TS転生おせいそアラサー女教師がリクくんとチャンプの脳を焼く話 作:(・8・)
ぼんやりと前世のことを思い出したのは、ちょうど俺──もとい、今世においては私が3歳ぐらいになったときだった。
自他の境界がはっきり分かり始める頃、物心つく頃だから多分、そういうことなのだろう。
電波とか、頭にアルミホイル巻くとかそういうのじゃ断じてないから安心してほしい。
とにかく、私は前世では冬の道路を盛大にスリップしたトラックに轢かれて事故死して、なにやら現代日本に近い世界に転生してきたのだ。
前世の趣味がガンプラだった私だけど、今世でも趣味に困ることはなかった。
前世では、家電量販店に行ってもスッカスカの棚に定番商品ばかり再販されてマイナー機は即瞬殺──おのれ転売ヤー殺すべし──だったのに、今世ではありとあらゆるガンプラが、まるでビュッフェのように並んでいたからだ。
ここは天国か?
ガンプラ自体が売れてるとか売れてないとかそういう話はもうどうだってよかった。
とにもかくにも、色々なラインナップのガンプラが好きなだけあって好きなときに買って組めるというのは、前世でミキシングの材料に飢えていた私にとっては福音だったのだ。
おかげで、物心ついてから、私はそれこそ狂ったようにガンプラへ没頭するようになっていった。
ミキシング作品を片っ端から作り上げて、勲章のように棚へ飾って。
だけど、人間は贅沢な生き物なので、次第にそれだけじゃ満足できなくなっていく。
そんな私の日々に革命が訪れたのは、前世での飢えが満たされ始めて、ガンプラ熱が少しだけ冷めかけていた、16歳ぐらいの頃だった。
『キミが作ったガンプラを実際に動かしてエキサイティングな戦いを! GPデュエル、この夏サービス開始!』
テレビのCMから聞こえてきた宣伝文句と、実際に動いて戦っていたHGUCガンダムとHGUCザクⅡの映像。
そして私は気づいたのだ、ここが、ガンダムビルドダイバーズの世界だと。多分だけど。
ビルドダイバーズっていうことは……サラちゃんを巡ってのあれこれとか、ヒロトくんとイヴちゃんを巡ってのあれこれとか、色々とイベントはあるんだろうけど。
込み入った事情は一旦脇に置いておくとしよう。
なぜなら、私は原作の主人公じゃないのだから。
それより大事なのは、自分の作ったガンプラを実際に動かして戦える世界に私が転生したということだ。
未来のことなんてどうでもいい、今とにかく、棚に飾っていたガンプラを動かして戦いたい。
衝動に突き動かされるまま、私は高校の小さな模型部に入って、GPDへとのめり込んでいった。
それこそ、五百戦じゃ足りないぐらいに戦っていた気がする。
作り上げては壊して、また作って、何千回と試行錯誤を繰り返し、やがて私はGPD界では名前を知らない人の方が珍しい存在になっていた。
楽しかったなあ。
あの頃は全てが輝いていた。
自分の作ったガンプラを実際に動かして、壊れたら直したり作り直したり、あるいは新しいガンプラを一から作ってみたり。
戦いの中で知り合った人々と感想戦したり、技術の交換会みたいな交流にも積極的に参加して、とにかく強くなりたいし、楽しくなりたい一心で私はGPDに青春を捧げていたのだ。
……まあ、結果的には世界大会優勝って実績を手に入れちゃって、一区切りつけてしまったのだけど、今でも昨日のことのように思い出せる。
それで、現在。
GPDは原作通りにサービス終了して、私はもう気づけば26歳──
こればかりは仕方ないし、本当にどうしようもないんだけど、最近胸がちょっと垂れてきたかなって心配になったり、ガンプラに青春を捧げすぎたせいで、大人になったときのことは、なにも考えなかったツケを現在進行形で払わされられている。
「コピー用紙だってタダじゃないんですよ、タカナシ先生」
「ごめんなさい……」
模型サークル目当てで入学したFラン大学から教師の道に進まざるを得なかった私──タカナシ・ミナキは、コピー用紙の枚数を間違えて、絶賛教頭先生から怒られている最中だった。
ガンプラバトルの世界大会優勝者という肩書きは、残酷なことに、社会に出てからはなんの役にも立たない。悲しいねバナージ。
大人になるって、そういうことだ。子供の頃に培ってきたものが、いきなり白紙に戻されるのだから。
「ピヨちゃん先生また怒られてるー」
「今度はなにしたんだろ」
「どうでもいいじゃん、早くスタバ行こー」
生徒たちからも若干ナメられてる感があるダメダメ教師な私だけど、泣いたり、諦めたりなんかしない。
なぜなら──家に帰れば、GPDに代わるガンプラバトルのネクストステージとして開発された、「ガンプラバトル・ネクサス・オンライン」こと、GBNが待っているのだから。
だから今は、無駄にしてしまった分のコピー用紙をシュレッダー室まで持っていこう……と、落ち込みつつも頑張ろうとしたときだった。
「タカナシ先生! 俺、手伝いますよ」
「えっと……ミカミくんだったかしら。ありがとうございます、ふふ」
「いえ! たまたま通りかかったので!」
「人を助けられるっていうのは、とっても素敵なことですよ? ふふっ」
「ありがとうございます!」
ツンツンした茶髪に利発そうな瞳。
なんということだろう、思いがけず
まあ、だからといってなにか特別なイベントがあるわけじゃないんだけど、ね。
その後、私はリクくんにコピー用紙の束の半分ぐらいを持ってもらって、シュレッダーのおやつにしてから、ユッキーくんと一緒にサッカー部の応援に行く彼を見送った。
眩しい青春だなあ。
私にもあんな時期があったなあ、と、過ぎ去った……二度と戻ってはこない時間に、思いを馳せながら。
昔の電気屋ではガンプラが山積みでのう……(ヨボヨボ