赤魔道士は今日も黙って蘇生する   作:イカ姉

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第5話「依頼じゃない。信頼だ」

顔合わせは、まだ終わっていなかった。

次に会った人は、人に囲まれていた。

 

「ダミルさん、これ補給班に」

「分かった」

「帰りに南側も見てもらえるか?」

「ああ、やっておく」

「悪い、これも」

「OK。いいぞ」

 

次々と仕事が増えていく。

 

「ダミル」

 

アリスさんが呼んだ。

男の人が振り向く。

 

「なに?」

「前に伝えてた、新しい子」

「ああ」

 

こっちへ来る。

 

「俺はダミル・ラドヴィク。よろしく」

「ルーシー・ミラーです。よろしくお願いします」

 

……普通だ。

 

ちゃんと名乗ってくれた。

悪い知らせも聞いてこない。

いきなり荷物も渡してこない。

 

……よかった。

この人はまともそうだ。

 

「ダミル」

「なに?」

「今日受けた依頼、何件目?」

「依頼じゃない。信頼だ」

 

……駄目だ。

こいつも何言ってるんだ。

 

「何件ですか?」

「…………6」

 

6件だった。

 

「ダミル!」

 

向こうから兵士が走ってきた。

 

「悪い、北側の観測班にこれも頼めるか?」

 

ダミルさんが笑った。

 

「任せろ。頼られたからには――」

「7件目です」

「ちょっ、最後まで言わせろ」

「増えてるんですよ!」

「ハハハ。同じ方向だ、ついでだろ」

「件数の話です!」

「目的地が近いなら一件だ」

「その数え方やめてください!」

 

出た。

この人の『ついで』は信用しない方がいい気がする。

 

◇◇◇

 

「よし、じゃあ行くか」

 

ダミルさんが荷物を持ち上げた。

 

「それで、何を引き受けたんですか?」

「なあに、ちょっとばかし戦線の奥まで」

「『ちょっと』の距離じゃないですよね、それ!?」

 

北側の観測班まで、荷物を届けるらしい。

また荷物だった。

私はアリスさんを見る。

 

「私も行くんですか?」

「顔合わせだからね」

「……どういう理屈ですか!?」

「ダミルと話せるでしょ」

 

確かに話せる。

話せるけど。

 

「アリスさんも来ますよね?」

「私はここにいるよ」

「また!?」

「あっち、重傷者がいるから。治療の手が足りないって」

 

そうだった。

この人、赤魔道士だった。回復魔法もできるんだ。

たまに忘れそうになる。

 

ダミルさんが私を見た。

 

「無理なら残っていいぞ」

 

初めて選択肢をもらった。

このコミュニティにも新人への配慮はあったらしい。

でも、さっきは何も知らずに一人で歩いて酷い目に遭った。

今度は、ボズヤを知ってる人が一緒にいる。

だったら、一緒に行った方がいい。

 

「……行きます」

「OK。分かった」

「でも、一つだけ」

「なんだ?」

「本当に荷物を届けるだけですよね?」

「ああ、そうだ」

 

この時。

私はちゃんと確認した。

ちゃんと確認したのに。

 

ウトヤ前哨地を出て、3分経ったかどうか。

レジスタンスの兵士がこっちへ走ってきた。

 

「ダミル!」

「ちょうどよかった。中継地点まで、これ持ってってくれないか?」

 

大きな箱だった。

 

「ハハハ。同じ方向だな。ついでだ」

 

嫌な言葉が聞こえた。

8件です。

 

「ちょっと待ってください」

「どうした?」

「今、いきなり一件増えましたよね?」

「ついでだ」

「たった3分でですよ!?」

 

少し歩いたところで、前から別の兵士たちが走ってきた。

まただ。

 

「すみません!」

 

嫌な予感がする。

 

「観測班のところに行くなら、この報告も持っていってもらえませんか?」

 

今度は紙を差し出された。

ダミルさんは躊躇なく受け取った。

 

「分かった」

 

9件。

 

「また増えた!」

「ハハハ。いいじゃないか、たった紙一枚だ」

「物理の重さじゃないんです!」

 

途中、中継地点に寄って、大きな箱を渡した。

 

「これで1件終わりましたね」

「今日受けた件数は減らないぞ」

「そこだけはちゃんと数えているんですね!」

 

それからしばらく歩いて。

ようやく、北側の観測班のところに着いた。

 

「ダミル!」

「おう、届け物だ」

 

ダミルさんが、持ってきた荷物を渡す。

途中で頼まれた報告書も一緒に渡した。

 

「助かった!」

 

これで観測班への届け物は終わった。

 

「じゃあ、これで帰れますね」

「俺の観測班への用事が片付いただけだがな」

「その言い方やめてください」

 

嫌な予感しかしない。

 

「ダミル」

 

聞き覚えのある声がした。

ミーシィヤさんだった。

 

「さっきの子」

「ルーシーです!」

「そうだった」

 

まだ名前を覚えてもらえていなかった。

 

「ちょうどよかった」

 

その言葉を聞いた瞬間。

私はダミルさんの前に立った。

 

「駄目です」

「え?」

 

ミーシィヤさんが止まった。

 

「まだ何も言ってないけど」

「この人、もう9件あります」

「9件?」

「増えるたびに『ついで』って言うんです」

「ちょっと待て、ルーシー」

「なんですか」

「頼み事は、内容を聞いてから断るものだ」

「その思想のせいで9件になってるんですよ!」

 

ミーシィヤさんがダミルさんを見る。

 

「……こいつ、また?」

「いま『また』って言いました!?」

「ダミル、昔からこうだから」

 

ダミルさんが肩をすくめる。

 

「頼られる男は辛いな」

「嬉しそうじゃないですか!」

 

常習犯だった。

 

「でも、これはちょっと大事」

「その『ちょっと』も信用できません!」

 

今日、ちょっと戦線の奥までと言われてここまで来た。

ミーシィヤさんが地図を開いた。

 

「北側の巡回がいつもと違うの」

 

ダミルさんから、さっきまでの笑いが消えた。

 

「数は?」

「分からない」

「いつから?」

「今朝」

「場所は?」

 

ミーシィヤさんが地図を指す。

 

「この辺」

「……近いな」

 

嫌だ。この流れ。

ものすごく嫌だ。

 

「今日、この先をミコトたちの調査隊が通るかもしれない」

「ミコトさんたちが?」

 

ミコトさんは、イヴァリース――

あの蘇生地獄の大規模戦闘で会った研究者だ。

 

「だから、道が使えるかどうかだけ知りたいの」

 

ダミルさんが頷いた。

 

「OK。分かった」

「……増えたぁ……」

 

10件目。私は天を仰いだ。

 

◇◇◇

 

ミーシィヤさんと別れて。

 

「ハハハ。道を見るだけだ」

「その台詞、今日何回目だと思います?」

「初めてだろ?」

「似たようなのを含めてです!」

 

本来なら、観測班に荷物を届けて帰るだけだった。

なぜか今は、私は帝国軍の巡回路を調べに行っている。

 

「止まれ」

 

ダミルさんが片手を上げた。

前に帝国兵がいた。3人。

私はすぐに隠れた。さっきの経験が生きている。

 

「どうします?」

「待つ」

「戦わないんですか?」

「いいんだ。俺達の目的は戦闘じゃない」

 

まともだ。

この人、根本はまともなんだ。

 

少し待っていたら、帝国兵が通り過ぎた。

ダミルさんが地面を見る。

 

「足跡が増えてる」

「分かるんですか?」

「ああ」

 

私も見る。

 

「私には土しか見えません」

「ま、こんなのは慣れだな」

 

便利な言葉だ。

ダミルさんが少し先を見た。

 

「もう少し行けば、その理由が分かる」

「行きませんよ」

「まだ何も言ってない」

「……顔に出てます」

「答えがそこにあるんだぞ?」

「私の安全はここにあるんです!」

 

ダミルさんが黙った。

 

「ミーシィヤさんの依頼は何でしたっけ?」

「道が使えるかどうかの確認をする」

「確認できましたか?」

「ああ」

「じゃあ帰りましょう」

「……そうだな」

 

勝った。

今日初めて、ダミルさんを止められた。

心の中でガッツポーズを取った。

 

ダミルさんがリンクパールに触れた。

「ミーシィヤ。北側に帝国兵が3人」

「足跡も増えてる。通れなくはないが、巡回は増えてる」

『分かった。ありがとう』

 

ダミルさんが報告を終えた瞬間。

近くで爆発音がした。

 

「何!?」

 

ダミルさんが振り向く。

向こうから冒険者が走ってきた。

 

「スカーミッシュだ!」

 

しかも、こっちへ来る。

 

「なんでこっちに!?」

「敵がこっちまで流れてきたんだ!」

「そんなことあるんですか!?」

「ある!」

「そういうことは早く説明してください!!」

 

帝国兵、冒険者、魔獣。

一気に周りが騒がしくなった。

 

「ルーシー!」

「はい!」

 

ダミルさんはナイトだ。

盾を構えて、私の前に出た。

帝国兵の一撃を盾で弾く。

 

私はその後ろから弓を構えた。

攻撃を避ける。

一射。二射。

さっきよりは動ける。

でも。

 

「ダミルさん!」

「なんだ!」

「私たち、なんで結局戦ってるんですか!?」

「俺に聞くな!」

 

今日いちばん納得できる答えが返ってきた。

 

スカーミッシュを抜けたら、息が切れていた。

ダミルさんを見た。彼は普通に立っていた。

ああもう、腹が立つ。

 

「……帰りますよ」

「ああ」

「寄り道はなしです」

「ああ」

「依頼追加もなしです」

「それは約束できない」

「してください!!」

 

その帰り道。

 

「ダミル!」

 

……もうやめて。

 

「ちょうどよかった」

「悪い、負傷者を一人ウトヤまで連れていってくれないか?」

 

足を怪我した兵士が座っていた。

一人では歩けるらしいけど、かなり辛そうだ。

ダミルさんが頷く。

 

「分かった」

 

……ハイ。11件目です。

 

「…………」

「どうした?」

「いえ。これは断れないなって」

「だろ?」

「でも11件目です」

「そこは数えるんだな」

「そこは数えます」

 

兵士を支えながら歩く。

すると、向こうからまた人が走ってくる。

 

嫌だ。来るな。こっち見るな。

 

「ダミル!」

 

見られた。

 

「悪い! ちょっと――」

「駄目です!!」

 

私が叫んだ。

全員止まった。

 

「今日はもう依頼は受けません!」

「ルーシー?」

「この人に新しい話を聞かせないでください!」

 

兵士が困った顔をする。

 

「でも、内容だけでも――」

「聞かせないでください!」

「なんでだ?」

「聞いたら依頼を受けちゃうからです!!」

 

ダミルさんが口を開く。

 

「内容くらい――」

「あなたも黙っててください!」

 

駆け出し冒険者。加入初日。

なぜか私は今、この人の仕事を増やさない係になっている。

何かがおかしい。

 

◇◇◇

 

ようやく。

本当にようやく。

ウトヤ前哨地へ戻った。

アリスさんがいた。

 

「おかえり」

「ただいま戻りました……」

「どうだった?」

 

私は答えた。

 

「顔合わせって何でしたっけ?」

 

アリスさんが首を傾げる。

 

「ダミルには会えたでしょ?」

「そういう話じゃないんです!」

 

後ろでダミルさんが荷物を整理している。

そこへ。

 

「ダミル!」

 

誰かが呼んだ。ダミルさんが振り向く。

私はその間に割って入った。

 

「今日の依頼受付時間は終了しました!!」

「俺の受付を勝手に閉めるな」

「受付だったんですか!?」

 

……そうだ。

私は冒険者だけど、依頼調整官でもあったっけ。

 

 

◇◇◇

 

 

【次回予告】

 

「悪い知らせだ」

「北側の観測班から、定時連絡がない」

 

サイラスさんが言った。

ダミルさんの顔から、笑いが消えた。

 

「さっき、帝国兵の巡回が変わってた場所だ」

 

アリスさんが立ち上がった。

 

「行こう」

「……私もですか?」

「うん」

 

 

『赤魔道士は今日も黙って蘇生する』

第6話――「ヒーラー枠は赤魔道士です」

 

 

「サイラスさん、腕……」

「ああ。これは折れてるな」

「脚もですよね!?」

 

サイラスさんは瓦礫にもたれ、脚を投げ出していた。

 

「こっちは派手に焼かれたな」

「大丈夫じゃないですよね!?」

 

アリスさんが近づいた。

 

「私が治すね」

「待て」

 

とても低い声だった。

 

「え?」

「アリス。待て」

 

アリスさんが、一歩近づく。

サイラスさんが上体だけ引いた。

 

「そのままじゃ帰れないよ」

「分かってる。でも、待て」

 

アリスさんが、もう一歩近づく。

サイラスさんの顔が引きつった。

 

「治さないと困るでしょ」

「それは分かってる」

 

アリスさんが、さらに一歩近づく。

サイラスさんの目の前まで来た。

 

「じゃあ、治すね」

「いや、やめてくれ」

 

意味が分からなかった。

ダミルさんが私の肩を掴んだ。

 

「ルーシー」

「はい?」

「サイラスを押さえるぞ」

 

……始まるのは治療なんですよね!?

 

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