赤魔道士は今日も黙って蘇生する   作:イカ姉

1 / 3
第1章 蘇生地獄編
第1話「Alice Ecarlateからの蘇生を受けますか?」


 また、蘇生してもらった。

 起き上がって、みんなを追いかける。

 今度こそ。今度こそ、ちゃんと――

 

 また死んだ。

 ――ごめんなさい。

 

 24人で挑む大規模戦闘。

 こういう戦いには、まだ全然慣れていない。

 

 最初は、ありがとう、だった。

 でも、何を見ればいいのか分からない。

 どこへ行けばいいのかも分からない。

 分からないまま走って、気づけば死んでいる。

 

 いつからか「ありがとう」より先に「ごめんなさい」が浮かぶようになった。

 感謝より謝罪の方が上達していた。

 

 すごい冒険者になりたかったわけじゃない。

 ただ、ちゃんと役に立てる人になりたかった。

 

 誰かに「いてくれてよかった」って。

 いつか言ってもらえるくらいには。

 

 なのに今は、私が死ぬたびに誰かの仕事を増やしている。

 いない方がいい。

 そこまで考えた頃、それまで私を起こしてくれていた人から蘇生が来なくなった。

 

 少しだけ、ほっとした。

 それでいい。もう、起こさなくていい。

 

 この戦いが終わったら、冒険者なんて、やめようかな。

 そんなことを、初めて思った。

 

 その時――

 

『Alice Ecarlateからの蘇生を受けますか?』

【受諾】【保留】【断る】

 

◇◇◇

 

 見慣れた形式の、機械的なメッセージ。

 ただ、知らない名前だった。

 知らない人なら、私がここまで何回死んだか知らないはず。

 私の失敗は、まだこの人には初めてのはず。

 

 私は、すぐに蘇生を受諾した。身体の感覚が戻ってくる。

 もう何回目だろう。慣れたくないけど、慣れてきた。

 

 今度こそ、周りを見る。

 みんながどこへ動くのか、何が来るのかを見る。

 

 でも――間に合わなかった。

 起きたけれど、私はすぐまた死んだ。

 

『Alice Ecarlateからの蘇生を受けますか?』

 

 まただ。

 ほぼ0秒で蘇生魔法が飛んできた。

 

 初対面の人に、2回続けて蘇生されるのはかなり気まずい。

 でも、私は蘇生されることを選んだ。

 

 今度は、さっきより少しだけ周りが見えた。

 ボスの動きがさっきと同じだ。分かる。来た。

 

 避けた――!!

 私は心の中で喝采した。

 でも、その次のボスの攻撃で、再び死んだ。

 

『Alice Ecarlateからの蘇生を受けますか?』

 

 誰も、何も言ってくれなかった。

 だけど、次こそは死なない。

 そんな私の気合など関係なく。

 また死んだ。

 

 もう……ダメだ……

 

 私の心が、バキッと折れる音がした。

 でも。

 

『Alice Ecarlateからの蘇生を受けますか?』

 

 ボスと同じくらい容赦がない。

 私に無言で蘇生魔法だけを叩き込んできた。

 

 ……ちょっと待って。

 ここまで死んでいれば、普通はもう放っておかれてもおかしくない。

 実際、最初の方に起こしてくれたヒーラーさんからは、もう蘇生が来なくなっていた。

 

 なのに。

 この人だけは、まだ来る。

 なんでまだ起こすの?

 もういい。本当に、私に構わなくていい。

 

 そう思いながら、蘇生を受けた。

 私も大概だった。

 

 起きた。

 走った。

 必死に。

 

 今度は何か来る前に周りを見た。

 気づいた時には、私はもう敵を見ていなかった。

 でも、死んだ。

 

 ……ねえ、もうやめて……!

 

 ……それでも来る。

 たぶん来る。アレが。

 私は意識の中で身構えた。

 

 来ないでほしい。

 さすがにもう――

 そうだよね。いくら何でも。

 分かるよね?

 

 何も来ない。

 

 ――よかった。

 私は心の底から安堵した。

 

 これで終わる。

 ようやく、終わる。

 

 その時――

 

 

『Alice Ecarlateからの蘇生を受けますか?』

 

 

 来た。

 

 

 ……嘘、でしょ……?

 もういいってば……!

 ……お願いだから放っておいて……!

 

 それでも蘇生を受けた。

 断ればいいのに。

 

 だって私は。

 戦っている最中に、死体のままでいる勇気もなかったから。

 起きた。

 

 もう戦いのことを考えていなかった。

 最初は、攻略するつもりだった。

 途中から、なんでこんなに死ぬのかが気になった。

 

 今はもう、それすら違う。

 

 この時の私は。

 倒すべきボスより、この名前から逃げたかった。

 

 この無限に続く蘇生地獄から、逃げたかった。

 

 次に死んだ時。

 また、この名前が出るのか。

 どこにいるのかも分からない。

 何を考えているのかも知らない。

 

 ただ、私が死んだことだけは毎回ばれている。

 名乗られた覚えはない。

 私が死ぬたび、向こうから名乗ってきた。

 

 なんなんだ。

 このAlice Ecarlateって。

 

『Alice Ecarlateからの蘇生を受けますか?』

『Alice Ecarlateからの蘇生を受けますか?』

『Alice Ecarlateからの蘇生を受けますか?』

 

◇◇◇

 

 

 ――翌日。

 

 

 昨日のことは忘れたかった。

 かといって、もともとの仕事まで休めない。

 私は冒険者向けの依頼を取り次ぐ、依頼調整官だ。

 昨日の出来事には、必死に蓋をした。

 書類は突然私を殺したりしない。

 ましてや、蘇生もしてこない。

 大丈夫。大丈夫。

 

 今日もいつもの机へ。いつもと同じことの繰り返し。

 毎日代わり映えのしないことが、これほどまでに心の安定をもたらすとは。

 冒険なんてするもんじゃない。

 

 そんな思いで、どうにかこうにか心の平穏を取り戻そうとした私の元に。

 今いちばん会いたくない女が、わざわざ向こうからやって来た。

 

「昨日、一緒だったよね」

「私、アリスっていうんだけど」

 

 昨日まで機械的なメッセージの中にしかいなかった名前が。

 今日になって人の姿をして歩いてきた。

 

 実在、したんだ。

 ……できれば実在しないままでいてほしかった。

 

 落ち着け、落ち着け私。

 何を言えばいいんだ。

 いや、そうだ、いつもの台詞だ。

 

「昨日はありがとうございました」

 

 これで終わる。そう。普通ならこれで終わる。

『ああ、お疲れ』

 って言って、去ってくれる、はず。

 

 それでも去ってくれなかったら?

 いったい何のためにここに来たっていうの……?

 

 ああ、そうか。

 この人は昨日のことで文句を言いに来たんだ。

『大規模戦に来るなら、ちゃんと準備してこい』

 とか。

 

 何度も死んで……何度も起こしてもらった。

 ……もう、嫌だ。

 

 謝って「冒険者、辞めます」って言おう。

 そう言おうとした、その時。

 

 この女は真面目な顔で言った。

 

「昨日、私、8回起こしたでしょ」

 

 数えられてた。

 終わった。

 

「すみませんでした」

「何が?」

 

 何がって。

 全部ですけど。

 私は「全部」と言われても反論できない準備をしていた。

 

「あとで振り返ったら、改善できそうなところがあって」

 

 ……は?

 

『振り返った』……?

 私が昨日から必死で忘れようとしていたものを?

 

 なんで私の死亡記録をわざわざ再確認してるの?!

 

「昨日の戦い、記録が残ってるから」

「……き、記録?」

「うん。そういうログを再生できる魔法装置があってね」

 

 今、聞いてはいけない単語が二つくらい続いた。

 

 記録。

 再生。

 

「途中で止めたり、戻したりもできるよ」

 

 昨日の私が死ぬ。

 そこを止められる。

 そして、戻せる。

 また死ぬ。

 

「私が起こしたところも全部見られると思う」

 

 全部。

 8回。

 昨日、この人に8回起こされた。

 

 今日また8回、殺し直される……ってこと!?

 

「だから、改善できそうなところがいくつかあって、二人で一度確認しようと思って」

 

 …………は?

 

 ……な、何なのこの女!?

 あの私だけが延々と死ぬ記録を?

 冗談じゃない。一人でも見たくない。

 それを、なんでこの人と一緒に見なきゃいけないの!?

 

「一人で見るより、その場で説明した方が分かりやすいし」

 

 言葉の意味は分かる。

 でも、意図がまるで分からない。

 この人、立ち会う気満々だ。

 

「分からないところがあったら、そこで止めればいいから」

 

 止めるんだ。

 私が死ぬ直前で。

 

「何回でも見直せるし」

 

 何回でも。

 私が死んだところを、見直す……

 

 今、一番聞きたくない説明だった。

 心臓がものすごく忙しくなってきた。

 

 悪意ゼロ。真顔。善意100%。

 ……この女、公開処刑の準備を完璧に整えてきた……!!

 

「か、改善って……! 私の『死に方を反省会する』ってことですか!?」

「ううん。起き方」

 

……。

 

「大丈夫」

 

 何が大丈夫なの!?

 

「昨日も、全部が駄目だったわけじゃないから」

 

……え。

 

 私の中では昨日の出来事は、

 死んだ。

 起こされた。

 また死んだ。

 

 ただただ、その繰り返し。

 以上だった。

 

「ちゃんと見えてたところもあったし」

「判断は合ってたのに間に合わなかったところもあったから」

 

 どういうこと……?

 本当に、私のため……?

 

 それなら、余計にタチが悪い。

 怒れない。

 逃げにくい。

 断りにくい。

 

 そして本人は、私を追い詰めている自覚がたぶん一切ない。

 昨日でやっと蘇生地獄が終わったと思ったのに。

 

 今日になって、この女が新しい地獄を持参してきた。

 なんで蘇生地獄の翌日に、黒歴史検証地獄が始まろうとしているの?

 

「じゃあ、見ようか」

 

 ……本気で始まるんだ。

 

◇◇◇

 

【次回予告】

 

 映像の中の私は、また死んだ。

 

「ここね、ちょっと覚えてて」

 

 何で。

 自分の死んだ瞬間を覚えなきゃいけないの。

 そして次の私は。

 何もできなかった。

 

「これ、よかったよ」

 

 ……どこが?

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。