第17話
北海道での任務を終えた千穂たちは普段の日常に戻った。
学生らしく勉学に励み、暇なときは退魔師としての仕事に乗じる。
その過程で千穂も退魔師としてレベルアップし、そのレベルは実に三十に到達した。
パトリツィアが憑依した関係もあり、才能が生まれたのだろう。
因みに千夏も同レベルまで上がっていた。
そうして季節は過ぎて行き──遂に八月になった。
その間、奇妙な程にサタニストは動いていなかった。悪魔の出現数も低下していった。
だが、これからサタニストたちの本気が現れる。
■
上海にある観光名所の一つ、東方明珠塔にテロ予告が成された。
サタニストを名乗る者たちからの襲撃予告があったのだ。
それを受け、東方明珠塔の管理会社は予告日に臨時休業をし、念のために警備員を雇った。
これだけで損害は億に達するだろう。
そしてその日──八月十日の日にサタニストがテロを仕掛けた。
「ほ、本当にやるんですかい?」
上海のある街並みを歩きながらタウルス配下の半グレがタウルスに問いかけた。
「おう、本気だ。これが成功すりゃ俺たち億万長者だ」
心にも思ってないことをタウルスは言った。
タウルスは自身の配下──ヤクザや半グレ二百名を連れて東方明珠塔に襲撃に行く途中であった。
そして、これらの配下は退魔師の事を何も知らない者たちであり……いわば生贄であった。
死んでも誰も悲しまないし、むしろようやく死んでくれたかと感謝すらされるだろう人種だ。
だからタウルスも捨て駒にすることを惜しまない。
更にタウルスは億万長者になると言ったがたかが塔一つ襲撃しただけで億万長者になれたら誰も苦労しない。だが半グレたちはそれを信じ行動する。
東方明珠塔前に着くと其処には警備員が複数立って居た。
そのうちの一人がタウルスに近づく。
「申し訳ない、今ここは立ち入り禁止なんです。どうかお帰りください」
そう警備員が苦笑しながら言った。
「おう、知ってるぜ。うちが予告出したからな。てめぇら全員死んでもらうぜ」
警備員は何か言い残すことも出来ず、頭部が弾け飛ばされ死んだ。
「んじゃ行くぞ」
そうしてタウルスは東方明珠塔を襲撃し──あっけなく占拠されるのだった。
「ふむ。こうして見下ろすと感慨深い物があるな」
サタニストのトップ、強欲担当のレオンが塔の一番上……太空艙で地上を見下ろしながら言った。
今この塔と上海はサタニストたちが襲撃している真っ最中だ。
温存してきた悪魔とアンデッドを都市中にばらまき都市を混沌に陥れている。
サタニストは世界各地に存在し、総数で言えば二万人もいる。
と言ってもそのほとんどは知識があるだけの半グレの様なものたちで戦闘力がある者は半分以下になるだろう。
そしてこの日は七罪卿全員が上海に揃い、襲撃をした。
開発研究し温存してきた
上海の有史以来最大のテロ被害となるだろう。
「それでは、ヒロインを迎え入れようではないか」
そうレオンはニヤリ、と笑みを浮かべた。
■
上海東方明珠塔付近のとある雑居ビルに、千穂たちは居た。
「ではこれより作戦会議を始める」
そういうのは上海の退魔師トップ──戦闘力ではなく政治的な意味──の男の李が日本語で話し始めた。
今この場には三国の実力トップの者がいる。
日本最強の退魔師である神代蓮司。中国最強である
退魔師業界の中でもこの三人が特出して強い。誰もかれも単独で都市一つぐらいなら滅ぼせるだけの力を持っているのだ。
流石に国家転覆、とまではいかない。所詮は生物なので核なり軍隊なり出されれば負ける。まぁ軍隊側にも相応の被害を出せれるだろうが、その程度だ。
だがパトリツィアは違う。単独で国の一つや二つ滅ぼせる怪物である。
中国最強も強いが、まぁ軍隊とタイマン張って壊滅させたら己も死ぬ程度だ。国の軍事力と同等と言えば強いだろうが。
だから三人と千穂がこのメインの作戦会議上に居るのだ。
「まず敵だが……敵もこの作戦に力を入れているのだろう。これまで確認された幹部全員の出現を確認した」
そう李が眼鏡を直しながら言い、そのことに緊張が走った。
サタニストたちも本気。全戦力を投じて来た大作戦だ。
この作戦、普通の軍隊は意味を成さない──というよりは無力化されている。
何せサタニストが使役する悪魔は魔法的効果のない攻撃に対し無敵……つまり銃弾やら戦車の砲撃やらは無効化されて意味が無いのだ。
無論使役している側である人間はロケランなんて喰らえば木っ端みじんになるだろうが、それぐらい相手も承知なので隠れて悪魔だけ召喚すればいいので対策はされやすい。
だから普通の軍隊ではなく退魔師が動かされているのだ。
更に中国はバチカンと日本に支援を求めた。
何故ならばサタニスト側も本気だと七罪卿全員──七と着く癖に八人いるが──が確認されたからだ。
日本以外でも活動をしていた大幹部全員が勢ぞろいであった。
となるとこれは下手したら自国だけで済む話ではない、と中国政府は判断した。
千穂から得た情報は各国にも共有されており、その目的が魔界へのゲートを開く事だとは判明している。
ならばここで下手に戦力を出し渋って魔界へのゲートが開いて世界に悪魔が蔓延りました、となれば自国が滅ぶだけで済むわけがないとプライドを捨て各国に救援を求めたのだ。
故に今の世界で出せる戦力をすべて出し切ったのである。
「外には七罪卿、憤怒のタウルスが陣取っている。この男を排除するのに聖女マーラ、神代蓮司、皇黄龍の三人で相手してもらう」
「たった一人に三人がかかり? 人の使い過ぎとちゃいます?」
蓮司がそう意見を出した。
それに対し黄龍が苦い顔をしながら言う。
「ウチでも相手にならない強敵ネ。正直この三人でも不足してる思うアルヨ」
皇黄龍は女だ。
まさにこれこそチャイニーズヒロインと言った感じの女で美しい。
スリットが広いチャイナ服を着ており、パンツが見えそうになっている。
お団子ヘアーである。
クラス系統は純戦士で、そこに退魔師のクラスも入っている。
身体能力が馬鹿高く、アメコミみたいにビルとビルの間をジャンプで渡ることも可能だ。
だが、やり方次第では国が亡ぶ一歩手前まで持っていけるのは確かだ。
それほどの強者でも倒せないという。
「まるで一度当たったみたいな言いぐさやな」
蓮司が鋭い目で問いかけた。
「そうアル。一度中国の戦力だけで当たったネ。けど、塔の入り口に居る憤怒にコテンパンにやられちゃったネ」
悔しい、と黄龍は歯ぎしりした。
「なるほど。ではこの三人でまずは入口から憤怒をどかしましょう」
そういうのは美しい女性だ。
ロシア系の顔立ちでブロンドの髪に透き通るような青い瞳。身長は高く百七十五センチはある。
黒い動きやすいように改造したシスター服を着ており、手には錫杖を持っている。
バチカン、そして世界最強の
その力は非常に高く、条件させ会えば死者を蘇生する事すら可能にする。
「憤怒をどかしたのち、此方の次点の戦力である佐野千穂、天城千夏、呉迦楼羅の三人で塔内に侵入。敵のトップ──強欲のレオンを討伐する」
塔周辺にもサタニストと悪魔は居る。それらに対処するための戦力も必須だ。
限りある戦力での最善を尽くすべく、行動に移した。
■
昼の十二時ごろ。
東方明珠塔の前に持ち運び出来る椅子と机があり、椅子には憤怒のタウルスが座っていた。
優雅にコーヒーを嗜んでいる。
吸血鬼は飲むことは出来ても食べることが出来ない種族だ。そのため飲むことは吸血鬼の長い生を飽きさせないスパイスである。
タウルスは三人に気づくと立ち上がり、腕を鳴らす。
「メスが三匹。この程度で勝てると思ってるのかね?」
そうタウルスは嘲笑う。
蓮司は既に女体化済みであった。
神代蓮司。皇黄龍。マーラの三人が武装した状態で構えた。
「何故、このような非道なことをするのでしょうか」
マーラがそうタウルスに問いかけた。
「俺たちの大いなる目的の為、だ。佐野千穂には話したぜ」
「……本当にこの世界の問題を解決できると思ってるのですか?」
「理論上は可能らしいぜ……ただ、俺の目的は違うが」
そうタウルスは笑う。
「ではあなたの目的は?」
「強者と戦う事。悠久の生に置いてこれ以上ないほどの娯楽だ──御託はここまで。行くぜ、雑魚共!」
そう叫びタウルスが突撃した。
正しく神速。常人では目に追えぬ、弾丸がごとき速度。
それに対応したのは人類最強の戦士、皇黄龍だ。
「セイヤッ!」
拳を放ち、黄龍とタウルスの拳がぶつかった。
「ははっ! 俺に一度負けたのにまた来たのか! 数を揃えれば勝てるとでも思ったか?!」
そう。一度黄龍は──正確には中国政府は負けている。
自国の戦力だけでどうにかしようとしたが、タウルス一人にあっけなく敗北したのだ。
「ソウネ。人類最強の戦法は囲んで棒で叩くアル。数の暴力思い知るがいいネ!」
そう叫び黄龍は拳によるラッシュを繰り出す。
タウルスは余裕の笑みで拳を捌く。
「
そこにマーラが魔法を唱えた。
天使が召喚される。
召喚されたのはエクスシアという天使だ。
三つの翼が一つの胴体にくっついている異形の天使。頭部と足は無いが、腕はある。
左右の手には光輝く剣と盾を持っている。
外見通り近接戦闘特化の天使である。
「
更にマーラが回復魔法を唱えた。対象は──タウルスだ。
「うおっ?!」
タウルスは己の中のエネルギー……負のエネルギーがごっそりと減ったことに驚愕し、一瞬動きを止めた。
その隙を突いて天照大神を憑依させている蓮司が背後から斬り付けた。
日属性により体が燃え、大ダメージを受ける。
「ははっ! いいなぁ、おい!」
そう叫びタウルスは衝撃波を周囲に散らし、蓮司と黄龍を吹き飛ばした。
タウルスは吸血鬼──アンデッドである。アンデッドは生命にとっての光である聖属性に弱い。
故に回復魔法は体を治さず、逆に傷つける。故にマーラの唱えた回復魔法がタウルスのHPを大きく削ったのだ。
エクスシアが突撃する。
タウルスがエクスシア相手に拳をぶつける。
剣と拳。拳の方が負けそうだがタウルスは素手戦闘特化のクラップラーだ。その拳は鋼鉄より硬い。というかこの世界にあるどの金属より硬い。
更にエクスシアのレベルは三十二。レベル差が二十ほどもあるので負けている。
マーラ一人で戦っていれば五分とかからず敗北していただろう。
だがここには仲間がいる。
左右から蓮司と黄龍が突撃する。挟み撃ちだ。
「いいねぇ! そう来なくちゃ! <眷属召喚>!」
タウルスは吸血鬼としてのレベルを上げている。
そのため吸血鬼が基本的に持つ能力は全て使える。
タウルスの影から蝙蝠や鼠、狼が湧いて出てくる。
それらは全て墨で真っ黒にしたように暗く、そして影がないモンスターたちだ。
レッサーヴァンパイアに近い眷属だ。一体一体は雑魚であり、蓮司たちには通じないだろう。
「おら眷属共! 外の人間どもを殺せ!」
だが、そう指示を出されたことで蓮司たちは対処せざる負えなくなる。
レッサーとは言え吸血鬼。そして吸血鬼は
故にここで放置すれば悪戯に被害が広がる。
だから蓮司は範囲攻撃を放った。
「天照!」
行使したのは天照大神が憑依中のみ使える
広範囲──と言っても二百メートル内に日属性のダメージを与えるという
それにより大半の眷属はやられる。残ったのはマーラと黄龍が潰しに向かった。
しかし蓮司は大技直後の隙を晒してしまった。
「貰ったぁ!」
そう叫びタウルスがその豊満な胸を全力で殴った。
タウルス自身にも蓮司が纏う日属性の炎で焼かれるが、それよりも蓮司に与えたダメージの方が大きいだろう。
「さぁ、かかってこい人間ども! 俺を倒さなきゃ人類に未来はねぇぞぉおぉぉおお!」
激戦は続く──