Dr.STONE -Survival Evolved- 作:ゆずの木
復活液が完成した。つまり、これまではロロやゴマのような恐竜を偶然テイムすることくらいしか労働力を増やす方法が無かったのだが、石化している人間を復活させられれば、そんな状況を根本からひっくり返す事ができることを意味する。…となれば、次に直面するのは『最初に誰を起こすのか』という問題だ。
「それで千空…誰から復活させるんだ?」
「あ゛?どうせ全員叩き起こすんだ…誰からでもいいわそんなもん」
「いいのかよ…もっとこう…サバイバルの専門家とか、腕っぷしのいいヤツとかねぇの…?」
「クククッ、サバイバルの専門家なら俺ら全員がそうだろうが。ま、歴戦のモンスターハンター様でもいりゃあ、おありがてぇがな」
「いねぇだろ、恐竜狩ったことあるハンターなんざ……まぁ、
そんな話を千空と輝竜がしていると、大樹がそうか…と呟き、ひどく残念そうな顔をしてうつむいた。まるで何か大事なものを諦めたかのような大樹の様子を見て、千空と輝竜は目を合わせた。
「ったく…最初の復活者決めなんてめちゃくちゃ滾るけどさ、こんな石像だらけの中から目当ての人間見つけ出すのもめんどくせぇよな?」
「あ゛ぁ…いきなり殺人鬼みてぇなヤツ起こしてもアレだからなぁ……大樹!テメーが選べ」
ビシッと大樹に向かって指を差した千空はニッと笑い、輝竜もまた頭の後ろで手を組み、目だけ大樹に向けて笑顔を見せた。大樹は一瞬驚くが、2人からの言葉にしない気持ちを受け取り、すぐにその真っすぐな目で2人に向き直った。
「ありがとう、千空、輝竜……答えはもちろん…決まっている…!」
輝竜がロロに跨り、周辺を警戒しながら川を上る。この冬の間に、サドルはさしずめレベル5までグレードアップし、座り心地や耐久性だけでなくロロ自身の成長もあって積める荷物の量も向上した。今や彼らの立派な足であり、持ち前の警戒心の高さもあって目や耳もこなせる頼もしい相棒だ。
「いや〜、それにしても本当に頼もしくなったものだなぁ! これなら、石像だって何人か乗せられるんじゃないか?」
「まぁな…石像って、見た目の割にあんまし重くねぇから、2人分くらいなら運べそうだ」
「クククッ、石像を壊さねぇように運べるんならアリだがなぁ…固定すんのがアホほどめんどくせぇ。試しにバラバラの石像に復活液ぶっかけたら、ちゃぁんとバラバラの死体に戻ったしな…」
ケケッと笑いながら話す千空に、大樹が罰当たりだなんだと言っていると、クスノキの下に着いた。大樹が定期的に掃除などに訪れており、木の根に守られるかのように石化している杠の石像の周辺は周りに比べれば少し小綺麗な空き地になっている。3700年間倒れることなく生き続けたクスノキは、まさしく悠久の時を経てその生きてきた時を表すかのような巨木となっていた。
そんなクスノキの根元に近づき、杠の石像に復活液をかけようとした大樹だったが、
「待て!! 千空、輝竜!!」
「「どうした?!!」」
「杠は、裸だぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「「ぐわぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」
千空と輝竜は大樹の目潰しを食らって叫ぶ。ぐわぁぁ…と言いながらバタバタとのた打ち回っている輝竜を尻目に、涙目になった目を抑えながら千空は大樹に呆れて物申した。
「クッソ…まっった非合理的なバカ言い出しやがった……こちとら難易度超絶ハードのサバイバル中だぞ…? 尻丸出しだろうが〇〇コもろ出しだろうが、気にする奴なんかいねぇだろうが…」
「杠に〇〇コなど無い!!!」
「論点そこじゃねぇ!!」
「…ぅぐぅぅ…その辺のツルとか巻きつけりゃ良くねぇの? ここで起こして歩いてもらった方が、いざとなりゃロロにも乗せられるしさ…」
輝竜も目をこすりながら起き上がり、大樹に物申す。
「む…確かにそうかも……いや、ダメだ!! もし乗っている最中や歩いている最中にツルが解けてしまったら大変じゃないか!! だから復活させるのは、キャンプで服を着せてからだ!」
「過保護か! 大体持って帰るっつっても、その石像何キロあんだ? ここから歩かせた方が、抱えるよか100億倍早えだろうが…」
「杠はデブではない!」
「論点そこじゃねぇ……」
ズンズンと杠の石像を抱えて歩いていく大樹の後ろ姿を見て、輝竜と千空は目を合わせてはぁ…とため息をついた。
大樹の後を追おうと歩き出しかけたその時だった。
「…?! 待てっ…!!」
輝竜が突然2人を大声で制止した。ロロがビクッと震えて森の中の一点を見つめ始めたのだ。ここ数ヶ月の外出で、ロロの行動パターンや習性も分かってきた。そのうち、この行動が意味するのは――――――――
『危険生物の存在』。
輝竜が気づいて2人に逃げる準備をさせる間もなく、森の中からソレは姿を現した。
口から覗く何本もの牙、隆々とした脚の筋肉、そして特徴的な目の上に生えた角と、体格からすれば不自然なほどに小さな腕。
「「「―――ッ?!」」」
一瞬で全員に緊張が走り、声にならない驚きと焦りが喉を突く。明確な命の危機を前に思わず硬直してしまったが、唸り声で3人は我に返り、悲鳴を上げる暇も惜しいほどの勢いでで逃げ出した。
「な、なんなんだあの恐竜は?!! 今までここでは見なかったぞ!!」
「カルノタウルス…! 南米原産アベリサウルス科の中型恐竜…見た通り肉食だ…! 縄張りが春で拡がったのかもしんねぇけどッ!!」
「んなもん! 見なくてもよゆーで分かるわ!!」
背にカルノタウルスの咆哮を浴びながら死に物狂いで走り続けるが、一向に距離を引き離せない。
追いつかれるのは時間の問題だ。
追い立てられるままに崖まで追い詰められてしまう。下は森。走る勢いのままに飛び降りる。バキバキと枝を折りながら落下、辛うじて伸び放題のツルに絡まって落下の衝撃は緩和されたが、なおも追跡の意思を見せるカルノタウルスの咆哮を受け再び走り出す。
「クソッ…! ドードーとディロフォが一緒にいる時点で警戒するべきだった…! 生息地が違おうが時代が違おうが、この世界じゃなんにも関係ねぇ…!!」
「御託は後にしやがれ! 今は生き残ることだけ考えろ!!」
輝竜は千空の言葉を聞いて一瞬何かを考えた。逡巡し、覚悟を決めたかのようにグッとあごを引いたかと思うと、ロロの手綱を引いてカルノタウルスの方へ勢いよく向き直った。
「??! 何してんだ輝竜!!」
「お前らだけでも生き残れ!! 復活液は完成したんだ…
弓を引き絞り、引きつったような笑みを浮かべる。正面を向き、絶望的な
「ダメだ!!」
「…ッ?!」
振り返った輝竜を千空は必死に説得する。
「俺は科学、大樹は身体、テメーは生物知識…! この狂った世界で生き残るには、テメーが必要だ!!」
「――ッ!! …だけど…!」
「合理的に考えろ! 逃げるなら、俺たち全員でだ…!」
「……分かった…!」
輝竜はロロの手綱を再び引き、千空たちのもとに戻ってロロを駆って逃走を試みる。しかし、執拗にカルノタウルスが追ってくる状況は変わらず、危機は依然として脱していない。
「(このままじゃ逃げ切れねぇ…)…千空、大樹! 木の上に逃げるぞ…! デカめの木があったらそこでやり過ごす!」
「! アレなんかどうだ!?」
大樹が大きな木を指差す。杠を守っていたクスノキに比べればかなり小さめだが、目算ではカルノタウルスよりも背が高い位置に太い枝がある。走ってきた勢いのまま木に登り、身を潜めた。
しかしロロは木に登れない。数回幹を引っかいたあと、心配そうな目で輝竜たちを見つめる。
「…行けっ! ここから逃げろ!」
居た堪れない気持ちを押し殺して輝竜がそう言っても、頑なにその場を動こうとしない。カルノタウルスの姿はまだ見えないが、近くには来ているはずだ。輝竜は指笛を吹いて拠点の方へ何度も走るよう促すと、不服そうに鼻を鳴らしロロは藪の中に消えていった。
「…輝竜…テメー…」
「…ロロがここにいてもヤツに襲われるだけだ…
何か言いたげな千空に対し輝竜はそう応えるが、輝竜の顔に映る悔しそうな表情に、千空は眉をひそめる。
と、ガサガサと茂みの音を立ててカルノタウルスが姿を現した。3人は息を殺して通り過ぎるのを待とうとしたが、
「クソッ…来るぞ!!」
大樹は杠を抱えて幹に捕まり、千空は枝にへばりつく。輝竜も枝を掴むが、木に体当たりを仕掛けられバランスを崩して落下してしまう。
「…?! 輝竜!!」
「――――――ッ!」
千空の叫び声。咆哮をあげるカルノタウルス。迫る地面。地響きを立てて襲いかかる牙。すべてがスローモーションのように輝竜の目に映る。これで終わるのか。最期の瞬間を目前にしても、意外と冷静な自分に驚く。
(こんなとこで終わりか…まぁ…恐竜に喰われたなんて人類も初めてだろうな…文明復興後に博物館にでも残してくれりゃいいが…あとは頼んだ…千空…)
走馬灯のように考えていたその時だった。カルノタウルスが何かに吹っ飛ばされて突如輝竜の視界から消えた。
「――っ?! …んがっ!」
地面に叩きつけられ、痛みで我に返る。頭を振りながら起き上がって前に目を向けると、そこには
「…ロロ…!」
帰ってきてくれたのだ。仲間を護るために。戦う牙も爪も無いから逃がしたのに。せめてこの子だけはと送り出したのに。
約1年前、あの時、輝竜の腕の中で震えていた小さなパラサウロロフスはもういない。頼もしい相棒の背中がそこにはあった。
輝竜の呼びかけに応えるように、フンッと鼻を鳴らす。カルノタウルスも起き上がり、新たな敵を認めて咆哮する。ロロも対抗するように威嚇を返す。竜たちの応酬を見て、輝竜は込み上げる熱い感情を込めるかのように弓を握りしめる。
「あぁ…最高だよ…やってやろうじゃねぇか…! 滾るぜ…これはよ!!!」
弓を引き絞り、ロロと並んで立つ。そして、木の上で固唾を飲んでいた千空たちに呼びかけた。
「今のうちにキャンプへ!! コイツは…
2人を安心させるかのようにニッと笑うが、流石に冷や汗と引きつったような表情までは隠せない。
「クッ…クッソ! 行くぞデカブツ!!」
千空は歯を食いしばり、大樹を連れ立ってキャンプへ走り出した。その背中を確認すると、輝竜はカルノタウルスへ向けて突進した。
千空はキャンプへ向かって走りながら大樹へ叫んだ。
「アイツ…アドレナリンでバッキバキになってやがる…! …キャンプでありったけ槍回収すんぞ! その辺の石投げるよかよっぽど合理的だ…!」
「あぁ!! 友だちを見殺しになんか、絶対にするものか!!」
徐々に空には暗雲が立ち込め、日の光が遮られて辺りは暗くなり始めた。降り出す雨を予告するような冷たい風の中、輝竜はロロと共にカルノタウルスとの命のやり取りに興じる。この1年で輝竜の射撃精度も上がっており、そうそう狙いを外すことはない。鱗や甲殻に阻まれつつも、目や口、関節など柔らかい部位を狙って矢を射るので、カルノタウルスも苛立って輝竜を狙うが、その度にロロからの渾身の体当たりや頭突きを食らう。しかし一方で輝竜たちも、矢筒の空きや擦り傷が目立つようになり、ロロも体当たりの際などに噛みつかれ、肩や背中にはダラダラと血が流れている。輝竜は突進を木に隠れてやり過ごしたり、ロロの体当たりで視線が外れた隙に走り抜けたりしながら、考えを巡らせる。
(クソッ…このままじゃジリ貧だ……何か…打開策は…!)
その時。
「輝竜ぅぅぅぅ!!! 助けに来たぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
大樹のバカでかい声が辺りに響き渡る。
「――ッ?! なんでっ?!」
「うぉぉぉぉぉ!!! 友だちを、死なせるもんかぁぁぁぁぁぁぁ!!」
持ってきた槍だけでなくそのへんの石や枝も手当たり次第に拾ってぶん投げる大樹の勢いに、カルノタウルスも若干怯みを見せ1歩2歩と後ずさる。
「いいぞデカブツ! そのままソイツを怯ませつづけやがれ!」
「千空?! 杠はどうしたんだよ!」
「キャンプだ! テメーの時間稼ぎのおかげで
そう言ってニヤッと笑った千空は、懐から何かの
「クククッ…教えてやるよ、大トカゲ! 俺たちには牙も爪もねぇが……」
クルクルと回転しながら投げつけられたソレは、勢いよくカルノタウルスにぶつかってガシャンと割れ、中の液体が飛び散る。
「――
と、思った瞬間、カルノタウルスの身体に炎が奔る。ヘビのように纏わりつく炎にカルノタウルスが悲鳴を上げ、タタラを踏んで後ずさった。
「今だ!! 退け!!!」
千空の叫びを聞いて、輝竜はロロの手綱を掴んで全速力で駆け出した。大樹と千空も、輝竜の撤退を確認するやいなや走り出す。カルノタウルスは炎に巻かれて追跡どころではない。ちょっとした遠征から始まった命懸けの鬼ごっこは、獲物の逃げ切りで幕を閉じた。
死に物狂いでキャンプまで帰ってきた。3人ともハァハァと肩で息をして、空を仰いだり膝に手をついたりして、思い思いの格好で息を整える。
「…よし…! もうヤツは追いかけて来てない…!! 逃げ切ったんだ!」
「…ハァ…ハァ……。…生きて…帰れた……」
輝竜が息を切らしながら、言葉を絞り出す。つい数刻前まで、命懸けの大立ち回りを演じていた輝竜のかすれた声を聞いて、千空はあ゛ぁと返す。
「……フッ…千空先生の発明品が、文字通り火ィ吹いたなぁ…火炎瓶サマサマじゃあねぇか…」
「あぁ…ありがとな…千k」
ドチャッ。雨が降り出す直前の静けさの中、その音だけが響き渡り、輝竜は思わず口をつぐむ。枝が落ちたにしては重たく、まだ雨に濡れていない地面が立てた音にしては妙に
「――ロロッ……!」
次回予告
次回、
『Dr.STONE -Survival Evolved-』
『約束』