夫だ、人の指は二十本もある。そのうちの一つや二つ無くなっても生きていけるさ」
サタニストに人権はない。だから拷問しても法律は守ってくれない。
流石に拷問されるのは勘弁だとカプリコルヌスはこっそり魔法を発動しようとし──
──それより早く地震が起こり、大きく揺れた。
「なんだ?」
吉田は急な事態に驚きつつ指示を出す。
「猿轡を付けさせろ。すぐここを出るぞ。襲撃かもしれん」
サタニスト側に友情があるのかはわからないが、幹部が捕まったとなれば取り返す為に動く可能性はあると吉田は踏んでいる。
と言ってもそれは情報を漏らさないための殺処分という可能性の方が高いとも考えているが。
(しかし襲撃だとして、ここに幹部が居るのをどうやって突き止めた?)
吉田はそう考えるも答えは出ないかと舌打ちをした。
退魔師がすぐカプリコルヌスに猿轡を嵌め直し、牢屋から出て鍵を閉める。
そして監視を残し吉田たちは地上に上がった。
地上を出て少し進むとそこはグラウンドだ。普通の学校のグラウンドほどの広さがある。
そこには一人の男と生徒たちが居た。
男は吉田の知らない男だ。
四十代程の男に見える。顔つきはまさしく野獣と言ったワイルド系である。
髭も生えており、黒髪黒目。だが日本人からは離れた顔つきである。
服の上からでもわかる筋肉を持つ男で手足は丸太のように太い。
七罪卿の一人、タウルスだ。
タウルスはこの高専の教師一人と生徒三人と戦っていた。
教師は男でどこかくたびれた雰囲気の男だ。歳は四十代後半程度。
刀を手に戦っている。
生徒のうち一人は男で残る二人は女だ。
女の片方の名は白峰舞。十六歳の少女でスレンダーな体形をしているが、モデル顔負けの美貌を持つ女だ。日本人らしく黒髪黒目である。
学生最強と呼ばれる退魔師であり、霊威は五十程。
高専生でもこの世界、悪魔やアンデッドと戦う。
それは学生の内から戦闘経験を積ませるというのと、単純に人手が足りてないからだ。
故に学生であっても戦闘力が高い者は居る。
その中で白峰舞は戦闘力が高く、千夏の様なラバースーツを纏い戦っている。手には刀を持っている。
その学生最強と学生二人。そして教師という四対一だというのにタウルスは圧倒していた。
「ははっ! どうしたどうした?! 日本の退魔師はこんなもんか?!」
タウルスは日本語でそう叫びながら教師の腹をぶん殴り、吹っ飛ばした。
教師の男──名を佐々木一郎は腹を抱えながらどうにか立ち上がろうとする。
(なんでここにこんなバケモノが来るんだよ……!)
内心ではそう愚痴を吐く。
退魔師の感覚からして、この男──タウルスは人間ではないと感知出来た。
だが悪魔なのかアンデッドなのかまではわからないが、常人ではないだろう。
更にその身体能力は馬鹿高い。それこそ重機顔負けのパワーを発揮している。
佐々木より強い舞であっても赤子扱いで、碌にダメージが入っていない。
タウルスが着ているのはただの服で防刃の服などではないし、そもそも露出してある肌を狙って切っても薄皮一枚切れていなかった。
「化け物め……!」
舞がそう愚痴を零しながら斬りかかった。
対しタウルスは防御も回避もせず、胸に攻撃を受ける。
だが──ダメージはない。悲しいほどに。
「よわい、よわいなぁ、今の時代の奴らはこの程度かぁ?! おい!」
タウルスはそう叫びながら舞の頭を掴み、地面に叩きつけた。
「こうも雑魚ばかりだとやりがいが無くて困るぜ」
そう言いながら舞を蹴り飛ばした。
「なにすんだてめぇ!」
そう叫び、生徒の一人の男子生徒が斬りかかる。
対しタウルスは拳を虚空に向かって放った。
<衝撃破>の格闘系
それをもろに喰らい、男子生徒は無様に吹っ飛んだ。
これで高専側の戦力は全てダウンした。
残るは吉田の護衛の退魔師二人だけだ。
「んで、そこのおっさん、うちの幹部──カプリコルヌスがどこに居るか知ってるか?」
そうタウルスは吉田に問いかけた。
吉田は眼鏡を直しながら答える。
「知っていたとして、教えるわけがないだろう」
その返答にタウルスはガハハ、と笑う。
「そりゃそうだ。なら、力づくで聞くとしようか!」
そう叫び突撃する。
護衛の一人が前に出るも、心臓を素手で貫かれ死亡した。
そのまま腕を引き抜き、腕をつかみ棍棒のように振り回しもう一人を吹っ飛ばした。
「……化け物め」
吉田は忌々しそうに言った。
「はいじゃ、教えてもらうぜ。<魅了の魔眼>」
タウルスの種族は人間ではない。異形種の一つ、吸血鬼だ。
と言っても始祖や真祖には遠く及ばない、ただの吸血鬼。だがそれでも吸血鬼の
<魅了の魔眼>は対象一人を魅了状態にする
効果時間は長くないが、相手と自身の関係を親しい友人と認識させる。
だが精神操作された後も記憶は残るという欠点がある。
「君にならいいだろう。さ、こっちだ」
そう言って吉田はタウルスを案内する。
二人は高専の地下に行く。
そこには当然、警護の退魔師が居たが吉田が連れてきたという事でたいして疑問に思われず通された。
「爺さんがボールギャグ嵌められてると何かのギャグみてぇだな」
そうタウルスは嗤いながら檻を破壊し、カプリコルヌスの拘束を破壊した。
「助かったぞ、タウルス」
「おめぇはうちに貢献してきたからな。助けるのも当たり前だ。んじゃ逃げるぞ」
そうしてタウルスはカプリコルヌスを連れて牢獄を出た。
当然敬語の退魔師がカプリコルヌスが出ていることに気づき武器を抜くがタウルスの敵ではなく、一撃で殺されていった。
それを吉田はただ見ていた。
「少し殺しすぎではないか? 生かしておかないと不味いじゃろう」
「こんなんで死ぬ方が悪い」
タウルスはそう言いながら外に出た。
二人は空を飛び、高専から脱出したのだった。