ぼっち女子高生と千年悪魔   作:Revak

3 / 10
誤字報告ありがとうございます。励みになります。


第3話

 

 翌日の朝。

 恵美を放課後の買い食いに誘う事に成功し、見事に楽しむことが出来た千穂は満足気な笑みで帰路についていた。

 自宅からは若干遠いところで買い食いをしたため、遠いところから帰路についている。

 

 買い食いをしたが、晩飯は普通に入るだろう。若い体を舐めてはいけない。

 

 そうして帰路についていると、パトリツィアが急に喋りだした。

 

『おい、気をつけろ。何か結界に入ったぞ』

 

 結界、という言葉に千穂は頭にはてなを浮かべる。

 

『結界? どういう事?』

『何かしらの魔法が使われた、という事だ。詳しい探知はこの状態だと無理だが……走ってでも帰った方がよさそうだな』

 

 パトリツィアがそう言った瞬間、遠くから轟音がした。

 何かが崩れるような音だ。

 

『おら、走れ走れ! 逃げないと死ぬぞ!』

「わ、わかった!」

 

 思念で返事をするのも忘れ、千穂はカバンを持ってダッシュした。

 遠くから聞こえる轟音を無視して五分ほど走り続けると、背後に何かが着地した。

 

 それにより余波の風が生じ、ただの女子高生である千穂は倒れてしまう。

 

「きゃぁ?!」

 

 そして倒れながら見た。

 そこには異形の化け物が居た。

 

 ゴリラの様な体形。だが毛は一切ない。体は闇のように真っ黒。頭には角が一対生えており。鬼のような形相をしている。

 背中には悪魔の翼と先端がハートマークの尻尾が生えている。

 見ての通りの悪魔だ。

 

『こりゃ下位の悪魔だな。何でここに居るんだ?』

 

 パトリツィアはのんきに疑問を発した。

 千穂はそれを気にすることも出来ず、腰を抜かしたまま怯えている。

 腕を使って必死に目を合わせたまま這いずろうとするが、その動きは遅すぎる。

 

 パトリツィアはこのままだと殺されるな、と判断してしょうがないかと頭をかいた。

 

『おい、体借りるぞ』

 

 パトリツィアがそう言った瞬間、体の主導権が千穂からパトリツィアに移った。

 

 既に千穂の体は千穂の物ではない。

 パトリツィアが憑依した時点で体の制御権は全てパトリツィアが握っており、千穂は既に操作させてもらっている立場になる。

 だから体を奪うことなど容易だ。

 

『わ、私の体が?!』

 

 パトリツィアは女子高生の体っていいね、と思いながらすぐに立ち上がって悪魔を睨んだ。

 パトリツィアは混乱する千穂を放置する。

 

 今のパトリツィア──千穂は両目が赤く光り、体から黒い靄の瘴気が出ている。

 

「おい、お前。俺が誰だかわかってんのか?」

 

 あぁん? とパトリツィアは悪魔を睨んだ。

 体の主導権は変わっても使っているのは千穂の体なので千穂の女の声で話す。

 

 魔界には序列がある。

 序列には数万の悪魔が居り、パトリツィアは最上位の三十位以内の悪魔だ。

 一位から十位までは魔公や悪魔王という大悪魔でほとんど固まっており変わる事は無いが、それ以下は変わることは割とある。

 その中で何百年も上位に君臨するパトリツィアは最上位悪魔の一柱なのだ。

 

 そして序列が上の悪魔に対し下位の悪魔は基本逆らえない。

 基本と言ったようにあくまで魔界内の地位に過ぎないため、そんなの知るかと暴れる馬鹿などには通じないのだ。

 いわば称号の様な物だ。

 

 そしてこの悪魔はただの馬鹿に位置するタイプの悪魔だった。

 

「GAAAAAAYAAA!」

 

 悪魔が雄たけびを上げた。

 

「オーケー、死にたいらしいな!」

 

 瞬間パトリツィアは高速移動をした。

 常人には捕らえるのも難しい速度での移動。

 続いて右手で悪魔に対し腹パン。悪魔がノックバックで吹き飛んで行く。

 

 悪魔は情けない悲鳴と共に飛んで行った。

 

「雑魚がよ」

 

 パトリツィアのレベルは百でクラス構成は呪文詠唱者(スペル・キャスター)……魔法使いの物だ。

 だが種族的に悪魔は戦士向けであり、能力値の伸びは物理的なステータスの方が伸びる。

 その為身体能力は非常に高く、十トントラックぐらいなら受け止められるだけの筋力を持つ。流石に持ち上げられないが、四トンぐらいなら両手を使えば持てる。

 

 その威力のパンチ。だが、悪魔にダメージは無かった。

 

 悪魔という種族は種族的に魔法効果の付いてない攻撃に対し無効化能力を持っている。

 パトリツィアの素の攻撃は身体能力こそ高いが魔法効果などの追加効果を持っていない為無効化されたのだ。

 

 それならば別の手段で殺せばいいだけ、とパトリツィアは右手を向ける。

 

「<火>(ファー)」

 

 パトリツィアが魔法を唱えようとした瞬間、空から女が落ちて来た。

 その女は刀を持って下突きをし、悪魔の脳天を刀で貫いた。

 パトリツィアが一方的に知っているだけの相手。名を天城千夏。

 

「痴女だ?!」

『痴女だ?!』

 

 千穂とパトリツィアの台詞が被った。

 

 今の天城は痴女らしき格好──端的に言えばエロイ格好をしていた。

 体のラインがはっきりとわかる黒いラバースーツ。手足の先端は逆に晒されている。

 乳首や見えてはいけないスジが良く見えていた。晒されているという訳ではなく、形がはっきりとわかる程度だが。

 

 千夏は刀を引き抜くと跳躍し、悪魔とパトリツィアの間に着地した。

 

 悪魔が再び雄たけびを上げる。

 頭を貫かれたのは悪魔にとっても大ダメージだ。だが普通の生物ではない悪魔には致命傷ではない。

 

 悪魔が殴り掛かる。千夏はそれを刀でいなす。

 数合の攻防ののち、勝ったのは千夏だ。

 悪魔の胸を袈裟斬りにし、蹴りを入れて体勢を崩したところを千夏が首を跳ね飛ばし殺した。

 

 悪魔の死体が転がる。

 

「おー、やるねぇ」

 

 パトリツィアはこの世界の戦士もよーやるわと謎の拍手をした。

 そして命の危機去ったし体を帰すか、と思った瞬間千夏がパトリツィア──千穂に刀を向けた。

 

「貴女、何者? 人の気配ではないわね……悪魔?」

 

 そう千夏が警戒しながら問いかけた。

 

 

 

 天城千夏は退魔師の家系である。

 千年前から続く家系であり、退魔師の中でもエリートの家系だ。

 退魔師とは、名の通り退魔……対悪魔やアンデッドにのみ特化したクラスの事だ。

 パトリツィアが居た世界にもあったが、ある大陸の端っこでしかないような骨董品の様なクラスだ。

 悪魔とアンデッド相手には無類の強さ──それこそレベルが上の格上相手にも戦えたり勝つことが出来るようなクラスだが、その反面アンデッドと悪魔以外には弱い。

 それこそ同レベルだったらそこらのトロールやオーガにすら負けるだろう。

 

 しかしこの世界──地球に出現するのは悪魔とアンデッドという異形種のみで、それら以外の種族が現れたことはない。

 その悪魔とアンデッドは千年前に突如として出現した存在であり、その存在については議論されているがそれは置いておこう。

 

 そんな退魔師は能力の関係上悪魔やアンデッドには敏感である。

 だから千穂の中にいるパトリツィアをうっすらと探知し、今も千穂の体を悪魔が乗っ取っていると見抜いた。

 

「あー、俺は敵じゃない」

 

 パトリツィアはそう両手を上げ無害アピールをした。

 だが悪魔の言う事など信じられぬとばかりに千夏は刀を構えたまま警戒する。

 

「敵でないというのなら、何故その少女の体を乗っ取っているの?」

「こりゃ契約による物だ。それに契約相手は無事だ。心を壊したりしてねぇ、なんなら変わろうか?」

 

 パトリツィアの言葉に千夏は眉を潜める。

 

「……そうね。変われるというのなら変わってみて頂戴」

 

 それはある種の煽りを含んだ台詞だった。

 パトリツィアはそれを察しつつ「オーケー」とだけ返し、体を千穂に返した。

 

「も、戻った……」

 

 そして目が黒に戻り、悪魔の瘴気も消えた千穂を見て千夏は驚愕の表情を見せた。

 悪魔が発する瘴気は千夏の常識としては隠そうとして隠せる物ではないとされている。

 だがそれは誤りで中位以上の悪魔なら意図的に消せる代物だ。

 

「え、えっと、あの。私、敵じゃないです」

 

 そう千穂が弁明する。

 

「……すぐそれを信じる事は出来ないわ。だけど──貴女は何故悪魔と体を共有しているの?」

 

 そう千夏は刀を向けたまま問いかけた。

 その問いに対し千穂は一瞬固まってしまう。

 正直に言っても信じられるかわからないし、そもそも友達欲しさに悪魔召喚したら体を共有しましたなど恥ずかしい。

 だが、言わない訳にはいかないので肝心なところを隠して千穂は言う。

 

「えっと、叶えたい願いがあって悪魔を召喚したら、なんかこう……体を共有することになりました」

 

 その言葉に更に千夏は眉を潜めた。

 

「その悪魔を召喚してまで叶えたい願いというのは?」

 

 当然そのことについて問いかけてくる。

 千穂はうっと胸に痛みがる。幻覚だ。

 

 覚悟を決め、千穂は口を開く。

 

「……友達を作ってもらう為に、悪魔を召喚しました」

 

 その言葉に千夏は「はぁ?」と声を出した。

 

「そ、そんな願いを叶えるために悪魔を召喚したの? 正気?」

「はい……すみません……」

「謝ってほしいわけじゃないけど……えぇ?」

 

 千夏は信じられない者を見る目で千穂を見た。

 数秒沈黙が流れる。

 

 

 千夏の常識──退魔師の常識で考えれば悪魔召喚なんてものをした者は極刑、死刑だ。

 現場の判断でその場で斬り殺してもいいぐらいであり、それを考えると千穂は即殺すべき敵である。

 だが、敵である前に学友である。

 無知は罪とは言うが、普通に調べても出てこないし想定もされていない悪魔召喚に関する法律なんてググっても出てこない。

 だから知らないうちに召喚したから犯罪者だ、と糾弾するのは違うと千夏は考える。

 

「……本当に、貴女はその悪魔に害されてないの?」

「は、はい。悪魔さんは友達としてよくして貰っています」

「……犯罪をしたことは?」

「な、ないです。そんなの怖くて出来ないです」

 

 そう千穂は言う。

 千夏に他者の嘘を感知や看破する特殊能力(スキル)や魔法は無い。だから千穂の言う事が真実か判断するすべはない。

 だけども、人の善性を信じている千夏は信じようと思った。

 

 だが、信じたからと言って野放しにしていいわけがない。

 

「……わかったわ。今時間あるかしら? ちょっと本家……私の家に来て欲しいのだけど」

 

 千夏は千穂に対し同情をした。

 このまま無残に殺されるのは忍びない。だから、助けたいと思ったのだ。

 幾ら人の死が近い職業だからと言って、学友まで切り捨てたいとは思わなかったから。

 それに、先ほどの悪魔ーーパトリツィアが放つ威圧感からして、己では勝てないと千夏は悟ったのだ。

 

「きょ、今日は無理です。もう帰るってメッセージ送っちゃったので……」

 

 本来ならここで粘るべきだ。だが学生としてわかってしまった千夏はそこで諦めた。

 

「そう。だったら……今週の土曜日は空いてるかしら?」

「土曜日なら問題ない、です」

「だったら……そうね。土曜日の朝九時に笹塚駅で待ち合わせはどう?」

「それなら、大丈夫です」

『いや、こんな怪しい奴の言う事聞く必要ねーぞ。断れ断れ』

 

 今更になってパトリツィアが断るよう指示を出す。

 

『天城さんにも事情があるだろうから、断れないよ……いざという時は頼むね』

『……しゃーねぇーな』

 

「なら決まりね。時間を取らせちゃって悪いわね……それじゃあ、気を付けて。詳しい話も土曜日にしましょ」

 

 そうして千夏は去っていった。

 どうでもいいが千穂とパトリツィアはあの痴女みたいな恰好で帰るのだろうか、といらぬ心配をした。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。