千穂と千夏はある場所に来ていた。
「ここが……退魔師の本部」
そう、来ているのは東京八王子にある東京都立神秘高等専門学校──退魔師の本部である。
「大丈夫、私がどうにかするから安心して」
千夏は笑顔でそういうも、その笑顔は作られたものだと素人でもわかるだろう。
「……はい」
何故ここに来ているのか、というと千穂の存在──正確には千穂に憑いてる悪魔の存在がバレたのだ。
だから召喚され、問いただされるのだ。
もしかしたらその場で処刑しろ、と命じられるかもしれないと千夏は考えていた。
いや、実際そうするのが退魔師としては正しいのだろう。悪魔に憑りつかれた人間は死ぬことでしか救われないのだから。
しかし今、千穂に憑いてる悪魔は悪事をなしていない。だから、まだ希望はあるはずだ──と千夏は考える。
そうして長い階段を登り、高専の敷地内に入る。
そこには一人の男が居た。
サングラスをかけた男だ。白髪で身長は高く百九十二センチはある。
「よ、初めまして、僕はこの高専の学長をしている白沢真一っていうの、よろぴこ」
そう真一は手を挙げた。
白沢家は白峰家の分家であり、退魔師の上層部と深いつながりがある家の一つだ。
「よ、よろしくお願いします」
千穂は頭を下げた。
「……悪魔憑きなのに礼儀正しいねー。そして実際主導権は現在佐野千穂側にある、と……やっかいだねー」
そうたははと真一は笑みを漏らした。
「それじゃあ、ついて来て。上層部に会いに行こうか」
そうして真一の案内の元口校内を歩き、奥の階段を登っていく。
四階の奥の部屋に着き、真一が「どうぞー」とドアを開けた。
そして部屋に入ると、そこは異空間だった。
千夏が入っていたのと同じ異空間で、この異空間と繋がる場所は幾つかある。
「ひえぇ……」
そこには無数の白い板があった。
「貴様が佐野千穂、悪魔憑きか」
白い板の一つが声を発した。
「は、初めまして、佐野千穂です」
よろしくお願いします、と千穂は頭を下げた。
「これが悪魔憑きか」
「悪魔が憑いてるようには見えんな」
などと白い板同士で話をする。
「僕の目で見た限りちゃんと悪魔が憑いてます。そこは保証しますよ」
そう真一が言った。
真一が持つ
この魔眼は視界内の対象を詳しく見ることが可能で相手のHPや魔力、クラス構成など全て見抜ける高位の看破系の
筋力を五十パーセント上昇させる物から魔法を一定回数使えるなど、多岐に渡る。
スコルピウスも
「そうか。ならば、処刑するしかあるまい」
白い板の一つがそう言い、それに賛同する声が続いた。
それに異を唱えるのは千夏だ。
「お待ちください。佐野さんは悪魔に憑かれただけの被害者。即処刑する、というのは非情ではないかと」
「だがすべての悪魔は敵だ。殺さねばならん」
対し白い板はそう返す。
「なら、この子を利用するってのはどうです?」
そこに真一が口を挟んだ。
「どういう意味だ?」
怪訝な声で板は問いかけた。
「サタニストはどういう訳かこの子を狙ってる。ならこの子を餌にすればいい」
「ほう、餌とな。だが釣り糸はどうする?」
「それならこのまま神代蓮司をそばに付けさせておきましょう」
天城家から神代家に護衛を頼んでいるのは上層部も知っている。
「ふむ。確かに一度成功した事だ。だが、その悪魔憑きがこちらに危害を加えない保証は?」
「それなら既にあるでしょう。彼女はこれまで人を殺したことはないし、悪魔の力で悪事を働いたことも無い。さらに言えば既に一人前の退魔師と同等の力を持っている。切り捨てるのは少し惜しいのでは?」
そこまで言われると上層部もうねる。
実際退魔師は人手不足だ。
神代蓮司という最強の駒こそいるが彼は気まぐれだ。
と言っても常に千穂の傍に居るわけではなく、強力な悪魔やアンデッドが現れた時などは対処してくれていたが。
「ならばこれまで通り監視として神代蓮司を付けたままにするか?」
「だが一度襲撃が失敗したのに再度来るほどサタニストも愚かではないだろう。それに神代蓮司を長期間拘束するのも損だ」
「……ならばこれまで通り被害が出ないという事を祈り、神代蓮司は外し、佐野千穂は放置するしかないか」
「だが監視は居るだろう。天城千夏。其方に監視を命じる」
「畏まりました」
千夏は千穂の身が無事のままで終わりそうでよかった、と内心ほっと息を吐いた。
「しかし
■
数日後の放課後。
都内のファミレスにて。
「どうやらあの幹部、逃げられたらしいわ」
そう蓮司がコーラを飲みながら言った。
蓮司、千穂、千夏の三人は定期的に放課後にファミレスによって勉強会をしていた。
退魔師の勉強ではなく、普通の学校の勉強だ。
「そんな……」
千穂が悲しそうな声を出した。
「牢獄は警護も厚かったはず。どうやって逃げられたんですか?」
千夏が問いかけた。
「なんでも、敵幹部の一人が襲撃してきて滅茶苦茶にしてったらしいわ。死者も出たらしいで」
「……死者の数は?」
「三人やと」
それに対し千夏は異を唱えた。
「敵幹部の襲撃があって、死者がたった三人は少し変じゃないんですか?」
「それなんやが、敵幹部の爺がこう言ってたらしいで。『殺しすぎるのは不味い』てな」
「……サタニストだというのに殺すのが不味い?」
サタニストはテロリストで平和を滅茶苦茶にするのが目的のはずだ。
だというのに殺しを忌避している。そのことに千穂と千夏は首を傾げた。
だが千穂はカプリコルヌスが言っていた「世界をあるべき姿に正す」という言葉を思い出していた。
それが本当だとするならば、無闇に死者を出すのはサタニストも望んでいないのかもしれな──そう思った。
それに対し蓮司は「まぁ、敵の戯言やから深く考えんでええやろ」と返した。
「それじゃあ、勉強会しよか。定期テストも近いしな」
そうして学生らしく、勉強をするのだった。
■
二月二十一日。
「おー」
千穂、千夏の二人は飛行機に乗っていた。
今から向かうのは北海道沙流郡平取町本町──千穂にとっては二度目の都外であった。
勿論遊びに行くのではない。退魔師としての任務だ。
北海道のある場所にてここ二週間、悪魔とアンデッドの目撃情報が相次いだ。
その大本を探知系の退魔師が探知した結果廃墟であるハヨピラ自然公園が元だと判明した。
その原因を解明、解決するために千穂は動かされていた。
これは千穂が退魔師側に立っているのだという証明をしろ、という事でもあった。
「この飛行機、凄いね」
千穂はあたりを見ながら言った。
今千穂が乗っているのはプライベートジェット機で天城家所有の物だ。
御三家は日本の政治にも深く関わる華族であり、資産は余裕で数百億に上る。
だからプライベートジェット機ぐらい数台持ってる。しかも大型を。
「まぁ、ただの移動にここまでお金かけなくても、とは思うけどね」
千夏はそう苦笑しながら冷蔵庫からオレンジジュースを取り出した。
千穂が「ありがとう」と礼を言って受け取った。
「けど北海道で異変か……何があったのかな」
「……サタニストが何かしている可能性があるけど……もしそうだとしたら、罠かしら」
「……罠。私を捕まえる為の?」
「そうかもしれないけど……いえ。千穂ちゃんが来るとは相手も予想出来ないはず。その可能性は薄いわね」
千夏は先ほどの言葉を撤回した。
そうして、飛行機は進んで行く──
■
「ここが北海道……」
千穂は北海道の札幌にある空港から出た。
まだ二月というのもあり雪が積もっている。
千穂は寒さを感じていなかった。
退魔師としてのレベルが上がった為、環境変化にも強くなっているのだ。
と言っても全裸になれば普通に寒く感じるし風邪をひくだろうが。
時刻は夜である。
「さ、ホテルに向かいましょ」
そう言ってタクシーに乗り込む。
荷物は全て千穂──パトリツィアの魔法で異空間にしまってあるので身軽だ。
近くに居たタクシーを捕まえ、JRタワーホテル日航札幌に向かってもらう。
こういう時も高級ホテルに泊まる。
千穂は自分の金銭感覚は壊れないだろうか、と不安になった。