Dr.STONE -Survival Evolved- 作:ゆずの木
「相っ変わらず量だけはスゲーな…どんだけチート体力してやがんだ、大樹テメー…」
「なんじゃこりゃ……俺が数日かけて集める量をたった1日で……」
山のように採取物を積み上げムフーと得意気な顔をする大樹に、千空と輝竜は唖然とした表情で返す。
大樹が加わってからというもの、ベリー類の採集、木材やその他の素材採取には事欠かなくなった。地味に悩ましかった「ロロ」と名付けたパラサウロロフスやペゴマスタクスの「ゴマ」の餌の確保も、大樹の底無しの体力で解決してしまっただけでなく、輝竜の弓も竹からイチイの木に素材をアップグレードできたので、弓を使いつぶすことがかなり減ったのだ。
〘弓矢(レベル2)を手に入れた!!〙
行動範囲の拡張に伴い、ドードーやリストロサウルスなどの小型草食動物を狩るだけでなく、ディロフォサウルスやコンプソグナトゥスなどの小型肉食動物を迎撃することも増えたので、弓が頑丈になるのはメリットしかない。おかげで皮の採取量も増えた。
とにかくこれで必要な素材は揃った。
「さぁて、まずは皮の加工だ。皮についた肉やら脂肪やらは削ぎ落としたら、灰を溶かした水、その後にタンニン
「デジタルなんとか計にイオンメートルか! なるほど! 全然分からん!」
「濃度測定機か、無いもんは仕方ないとして、そんななんとなくで大丈夫なのか?」
「あ゛ぁ、ご都合いいことに今抽出してるマゼンベリー果汁が、ポリフェノール量や金属の種類に反応する
「なるほど…前に鉄分と合わせたら黒くなってインクみたいに使えたってやつか」
大正解、100億満点な、と言いながら溶液を入れる土器をドンと地面に下ろし、腰を伸ばした千空は輝竜に向き直った。
「っつーわけで輝竜、テメーは俺らが皮を漬け込んでる間にロロの型取りだ。この辺は動物の骨格が分かるテメーに任せる。その方が100億%合理的だ」
「あぁ…! 恐竜の
千空と大樹がタンニンの抽出や土器の作成に入ったので、輝竜も早速ロロのサドルの型取りに取り掛かった。ロロの背に手を当て、皮膚の上から骨格の構造を考察する。肩から腰にかけて手のひらを滑らせると、それを興味深そうに覗き込むロロの頭を苦笑しながら押しのけて観察を続ける。
「骨格状は…馬ほど安定はしねぇけどいけそう…でもまだお前成長しきってないもんな…(ちょ…止めろって…)…成長を阻害するような構造は避けるべき…だが徐々にサドルに慣らさねぇとな…」
輝竜はブツブツと独り言を言いながら分析を終え、ある程度構造案をまとめて千空のもとに戻った。
「千空! とりあえずこんな感じにしようと思うんだけど、どうよ? 俺、あんましコッチ系は得意じゃねぇんだけどさ…」
そう言って輝竜は、先ほど千空との会話にも上がったマゼンベリーの抽出液から作ったインクで、紙代わりの皮に設計図を描き始めた。描き上がったのは背のパッドを腹帯で固定する簡素なもの。
「おお!! これでパラ何とか…じゃなかった、ロロにも乗れるようになるんだな!! 恐竜に乗れるなんてワクワクするなぁ!!」
「いや、残念だけどまだ『乗れるだけ』だな。ガチの『鞍』を作るんなら、背中全体に体重を分散させるべきなんだが、ロロも成長途中だし、とりまサドルの装着に慣れさせるのが優先かなって」
「あ゛ぁ、いきなり完成品なんざお出しされたら、超絶ビビりまくるわ。さしずめサドルレベル1ってとこか?」
「そんなとこだな。この試作レベルから実用レベルまで、ロロの成長にも合わせて徐々に改造していく感じだ」
そう言って輝竜はまた皮に何かを描き始めた。それはサドルのアップグレードのロードマップ。
初めは背に比較的安定して跨がれるだけのレベル1、そして荷物を積んだりある程度安定した構造の試作をするレベル2〜3、実用レベルの試作段階のレベル4以降。人類史が始まって以来初めての「恐竜のサドルクラフト」、トライアンドエラーがない訳がないが、それでもなお千空たちの顔は曇らない。むしろ生き生きとしている。
千空は満足そうに頷き、輝竜に発破をかけた。
「さぁ、こっからは忙しくなんぞ! おちおちしてっとすぐに冬だ。冬備えもしなきゃなんねぇが、原始の世界じゃ難易度超絶ハードな科学クラフトも最優先課題だ。ナイタール腐食液とそのための果実酒の蒸留、さらに恐竜サドルの三本立て同時進行…やれんだろ? 輝竜…!」
「あぁ…! 滾るね、コイツは!」
抽出したタンニン溶液に皮を漬け込んだ後、大樹のパワーで等間隔に皮に穴を空けて縫いつける。背中に当たる部分にはクッション材に草の繊維などをたっぷり詰め込み、革紐で固定する。
〘サドル(レベル1)を手に入れた!!〙
完成したものをロロに取り付け腹帯で固定、乗ってみた輝竜だったが、跨るというよりはしがみつくような格好になってしまった。初めて恐竜に乗った興奮が薄れてくると、段々と惨めな気持ちになってきた。
「…なぁ、これ…全然安定しねぇぞ……っどわ!?」
「?!! 大丈夫か!!? 輝竜!!!」
ロロも身体を纏う異物は不快なのか、身を震わせた拍子に輝竜は滑り落ちてしまった。心配して走り寄って来た大樹に起こしてもらい、バツが悪そうな顔をした輝竜にケガがないか確認できると、千空は笑って話しかけた。
「クククッ、初めて恐竜に乗った感想はどうだったよ? 恐竜博士。」
「ちくしょう…まだまだこっからだっての…!」
輝竜が奮起して設計図を起こし始める。そこに横から口を出してアドバイスをする千空。マトモなサドルが完成するにはもう少しかかりそうだ。
新世界に繁茂している新種のベリー類はざっくり分けて9種類。秋の色づいた木々以上にカラフルなそれらは、赤いティント、青いアズール、黄色のアマルに紫のメジョ。その他にもドードーやロロたちも食べるシアン、マゼン、ヴァードの三原色ベリー。まだまだ実験段階だが、それぞれ果汁を絞ったりその果汁を発酵させたりしていると、段々種類によって効能が違うことが分かってきた。
特にロロたちも食べようとしない黒いベリーは、輝竜や千空が誤って食べると卒倒してしまうほどの昏睡作用があるため「ナルコベリー」と呼んでいたが、そんな実を大樹がブドウみたいだと言って食べてしまった。
「大樹…?! それは…!! …アレ……なんともねぇのか…??」
「ペっペっ! …なんなんだこの実は…? めちゃくちゃ不味いな…!! なんだか、ゴーヤやらピーマンやらをギュッとした感じでものすごく苦い…! それに…ちょっと眠いような…」
慌てて駆け寄ってきた千空と輝竜だったが、あまりの不味さにすぐ吐き出したものの、2人の心配を他所にケロッとした顔をしている大樹にまた驚かされる。
「ったく…見慣れねぇモンをいきなり食うんじゃねぇ雑頭………いや、待て…」
頭に?マークを浮かべる輝竜と大樹を無視して、千空は採取してきたベリーを取り分けたカゴから白いベリーを取り出し、ホレッと言って大樹に投げ渡した。
「それ食ってみろデカブツ、毒じゃねぇから安心しやがれ」
「イヤイヤ…いきなり見慣れねぇモン食うなってさっき…っておい?!! 大樹?!」
阿吽の呼吸のように、白いベリーを受け取るやいなや口に運ぶ大樹に輝竜のツッコミが飛んだ。
「?!! おおっ…?! これは…?! なんだか眠さが引いて目が冴えてきたぞ!! あ…でもなんだか喉も渇いてきたな…!」
「クククッ、覚醒作用に脱水作用か…やっぱし天然のドーピング薬か。千空先生の臨床実験大成功じゃあねぇか」
これぐらい問題ないぞと呵々大笑する大樹と、だろうなと笑う千空の二人に、輝竜は頭を抱えてしまうのだった。
木枯らしが吹き肌寒くなってきた頃、科学クラフトと生活基盤に大きな変化が起きた。まずは千空が取り組んでいた蒸留作業がほぼ安定した。糖度が高いメジョベリーの果汁に少しティントベリーやアズールベリーの果汁を加えることで、発酵が安定しアルコール度数もかなり高いレシピが開発できたのだ。そして、輝竜が取り組んでいたロロのサドルクラフトも、乗り心地はまだまだ改善の余地があるが、そこそこの量の荷物を運べるようになったため、主には荷運び要員として活躍するようになり大樹との二輪体制が確立、採取と資源輸送の効率が向上、安定したのである。
〘アルコールを手に入れた!!〙
〘サドル(レベル3)を手に入れた!!〙
この頃になると、ロロに乗って短、中距離なら移動が可能になり行動範囲もかなり拡がったが、その過程で新たな脅威と直面した。ラプトルである。
輝竜と大樹は、ロロを連れて遠出していたのだが、ラプトルの群れに足止めを食らっていた。
「輝竜…アレはなんていう恐竜だ…? 名前を言われても、俺には分からんかもしれんが……」
「あぁ…多分ユタラプトルじゃねぇかな…。…まぁ少なくともドロマエオサウルス科の肉食恐竜には変わりねぇな……。どっちみちここは危険だな…一旦下がるぞ」
そう言って後ずさった輝竜と大樹だったが、お約束のように小枝を踏んで音を鳴らしてしまい、その拍子にラプトルたちがこちらに駆け寄ってきた。
「…?! クソッ…! 下がってろ大樹…!! ……ロロ…??!」
迫りくるラプトルに弓を構えた輝竜だったが、まるで二人を庇うかのようにロロが一歩前に出たことに驚く。するとロロが大きく息を吸い込んだかと思うと、耳をつんざくような大音量の咆哮を放った!
当然輝竜も大樹も腰を抜かしてしまったが、ラプトルたちもそれは同じだったらしく、文字通り踵を返して逃げて行ってしまった。
「……お、おぉぉぉぉ!! すごい! すごいぞぉぉぉ!! 輝竜! ロロがアイツらを追っ払ってくれたじゃないか!!」
「…お、おぉ…! …マジか…! 最高じゃねぇか、ロロ!! お前すげぇな!!」
少し息を整えたあと、辛くもロロのおかげで窮地を脱したことに気づいて大樹が叫び、輝竜も我に返って興奮が止まらない。
二人はすっかり頼もしくなった相棒にお礼を言って撫でまくった。ロロも満更でもなさそうに、撫でられて満足気な顔を浮かべた。
冬、3700年の間に気候変動があったのか、21世紀当時の東京周辺では珍しいほどの大雪になった。動物たちの顔ぶれも暖かい頃とは打って変わり、ドードーなどの小型生物は森ではあまり見かけなくなり、トリケラトプスなどの中型動物たちは冬の厳しさから気性が荒くなった。そしてその代わりとばかりに進出してきたのがマンモスやケブカサイなどの大型哺乳類たちだ。寒さに強い彼らは、この時期はむしろ勢力を伸ばすらしい。総じて遠出のリスクが増したため、3人はなるべく出かけることは控え、生成したアルコールと硝酸を合わせて、ツバメの羽などを使った石片の腐食実験を繰り返した。
しかし、冬の間全く外出しないわけにもいかず、やむを得ず外出する際はなるべく全員で赴くように切り替えた。その際、改修されたサドルがかなり役に立った。座面が安定し、より長距離の遠征も可能となったのだ。
「さぁて、目的地までの時間潰しに、楽しいクイズの時間だ。科学文明にまず欲しい、一番重要なもんは何だ? 正解者は100億点な」
「う〜む…科学文明……一番重要……まず欲しい………?! …スマホか??!!!」
「あぁ! いいなぁスマホ! 欲しいなぁスマホ! ………どんだけタイムスリップしてんだ、デカブツ!!」
「鉄…いや、青銅か?」
「あ゛ぁ、金属な。ソイツも欲しいがまだ先だ。もっと便利なもんがあんだよ」
そんな話をしながら歩いていると、森の木々が減り景色が晴れてきた。海岸に着いたのだ。大型動物たちの狩り場である平地を避けて川を下ってきたのだが、3人の眼に見渡す限りの水平線と美しい砂浜が映る。潮風は冷たいが、文明の存在しない原始の世界でしか味わえない絶景だ。
千空は安全を確認するや否や、波打ち際で何かを探し始めた。輝竜と大樹(とロロ)が千空の手元をのぞき込むと、千空の手が大きく育った二枚貝を掘り出した。
「貝…? 食べる…だけじゃないよな…」
「あ゛ぁ、この貝をボッコボコの粉々にするだけで、炭酸カルシウムが手に入る」
「なるほど…例によって全然分からん!」
「炭酸カルシウム…石灰だったけか? 農業でも始めんのか?」
「クククッ、それもいいが、他にも死ぬほど重要な使い道がある…!」
〘モルタルを手に入れた!!〙
〘石鹸を手に入れた!!〙
「……病気イコールゲームオーバー…デスルーラできねぇこの世界じゃあ、バイ菌をぶち飛ばすこの小さな石が、医者代わりの命の石、『Dr.STONE』だ」
感慨深そうに石鹸で手を洗いながら話す千空を見て、輝竜はフッと笑って弓を構え直した。
「科学屋の本領発揮って感じだな…? 俺も負けてらんねぇな…!」
そう言って海岸線を見渡し、何かを見つけて大樹と一緒に走って行ったかと思うと、千空のところに大きなリクガメを抱えて帰ってきた。
「いやぁ、恐竜が普通にいるのにも慣れてきたが、こんなに大きな亀が日本にいるなんてなぁ! いや、全然重くはないから心配は無用だぞ! 輝竜!」
「おう! まあコイツはカルボネミスっつー絶滅した巨大リクガメだけどな。コイツらは変温動物だから周囲の気温に体温も左右されて、動きが鈍くなんだよ…やっぱり化石にはない特徴があるな……」
「クククッ、このクソ寒い時期にわざわざこんなとこまで来るなんざ100億%非合理的だと思ってたが、コレで当面の食料兼素材ゲットじゃねぇか…やるじゃねぇか、恐竜博士」
「フッ、そっちこそ炭酸カルシウムが手に入って嬉しそうじゃねぇの。遠足も悪くねぇだろ、千空先生?」
ニッと笑って視線を交わす2人の科学者を見て、大樹は楽しそうに笑った。
3人がサドルとナイタール腐食液のクラフトに挑み始めてから約半年、雪も解け、寒さで縮こまっていた身体を暖かな日の光で解して伸び伸びとするかのように、草木や動物たちが生き生きとし始めた春、千空はツバメの石像を切り株に置き、出来上がった薬品を上から振りかけた。固唾をのんで見守る輝竜と大樹に千空はつぶやいた。
「教えてやるよ、テメーら。『科学じゃ分からねぇこともある』じゃねぇ」
ピシッ。ツバメの石像にヒビが入った。
「『分からねぇことにルールを探す』」
ビシシッ。石像のヒビがカスケードを起こすように拡がった。
「そのクッソ地道な努力を、『科学』って呼んでるだけだ…!」
バラバラと石片が砕け落ちて、小さな命が羽ばたいた。3700年の眠りから覚め、コリまくった身体を慣らすかのように、永き封印から解放された喜びを爆発させるかのように、ツバメは3人の頭上をグルグルと旋回して、飛んだ。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉ…!! おぉぉぉぉぉおおお!!!」
「飛んでる……生きてる…グスッ…。…あんなに元気に……良かったなぁ…グズッ…」
歓声に打ち震える大樹と対照的に、輝竜は涙を堪えきれず鼻水を垂らしグズグズになってしまった。
千空もスイッチが切れたように切り株にへたり込み、達成感と疲労感で綯い交ぜになった言葉を絞り出す。
「石化復活から1年……恐竜やらマンモスやらがワンサカいる新世界で…早かったな……」
そんな3人の姿を見届けたかのように、ツバメは何処かへと飛び去って行った。
〘復活液を手に入れた!!〙
次回予告
千空「1年…改めて、この異常な世界でよくここまで生き残れたもんだ…」
輝竜「あぁ…俺たちがまだ出くわしてないだけで、アイツとかソイツとか、有名どころがまだ控えてるかもしれねぇわけだしな」
大樹「むぅ……いや、きっと大丈夫だ!! 千空の科学、輝竜の知識、俺の体力! 3人ならきっと乗り越えられる!」
千空「あ゛ぁ…そうだな」
輝竜「次回『Dr.STONE-Survival Evolved-』」
輝竜「『Tree Trouble』」
千空「唆るぜ…コレは」