Dr.STONE -Survival Evolved- 作:ゆずの木
「……石化は、現代医学すらも超えた未来の科学……医者代わりの命の石、『Dr.STONE』かもしれねぇ…!」
そこまで言い切った輝竜は、グッと拳を握りしめた。
「…滾るぜ、これは!!」
輝竜の言葉を聞き、全員息を呑んだまま立ち尽くす。本当にそんなことが可能なのか。だがしかし、現に治療の見込みなどなかったはずの半身不随が治癒され、自らの足で地を踏みしめている男がいる。数秒間の沈黙の後、司がおずおずと切り出した。
「……本当に……可能なのか…そんな…ことが………」
司の言葉を皮切りに、燕も口を開いた。
「…えぇ…そうね……確かに…あなたの足が治ったことは事実だけど…未来ちゃんの脳まで治せる確証はあるの…? ……最悪…こんな原始の世界で…」
最後まで言い切れず、口をつぐむ燕。司も輝竜も、その言葉を聞いてうつむいてしまう。しかしそこに、千空が腰に手を当て、傲岸不遜ないつもの口ぶりで燕たちに言葉を投げかけてきた。
「…あ゛ぁ…だがワンチャンあるかもしんねぇ…」
司や燕、輝竜も振り返って千空を見つめる。
「…クククッ…そもそも石化状態ってのは、脳まで活動停止してる一種のコールドスリープみてぇなもんだ……復活液は…そんな状態の脳を一気に叩き起こす薬だ…! …だったら、同じ脳の一つや二つ、再起動できねぇ道理はねぇ…!」
ニヤリと笑って希望を語る千空。千空に影響されたように、輝竜も笑みを浮かべる。再び熱を取り戻した空気に触発されたように、大樹がうぉぉぉぉぉ!と叫ぶ。
「大丈夫だ! 司、燕!! 千空と輝竜は、復活液を完成させただけじゃない! このストーンワールドで、ゼロから科学を積み上げて生き残ってきたんだ!! 恐竜にだって立ち向かえたんだ…必ず! 未来ちゃんだって治せるはずだ!!!」
うんうんと頷き、杠もまた加勢するように希望を口にする。
「うん、そうだよ! 絶対、千空くんと輝竜くんならきっと! だって、私を助けてくれたんだもの!」
司と燕は目を丸くして、
そんな彼らを見て、最初に表情を崩したのは燕だった。
「……まったくもう…輝竜が4人に増えたみたい…フフッ……えぇ、分かったわ。協力する」
「——ッ! 燕!!」
嬉しそうに顔を明るくする輝竜に、燕は苦笑して返す。
「気が早いわよ…? まずはこの石だらけの世界で、私たちが生き残らないと…それに『恐竜』って…もう少し、この世界のことを分かってないとね」
また突っ走りそうな輝竜に釘を差したあと、燕はアンタはどうする?とばかりに首を傾げて司を見やる。司は燕の視線を受けて、千空、大樹、杠へと順に目をやり、最後に輝竜と目を合わせた。無言で頷いて応える輝竜を見て、司は嬉しそうに目を閉じる。そして静かに目を開けた。少し前の戸惑いがある目ではない。今度は確かな希望に満ちている。
「…うん…やろう…!」
微笑みながら頷く。
方針は固まったようだ。確信を得た千空が、いつもの調子で全員に向けて口を開いた。
「クククッ、別にやることは1ミリも変わらねぇ…! どうせ全員叩き起こすんだ…1人や2人、起こしてぇ奴が加わったところで100億%問題ねぇ…! …石化の謎も、恐竜どもが復活してる理由も、必ず科学で突き止める…!」
そして輝竜への意趣返しのように言い放つ。
「あ゛ぁ…唆るぜ、これは!」
〘司と燕が仲間になった!!〙
翌朝、誰よりも早く起きた大樹は、現在の日課でもある薪割を始めようとしたが、ふと違和感を覚える。積んでおいた薪が明らかに減っているのだ。
「…? 誰かが、薪を使ったのか…? 千空か?」
と、何やら芳しい香りが鼻をくすぐる。匂いに連れられてフラフラとツリーハウスの裏手へ回る。ヒョイと頭を出して覗き込むと、いつの間に起きたのだろうか、燕が火を炊いて何かを煮込んでいた。
「あら? おはよう、大樹。朝ごはんならもうそろそろ出来上がるわよ」
「お、おはよう、燕! 早いじゃないか! それに…朝ごはん…? なんだか美味しそうな匂いがするなぁ……」
鼻をヒクヒクさせて匂いを嗅ぐ大樹に、燕はフフッと笑って献立を伝えてくれた。ドードーから取った出汁に、その肉をつみれ状にして煮込んだつみれ鍋だ。フンフンと頷きながら大樹が鍋を覗き込んでいると、千空や司たちも起きてきた。
「ふぁ〜あ……早速やってんなぁ燕…最高にいい目覚めだぁ……」
「うん……眠そうだね、輝竜。もう少し寝ていてもいいんじゃないかい?」
「クククッ、3700年ぶりのマトモな料理だぞ? 超絶食欲唆りまくりだわ。食ったら目も覚めんだろ」
そんな話をしている男どもには目もくれず、起きるやいなや杠が燕に一直線に駆け寄ってきた。
「ワァオ!! すごい!! ちゃんと朝ごはんだぁ!」
「フフッ、おはよう、杠。アレルギーとかなかったかしら?」
「全然! 問題なしです!」
全員が起床したので燕がそれぞれの器に料理をよそい始めた。千空が言った通り、このストーンワールドでサバイバルに興じている最中では、料理に凝る時間など皆無に等しい。目覚めたばかりの司たち、そして目覚めてから約1年、ご馳走といえばドードーの丸焼きくらいしか無かった千空、輝竜、大樹たちにとっては、まさしく超絶久しぶりに食欲が唆られる朝食なのだ。
「いっただっきまーす!!! …っ?!」
「…これは?!」
「……あ゛ぁ、なかなかいけんじゃねぇか…!」
口に運ぶなりその美味さに驚く大樹、輝竜、千空。口の中でつみれがほどよく解けて、旨味が口の中に拡がる。出汁のいい味に、山菜やキノコの風味が混ざり合って格別の味わいだ。舌鼓を打っていると、燕が安心したように口を開いた。
「えぇ、お口にあったようで何よりね。ちょっと肉に臭みがあったから、山菜やベリーの果汁なんかをつみれに混ぜ込んだの。多少は栄養の偏りもマシになるんじゃないかしら」
「あ゛ぁ、非常事態のストーンワールドだからなぁ…栄養バランスなんざ気にしてる余裕1ミリも無かったわ。…ククッ、あまりのおありがたさに、お涙が止まんねぇな」
千空の言葉に同調するように、ほかの面々も嬉しそうに料理を口に運びながらウンウンと頷いている。賑やかな朝ごはんの時間だ。
腹ごしらえが済んだら、各々の作業を始める。奇跡の洞窟から採れる奇跡の水、硝酸が1人分溜まるには、数日から1週間ほどはかかる。千空はその間に果実酒の作成、蒸留を行なってエタノールをどんどん量産していく。杠は千空の細々とした作業の手伝いやクラフトを行いつつ、少しずつみんなの服を作っている。もちろん杠ほどの腕になれば皮の服一着縫うだけなら全然時間はかからないのだが、あまり丈夫ではないし長持ちしないので結構な頻度で手直しをしているのだ。大樹と輝竜は外回りで、素材集めや食料の確保に奔走していたが、そこに司と燕が加わった。司と燕、武力に秀でた2人が仲間に加わったことで、どちらかが外回りに出かけている間は、どちらかがキャンプに残って護衛を行うといった具合だ。
今日の外回り担当は司のようだ。大樹が運搬、肩にペゴマスタクスのゴマを乗せた輝竜が弓矢の中距離牽制、司が近接護衛へと自然に役割分担をして、いつものように素材の希望がないか確認する。
「千空!! 今日は東回りに素材を集めてこようと思うんだが、何か必要なものはあるか?? ベリー類ならまたいくらでも取ってくるぞ!」
「んあ゛ぁぁ、ベリーはしこたま確保してるから問題ねぇが…」
小指で耳をほじりながら答えた千空は、指の先にフッと息を吹きかけた後、ニヤリと笑ってオーダーを伝えた。
「エタノール…アルコールもまだまだ必要だが、どうせ発酵まで1週間は待たなきゃなんねぇ。そんなら、その期間は有効活用させていただくっきゃねぇ…! …ナルコベリー…あの黒いベリーで、科学の武器を作る…!」
「分かった! 難しいことは分からんが、あの黒い木ノ実だな! カゴいっぱいに集めてくるから、心配はいらんぞ!!」
別に心配なんざしてねぇよと笑う千空に、輝竜が食いついた。
「…科学の武器…麻酔ガスでも作るのか…?」
「いや、ガスだと作んのも保管すんのも現状の設備じゃ100億%無理だ…もっと扱いやすいモンにする」
そう言って千空は腰に括り付けた皮袋からナルコベリーの黒紫色の果汁が入った容器を取り出した。
「ドードーとかカエルで実験したんだが、コイツは飲ませりゃ意識低下と運動能力鈍化、傷口に擦り込めば周辺部位の麻痺を引き起こす…。フッ、要するに、飲んで良し、打ち込んで良しの超絶便利な麻酔剤だが、その辺うろついてる恐竜どもに効かすには、アホほど量ぶち込まなきゃなんねぇ…」
そこでだ、と言い千空がニヤリと笑う。
「この麻酔剤を科学で料理して、恐竜だろうがマンモスだろうが、よゆーで眠らせる超強力麻酔薬にレベルアップさせる…! ま、絞り込んじゃいるが、肝心の材料がまだ不明だ…こればっかりは調べまくるしかねぇ…」
「…つまり、俺たちはこれから、その材料候補の素材を集めてくる…そういうことかい?」
千空の説明を司が要約して尋ねる。あ゛ぁ、と千空は応えて、目星をつけている素材をいくつか伝えた。その他にも必要な物資がないか杠と燕にも確認した後、大樹たち3人は出発した。
「いやぁ! やっぱり武力に長けた人材がいるといないとじゃあ大違いだなぁ! 探索の安心感が全然違うぞ!」
「うん、そう思ってもらえているなら、俺が復活した意味があるね」
大樹の素直な言葉を聞いて、少し照れくさそうに応えた司に、輝竜は肩を竦めて笑った。
「そりゃあ、『霊長類最強の高校生』に『現代最速の侍』ってな異名つけられてんだ、最高の助っ人に決まってんだろ?」
輝竜の返事に、肩のゴマが同意するように鳴く。三人+一匹で軽口を叩きながら森の中を散策するが、出くわすのは警戒心の低いドードーやそれを追って来たディロフォサウルスくらいなので、全く相手にならない。歩きながら輝竜は千空からもらった"試作品"を腰の皮袋から取り出し、容器を不満げに眺めてボソッと呟いた。
「……全然使う機会ねぇな、コレ…。…まぁ、使わなくて済むほうが、安全で最高なんだが………ロマンはねぇよな……」
「うん…輝竜、君にソレを使わせるという状況には、俺もなるべくしたくないね。効果も未知数なんだろ?」
司が、輝竜の独り言のような呟きを聞いて返すと、輝竜は苦笑した。
「まぁな…。ま、今日の目的はコレの実験じゃねぇからさ、使わなくて済むならそれでいいさ…。それより、燕が言ってた『白樫』って木だけど、そろそろ生えてたポイントじゃねぇか?」
話題を変えて、燕に頼まれていた素材の採集ポイントを大樹に確認する。
「あぁ! 確かそのはずだな! 何に使うかは忘れたが、千空が丈夫な木だと言っていたなぁ!」
「うん、木刀に使われる素材だね。こんな世界でも最初に欲しがるのが刀なんて、彼女らしい」
などと話していると、司が急に無言で腕を拡げ、2人を制止した。輝竜はゆっくりと矢を矢筒から抜き出し、弓に注がえて静かに戦闘態勢を整える。大樹も身構えて体勢を低くしていると、藪の向こうから人ほどの大きさの恐竜が勢いよく吹き飛ばされてきた。ユタラプトルだ。地面に叩きつけられて間もなく起き上がり、蛇のような威嚇の声を上げる。それに応えるかのように、藪の中からラプトルよりも二回り以上大きな恐竜が姿を表した。大きな頭の襟飾りに、特徴的な目の上の2本の角、トリケラトプスだ。かなり気が立っているようで、頭を振り回し前脚をドスドスと踏み鳴らしている。
ラプトルはトリケラトプスの迫力に気圧されたように、長居することなく何処かに走り去っていったが、トリケラトプスの気は収まらず、むしろじっとその様子を見ていた輝竜たちにターゲットが向いた。低く唸りながら頭を下げて角を真っ直ぐにこちらに向けてきた。
「うん…ヤル気だね……コレが恐竜の圧か…」
司もまた重心を低く取り拳を構える。大樹はそんな司の姿に、安心したように嬉しそうに声をかけた。
「お…おお! 流石は霊長類最強! トリナントカだって敵じゃないか…!」
「うん…勝率は五分、いやそれ以下か…上手くやり過ごせそうかい…? 輝竜…?」
そんな大樹の期待とは裏腹に、司はかなり慎重だった。無理もない。ユタラプトルは素早いが、サイズは現代の猛獣たちとそれほど変わらない。だがトリケラトプスは、現代の動物に例えるならばゾウやサイほどの大きさがある。いくら武力に長けた人間でも、一人で相手取るには無理があるのだ。
司の質問に、輝竜は矢を持つ手を離して、人差し湯と中指を立ててこめかみに当てる集中する時のルーティンで応える。
「……上手く逃げられればな…だが今はかなり気が立ってるみたいだし、ここはそんなにキャンプから離れてねぇ…逃げたらキャンプに被害が出るかも…だが…」
司の質問に懸念を交えて返し、輝竜は腰の皮袋から"試作品"を取り出して、一か八かの賭けに出るかのような不敵な顔で笑った。
「…
輝竜はそう言って矢筒を前に回し、矢を取り出しやすくした後司に話しかける。
「2分…いや1分稼げるか…? 矢じりに麻酔薬を塗り込む…少しでいいんだ…」
「あぁ、任せてくれ」
二つ返事で了承し、大樹と輝竜を後ろに下がらせた後、司は武器を構えてトリケラトプスと正面から向き合う。敵を見定めた角竜は、咆哮を上げると共に司に向かって突進を始める。司はギリギリまで引きつけ、その超人的な反射神経と跳躍力でトリケラトプスの攻撃を避ける。すぐに四肢でブレーキを踏むように踏みとどまり、体勢を整えて再び攻撃に入ろうとするトリケラ。司から攻撃はせず、間合いを保ちながらやり過ごし続けるが、トリケラトプスの気は立ったまま。鼻息を荒くして、角を振り回し続けている。
少しして、輝竜が司の横に並んできた。準備ができたらしい。
「司、正面は多分矢が通りにくい…関節を狙って打ち込むから、タゲ取り頼む」
「分かった」
トリケラトプスは通常数体以上の群れで暮らしているが、そのトリケラトプスは珍しく1頭で暮らしていた。このあたりは餌も豊富で、大きな顎を持ったやつらの縄張りにさえ入らないよう気をつけていれば、単独でも暮らしていけるくらい安全なはずだったのに。
角竜は新たな敵を見とめ攻撃姿勢を取るが、大柄なほうが駆け寄る素振りを見せたため、小柄な方は無視して片方に集中する。と、前脚に痛みが走る。驚いて身体を跳ね上げるが、痛みが徐々に脚から引いていく。続けて片方の後ろ脚にも痛みが走るが、これも同様だ。原因はあの小柄な方だ。狙いを定めようとすると、大柄な方が一気に突っ込んできて脇に一撃を食らわせてきた。小柄な方の攻撃とは比べものにならないほど痛い。すぐさま向き直ろうとするとまた小柄な方からの攻撃が刺さる。
そんなことを繰り返していると、なんだか身体の動きも鈍くなってきた。
このまま戦っていたらまずい。
逃げたほうがいい。
そんなことを考えていると、徐々に意識が遠くなり、トリケラトプスは地面に倒れ込んでしまった。
司と輝竜は肩で息をしながら、倒れたトリケラの様子をうかがう。息は荒いが、動く様子はなさそうだ。木陰に輝竜のゴマと一緒に隠れていた大樹も顔を出し、2人の無事を確認して胸をなで下ろした。
「……はぁ~……助かった〜!! すごい連携だったなぁ! 2人ともありがとう!!」
「…うん…なんとかなったね…」
「あぁ…千空の
喜んでいる大樹と冷静にここから離れようと促している司を尻目に、輝竜はトリケラトプスを見つめていた。生き残るために武器を使ったのは、今に始まったことではない。生きるためには仕方なかった。
…だが。地面に倒れて苦しそうに息をするその姿は、まるで、いつか見た古い映画のような光景だった。
それは、いわば
輝竜は、おもむろに足を踏み出した。
次回予告
杠「ねぇねぇ燕さん! 輝竜くんって、小さい時からあんな感じだったの?」
燕「ん? えぇ、そうよ。図鑑ごと持ってきて、私にロマンだとか、カッコよさだとか、力説して一緒に化石掘りに行ったこともあったっけ。司と知り合ってからは、司にもそうしてたけど」
杠「フフッ、なんだか千空くんみたい…」
燕「えぇ、確かにね」
杠「次回『Dr.STONE-Survival Evolved-』」
杠「『SCIENCE vs WILDLIFE』」
燕「えぇ、滾るわね…これは」