「よし、行こう」
蓮司、マーラ、黄龍の三人が戦闘に入ったのを確認した千穂はそうつぶやき行動を開始した。
千穂一人なら隠密系の最上位の魔法で隠密出来るが、そこに仲間がいるとなると困る。
仲間には精々透明化ぐらいしかかけれないので、隠密には欠けるのだ。
だがそれでも念のためにと透明化と音を消す魔法を仲間である千夏と迦楼羅にかけ、千穂たち三人は隠密行動しながら東方明珠塔に入った。
奇妙な程に妨害は無かったが、それは幹部から佐野千穂を塔に入れろ、という指示があったからだった。
それに気づいた者は居なかった。
東方明珠塔内に入るとすぐ敵と遭遇した。
「ようこそ」「塔へ」
そういうのは怠惰担当、双子のジェミニだ。
ピグリティアとアクディアである。
「佐野千穂は通って良い。けどその二人は駄目」
アクディアがそう冷徹な声で言った。
「なら、あなた達を倒して三人で行きます」
そう千穂は刀を抜いて構えた。
「いいえ。千穂ちゃん。先に行って」
それに待ったをかけたのは千夏だ。
「千夏さん? なんで?」
「相手の目的の成就は近い。なら早く最奥に行き、止めるのが最善……だから最大戦力である千穂ちゃんは先に行くべきよ。ここで足止めをされる前に」
千夏はそういうが、千穂を先に行かせる事が狙いという可能性も勿論ある。何かしらの罠という可能性だ。
だがそれがあったとしても千夏は千穂を先に行かせた方が良いと考えた。千穂──正確には千穂に憑く悪魔パトリツィアならどうにかするだろうという嫌な信頼があったからだ。
「天城の言う通り。先に行って」
そういうのは中国の退魔師、迦楼羅だ。
白と黒が反転した目を持つ女子中学生程度の歳の退魔師である。
「……わかりました。先に行きます」
二人にそう言われれば、とばかりに千穂は先に進んだ。
「それじゃあ、私たちもとっととあなた達を倒して、先に進ませてもらいましょうか」
千夏が刀を構えながら笑顔で言った。
「……やってみるといい」
そうアクディアは返し、魔法を唱える構えを見せた。
■
千穂が階段を登って次の階──観光層に入る。
ここは高さ二百六十三メートルという場所で望遠鏡から地上を見下ろすことが出来る場所だ。
そこには当然、敵幹部が居た。
「オーウ! 来ましたネ!」
そこに居たのは金髪碧眼のアメリカンな美女だ。
「痴女だ?!」
千穂は思わずそう叫んでしまったが、それは正しかった。
アメリカンな美女──七罪卿色欲担当、ヴィルゴは大剣──クレイモアを担ぎながら千穂を見た。
その服は無く、乳輪と陰毛が少し見えている金ビキニしか着ていなかった。
その隣にはスーツを着た出来るサラリーマンと言った雰囲気の男、七罪卿嫉妬担当のアリエスが居た。
「ようこそ。佐野千穂さん。我々の目的のために──拘束させていただきます」
そう言いながらアリエスは銃を構えた。
「あ、あなた達を倒して、目的を阻止します!」
「出来るものならぜひそうしてください──まぁ無理でしょうが」
アリエスがそういうと同時にヴィルゴが突撃する。
ヴィルゴは七罪卿の中でも上位に入る戦士だ。
クラス構成は純粋な剣士であり、剣の技量は達人を超える。
更に言えばその純粋な身体能力も非常に高い。
なまくらで鋼鉄を斬り裂くなんていう物理法則を無視したことさえ可能だ。
故に退魔師であり、対アンデッドと悪魔に特化している千穂では負けるだろう。
だから最初から本気、悪魔憑依モードで戦う。
左目が赤くなり少々悪魔の瘴気が放たれる。
刀と大剣がぶつかった。
質量的に大剣の方が勝りそうだが、千穂の文字通り人外の身体能力を持って拮抗した。
「Oh! やりますネ!」
そう笑顔を浮かべながらヴィルゴが更に剣技を放つ。
千穂はそれを回避し、捌き、隙を見つけては攻撃する。
だがそれは相手も同じことだ。
アリエスが懐からハンドガンを取り出す。
この銃自体カプリコルヌスの手で
更に銃弾自体も
因みに一発百万円ぐらいする。
その貴重な一発を千穂に向かって放った。
千穂の死角から撃たれたそれは千穂の脇腹に命中し、風穴を開けた。
「痛ったい!」
そう叫びながらも千穂は後ろにジャンプし<空斬>でアリエスに向かって飛ぶ斬撃を放った。
身体能力が高くない──というか鍛えた一般人と同程度であるアリエスはローリングで足の裏を斬撃が霞めながらもどうにか回避した。
アリエスは退魔師の家系だとかサタニストの家系とかの出身ではなく、一般家庭出身のヤクザだ。
裏の世界に深く潜りこんでいった結果サタニストや悪魔の存在を知り、それに心惹かれて闇の世界にどっぷりハマった元一般人だ。
だから身体能力はどれだけ鍛えてもただの退魔師にすら劣る。
そんなアリエスだが金勘定については人一倍得意で万年金欠だったサタニストの財政事情を一人で解決した手腕を持つ。
故に戦闘力は高くなく、スーツの下には防刃防弾のベストを付けているぐらいだ。
使っている銃も自己開発した物ではなくカプリコルヌス作の物である。
「なるほど、悪魔憑き……その存在は人間よりも悪魔に近い、と」
立ち上がり眼鏡を直しながらアリエスが呟いた。
千穂の体は既に再生が始まっている。パトリツィアが再生の魔法を唱えたからだ。
そして痛覚は鈍い。悪魔の痛覚は鈍いのだ。と言っても痛みを感じない、というレベルではないただ腕が斬り落とされてもおー腕が無くなったわと笑える程度なだけだ。
「しかし我々もサタニスト。諦める訳にはいかないので、頑張らせてもらいますよ」
そう言いながらヴィルゴが突撃する。
クレイモアと刀が衝突し合う。
硬い金属同士がぶつかった嫌な硬質的な音が響き、千穂が体勢を崩そうものならその隙を突いて一発百万円の弾丸が千穂の体をえぐり取る。
長期戦になるが、このまま戦えば勝つのは千穂だろう。
何せ千穂は疲労などない。何時間だろうが戦える。と言っても三日三晩とかは無理だ。千穂はまだ人間の精神なので永久に続くような戦闘に精神が耐えられない。パトリツィアは違うが。
実際にヴィルゴ側は疲労で汗をかき始めている。
このまま戦えば勝つのは千穂だ。
だが、それには時間がかかる──故に千穂は後ろに飛び魔法を唱えた。
「
唱えたのは対象一体を拘束する魔法だ。
魔力で出来た輪が生じ、ヴィルゴを捕らえた。
「Oh! ジャパニーズ亀甲縛り!」
「違いますよ?!」
謎の勘違いをしていたので千穂が訂正した。
「けど、それで動けませんよね?」
「なるほど。だが私が居るぞ」
そう言いアリエスが銃弾を放った。
千穂はそれを回避し、パトリツィアが
口を生成して言う。
「お前らならこの程度でいいだろ」
創造されるのは二十八レベルの悪魔、デモンゴートだ。
二メートルの巨体。
頭部は山羊の頭蓋骨。人の体に鱗の生えた手足、背中には蝙蝠の翼。手には己の身長程もある戦槌を持っている。
高レベルの悪魔は己より格下の悪魔を創造する
ポイント消費性に近く、高レベルを一体か低レベルを複数か選んで創造する形だ。ポイントは使用から二十四時間経たないと回復しない。
デモンゴートに任せ、千穂は走り抜けた。
「オウ、ジーザス……」
ヴィルゴがデモンゴートに吹っ飛ばされた。
■
階段をダッシュで駆け上がり、ついに塔の最上階──太空艙に辿り着いた。
本来なら二千八百元するチケットを買わないと入れない場所だ。
そこには明らかに異質な物があった。
黒い黒曜石で出来た玉座と、その背後にある亀裂──北海道にあったのと同じ魔界へのゲートだ。
玉座には真っ黒なデッサン人形の様な物が座っている。
そして玉座の傍には二人。
白衣を着た老人、七罪卿暴食担当、カプリコルヌスと顔の左目部分が火傷でただれている元は美女、強欲のレオンだ。
「よく来てくれたね、佐野千穂。大人しく我々の仲間にならないかい?」
「……なりません。私はあなた達を倒すために来ました」
カプリコルヌスが一歩前に出る。
「ひひ、なら近づくで捕らえさせてもらうぞ」
カプリコルヌスはそういうが、既に目的は半分達している。
儀式のアンカーとして強力な悪魔、またはその悪魔が憑いている人間が必要だが、その悪魔に特定の行為をしてもらう訳ではない。
儀式の範囲内に居てもらうだけで魔法儀式は進行する。
そう、既に千穂が塔の近くに来ていた時点で目論見は成功しつつあったのだ。
後は千穂に倒されないよう時間を稼ぐだけである。それだけでサタニストの目的は達成される。
「
カプリコルヌスがワイトを召喚する。
前衛としてレオンが前に出た。
「行くぞ、カール」
レオンの頬に口が生成された。
それはまさしく悪魔憑きの特徴だ。
「任せろ、レオン」
そうしてレオンの目が紫色に変わる。
「
レオンが魔法を唱えた。
異空間から青白く輝き、虫のように羽音を出す魔剣が出て来た。
「私と同じ悪魔憑き?!」
そのことに驚愕し、千穂は一手遅れた。
その隙は大きく、千穂は胸に攻撃を受けてしまった。
だがすぐ後ろに飛び距離を取り、刀を構える。
「そうだ。私は悪魔ヘルシャーを宿している」
そうレオンがニヤリと笑みを浮かべた。
悪魔憑き同士の戦いが始まる。