TS転生おせいそアラサー女教師がチャンプの夢女になる話 作:(・8・)
「そういえばコトリちゃん、リクくんたちの知り合いだったんですって?」
コーイチさんリア凸事件の翌日、私はいつも通りGBNにログインしていた。
すると、どこから噂を聞きつけたのか、ロビーで見かけないことが珍しいマギーさんが話しかけてきた。
うーん、知り合いといえば知り合いだし、普段は学校で先生と生徒の間柄として接している以上、踏み込んだ話とかは全くしていないから、そうじゃないともいえる。
「あはは、リアルに関わることなので……」
「そう。なら、詮索は野暮ね。でも驚いたわ。乙女は秘密の一つや二つ、抱えている方が魅力的だというけれど……ね」
「そう、でしょうか?」
「まだ話したくないことなのね」
マギーさんは、私の心の裏側を覗き見したかのように正確に心境を言い当ててくる。
私たちの戦いがGPDを終わらせた、という自負がただ気負い過ぎているだけだとしても、やっぱりそう簡単には割り切れない。
ついでに、私がGPD時代をひた隠しにしている理由は他にもあって、多分それはマギーさんの人脈なら、とっくに見当がついているのだろう。
「いいわ、乙女の秘密を暴き立てていいのは運命の相手だけだもの。あれから、キョウちゃんとは会ってないの?」
「……な、なんのことでしょう……?」
いや、まさかそこまでバレているはずは。
私は反射的に、ぎこちない笑みを浮かべる。
確かに衆人環視の中でキョウヤさんから私はキスしてもらったけど、そんなことまでマギーさんが知っているはずはないし。
「恋はね、隠し立てすることじゃないわ。コトリちゃんがキョウちゃんのことを目で追ってるのは、初めてお店で会ったときもそうだったもの。それに、美男美女同士だから映えるのよね。映画のワンシーンみたいだって、ツブヤキに上がってたわ」
「あ、あは……あはは……」
完全に終わった。
どうやら私たちのキスは野次馬たちに撮影されて、ネットの海に拡散されていたようだ。
普段ツブヤキだとかガンスタグラムだとか掲示板だとか、そういうSNSを全く使っていないから、話題になっていたことすら知らなかった。
「アタシは応援してるわよ、コトリちゃん」
「ありがとうございます……でも、私みたいに魅力に乏しいアラサー女が、キョウヤさんと釣り合うかなんて、とても自信が持てなくて」
生活力はそこそこあるつもりだけど、あくまでもそこそこ程度だし、これといった取り柄もパッと浮かんでこない。
顔がいいと言われることはあっても、実感が伴っていないし、ガンプラバトルをそこそこ嗜んでいても日常ではなんのステータスにもならないし。
なんなら、仕事もできる方じゃない私が、あんなしごできスーパーダーリンという言葉を形にしたような人と、冷静に考えれば考えるほど釣り合うわけがなくて。
「ダメよ、自分を否定したら。コトリちゃん、アナタはアナタが思っている以上にチャーミングなの。なんでも完璧じゃないと釣り合わないなんて、そんなのは思い込み。女の子はね、ちょっとの弱みがある方が可愛いのよ」
「ちょ、ちょっとでしょうか……? でも、ありがとうございます、マギーさん。私も……キョウヤさんに恋、していいのかな……」
恋なんて前世でも今世でも経験したことがないから、正直怖くて仕方がない。
キョウヤさんからキスしてもらったときは嬉しくて嬉しくてそのまま舞い上がって、天井を突き破っていきそうなぐらいだったけど、あれだってお詫びの意味合いが強いし。
どうせなら、恋人同士としていちゃいちゃらぶらぶ……な状況で、甘いベーゼを交わしてみたい。
そんなことを考えてしまうのは、わがままだろうか。
わがままでも、キョウヤさんが私に愛の睦言を囁き、唇を重ねてくる姿を想像してしまって、顔が耳まで真っ赤になってしまう。
う、うぅ。恥ずかしいけど、してほしいのは事実だし、どうしようもない。
「その意気よコトリちゃん! アナタの憧れと恋心を現実にするの! きっとキョウちゃんも憎からずアナタのことを想ってくれているはずだわ!」
「は、はい……っ、頑張ります、マギーさん」
「んーっ、コングラッチュレーション! でも、一つだけ警告しなきゃいけないことがあるわね」
投げキッスを返してきたマギーさんが、急に真面目な表情を形作って、不穏なことを口にする。
警告。
まさか、なにか私が出過ぎた真似をしてしまったとか、そういう話だろうか。
「えっと。私が、なにかしましたか?」
「なにかした、ってわけではないけれど……キョウちゃん、凄まじいイケメンじゃない?」
「はい、とっても」
キョウヤさんがイケメンじゃなかったらなんなのさ、と言いたいぐらいには顔がいい。
「だからほら、ファンクラブがあるのよ。GBNには」
「ファンクラブ……?」
「そう、キョウちゃんのファンクラブ。『KFC』というフォースとして活動もしているわね。『キョウヤ様ファンクラブ』の略称よ」
知らなかった。
確かにキョウヤさんのイケメン具合を考えたらファンクラブの一つや二つ、あってもおかしくはないけれど、実際にあるなんて。
それに、フォースとして活動しているということは、それなり以上の実績を上げていると見て間違いはないだろう。
ケンタッ◯ーフライドチキ◯と略称が丸被りしているのはどうかと思うけど。
「そのとーり。『KFC』はコトリのことを敵として、にんてーしている」
「あら、噂をすれば影と言ったところね」
「やほー、マギー、元気そうでなにより」
「マリアちゃん、もう夜なんだから早く寝ないと背が伸びないわよ?」
「問題ない。マリアは伸びしろのカタマリなので」
ひょこっと、マギーさんの後ろから姿を現した小さな黒髪に、青い瞳が美しい、垂れた羽耳の女の子が、出会い頭に私のことを敵認定してくる。
色々言いたいことはあるけど、えっと、どちら様で。
GBNの人脈接着剤なマギーさんとは当然のように知り合いみたいだけど、私は知らない。
「はじめまして、こいがたき。マリアはマリア。GBNで2番目につよい」
「……えっ?」
マリアと名乗った女の子の話していることが本当なら、この子は個人ランキング2位──キョウヤさんに次ぐ猛者、ということになるけど。
「おどろくのも無理ない。マリアが個人ランキング2位になったの、つい最近なので」
「私、知らないうちに抜かされてたんですか!?」
「ん、だいたいそー。マリア、前の2位をたおした。だからくりあがっただけ。だからまだ、コトリとはたたかってない」
前の2位が誰だったかも存じ上げないけれど、きっと相当順位が落ち込んでしまった辺り、さぞかしショックだったんだろうなぁ。
でも実力主義の世界なんて多かれ少なかれそんなものである。南無。
それはそれとして、見た目からも口調からも、相当幼い印象を受けるこの子がGBNで2番目に強くて、私の。
「それより、恋敵って……」
「ん。キョウにぃとけっこんするの、マリア」
「……は、はあ……」
「だからコトリは抜けがけ、ゆるせない」
ぷー、と、もちもちな頬を膨らませて、マリアちゃんは私に抗議してくる。
「そこで一つ、てーあんがある。ガンプラバトルでしょーぶだ」
「えっと……それはどうして……?」
「ちなみに、コトリにきょひけんはない」
「横暴ですね!?」
「『KFC』のみんなもおこってる。だからここは一つ、コトリに『じんぎ』をとーしてもらわないと」
神器……じゃなくて仁義か。
随分殺伐としたファンクラブだなぁ。
それに、誰が誰に恋するなんて、マギーさんの言葉を借りるなら自由なんだし、そんな理由でガンプラバトルしなくても。
「えっと……マリアちゃん、争いは無益なものですよ?」
「このフライドチキンめ」
……臆病者、と言いたいのだろうか。
きっ、と私を睨めつけてくるマリアちゃんの目は本気も本気だ。
気乗りは全くしないけど、やるしかないのかなあ、ガンプラバトル。
「わかりました、ではガンプラバトルをしましょう。それでマリアちゃんの気が晴れるなら」
「それでいい、どっちが上かというのをおしえてやろー」
マリアちゃんはメラメラと闘志の炎を燃やしていたけれど、私は結局気乗りしないし、燻ったままだった。
Tipsはまた次回に