晩飯を食べ、風呂に浸かった後、千穂はベッドにダイブした。
『それで、友達の当てはあるのか?』
「……魔法でぱーと作る事って出来ないの?」
『ホムンクルスなら材料あれば作れるが……それだと友人じゃなくて主従関係になる。それは友人とは言えんだろ』
「そっかぁ……うーん……やっぱクラスメイトかなぁ」
『クラス? 学校に通ってるのか……いや待て。学校に通ってて友達一人も居ないのか?』
パトリツィアの前世でも学校に通っていた。
交友関係が広い訳ではなかったが、それでも友人は数人は居た。
だから友達が居ないという千穂に驚愕する。
「う……べ、別にいいでしょ……ボッチでも……」
『よくないから俺を召喚したんだろうが……ならまずは学校に行って、隣の席の奴にでも話しかければいいんじゃないか? この宿題解らないんだけどーとかみたいな感じで』
「……私宿題でわからなかったところないんだけど……」
千穂の通う学校は進学校で、東大に合格した者も多数いる高校だ。
千穂は東京都の渋谷区に住んでいて、渋谷区内の高校に通っている。
偏差値も非常に高く、平均値で言えば七十程だ。千穂自身は七十九程度だろう。
千穂の成績は優秀で定期テストなどでも十位以内に入ってるほどの猛者である。
だから宿題なんてものはすぐ終わらせられるし、予習復習も欠かさない。夏休みの課題はさっさと終わらせた。
『無駄に優秀だなお前……優秀なのに友達いないんか……あー、じゃあ共通の話題はどうだ? アニメとか漫画とか……いやこれはオタクっぽいが……』
「アニメかぁ……漫画なら結構読むから、いけるかな」
千穂は暇なときにスマホのアプリで漫画を結構読む。課金はせず、欲しい漫画があったらお小遣いの範囲で紙の本を買う。
その反面アニメは見ない。やってる時間が基本遅いし、スマホで見るには小さくて見づらいのだ。
パソコンは持っていない。
『まずオタク友達でもいいから作ろう。陰キャグループの一つや二つあるだろ』
「……あるかなぁ。学校のそういうの疎いから……」
『……学校に行ったら俺が探ってやる。今日は何曜だ?』
「今日は火曜日だけど、八月でまだ夏休みだから学校は来週だよ」
『んだ今夏休みか……なら逆に丁度いい。近所に図書館はあるか?』
「あるけど、図書館で友達作るの?」
『ちゃうわ。友達の作り方の本とか図書館にあるだろ。まぁなかったとしてもパソコン借りて調べればいいだろ』
「本に頼る……そういうのもありなのね」
『寧ろなぜ悪魔召喚に踏み入った』
パトリツィアは最近の子供わからん、と精神世界で首をひねった。
『あぁそうだ。俺と話すときはいちいち声に出さなくとも心の中で念じれば会話できる。だから外でも会話できるぞ』
「心で念じる……?」
千穂はうーんとうねりながら試してみる。
『こうかな? 出来てる?』
『おう、出来てる出来てる。これで異常者扱いはされんだろ』
『ありがと。よーし、友達百人作るぞ!』
『友好関係の維持めんどくさいからそれはやめとけ』
■
翌日の朝。
朝食の和食を食べた後、千穂は外に出た。
図書館へはバスに乗っていくとすぐに着く。
バスの定期は買っているので安く乗れる。
五分ほど歩きバス停に着くと何人かいた。
少し待つとすぐバスが来た。
バスに乗り込み、定期を使う。
(やっぱこれ現代日本そのものだな……なんで現代に俺を召喚するアイテムがあったんだ?)
パトリツィアは疑問を感じるも、答えのない問いにまぁいいかで済ませた。
『ねぇ、思ったんだけど……私トイレに行ってなくない?』
唐突に千穂がそう問いかけて来た。
『ん、そりゃ行く訳ねーべ。お前は俺に憑依された結果存在として悪魔に近づいた。そして悪魔は飲食不要睡眠不要疲労無効の存在だ。飯食っても全てエネルギーに変換されるからトイレに行く必要はないぞ』
『何それ凄い』
そうして話しながら十分ほどバスに揺られていると目的地の図書館につき、千穂がボタンを押したことで降車する。
降りるときに定期を使う。
そのまま少し歩いて図書館内に入る。
『んじゃ職員に本どこか聞こうぜ』
『しょ、職員さんに聞くのは怖いからパソコンで調べるよ』
パトリツィアはこのコミュ障め、と思ったが口には出さない優しさがあった。
千穂がパソコンで調べる。
幾つかの本がヒットし、それを紙で出力する。
出て来た紙を元に図書館内を探し歩く。
すぐに目的の本棚は見つかり、棚から本を出す。
空いている椅子に座り、読み始める。
パトリツィアは適当に言ったが本当にこんな本あるんだな、と興味深そうに視界を共有して読む。
黙々と読んでいると視界の端に美少女が映った。
日本人らしい黒髪黒目。身長は高く百七十センチはあるだろう。
グラビアアイドルも顔負けなエロイ体をしており、美人のオーラとでもいうのだろうかそれが出ている。
顔つきはきりっとしており、どこか女教師を彷彿とさせる。
(……強いな、あの女)
パトリツィアが居た世界では相手を見るだけである程度の強さというのを見抜ける。
その眼力で見抜けばレベル二十はありそうな女だった。
レベルとはパトリツィアが居た世界における強さの指標であり、レベル差が十もあれば敵にならないぐらいの差がある。
レベル十が一般的な兵士。レベル二十が精鋭兵士。レベル三十は英雄級。四十は百年に一人の逸材だ。
と言ってもそれは人の世界での話で、魔界だと割とレベル三十とか六十はごろごろいる。
そういうパトリツィアのレベルは百。単独で人類文明を壊滅させれる強さだ。
その女──千穂のクラスメイトでもある天城千夏は千穂の方を見た。
チラ見、ではなくじっくりとだ。
(……俺の存在がバレたか?)
パトリツィアはその存在の特性上指輪などの装飾品を装備出来ない。
そのため探知系の魔法や
と言っても憑依状態の為詳しく調べるには高位の魔法が必要だ。レベル二十程度で使える魔法には無い。
パトリツィアが最悪ここで体を借りてバトルか、と考えていると千夏は興味を無くしたかのように顔を反らし、去っていった。
そのことに千穂はついぞ気づく事は無かった。
(……ま、何かあれば俺がどうにか出来るか)
レベル二十程度なら精神操作系の魔法が通じる。だからいざとなればどうとでもなるか、とパトリツィアは気楽に考えた。
■
ついに来た九月二日。
千穂はこの日の為に準備してきた。
友達の作り方の本を熟読するためレンタルし、家でも暇さえあれば読み、メモを取り学習した。
夏休みボッチで過ごした苦痛を胸に。冬休みは友達と秋葉に行くのだと気合を胸に登校した。
学校の敷地内に入ると、学生たちの声で騒がしくなる。
夏休みどこそこに行っただの、長野の実家に行ってきたなど聞こえてくる。
千穂は父方母方両方の祖父祖母が東京在住のため都外に行っていない。
歩いていると当然多少の注目を受けるが、千穂はそれに気づかない。
千穂の容姿は非常に優れている為、やっぱ美人だなと思われるのだ。
そうして学校内に入り上履きを変え、一年A組のクラス内に入る。
そして席に座る。
千穂はどうやって人に話しかけようか、と黙々と悩んでいると朝のチャイムが鳴る。
朝の朝礼は軽く終わり、外に出て始業式に行く為体育館に向かう。
並んで進み、体育館に行くと校長の短い話が終わる。
内容は夏休み気分は終わりにして勉学に励むように、という物だった。
そして始業式が終わり、教室内に戻る。
授業が始まる。進学校なので初日から普通に授業があるのだ。
半日が過ぎ、昼休憩になった。
『おい。いつになったら話しかけるんだ?』
パトリツィアが黙ってられんと問いかけた。
それに対し千穂も反論する。
『……よく考えて欲しい。友達欲しさに悪魔召喚をする人間が、友達の作り方なんて本を読んだ程度で話しかけられると?』
『自慢げに言う事じゃねぇぞ。良いから話しかけてこい、ほらあの眼鏡君なんかラノベ持ってるぞ。話し合うだろ』
パトリツィアがそういうも千穂は頑として動かない。
怖いのだ。今更話しかけてなんだこいつと思われ、いじめの対象になるのが。
と言ってもこの学校で虐めは起こらないし、起こったとしてもすぐ教師や警察が動くのでいじめた側が排除されるが。
『……どうやって話しかけたらいいと思う?』
『んなもん"あ、この作品知ってるよ、私も読んでるんだ! 感想言い合おうよ! ”とかでいいだろ。おら話しかけに行け』
『陰キャにそれは辛い……!』
その後もパトリツィアと千穂はあーだこーだ言い合うも、結局千穂は話しかけに行かなかった。
コミュ障極まれり。
■
「はぁ……」
放課後の帰る時間になって千穂はため息を吐いた。
結局勇気が出ず話しかけられなかった。
『しょうがねぇな。勇気が出る魔法唱えてやるよ』
『そんなのあるの?!』
『おう。これで最初はどうにかなるだろ……これに依存するなんてことにはなるなよ
パトリツィアが千穂に対しバフ魔法を唱えた。
この魔法は精神に作用するバフ魔法で一時的に勇気を与える魔法だ。
精神系の為高レベルの者にはレジストされるし精神操作系に対策を積んでいる者やアンデッドには通じない魔法だ。
『よし、行ってくる!』
ガタっと、千穂は立ち上がった。
そのまま後ろの席の眼鏡オタク──井上恵美に近づく。
同性、女学生だ。異性に話しかけるのはバフを貰っても怖いので同性に話しかける。
「そ、その作品好きなの?」
千穂は若干きょどりながらも話しかけた。
そのことに対し恵美はだいぶ驚いた表情をした。
「す、好きだけど……佐野さん、この作品知ってるの?」
恵美が手に持っているラノベはゲーム世界に転生してゲームの知識で無双するというよくあるやつだ。
「うん。漫画の方はよく読んでるんだ」
その言葉に恵美は答えた。
恵美の内心はバクバクだ。校内で一、二を争う美少女から話しかけられてオタク少女が平常心で居られるはずがない。
しかしこの美少女相手に無様は晒したくないと恵美はクールな対応を心掛ける。
「それじゃあさ、感想言い合わない? 私は最初の主人公が勇気を出して魔物と戦うシーンが好きで──」
そうして会話が始まる。
最初こそパトリツィアのバフ魔法によってきっかけを作ったが、あとは千穂も問題なく話せていた。
千穂は魔法のおかげだと思いつつ既に効果時間は過ぎている。
二人は談笑する。アニメと漫画の違いなどを恵美が詳しく話したり、それを千穂が興味深そうに聞く。
(……ん)
そして、それを教室のドアの影から覗く者が一名。
千穂に匹敵、あるいは上回る美貌の持ち主天城千夏だ。
あの女何を考えているんだ? と思いパトリツィアは何か対処した方がいいか、と考え始めた。
■
夜。千穂の自室のベッドにて。
「連絡先……交換しちゃった」
ベッドに転がりながら千穂はスマホを持ちながらえへへと笑みを浮かべた。
生まれて初めての家族以外の連絡先だ。それを得たことに千穂は興奮を隠せなかった。
『まぁ、話しかけれてよかったじゃねぇか。まだ友人とは言えないが』
「え、友達じゃないの?」
パトリツィアの言葉に千穂は若干悲しそうな顔をする。
『まだ話しただけ、遊びに出かけた訳でもねぇし友達と認め合った訳でもない、じゃあまだ友達じゃなくて知り合いだ』
「そんな……私の友達は幻影だった……?」
『幻影だからつかめてもねぇな……まずは明日、一緒に放課後買い食いにでも誘ったらどうだ?帰り道になんかあるだろ』
「い、いきなり誘うって変じゃないかな」
『高校生ならクラスメイトと食べ歩きぐらい普通にするだろ。それをしたら立派な友人だ』
パトリツィアは前世も今生もロクな友人関係を築けていない。
悪魔は基本不死だ。と言っても死なない訳ではなく、死んでも復活できるタイプの不死だ。
そのため魔界では気が向いたら殺し合いするのも珍しくない。
パトリツィアは魔界で友人と呼べる関係の者と最低でも一度は殺し合いをしており、勝ったり負けたりしている。勝率は三割と言ったところだろう。
「わかった、明日誘ってみる! ……プラン考えなきゃ」
千穂はそう言い、ベッドから降りてメモ帳を取り出し、机に向かってプランを考え始めた。
生真面目だなぁ、とパトリツィアはあくびをかみ殺した。