夜。料亭で晩御飯を食べた後。
千穂は普段着でリムジンに乗っていた。
それに対し、千夏はフル装備──ラバースーツと刀を手にしている。
千穂に宿る悪魔パトリツィアの持つ魔法で異空間に装備をしまい、魔法で一瞬で装備の切り替えが可能とわかったので異空間にしまっておいてあるのだ。
「これから墓地に行くわ。そこでアンデッドと戦ってもらうの」
「アンデッド……ゾンビとかスケルトン、ですね」
「そうよ。今回出現するのは下位のアンデッド、正直武装していれば一般人でも倒せる存在だから、そんなに気負わなくていいわ。スケルトンなんかは木製バット持ってれば大人でも倒せるし」
スケルトンやゾンビの霊威は一程度。雑魚である。レベルだってステータス上は一だがそのステータスは非常に低い。何なら成人男性の方が高いかもしれない。それほどの雑魚モンスターなのだ。
だが、アンデッドは放置すると負のエネルギーが溜まり、より強力なアンデッドが生まれる。デミリッチなどの。だから最初のうちに倒すのが重要だ。
そうして復習を兼ねてアンデッドの種類について話していると目的地に着く。
「着きました」
天羽家お抱えの運転手が目的地に着いたことを告げる。
ありがとうございます、と二人は礼を言ってからリムジンから降りる。
「それじゃあ、ここでアンデッド退治をするわ。装備を変えて」
「はい。えっと、悪魔さん、お願いします」
『
魔法により装備が一瞬で変わり、手には刀を持っている。
「それじゃあ、行くわよ」
「はいっ!」
そうして墓地に入っていった。
今回二人が入ったのは角間新田墓地という墓地で諏訪市内にある大きな墓地である。
夜に来たのはその方が負のエネルギーが高まりアンデッドが出現しやすいからだ。
そして千穂はおっかなびっくりしながら進んでいると、奥から骸骨──スケルトンがやって来た。
肉も皮も無い骨だけの姿。死んだ者はいずれこうなるという慣れ果てのアンデッド。
「それじゃあ、千穂ちゃん。試しにやってみて」
「やっややややってみます」
千穂はだいぶどもりながら言った。
「落ち着いて、練習通りにね」
それに対し千夏は苦笑する。自分も初めての時は緊張したなぁなんてのんきに考えている。
「やぁぁ!」
少し雄たけびを上げながら千穂は斬りかかった。
スケルトンは緩慢な動きで防御をしようとするが、それよりも千穂の斬撃の方が速い。
刀で真っ二つに斬られ、スケルトンは消滅した。
アンデッドは死ぬと灰も残さず消滅する。
「や、やった……」
「初陣おめでとう」
そう千夏は拍手をした。
「は、はい!」
千穂は自分でやれた、という事に謎の感動をしつつ、嬉しそうにはにかんだ。
■
三日間は模擬戦と実戦で埋まった。
昼間は千夏と模擬戦。夜は墓地でアンデッド戦だ。
そんなに頻繁にアンデッドが湧くのか、というと疑問が出るがその通りそんなに頻繁にはアンデッドは出ない。
そのため見回りをしたがアンデッドが出なかった、なんて日が一日あった。
アンデッドの出現は計測されだいたいこれぐらいの周期で出現すると統計が出ているが、その通りに出ないこともある。
そうして千穂の三日の鍛錬は終わった。
新幹線で東京に帰り、夜になって千穂は自宅に帰宅した。
キャリーケースはパトリツィアの異空間にしまってある。
「ただいま~」
そう言って玄関を開けると、どたどたと足音がしてきた。
「千穂、大丈夫か? けがはないか?」
そう心配そうに声をかけるのは父の健一だ。
「大丈夫だよ,父さん。怪我も病気も無いよ」
「そうか……ないというのならいいんだが……」
「今日はもう夜遅いし、もう寝ちゃうね。おやすみ」
「あ、あぁ。おやすみ、千穂」
■
十一月になった。
この二か月の間、千穂は東京でアンデッド退治をしていた。
千夏とは共に行動し、有名なコーヒーチェーンでチルタイムを満喫したりする仲になった。
もろちん恵美との交遊もある。退魔師としての仕事が無い日はゲーセンに行ってフィギュアを取ったりしている仲になった。
千穂は退魔師で得たお金でノートパソコンを買い、それで配信サイトに登録しアニメも見るようになった。
時間なら腐るほどあるのだ。
悪魔に憑依された結果睡眠も不要になったので眠らず二十四時間活動が可能になった為、学業、退魔師活動、オタ活すべてを並行して出来ている。
成績は若干上がった。
そうしてついに、千穂は一人での仕事となった。
東京郊外にある廃病院に千穂ち千夏は来ていた。
時刻は夜。満月が輝く時間帯だ。
廃病院前に車を止める。
リムジンではなく普通の乗用車だ。運転手は天城家お雇いの者だが。
「それじゃあ、今日は千穂ちゃんだけで戦ってもらうわ。私は極力手を出さないわ」
「わかりました! まっかせてください!」
千穂はこの二か月で成長した。
霊威も二十四と一人前まで後少しと言ったところまで来ている。
だからおどおどした性格も若干改善され、生き生きとした性格になりつつある。
元が悪魔召喚なんてぶっ飛んだことをする少女だったのでそれが表に出ただけ、ともいえるが。
そうして二人は廃病院に入っていった。
二人とも武装済み。警戒は怠らず進む。
廃病院の中庭に着く。中央に広間があるのだ。
そこには一体の悪魔が居た。
「GIGIGIGI……」
真っ黒な人型。頭には一対の黄金の角。背中には悪魔の翼と尻尾がある。
筋肉質な体をしている悪魔だ。
「行きますっ!」
そう宣言し千穂は突撃した。
悪魔はそれを見て防御の構えをとる。
防御の上から刀で攻撃した。
悪魔の皮膚が少し斬られた。
「GYAAAAA!」
悪魔は痛みを感じ千穂を蹴ろうとする。
「<回避>!」
最近覚えた
距離を取ってしまったが問題ない。
『
パトリツィアが魔法を唱え異空間から符を取り出す。
「<退魔符>!」
一発は悪魔に避けられるも、残る三発は命中した。
悪魔に大ダメージが入る。この悪魔はそこまで強くない悪魔だ。だから瀕死に近くなる。
悪魔の体がぐらついた。それを見逃さず千穂は突進する。
そのまま大上段からの袈裟斬りを放ち、悪魔を倒した。
「よしっ!」
「お見事、ね」
そう千夏が拍手した。
「ありがとうございます!」
そうニコっと千穂は笑みを浮かべた。
「それじゃあ、悪魔を倒したことを報告しましょうか」
「はい、わかりました」
悪魔は死んでも死体が残る為処理が必要だ。
そのため専用の業者に連絡し処理してもらう必要がある。
千穂が電話を取り出そうとした瞬間、空から拍手の音がした。
二人とも即座に警戒し武器を構える。
空には一人の少年が居た。
まだ若い。十四歳かそこらだろう。黒髪黒目の少年だ。どこか軽薄そうな印象を受ける。
魔術師の様な黒いローブを着ている。
「いやー、流石は悪魔憑きってところかな?」
そう言いながら少年は地上に居りる。
「何者?」
千夏が刀を向け問いかけた。
こんな廃墟に少年が居るなんて普通ではない。さらに言えば空を飛ぶなど高位の退魔師でもなければ出来ないことをしている。
敵か、味方か。どちらかと言えば敵よりだと二人は考える。
「僕は
同胞、という言葉に千穂と千夏は眉を潜めた。
「同胞? どういう意味?」
千夏が問いかけた。
「君じゃなくて、そっちのセーラー服着てる方だよ。君、名前は?」
「……不審者に答える名前は無いです」
「ありゃ、振られちゃった……なら、無理矢理にでも聞こうかな」
「下がって、千穂ちゃん」
千夏が一歩前に出る。
それに対しスコルピウスは不機嫌そうな顔をした。
「お前に興味はないんだよね。興味あるのそっちの悪魔憑きだからさ──
黒い魔法陣が現れ、そこから悪魔が出現する。
「悪魔召喚?!」
『ほー、良いセンスしてんねぇ』
パトリツィアがのんきに言う。
出現した悪魔は霊威七十二の悪魔
三メートルの巨体を持つ悪魔だ。黒い肌に一つ目の顔。口から牙が生えている。背中には蝙蝠の翼を持ち、人の頭蓋骨が付いた戦鎚を持っている。
「やれ」
「オオオオオオ!」
そのまま
「千夏さん!」
思わず千穂は千夏の方を向いてしまった。それは悪手だった。
「こっち見ろよ」
いつの間にかすぐそばに居たスコルピウスが千穂の腹に向かって蹴りを入れた。
そのまま無様に吹っ飛び、数度地面を転がる。
「ぐ、ぅうう……!」
痛い。
これまでアンデッド退治でかすり傷を負った事は何度もあった。だが、これほどの痛みは初めてだ。肋骨が折れているだろう。
生まれついての戦闘者でなく、退魔師の家系でもない千穂は痛みには常人並みの耐性しかない。痛みでもだえ苦しむ。
「よわ、ほんとに悪魔憑いてるの?」
スコルピウスが信じられないと首を傾げた。
『おい、俺に変われ。あのちびぶっ飛ばしてやっから』
パトリツィアがしょうがねぇなぁとばかりに言った。
実際パトリツィアなら一瞬で終わる程度の相手だろう。
「い、やだ……!」
それに対する返答はまさかの拒絶。それにはパトリツィアも驚いた。
『なんでだ? お前このままだと死ぬかそれよりひどい目にあうぞ』
それに対し千穂は覚悟が決まったかのような事を言う。
「……私は、もう退魔師なんだ。望む望まないにかかわらず……だから、私の力でどうにかしないと……!」
それはある種の傲慢だ。人間一人で何でも出来るようにはなっていない。
だというのに千穂はなけなしのプライドでそう言った。
それに対しパトリツィアははぁ、と息を吐いた。
『なら俺が力を貸してやる。それでどうにかしろ』
「……魔法を使うの?」
『それとはまた違う。いいから、ほれ敵くるぞ』
千穂は急に立ち上がった。痛みはもうない。
「……悪魔に変わった……にしては違うっぽいけど」
スコルピウスが言う通り、千穂がパトリツィアに体を変えたわけじゃない。
だが悪魔特有の瘴気は発せられ、左目は赤くなっている。
「体が軽い……今なら何でも出来そう!」
そういうと千穂は突進する。
「はやっ!」
圧倒的スピードだ。先ほどの
本来の悪魔憑きのスペックを今千穂は発揮しているのだ。
システム上パトリツィアの存在は装備品の様な判定になり、同時に存在することが可能となる。
それはステータスが合算される事になる。
つまり千穂プラスパトリツィアのステータス状態になるのだ。
理論上はレベル二百相応のステータスを発揮することも可能なチート状態である。
故に今千穂は退魔師レベル八プラス種族悪魔の魔力系
レベル三十八相応の近接ステータスを今発揮している。
スコルピウスの胸が斬られる。だが、致命傷には程遠い。咄嗟の判断でスコルピウスは後ろに飛ぶ事で回避したのだ。
「ははっ! それが悪魔の力か! いいね、すごくいいよ!」
そういうとスコルピウスは懐からナイフを取り出した。
奇妙な形のナイフだ。斬るのではなく突きに特化した形のナイフだ。
これも当然
スコルピウスは高い身体能力で千穂を攻撃する。
連続突き。何かしらの
千穂はそれを見てから回避余裕でしたとばかりに刀で弾き、防ぐ。
そして隙を見つけては刀で斬る。
だが、当然千穂は戦闘の素人──千穂もダメージを受ける。
ステータスが合算されると言ったが、今のこの状態だと体力──HPだけは千穂本人の物を参照するので毒の状態異常は厄介だ。
『
そこでパトリツィアが魔法を唱える。
貴重な魔力系でも習得できる回復魔法だ。ゆっくりとだが体を治す魔法であり時間はかかるが欠損すら治す。
欠点として自身にしか使えないが強い魔法だ。
それにより毒のダメージを上回る再生が始まる。
「凄い、凄いよ悪魔様! はは、ほんとにいい!」
そうスコルピウスは高揚して叫ぶ。
そして魔法を発動する。
「
発動した魔法は爆発魔法だ。
それにより両者爆破で吹っ飛んで行く。
だが千穂は空中で体勢を直し着地する。
スコルピウスを見ようと地上を見るもそこにはおらず、空に居た。
『
パトリツィアは疑問を口にするも、スコルピウスには届いてないので答えは来ない。
「今回はここで引くよ。顔見せだけの予定だったしね。それじゃあ、バイビー!」
「逃がさない! <退魔符>!」
千穂が退魔符の
この
一枚のお札が飛んで行くも、スコルピウスに当たる前にスコルピウスが転移の魔法でどこかに消えてしまった。
「逃がした……!」
そこに悪魔を倒してきた千夏が走って来た。
「戻ったわ! 敵は?!」
「逃げられました……けど、私……!」
そこでようやく、千穂は自分が人を切ったという事を自覚した。
「私……人を……!」
悪魔やアンデッドはまだよかった。人の形をしていないのだから。
だが、明確に人を切った──そのことで強いストレスがかかり、千穂は気絶してしまった。
「千穂ちゃん!」