赤魔道士は今日も黙って蘇生する   作:イカ姉

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※第1章の再編に伴い、第2話以降は旧版から内容・構成を大幅に変更しています。
 以前の版をお読みいただいた方は、改稿後の第1話から続けてお読みいただけると幸いです。


第2話「顔合わせは戦場で」

ミスフィッツ・リミナル。

アリスさんたちの集まりの名前。

そこに入って、初めての顔合わせ。

 

私はまた、南方ボズヤ戦線にいた。

 

「アリスさん」

「なに?」

「今日は、メンバーの方に会わせてくれるんですよね?」

「うん」

「……なんで戦場なんですか?」

「みんないるから」

「居場所の話をしてるんじゃないんです!!」

 

私の知っている顔合わせとは、もう少し安全な場所でやる。

 

ここは南方ボズヤ戦線の拠点、ウトヤ前哨地。

兵士も冒険者も、せわしなく行き交っていた。

その中をアリスさんが普通に歩いていく。

 

「いた」

 

少し先に、大柄な男性が二人。

 

「サイラス。ダミル」

 

二人の男が同時に振り向く。

一人はアウラ族。もう一人はルガディン族。

 

「なんだ」

「新しい子を連れてきた」

 

アリスさんが私を見た。

 

「ルーシー。できる子だよ」

「…………」

 

えっ。

私の紹介、これで終わり?

 

◇◇◇

 

「ルーシー・ミラーです。よろしくお願いします」

 

「サイラス・バートラムだ。よし分かった、悪い知らせは?」

「……何が『よし分かった』なんですか?」

「名前だ」

 

間に何か二、三個、抜けている気がする。

 

「俺はダミル・ラドヴィク。よろしく」

「よろしくお願いします」

 

……普通だ。

ちゃんと名乗ってくれた。

悪い知らせも聞いてこない。

 

よかった。

この人はまともそうだ。

 

向こうからレジスタンスの兵士が走ってきた。

 

「悪い。南の補給地点に行くなら、これも持っていってくれないか?」

 

小さな荷物を差し出した。

ダミルさんは迷わず受け取った。

 

「分かった」

 

別の人が来た。

 

「帰りに南側の見張りにも伝言を頼めるか?」

「ああ。やっておく」

 

また一人来た。

 

「ついでに、その先にも――」

「いいぞ」

「…………」

 

まだ顔合わせ、始まったばかりですよね?

 

「ダミルさん」

「なんだ?」

「今、何件引き受けました?」

「依頼じゃない。信頼だ」

「件数を聞いてるんです」

 

サイラスさんが横から言った。

 

「3つだ」

「ほら!」

「全部同じ方向なら1件だろ」

「数え方がおかしい!」

 

……駄目だ。

この人も、まともじゃなかった。

 

◇◇◇

 

結局。

 

私。

アリスさん。

サイラスさん。

ダミルさん。

 

4人で戦線を回り始めて、ほどなくスカーミッシュが始まった。

 

帝国兵に魔導兵器。

サイラスさんとダミルさんが、私より先に出た。

 

帝国兵が二人を見る。

私を見ていない。

 

「あれ」

 

弓を構えた。

一射。

当たる。

敵はこっちへ来ない。

 

前にはサイラスさん。

少し右にダミルさん。

二人とも、敵を止めてくれている。

 

今まで私は、敵が自分へ来ることばかり考えていた。

今日は違う。

前を見る時間がある。

周りを見る時間がある。

 

……すごく戦いやすい。

 

「左、来るぞ!」

 

ダミルさんが叫ぶ。

攻撃が来る。

一歩ずれる。

避けられた。

 

――その時。

右側から、新しい帝国兵が走ってきた。

 

「右から一体増えました!」

「いいぞ」

 

サイラスさんが即答した。

 

「敵が増えたんですよ!?」

 

ダミルさんが右へ動く。

盾で帝国兵を受け止めた。

 

「場所を言えた。十分だ」

「そういう意味!?」

 

私が知らせたから、ダミルさんが間に合った。

その帝国兵は、一度も私のところまで来なかった。

 

……なるほど。

 

◇◇◇

 

スカーミッシュが終わった。

 

「死ななかった……」

「よかったね」

「はい」

 

ダミルさんが歩き出す。

その腕には、さっき頼まれた荷物がある。

 

「……顔合わせって、まだ続くんですよね?」

「続いてるだろ」

「これ、配達じゃないですか?」

「ついでだ」

 

出た。

信用してはいけない言葉だ。

 

「ダミル!」

 

前から兵士が来た。

嫌な予感がした。

 

「この先に行くなら、補給班にこれも――」

「いいぞ」

「しれっと増えた!」

 

ダミルさんが紙束を受け取った。

 

「紙だぞ」

「物理の重さの話じゃないんです!」

 

サイラスさんが言った。

 

「4つ」

「サイラスさん、数えてくれてる!」

「だから依頼じゃない。信頼だ」

「名前を変えても増えたものは増えてます!」

 

アリスさんは、少し後ろを何事もない顔で歩いている。

……たぶん、慣れてる。

 

「ダミル!」

 

また呼ばれた。

私は先にダミルさんを見た。

 

「…………」

「なんだ、その目」

「別に」

 

レジスタンスの兵士が走ってきた。

 

「悪い、見張り台の連中に――」

 

ダミルさんが口を開く前に言った。

 

「同じ方向だから、は駄目ですよ」

「まだ何も言ってないだろ」

「言う顔してました」

「顔で分かるのか」

「今日だけで分かるようになりました!」

 

加入初日。

身につけなくていい技能が増えていく。

 

◇◇◇

 

二つ目のスカーミッシュが始まった。

今度はさっきより少しだけ余裕があった。

 

敵を見る。

サイラスさんを見る。

ダミルさんを見る。

二人がどこにいるのか、ちゃんと分かる。

 

「もう一体、右奥です!」

「いいぞ」

 

今度は驚かなかった。

ダミルさんが右へ回る。

増えた帝国兵が、そっちを向いた。

私の前が空いた。

 

弓を構える。

撃つ。

当たった。

 

すぐ次を見る。

 

「ルーシー、左!」

 

アリスさんの声。

左を見る。

魔導兵器がこっちを向いていた。

一歩ずれる。

攻撃が、さっきまで立っていた場所を抜けていく。

避けられた。

 

そのまま矢をつがえる。

 

「今だ」

 

サイラスさんの声がした。

撃った。

矢が刺さる。

同時にダミルさんが前へ出る。

サイラスさんは別の敵を引き受ける。

 

次に何をすればいいのか。

昨日は、何も分からなかった。

 

今は。

誰かの声を聞けば、次が見える。

私が声を出せば、誰かが動いてくれる。

 

「右、もう一体来ます!」

「分かった」

 

ダミルさんが動く。

私の声が、ちゃんと戦場の中に届いている。

 

「…………」

 

なんだろう。

 

昨日は、戦場に置いていかれないだけで精一杯だった。

今日は、ちゃんとその中にいる。

 

矢をつがえる。

撃つ。

次を見る。

また撃つ。

 

……あ。

ちょっと、楽しい。

 

この人たちと戦うの。

ちょっとだけ、楽しい。

 

その時。

遠くに、帝国兵が数人見えた。

こっちへ来るわけではない。

北へ向かっている。

 

一人。

二人。

その後ろにも。

 

「…………」

 

戦闘に入ってくる感じじゃない。

ただ、北へ移動している。

 

「サイラスさん」

「なんだ」

 

一瞬迷った。

 

「……悪い知らせかどうか、まだ分かりません」

「最高だ。言え」

 

そこまで歓迎されるとは思わなかった。

 

「北へ行く帝国兵が多い気がします」

「どの辺だ」

「あっちです。さっきも何人か同じ方向に」

「ダミル」

「ああ。俺も見た」

 

二人の声が、少し変わった。

 

「いつからだ」

「……気づいたのは、さっきです」

「それでいい」

「いいんですか?」

「ああ」

 

サイラスさんは北を見ながら言った。

 

「分からないうちに言えたなら、それでいい」

「…………」

「悪い知らせは、早い方がありがたい。早ければ手が打てる」

 

ああ。

だから。

一体増えた時も。

 

「いいぞ」

 

だったんだ。

 

◇◇◇

 

戦闘が終わった。

私たちはウトヤ前哨地へ戻った。

 

「疲れた……」

 

顔合わせだったはずなのに。

戦って。

走って。

配達にまで付き合った。

しかもダミルさんの荷物は、最初より増えている。

 

「何で増えてるんですか?」

「信頼だ」

「もうその説明いいです」

 

ダミルさんが笑った。

サイラスさんがこちらを見た。

 

「ルーシー」

「はい?」

「今日の悪い知らせは」

「まだ聞くんですか?」

 

少し考える。

 

「ダミルさんの荷物が、最初より増えてます」

「悪い知らせだな」

「だろ?」

「そこ二人で納得しないでください」

 

「サイラス!」

 

レジスタンスの兵士が走ってきた。

息を切らしている。

サイラスさんの顔が変わった。

 

「どうした」

「北側の観測班から、定時連絡がない」

 

誰も返事をしなかった。

さっきまで笑っていたダミルさんの顔から、笑みが消えた。

 

「最後の連絡は」

「一時間前」

「場所」

「北側。第三観測地点」

 

北側。

さっき、帝国兵が何人も向かっていた方だ。

 

今度は、聞かなくても分かった。

これは、本当に悪い知らせだ。

 

 

◇◇◇

 

 

【次回予告】

 

 

「サイラスさん、腕……」

「ああ。これは折れてるな」

「脚もですよね!?」

 

サイラスさんは瓦礫にもたれ、脚を投げ出していた。

 

「こっちは派手に焼かれたな」

「大丈夫じゃないですよね!?」

 

アリスさんが近づいた。

 

「私が治すね」

「待て」

 

とても低い声だった。

 

 

次回『赤魔道士は今日も黙って蘇生する』

第3話――「ヒーラー枠は赤魔道士です」

 

 

ダミルさんが私の肩を掴んだ。

 

「ルーシー」

「はい?」

「サイラスを押さえるぞ」

 

……始まるのは治療なんですよね!?

 

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