Dr.STONE -Survival Evolved-   作:ゆずの木

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第一章 STONE WORLD:PALEO SURVIVOR
E=1 BEGINNING OF SURVIVAL


その日、世界中の人間は全て、石になった。

 

突如として降り注いだソレは天災か、それとも人災か。いずれにせよ、火を起こすことから始まり、果ては宇宙でラーメンを食べるほどまでに文明を発達させたホモ・サピエンスという種は、石となり忽然と地球の表舞台から姿を消したのだった。

 

 

(うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!! 死んでないぞ俺はぁぁぁぁぁぁ!!)

しかし。その男は起(・)き(・)て(・)い(・)た(・)。あの日、5年越しの想いを伝えるため、クスノキの前にあの子を呼び出したその日から。

(腰抜けのまま終われるか…! 今度こそ、杠に伝える!)

ペットたちは野生化し、街には動物たちが進出し始めた。

(生き延びてやるぞ、気合で!)

街は緑に覆われ、徐々に自然へ還っていた。

(何週間だろうが、何ヶ月だろうが、言う、必ず、絶対に!)

人工物は腐食し、音を立てて崩れ始めた。

(死んでも生きてやる!)

そして……。

 

 

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

渾身の雄叫びをあげ、身体を覆う石片をバリバリと音を立てながらはじき飛ばす。

「破った! 破ったぞ!!! ついに!!」

再び両の足で地面を踏みしめ、大樹は吠える。実に気の遠くなるほどの時間が経っていたが、その大木のような身体と有り余る体力は健在であった。

大樹は飛び散った石片に少し目をやったあと、洞窟の外に踏み出した。そこに広がっていたのは……。

石像。石像。石像。石像…………。

「そうか…みんな……一体…どれだけの時が経ったんだ………」

そう呟いて洞窟から踏み出し、腰布代わりに葉のついたツタを巻き付ける。こんなものでも無いよりはマシだ。そして直感で川を遡りクスノキを目指そうとした時だった。

「お! ホントに一人で起きてきやがった!」

藪の中から1人の少年が声をかけてきた。髪は青みがかった黒色、皮っぽい服を青黒く染めており、特徴的なのは右頬から首にかけて伸びるヒ(・)ビ(・)。サバイバル中なのか、手製の弓矢を片手に大樹の前に姿を現した。

「むっ!? 誰だ、君は…!」

「毎日見回りに来てて正解だった。アンタが大樹で間違いねぇか?」

「あ、あぁ…俺が大樹だが…ひょっとして君が俺を助けてくれたのか?? というか、なんで俺の名前を?」

「あぁ…そうだなぁ…俺が直接助けたわけじゃないんだが…。ついて来いよ」

少年に連れられて、大樹は川をくだる。

(杠…スマンが、もう少し待っていてくれ…。必ず…必ず助け出す……!)

 

「あ、そう言えば自己紹介してなかったな。俺は輝竜(きりゅう)、よろしくな?」

少し歩いていると、少年が自己紹介してくれた。大樹は気をよくして元気良く挨拶を返す。

「輝竜か! 教えてくれてありがとう! 改めて、よろしく頼む!」

「おう! よろしくな!」

「それにしても、わざわざ迎えに来てくれてたのか? いやぁ~、実はこれからどうしたものか途方に暮れていたところだったものでな……。本当にありがたいな! ハッハッハッハ!」

そう言って笑う大樹に、輝竜は苦笑いしながら答えた。

「そりゃそうだろうな〜…ハハッ…。まぁ〜…『こっから文明を復興させるには、100億%アイツの力がいる。どうせ勝手に起きて来やがる、お迎えを頼むぜ、素材集めのついでにな。』って頼まれちゃったしさ〜…」

明らかに誰かの口調を真似している輝竜の言葉に、大樹は聞き覚えのある言い回しがあることに気づいて問いかける。

「ん? さっき、会ったほうがとも言っていたが、他にも誰かいるのか? それに…今の言葉…なんだか聞き覚えがある…」

「フッフッフ…やぁっと起きやがったか…このデカブツ」

そんな2人に木の上から声をかけてきたのは。

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!! 生きてたのかぁぁぁぁぁぁ!!! 千空ぅぅぅぅ!!!」

大樹は嬉しそうに声を上げ、その声量に輝竜は思わず耳を塞ぐ。

「素っ裸同然のかっこで抱きつくんじゃねー! ◯すぞ!!」

思わず飛びついた大樹をとんでもない言葉であしらう千空を見て輝竜は笑いを堪えきれずに笑い出してしまった。

「アハハハハハッ!! なんだよ! やっぱり友達だったんじゃねーか、千空!」

「んあ゙゛ぁ? …あ゙゛ぁ…まぁ、そんなとこだな」

大樹を引き離して、それはそうとだ、と千空は言葉を続けつつ衝撃のひと言を口にした。

「今日で西暦5738年10月5日だ。どんだけ寝坊してやがんだテメー?」

ん?、と思わず聞き返してしまう大樹に、輝竜が伸びをしながら補足説明をしてくれた。

「んーーーと…まぁ、俺らが石化してからざっくり3700年くらい経ったっつーことさ。その間に何があったかって言うと、これがもう……」

「ま、待ってくれ、西暦5700年…? 3700年も経った…?? ど、どうしてそんなに正確な日付が分かるんだ…?」

「あ゙゛? ただ数えてただけだ」

さも当然のように言ってのける千空に言葉を失う大樹に、輝竜は苦笑して大樹の肩を叩いて同情する。

「気持ちは分かるぜ? 俺も最初に聞いた時には腰抜かしたわ」

そろそろ行くぞと千空に促され、3人は森の中を歩き出した。

「もしも意志の力で起きれたとしても、真冬に素っ裸で目覚めれば食料調達でゲームオーバー、即詰みだ。正確な暦の情報がどうしても必要だったわけだが。クククッ、輝竜、テメーが石化してる間は何してたんだっけか?」

「ったく…人間タイマーと一緒にされちゃあたまったもんじゃねぇよ……っと、静かに」

道中で軽口を叩いていた時とは打って変わって、真剣な表情で千空と大樹を制止し、屈めと合図をする輝竜。状況が呑み込めない大樹は、声をおとして輝竜に疑問をぶつける。

「スマン、俺には難しいことは分からん。だが、何があったんだ? 教えてくれ」

大樹の真剣な眼差しに応えるように輝竜はニッと笑い、正面を指差す。

大樹はその先を目を凝らして見やる。

森を抜けたところに大きな湖があり、湖を囲うように草原が広がっていた。そこに群れていたのは。

 

「恐、竜…?」

そこにいたのは、目の上の巨大な2本の角、頭の後ろに拡がる大きな襟飾りが特徴的なサイのような体格の生物と、カモのようなクチバシと頭の後ろに長く伸びるトサカが特徴的な二足歩行の生物だった。それらが湖を囲んで何十頭も群れをなしている。

「そう、トリケラトプスとパラサウロロフス。約7000万年前の白亜紀に生息していた、草食恐竜さ。…最っ高にロマンあんだろ…?」

表面上は冷静さを保ちながら、しかし心の底からこみ上げる喜びを噛みしめるような表情をして、輝竜はその名を口にした。

「ま、待て…待て待て待て! …恐竜って…とっくの昔に絶滅したんじゃないのか…? なんでそんな生き物が…あれ…? …でも、俺たちも3000年以上石化してて…?」

「あ゛ぁ、それが今まさに俺らが直面してる謎だ。だが、とりあえずは拠点に戻んぞ。日が暮れちまう」

あまりのわけの分からなさに頭を抱えてしまう大樹を千空が再度促した。

 

しばらく歩くと、洞窟から少し離れたところにある拠点に到着した。荒削りなツリーハウスと、その周辺にまとめられている石槍や土器の数々を見て更に驚愕している大樹に、千空は切り出した。

「俺と輝竜の2人だけじゃマンパワーが足りねぇ。こっから文明を先に進めるには、どうしても体力バカがいる。テメーをずっと待ってたんだよ、大樹」

「話には聞いてたけどさ、ホントに俺たちみたく数千年も踏ん張ってる奴がいるなんてな」

「杠に言うって決めた男が、志半ばで諦めるわけがねぇんだ。テメーはそんな玉じゃねぇ。そうだろ」

千空の強い意志と信頼が込められた視線を受け取り、大樹は少し頷いて力強く返す。

「…あぁ、もちろんだ!」

大樹の言葉に、輝竜と千空は納得したように笑い、決意を新たにする。

「俺たち高校生3人で、この激変した世界に、ゼロから文明を作り出す! 最っ高に滾るじゃねぇか!」

「石化や復活の原理も、アイツら古代生物がわんさか生息してる理由も、科学的に突き止めてな」

「杠も、助け出す!」

千空は全員の決意を聞き、フッと笑って続ける。

「この原始のストーンワールドで、石の文明から近代文明まで200万年、そこを一気に駆け上がってやる。唆るぜ、これは…!」

 

その日の夜。

「そういえば、千空たちはどうやって石化が解けたんだ?」

焚き火を囲んでキノコや木の実を食べていると、大樹が千空たちに尋ねた。

「あ゙゛? …そうだな…テメーより半年近く前には目覚めてたな」

「そうだな、千空がいなきゃ、俺も未だに石像のままだったかもしれないなぁ…」

「なに?! 2人同時じゃなかったのか?」

「クククッ。ま、ほぼ同時っつーのは否定しねぇけどな」

 

 

西暦5738年4月1日

 

(起きろ…起きろ…!)

脳内でそう繰り返していた千空の石化が解けた日。

(うぉぉぉぉぉぉぉ!! 破ったぞぉぉぉぉ!! ……とか、お元気いっぱいやりてぇとこだが…)

3700年ぶりに石片が付いたままの身体を起こす。現場の保存と状況把握をしたあと、崖から森を見渡した千空はそこに広がる光景に驚きの声をあげた。

「な…?! なんだ、これは…?!」

森(・)の(・)木(・)々(・)か(・)ら(・)無(・)数(・)の(・)頭(・)が(・)飛(・)び(・)出(・)し(・)て(・)い(・)る(・)。

森から飛び出た頭は、長い首を揺らしながら木の葉を食んでいる。クジラの声を低くしたような声が辺りに響き、まるで歌っているような印象を受ける。

(あんなデカい生き物は日本にはいねぇはずだ…ざっくり3700年経って、生態系にも多少の変化はあるとは踏んでたが、ここまで変わるか……んにしても…)

どこかで見覚えがある。ありすぎる。

「フッ……クククッ…あんな姿見て見間違う人間なんざ、100億%いるはずがねぇ……ホンモノの恐竜サマじゃねぇか…」

 

(さぁて…人類の石化やら、何故かお元気いっぱいウジャウジャいやがる恐竜サマのことは一旦お預けだ。地球最初のツルピカ猿の力ぁ…見せてやるよ!)

兎にも角にも火がいる。枝と木片の摩擦で燃焼反応を起こそうと必死に枝を回すが、いくらやっても火がつかず千空は力尽きて倒れ込んでしまった。

「ハァッ…ハァッ…ハァッ…」

(クッソ…多湿の日本でそう簡単に火がつくわけねぇだろうが…)

ハァハァと息を整えていると、丸々とした鳥が千空の手元を覗きにやって来た。あまりの警戒心の無さに千空は思わず笑ってしまう。

「クククッ…テメーも図鑑でよく見たなぁ。モーリシャス島のドードー鳥じゃねぇか。噂に違わぬお花畑っぷりに、お涙が止まんねぇな」

ドードーは千空がこすっていた木片をクチバシでコツコツと何回かつついていたが、興味がなくなったのか茂みの中の赤い木ノ実をついばんで食べ始めた。ということは可食植物の可能性がある。千空は身体を起こして木ノ実を手に取って観察した。

(見ねぇ木ノ実だな…3700年も経ちゃあ、植生も変わるだろうが…ま、調べまくり試しまくりが科学の基礎だ。フィールドワークも悪くねぇな)

そう考え木ノ実を潰して、指についた汁を舌に当てようとすると、向かいの茂みがガサガサと揺れ、大型犬ほどの大きさがある恐竜が現れた。二足歩行で浮いた前足と牙の生えた口を広げてこちらを見ている。

「…っ?! クッソ!!」

慌てて千空は木に向かって駆け出した。後ろから何かが飛んできていたがそれには構わず木によじ登り、何とか身の丈以上の高さの枝にしがみついた。ひと息ついて下を見やると、恐竜は木には登れないのか早々に諦め、今度はドードーを追いかけ回していた。と、ドードーに向かって何か緑がかった黒い液体を吐き出し、ドードーの視界を奪ったかと思うと首筋に噛みついた。

「………………」

あと少し逃げるのが遅れていたら……。あの黒い液体を食らっていたら…。そんな考えが肩で息をしている千空の脳内をよぎる。そう、最早この世界の頂点は人間(ツルピカ猿)ではない。彼(・)ら(・)こそが、この世界の支配者なのだ。

木の上で夜を越し、次の日からの行動は早かった。

 

〘石器を手に入れた!!〙

 

〘紐を手に入れた!!〙

 

〘火を手に入れた!!〙

 

食料にも想像していたよりも苦労はしなかった。あの赤い木ノ実やキノコ、何よりドードーがその辺を彷徨いている。警戒心も無い動物を一方的に狩ることに一抹の罪悪感はあったかもしれない。だが生きるか死ぬかが問われる時に躊躇はしてられない。まさしく死に物狂いだった。

そしてもう一つ、サバイバルに欠かせないのが拠点だ。恐竜たちを警戒して手が出しにくいように大きな木の上に建てる。

(枝を縛って並べるだけでもそこそこ耐久はあるが…ちぃっと硬えのと安定しねえな…)

丈の高い草を刈ってきてスキマに敷き詰めてみた。意外と安定した上に、クッション性もある。一石二鳥だと笑う。

 

〘わら建築の拠点を手に入れた!!〙

 

〘皮の服を手に入れた!!〙

 

そして…

 

〘衣食住を手に入れた!!〙

 

遂に生活基盤と呼べるものを整えられた。これで最低限生きていける。しかしそこが限界だった。バタンと倒れて空を仰ぐ。ミジンコ体力の身体を酷使した反動で、文字通り泡を吹いて気絶しそうになる。

(クッソ…人間ひとりじゃ生活だけでギリギリだ……科学の進歩もクソもねぇ…)

千空はせめて体力のある奴がいればと、目星をつけていた石像を掘り出しにいった。見たくもないほど見飽きた面とのご対面で溢れた感情を笑ってごまかす。

「さぁて、千空先生の研究所のスタートだ。おいデカブツ、テメーはどうやったら復活する?」

経年劣化か?別の特殊な外的要因?あるいは…。

そうしてひとり仮説の構築にふけっていると、復活地点すぐそばの洞窟に目がとまった。洞窟の天井から滴る液体―HNO₃―硝酸に、首の後ろの石化したままの髪を千切って当ててみる。数秒後、髪の石化が溶けて髪に戻った。溢れる喜びと興奮のままに硝酸を溜めて、大樹にもかけてみる。

反応無し。

期待していた反応と違い、困惑する千空。

まぁ、一発で成功すれば苦労はないのだが、そこは トライアンドエラー。周囲の石像にも硝酸をかけて回る。

(調べまくれ…試しまくれ…何かルールがあるはずだ…!)

 

ゴトリ。

音がした方向に勢いよく振り向く。そこには石化が解けて呆けた顔をした少年がいた。

「……空…?」

石片はまだ身体のあちこちを覆っているが、目に映る青空に心を奪われているようだ。

「フフッ…クククッ、そりゃあ、驚くわなぁ? 3700年ぶりの青空だ…! 気が済むまで拝みまくりやがれ!」

「ぁ…あ…? …君は…?」

実験が成功した喜びを抑えきれず笑う千空に少年は問いかけるが、その視界を何(・)か(・)の(・)影(・)がよぎった。ソ(・)レ(・)は、現代では見られない、むしろ図鑑の中でしか見たことがないその姿は。

「翼竜…!!?」

少年は勢いよく起き上がり、素早く辺りを見回した。するとそこにはドードー。千空にとっては最早見慣れた光景だが、少年はドードーを見てまた石化したかのように硬直した。

「……ド…ドードー……? 本…物……?」

「あ゛ぁ…正真正銘、生きたドードー鳥だ。他にもいくつかいやがるぜ。毒液吐く小型の恐竜やら、アパトなんちゃらやらゴロゴロとなぁ」

千空の返事を聞き、少年は四つんばいのままドードーの前に行こうとする。相変わらず警戒心の無いドードーも、逃げようともせずにむしろ少年の方に歩いて行った。手で触れられる距離になり、少年は逡巡しながら手を伸ばす。その手を不思議そうに眺めてつつくドードーを見て、少年の涙から涙が滝のように流れ出した。

「あ…あぁ…生きてるんだ…生きてるんだなぁ…お前…グスッ…生きて……」

「ククッ、感動の出会いのところ悪いがな、今は目下極限サバイバル中なんでな。くっちゃべってねぇで手ぇ貸しやがれ」

感涙のあまり泣き崩れる少年に、千空は容赦ならない現実を突きつける。

「あぁ…すまねぇ…。感動のあまりつい…な…。アンタが助けてくれたんだろ?」

少年は涙を拭き、千空に向き直って手を差し出した。

「俺は輝竜。よろしく頼む」

「あ゛ぁ、千空だ」

 

〘輝竜が仲間になった!!〙




次回予告

輝竜「いやぁ~…目が覚めたと思ったら、文明は消えてるし、絶滅動物はいるし…。…文明復興までのハードル高ぇなぁ…」
千空「クククッ、石の文明から近代文明まで、200万年を一気に駆け上がる。その記念すべき一歩目だ。休んでる暇なんざ無ぇぞ」
輝竜「あぁ…まずは手始めに…服が欲しいな…」
千空「あ゛ぁ…だな」
輝竜「次回、『Dr.STONE-Survival Evolved-』」
輝竜「『PRIMITIVE CRAFT』」
千空「唆るぜ、コレは」
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