以前の版をお読みいただいた方は、改稿後の第1話から続けてお読みいただけると幸いです。
ミスフィッツ・リミナル。
アリスさんたちの集まりの名前。
そこに入って、初めての顔合わせ。
私はまた、南方ボズヤ戦線にいた。
「アリスさん」
「なに?」
「今日は、メンバーの方に会わせてくれるんですよね?」
「うん」
「……なんで戦場なんですか?」
「みんないるから」
「居場所の話をしてるんじゃないんです!!」
私の知っている顔合わせとは、もう少し安全な場所でやる。
ここは南方ボズヤ戦線の拠点、ウトヤ前哨地。
兵士も冒険者も、せわしなく行き交っていた。
その中をアリスさんが普通に歩いていく。
「いた」
少し先に、大柄な男性が二人。
「サイラス。ダミル」
二人の男が同時に振り向く。
一人はアウラ族。もう一人はルガディン族。
「なんだ」
「新しい子を連れてきた」
アリスさんが私を見た。
「ルーシー。できる子だよ」
「…………」
えっ。
私の紹介、これで終わり?
◇◇◇
「ルーシー・ミラーです。よろしくお願いします」
「サイラス・バートラムだ。よし分かった、悪い知らせは?」
「……何が『よし分かった』なんですか?」
「名前だ」
間に何か二、三個、抜けている気がする。
「俺はダミル・ラドヴィク。よろしく」
「よろしくお願いします」
……普通だ。
ちゃんと名乗ってくれた。
悪い知らせも聞いてこない。
よかった。
この人はまともそうだ。
向こうからレジスタンスの兵士が走ってきた。
「悪い。南の補給地点に行くなら、これも持っていってくれないか?」
小さな荷物を差し出した。
ダミルさんは迷わず受け取った。
「分かった」
別の人が来た。
「帰りに南側の見張りにも伝言を頼めるか?」
「ああ。やっておく」
また一人来た。
「ついでに、その先にも――」
「いいぞ」
「…………」
まだ顔合わせ、始まったばかりですよね?
「ダミルさん」
「なんだ?」
「今、何件引き受けました?」
「依頼じゃない。信頼だ」
「件数を聞いてるんです」
サイラスさんが横から言った。
「3つだ」
「ほら!」
「全部同じ方向なら1件だろ」
「数え方がおかしい!」
……駄目だ。
この人も、まともじゃなかった。
◇◇◇
結局。
私。
アリスさん。
サイラスさん。
ダミルさん。
4人で戦線を回り始めて、ほどなくスカーミッシュが始まった。
帝国兵に魔導兵器。
サイラスさんとダミルさんが、私より先に出た。
帝国兵が二人を見る。
私を見ていない。
「あれ」
弓を構えた。
一射。
当たる。
敵はこっちへ来ない。
前にはサイラスさん。
少し右にダミルさん。
二人とも、敵を止めてくれている。
今まで私は、敵が自分へ来ることばかり考えていた。
今日は違う。
前を見る時間がある。
周りを見る時間がある。
……すごく戦いやすい。
「左、来るぞ!」
ダミルさんが叫ぶ。
攻撃が来る。
一歩ずれる。
避けられた。
――その時。
右側から、新しい帝国兵が走ってきた。
「右から一体増えました!」
「いいぞ」
サイラスさんが即答した。
「敵が増えたんですよ!?」
ダミルさんが右へ動く。
盾で帝国兵を受け止めた。
「場所を言えた。十分だ」
「そういう意味!?」
私が知らせたから、ダミルさんが間に合った。
その帝国兵は、一度も私のところまで来なかった。
……なるほど。
◇◇◇
スカーミッシュが終わった。
「死ななかった……」
「よかったね」
「はい」
ダミルさんが歩き出す。
その腕には、さっき頼まれた荷物がある。
「……顔合わせって、まだ続くんですよね?」
「続いてるだろ」
「これ、配達じゃないですか?」
「ついでだ」
出た。
信用してはいけない言葉だ。
「ダミル!」
前から兵士が来た。
嫌な予感がした。
「この先に行くなら、補給班にこれも――」
「いいぞ」
「しれっと増えた!」
ダミルさんが紙束を受け取った。
「紙だぞ」
「物理の重さの話じゃないんです!」
サイラスさんが言った。
「4つ」
「サイラスさん、数えてくれてる!」
「だから依頼じゃない。信頼だ」
「名前を変えても増えたものは増えてます!」
アリスさんは、少し後ろを何事もない顔で歩いている。
……たぶん、慣れてる。
「ダミル!」
また呼ばれた。
私は先にダミルさんを見た。
「…………」
「なんだ、その目」
「別に」
レジスタンスの兵士が走ってきた。
「悪い、見張り台の連中に――」
ダミルさんが口を開く前に言った。
「同じ方向だから、は駄目ですよ」
「まだ何も言ってないだろ」
「言う顔してました」
「顔で分かるのか」
「今日だけで分かるようになりました!」
加入初日。
身につけなくていい技能が増えていく。
◇◇◇
二つ目のスカーミッシュが始まった。
今度はさっきより少しだけ余裕があった。
敵を見る。
サイラスさんを見る。
ダミルさんを見る。
二人がどこにいるのか、ちゃんと分かる。
「もう一体、右奥です!」
「いいぞ」
今度は驚かなかった。
ダミルさんが右へ回る。
増えた帝国兵が、そっちを向いた。
私の前が空いた。
弓を構える。
撃つ。
当たった。
すぐ次を見る。
「ルーシー、左!」
アリスさんの声。
左を見る。
魔導兵器がこっちを向いていた。
一歩ずれる。
攻撃が、さっきまで立っていた場所を抜けていく。
避けられた。
そのまま矢をつがえる。
「今だ」
サイラスさんの声がした。
撃った。
矢が刺さる。
同時にダミルさんが前へ出る。
サイラスさんは別の敵を引き受ける。
次に何をすればいいのか。
昨日は、何も分からなかった。
今は。
誰かの声を聞けば、次が見える。
私が声を出せば、誰かが動いてくれる。
「右、もう一体来ます!」
「分かった」
ダミルさんが動く。
私の声が、ちゃんと戦場の中に届いている。
「…………」
なんだろう。
昨日は、戦場に置いていかれないだけで精一杯だった。
今日は、ちゃんとその中にいる。
矢をつがえる。
撃つ。
次を見る。
また撃つ。
……あ。
ちょっと、楽しい。
この人たちと戦うの。
ちょっとだけ、楽しい。
その時。
遠くに、帝国兵が数人見えた。
こっちへ来るわけではない。
北へ向かっている。
一人。
二人。
その後ろにも。
「…………」
戦闘に入ってくる感じじゃない。
ただ、北へ移動している。
「サイラスさん」
「なんだ」
一瞬迷った。
「……悪い知らせかどうか、まだ分かりません」
「最高だ。言え」
そこまで歓迎されるとは思わなかった。
「北へ行く帝国兵が多い気がします」
「どの辺だ」
「あっちです。さっきも何人か同じ方向に」
「ダミル」
「ああ。俺も見た」
二人の声が、少し変わった。
「いつからだ」
「……気づいたのは、さっきです」
「それでいい」
「いいんですか?」
「ああ」
サイラスさんは北を見ながら言った。
「分からないうちに言えたなら、それでいい」
「…………」
「悪い知らせは、早い方がありがたい。早ければ手が打てる」
ああ。
だから。
一体増えた時も。
「いいぞ」
だったんだ。
◇◇◇
戦闘が終わった。
私たちはウトヤ前哨地へ戻った。
「疲れた……」
顔合わせだったはずなのに。
戦って。
走って。
配達にまで付き合った。
しかもダミルさんの荷物は、最初より増えている。
「何で増えてるんですか?」
「信頼だ」
「もうその説明いいです」
ダミルさんが笑った。
サイラスさんがこちらを見た。
「ルーシー」
「はい?」
「今日の悪い知らせは」
「まだ聞くんですか?」
少し考える。
「ダミルさんの荷物が、最初より増えてます」
「悪い知らせだな」
「だろ?」
「そこ二人で納得しないでください」
「サイラス!」
レジスタンスの兵士が走ってきた。
息を切らしている。
サイラスさんの顔が変わった。
「どうした」
「北側の観測班から、定時連絡がない」
誰も返事をしなかった。
さっきまで笑っていたダミルさんの顔から、笑みが消えた。
「最後の連絡は」
「一時間前」
「場所」
「北側。第三観測地点」
北側。
さっき、帝国兵が何人も向かっていた方だ。
今度は、聞かなくても分かった。
これは、本当に悪い知らせだ。
◇◇◇
【次回予告】
「サイラスさん、腕……」
「ああ。これは折れてるな」
「脚もですよね!?」
サイラスさんは瓦礫にもたれ、脚を投げ出していた。
「こっちは派手に焼かれたな」
「大丈夫じゃないですよね!?」
アリスさんが近づいた。
「私が治すね」
「待て」
とても低い声だった。
次回『赤魔道士は今日も黙って蘇生する』
第3話――「ヒーラー枠は赤魔道士です」
ダミルさんが私の肩を掴んだ。
「ルーシー」
「はい?」
「サイラスを押さえるぞ」
……始まるのは治療なんですよね!?