以前の版をお読みいただいた方にも、改稿後の第1話から改めてお読みいただければ幸いです。
第1話「Alice Ecarlateからの蘇生を受けますか?」
また蘇生してもらった。
起き上がって、みんなを追いかける。
今度こそ。今度こそ、ちゃんと――
でも、また死んだ。
そのうち、ヒーラーさんから蘇生が来なくなった。
少しだけ、ほっとした。
それでいい。もう、起こさなくていい。
その時――
『Alice Ecarlateからの蘇生を受けますか?』
【受諾】【保留】【断る】
◇◇◇
知らない名前だった。
――起きたけれど、私はすぐまた死んだ。
『Alice Ecarlateからの蘇生を受けますか?』
まただ。ほぼ0秒で蘇生魔法が飛んできた。
ボスの動きがさっきと同じだ。今度は分かる。
避けた――!!
やった、と思ったらその次の攻撃で、また死んだ。
『Alice Ecarlateからの蘇生を受けますか?』
次こそは死なない。
……と思ったけど、またすぐ死んだ。
『Alice Ecarlateからの蘇生を受けますか?』
もう……ダメだ……
ボスと同じくらい容赦がない。
私に無言で蘇生魔法だけを叩き込んできた。
ちょっと待って。
なんで、まだ起こそうとするの?
もう、私に構わなくていい。
そう思いながら、蘇生を受けた。私も大概だった。
気づいた時には、私はもう敵を見ていなかった。
また、死んだ。
……ねえ、もうやめて……!
……それでも来る。
たぶん来る。アレが。
来ないでほしい。
さすがにもう――
何も来ない。
よかった。
その時――
『Alice Ecarlateからの蘇生を受けますか?』
来た。
……嘘、でしょ……?
もういいってば……!
……お願いだから放っておいて……!
それでも蘇生を受けた。
断ればいいのに。
この時の私は。
倒すべきボスより、この名前から逃げたかった。
次に死んだら、またこの名前が出るのか。
名乗られた覚えはない。
なのに私が死ぬたび、向こうから名乗ってきた。
そのあとも。
起こされて。死んで。
また起こされて。
『Alice Ecarlateからの蘇生を受けますか?』
『Alice Ecarlateからの蘇生を受けますか?』
『Alice Ecarlateからの蘇生を受けますか?』
◇◇◇
――翌日。
今いちばん見たくない名前。Alice Ecarlate。
その文字列の本人が、わざわざ向こうからやって来た。
「私、アリス。昨日の戦闘で一緒だったよね」
……知ってる。嫌っていうほど知ってる。
できれば実在しないままでいてほしかった。
「昨日は、ありがとうございました」
「いいんだ。それより、私、8回起こしたでしょ」
うわっ。
……数えられてた。
「すみませんでした」
「何が?」
何がって。
全部ですけど。
「昨日の戦い、改善できそうなところがあって」
……は?
『改善できそう』……?
私が必死で忘れようとしているものを?
「私たち、独自に戦闘を記録してて」
「あとで再生できる術式があるの」
記録……再生……?
今、聞いてはいけない単語が二つくらい続いた。
「途中で止めたり、戻したりもできるよ」
昨日の私が死ぬ。
そこを止められる。
そして、戻せる。
また死ぬ。
「私が起こしたところも全部見られると思う」
全部。
「だから、二人で一度確認しようと思って」
二人で……一度確認……?
また8回、殺し直される……ってこと!?
やっと蘇生地獄が終わったと思ったのに。
今になって、この人が新しい地獄を持参してきた。
「か、改善って……! 私の『死に方を反省会する』ってことですか!?」
「ううん。起き方」
……。
「大丈夫」
「昨日も、全部が駄目だったわけじゃないから」
……え。
「見えてたところもあったし」
「判断は合ってたところもあったから」
私はこの人に8回も蘇生してもらった。
なのに。
私はどうして死んだのか、一つも理解できてない。
◇◇◇
「昨日の大規模戦闘は、クリティカル・エンゲージメントっていうんだけど」
「なんかそんな名前だった気がします」
「戦場でよく起きてるのがスカーミッシュ。昨日のは、それより難しいやつ」
「……それ、参加する前に知りたかったです」
「じゃあ、まず1回目に起きたところから見ようか」
「……死んだところじゃなくて?」
「起き方を見るから」
アリスさんが記録を再生した。
『Alice Ecarlateからの蘇生を受けますか?』
映像の中の私は起き上がった。
身体にはまだ、蘇生された直後の淡い光が残っている。
私は、すぐに弓を構えた。
矢をつがえる。
引く。
その瞬間、身体を包んでいた光が消えた。
同時に、ボスから次の攻撃が来た。
死んだ。
「ここね。ちょっと覚えてて」
アリスさんが映像を止めた。勘弁して。
……そこ、覚えなきゃいけないんだ。
「……私、また死んでますけど」
「うん。そうだね。じゃあ次」
……それだけ?
『Alice Ecarlateからの蘇生を受けますか?』
また起こされた。
今度の私は、すぐには弓を構えなかった。
いや。
構えなかった、というより、構えられなかった。
また死んだことが恥ずかしくて、身体が動かなかった。
その間にも、敵の攻撃は来た。
けれど、攻撃は私に届かなかった。
残っていた淡い光が、それを受け止めていた。
その直後、ヒーラーさんから癒やしの魔法が届いた。
「これ、よかったよ」
……何ひとつよくないが?
恥ずかしくて、動けなかっただけなのに。
「これね。この光、蘇生してから数秒だけ残るの」
アリスさんが映像を少し戻した。
「この間は、攻撃を受けても大丈夫」
「……数秒?」
「回復が来るまでくらい」
アリスさんが、一つ前の映像を指した。
「でも攻撃すると、その時点で光の加護が消えちゃう」
「……え?」
「2回目は撃たなかったから加護が残って回復も間に合った」
「…………」
頑張ってすぐ戦おうとしたら死んで。
恥ずかしくて何もできなかった時は生き残った。
……なんだそれ。
「……撃っちゃ駄目なんですか」
「起きた直後だけ。回復が来るまで無理に撃たなくていいよ」
「……知らなかったです」
「うん」
「あと、何か分からない攻撃が来たら、周りも見て」
「周りを見る?」
「みんなが一斉に動く時は、だいたい何かあるからね」
アリスさんが立ち上がった。
「じゃあ、もう1回、行ってみようか」
「…………どこへ?」
「別のクリティカル・エンゲージメント、募集してるから」
◇◇◇
帰りたい。
ものすごく帰りたい。
私はまた、大規模戦闘に参加していた。
でも、弓を構える。
地面に見覚えのある予兆が出た。
そこから一歩だけ出る。
――その時、頭の上に見覚えのある光が現れた。
「…………」
黄色い光。
何本もの光が、私だけを指している。
これは何だっけ……?
そう思ったら、仲間がこっちへ走ってきた。
「え?」
一人じゃない。何人も。
私から逃げるわけじゃない。
近づいてくる。
……これ、みんなで集まるやつ?
「あ」
分かった時には、もう私は動いてしまっていた。
反射的に、人のいない方へ逃げていた。
慌てて戻る。仲間たちもこっちへ来る。
待って、間に合って――あと少し。
光が弾けた。大きな衝撃。
私は、また一人で死んだ。
『Alice Ecarlateからの蘇生を受けますか?』
また、この名前だ。
身体が起き上がる。
淡い光が身体を包んだ。
反射的に弓へ手を伸ばしかけて、止めた。
敵の攻撃が来た。
光が、それを受け止める。
その直後、ヒーラーさんから癒やしの魔法が届いた。
「……!」
回復を確認してから、弓を構えた。
矢をつがえる、放つ。
次、さらに次。
今度は、何人もの足元に円い光が現れた。
私にも。
さっきとは違う形。慌てて周りを見た。
光をまとった人たちが、互いに離れていく。
なるほど。今度は逆だ。
私は右に走った。
同時に、私のすぐ隣にいた人も、右へ走った。
えっ。
近い。まずい。
慌てて左へ逃げる。
でも、相手もすぐ左に逃げてきた。
……えっ?
……何でこっちについてくるの!?
――光が大きくなる。
待って待って待って――
間に合わない。
二つの光が重なった。
二人まとめて死んだ。
『Alice Ecarlateからの蘇生を受けますか?』
本当に早い。
死んだと思った次の瞬間には、もう来てる。
アリスさん、あなた……どこで見てるの?
蘇生を受けて、起き上がった。
私は、戦場を見る。
前の敵。横の仲間。
今度は、両方見えている。
◇◇◇
――その日の戦いが終わったあと。
「今日は2回だったね」
毎回、そこまで正確に覚えてなくてもいいと思う。
「減ったね」
確かに。
「よかったね」
「はい」
「……アリスさん」
「なに?」
「ありがとうございました」
私、この人に、最初に会った時も同じことを言った。
『昨日は、ありがとうございました』
でも、あれは礼儀として言っただけだった。
早くこの話を終わらせたくて。
「うん」
「ねえ、ルーシー」
「はい?」
「私たちと一緒にやってみない?」
「…………」
私が?
「……アリスさんたちの、ですか?」
「うん」
「私たち、ミスフィッツ・リミナルっていうの」
「…………」
初めて聞く名前だ。
そういえば、私は、この人のことをほとんど知らない。
アリス・エカルラート。赤魔道士。
人が死ぬと、爆速で蘇生魔法を飛ばしてくる。
……知ってること、だいぶ偏ってるな。
それより。
「私、まだ全然ですけど」
「うん」
「…………」
そこは、少しくらい否定してくれてもいいと思う。
「昨日、私が8回起こしたでしょ」
「……はい」
「でも今日、また参加したでしょ」
「はい」
「失敗したあとも、もう一回来る人の方が」
「たぶんうちには合うと思う」
「私、ついていけますか?」
「分からない」
「…………」
そこは、大丈夫って言うところじゃないの?
「でも、分からなかったら聞けばいいし」
「できなかったら、できるところからやればいいでしょ」
「…………」
この人にはもう、私が何も分からずに死ぬところを何度も見られている。
今さらだった。
「……入ってみたいです」
「分かった」
どんな人たちなんだろう。
この人と一緒に動いているんだから。
きっと、強いんだろうな。
この人よりは、もう少し話が通じる人もいるだろう。
たぶん。一人くらいは。
「まあ、変な人たちなんだけどね」
アリスさんは、いつも通りの顔をしていた。
この人が。
人のことを。
変な人、って言った。
……そういうことは、先に言ってほしかった。
◇◇◇
【次回予告】
「よし分かった。悪い知らせは?」
それが。
サイラス・バートラムという男の、私への第一声だった。
初対面である。
挨拶も。
自己紹介も。
何もなかった。
『まあ、変な人たちなんだけどね』
確かに聞きました。
聞きましたけど。
次回『赤魔道士は今日も黙って蘇生する』
第2話――「顔合わせは戦場で」
……アリスさん。
一人目からこれなんですか?